あべ弘士が絵を描く絵本おすすめ5選!代表作『あらしのよるに』など

更新:2021.12.21

動物を描かせたら右に出る者がいないと言われる、あべ弘士。彼が描く動物たちは生命力に溢れ、力強く、強い意志さえも感じるようです。誰もが知る『あらしのよるに』をはじめ、あべ弘士のおすすめ絵本をご紹介します。

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動物園の飼育係だったあべ弘士

1948年生まれ、北海道旭川市出身のあべ弘士は、旭川市旭山動物園に飼育係として勤務していました。1972年から25年間務めた動物園では、園内の壁画や動物たちの説明、機関誌の挿絵にも携わっています。今でも旭山動物園ではあべ弘士が描いた動物の解説を見ることができ、彼のイラストをモチーフにしたグッズをお土産に購入することもできるのです。

飼育係としての毎日の体験を描いた『旭山動物園日誌』が、1981年に旭川のタウン誌と北海道新聞に連載されたことから、絵本作家としての道を意識し始めます。そして1989年に『雪の上のどうぶつえん』(かがくのとも、福音館書店)を出版してから、本格的な絵本制作の道へシフトしていくのです。

飼育係を続けながら絵本もつくる日々が続き、そして1994年、後に彼の代表作となる『あらしのよるに』のイラストを担当することになりました。このシリーズで講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞JR賞受賞という複数の賞を受賞。その名を一気に世に広めたのでした。

北海道の大自然の中で育ち、飼育係として動物に愛情たっぷりで接してきたあべ弘士が描く動物たちは、輝くような生命力にあふれています。彼のイラストには動物のダイナミックさ、躍動感、迫力が美しく描かれていて、読む人へ力強い印象を与えるのです。

あべ弘士の代表作にして名作『あらしのよるに』

きむらゆういちがお話を作り、あべ弘士がイラストを担当した『あらしのよるに』は、多くの賞を受賞し、舞台化・映画化され、学校図書でも常に人気の絵本です。舞台のようであり、紙芝居のようでもあるあべ弘士の挿絵がストーリーを効果的に盛り上げます。

嵐の夜にヤギとオオカミがそれぞれ逃げ込んだ小屋の中は真っ暗です。暗闇で目がきかず、風邪で鼻もきかない2匹は、お互いの姿に気が付きません。小屋の中で会話を続けるうちに意気投合し、「あらしのよるに」を合言葉に翌日また会う約束をして2匹は別れるのです。

著者
["きむら ゆういち", "あべ 弘士"]
出版日
2000-06-29

きむらゆういちの文章がテンポ良く続きます。2匹の勝手な思い込みによる愉快な会話と、お互いの姿がバレそうでバレない展開は、あべ弘士の生き生きとしたイラストと相まって、読み手を引きこんでいきます。子どもも大人も、この後の続きを考えずにはいられない絵本です。

ここでのあべ弘士は、ヤギとオオカミの表情を大胆かつ繊細に描いています。暗い小屋の中、真っ黒な背景に浮かびあがるヤギとオオカミの顔や、中央に文字を配置し左右にヤギとオオカミを描いたページデザインは、まるでお芝居を見ているかのように感じさせるのです。

『あらしのよるに』が大変好評で、その後『まんげつのよるに』まで後編が次々に出版されました。あべ弘士が全7冊のイラストを担当していますが、その全ての画風が少しずつ異なることにも必見です。数年にわたり、時には旅先でイラストを手掛けたため、画材道具がその時で違うことも理由の1つかもしれません。

シリーズ7作のイラストを比べながら読んでみても楽しいですね。

透明な空気感が素晴らしい『宮沢賢治「旭川。」より』

宮澤賢治が残した「旭川」という一篇の詩に、あべ弘士が創作を加えた絵本です。

1923年の夏、樺太へ向かう旅の途中で宮澤賢治は旭川に立ち寄りました。旭川では列車を乗り継ぐための数時間だけの滞在でしたが、早朝の停車場で小さな馬車に乗り農事試験場まで行く道のりや、途中ですれ違う馬に乗る人の風景、旭川の爽やかな風を詩に残すのです。

その宮澤賢治の詩にあべ弘士が自身の解釈とストーリーを加え、イラストも手がけました。旭川生まれで自然と賢治を愛する作家ならではの作品です。

著者
あべ 弘士
出版日
2015-02-14

写実的な動物たちのイラストで有名なあべ弘士の画風と、少し毛色が違う絵本です。ミントブルーの空に黒々と描かれている馬車や旭川駅、街の姿が印象的に映えます。旭川の澄んだ空気がそこにあるかのような感じさえしてくるのです。

ストーリーは宮澤賢治の詩『旭川』をベースにしていますが、大正時代の賢治の詩を読みやすく、わかりやすいように解釈を加えただけではありません。後半には、賢治の詩には出てこなかった野鳥、オオジシギが空に舞う姿も加筆しています。

あべ弘士はオオジンギを「雷そっくりの羽音をたてながら地上に向かって急降下する」と、まるで目に見えているかのように表現しています。「それはまるで天に思いを届け、天の声を聞いて帰ってくる使者のようだ」と言うのです。この観察力・表現力には、飼育係としての経験が大いに生きているとしか言えません。

宮澤賢治が立ち寄った頃の昔の旭川へ想いを馳せ、素晴らしい透明感を描くことができたのは、北海道の自然を愛するあべ弘士だからこそ、と思わせる作品です。

あべ弘士の動物愛があふれ出る『どうぶつえんガイド』

サブタイトルに「よんでたのしい!いってたのしい!」とあるように、まさに読み物としても、動物園へ持っていくガイドブックとしても良い、動物たちの情報が満載の本です。

ラクダから始まり、ヒトで終わる全41種類の動物に関して、それぞれ見開き2ページを使い説明しています。動物への愛情たっぷりな解説と驚くような豆知識が、楽しいイラストと共に41種類も掲載されているのです。

両ページいっぱいに描かれたあべ弘士のイラストは、それぞれ画材や画風が異なっていることも興味深く、飽きさせません。タイトルに「ガイド」とