文芸

石川達三のおすすめ代表作5選!初代芥川賞受賞の作家

更新:2020.12.1 作成:2017.6.21

石川達三は日本の小説家で初代芥川賞受賞作家です。彼は社会批判をテーマにした小説を多く残しています。小説が発禁処分になるなどの経験もしましたが、彼は一貫して社会派作家として活躍しその生涯を終えました。今回はそんな彼の小説を5作、ご紹介します。

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初代芥川賞受賞の作家、石川達三とは

石川達三は1905年7月2日に秋田県で生まれた作家です。父は中学校英語科教員、母は1914年に死去します。1927年に早稲田大学文学部英文科に進みますが、1年で中退。その後、国民持論社に就職し、持込を行いますが上手くいくことなく退職しました。

その後、退職金を元手にブラジルに渡ります。その時の農業での体験を元にして書いたのが、初代芥川賞を受賞した『蒼氓』です。そして1938年に、南京攻略戦の様子を描いた『生きてゐる兵隊』が、新聞紙法に問われ発禁処分となりました。彼自身も禁固4ヶ月執行猶予3年の判決を受けます。

戦後1946年に衆議院議員総選挙に立候補しますが、落選。その後も社会派作家として活躍しました。

当時の男性と女性の関係を深く描いた『蒼氓』

日本で貧しい暮らしをしていた者達が、日本よりもブラジルの方がマシだと言い、移民となってブラジルに渡ろうと決心します。そんな相応の覚悟を持った953人の移民の中の1人であり、日本に未練を残しながらも弟に従うお夏、そしてその弟である孫市が、この物語の主人公です。

お夏は神戸を出発し、台湾やケープタウンを経由してブラジルに向かう船の中で、さまざまな出来事を体験します。この小説は船の中で起きた、ある姉弟を取り巻いて起きる人間ドラマの話なのです。
著者
石川 達三
出版日
そもそも「蒼氓(そうぼう)」というのは「もろもろの民」という意味です。題名の通り、船の中には様々な方言を話す人達が一つの船の中に集まります。

お夏の描写には、当時の女性観を見ることができます。思いを寄せ合っていた相手と手紙のやり取りもできない状態や、船の中で見ず知らずの男性に襲われても抵抗もしない、という様子から当時の女性は控えめで、受動的であったと読み取れるのです。

この小説を読むと、日本にもこんな暗くて惨めな時があったのかと思わされます。しかしそんな時代の中にも、主人公達はなんらかの光を求めて生きていきます。その主人公達の姿から学べるものがきっとあるはずです。

発禁処分となった、石川達三の衝撃作『生きている兵隊』

題名からもわかるように戦時中の話となっています。日中戦争開始後の中国を舞台にして、ある6人の男の目線を介して南京占領後から、支配までを描いた作品です。

6人といっても戦争中に置かれた立場も、一等兵から伍長・大佐・少尉まで、通訳や従軍僧など、性格や家柄、戦前に就いていた職業も何もかもが違う人々が戦争に行ってどういった心境の変化をするのか、人の死を見てそしてまた人に死を与えて狂っていくのか……。一人一人の個性を描きつつ、立派な日本兵となるその様子を丁寧に書いた作品です。
著者
石川 達三
出版日
1999-07-01
「また武装解除した捕虜を練兵場へあつめて機銃の一斉射撃で葬つた、しまひには弾丸を使うのはもつたいないとあつて、揚子江へ長い桟橋を作り、河中へ行くほど低くなるやうにしておいて、この上へ中國人を行列させ、先頭から順々に日本刀で首を切つて河中へつきおとしたり逃げ口をふさがれた黒山のやうな捕虜が戸板や机へつかまつて川を流れて行くのを下流で待ちかまへた駆逐艦が機銃のいつせい掃射で片ツぱしから殺害した」(『生きている兵隊』本文より)

上記のように、内容はとても衝撃的になっています。虐殺や、略奪、強姦などの場面がはっきりと、リアルに描かれているのです。

戦争の中、死んだ母親の亡骸を抱きしめながら長い間泣いている少女を殺すなど、他人の命を軽視してる場面があります。それだけでなく、戦争に行った兵隊達は自分の命さえ軽視するようになってしまいました。

石川達三は、戦争に反対する意味でこの小説を書いたのではないと述べています。彼は南京で起こっている事実を書いたに過ぎないのです。

戦争とはなんなのか?戦争はなぜ恐ろしいのか?そんな問いに答えをくれる小説となっています。

ラストのどんでん返しが魅力!『青春の蹉跌』

江藤賢一郎という男が、教え子である登美子と、叔父の娘である康子という2人の女性と関係を持って物語は進んで行きます。

これからエリートコースを進むであろう賢一郎は、登美子よりも康子と結婚すると決め、婚約したことを登美子に告げると、彼女は実は、妊娠していることを明かしました。そんな中、賢一郎は登美子とスキーに行くことになり……。
著者
石川 達三
出版日
1971-05-27
これは神代辰巳監督のもと映画化もされている作品で、これから活躍するであろう青年の人生が何らかの出来事によって躓いてしまう、という物語の展開はセオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』に連なる点も多いと指摘する人も多いです。

題名の「蹉跌(さてつ)」という言葉はつまずく、と言う意味を持っています。その名の通り、青春を謳歌している青年たちができごとに違いはあれど、頑丈だと思っていた自分の立っている地面がぐらぐらと揺らいでしまうのに対し何とか持ちこたえようと奮起します。年が若く、経験も少ない青年たちはどのような方法を使ってこの危機を乗り越えようとするのでしょうか。

年若い青年たちが愛しくもあり、読者に人間の汚さを感じさせてくれます。幸せとは?愛とは?後半に衝撃のラストがあなたを待ち構えています。

愛するとは何かを描いた、石川達三の作品『稚くて愛を知らず』

大きな個人病院の娘という恵まれた環境で育った花村友紀子の結婚生活を描いた物語。生まれた時から誰と結婚するか決められ、そのことに従って育った友紀子。しかし彼女はウェディングドレスに対しては興味を示しますが、未来の夫がどんな人なのか、何をしてるのかについては全く興味を示すことはありませんでした。

恵まれた環境で育った彼女は貧しい医師の卵に嫁ぎますが、その結婚はやがて終わりを告げることになります。
著者
石川 達三
出版日
1967-06-30
この小説にはいつの時代にも存在する、ある女性像が描かれています。愛されるのが当然で、お金があるのも当然。自分のほしいものは何が何でも手に入れようとしますが、他人の関心など興味もありません。他人がどうとかは二の次で、まずは自分の幸せを第一に考える女性です。

あなたの周りにもこういった女性はいませんか?今は回りにいなくても、今までに出会ったことはあるかと思います。わがままで、自分勝手で自己中心的で……。しかし人間っていうのはこういう生き物、ある意味でとても素直なんだよね、と思う人もいるのかもしれません。この物語の主人公の友紀子はとても魅力的です。

そして離婚が増えてきた昨今、この小説を読んで考えさせられることも多いのではないでしょうか。時代の先をついた小説だと言えるでしょう。

中年男性の欲望を描いた『四十八歳の抵抗』

会社でも次長を務め、妻子を持っているという、まずまずの人生を歩んできた西村耕太郎。

普通の毎日に飽き、ちょっとした刺激を望んでいた耕太郎は、ある時上司に誘われスナックへ行くと、魅了的で自分を誘ってくる女性達、さらに19歳の少女ユカと出会います。ユカに惹かれた耕太郎が家に帰ると、娘が耕太郎の知らないある男と家出をしてしまって……。
著者
石川 達三
出版日
1958-10-30
中年男性の欲望を描いた作品で、吉村公三郎監督のもとに映画化もされました。大人の心の中に潜む欲望を露に書かれた作品になっています。大人だけでなく、若い年齢層も十分に楽しめるでしょう。

若いころは誰でも、何か考えていることを行動に移せば叶うと信じていませんでしたか?しかし年齢を重ねると女性は今手元にある幸せ、安定感に満足してそれを大切に守り抜こうと努力します。胸の奥深くに野望を抱き続けている男性はそれでは満足できず、更なる刺激を求めます。

子供は本当に何かにまっすぐで、それしか見えてなくて……と思うかもしれませんが、大人も同じ。そう思わせてられる作品です。

様々なジャンルの石川達三の作品を見てきましたがいかがでしたか?彼は初代芥川賞受賞作家という名前にふさわしい、素晴らしい作品を数多く残した作家です。戦後という時代を描きながらもどこか今の私達にも共通する思い、感情を書いています。この機会にぜひ、石川達三の世界に触れて見てはいかがでしょうか。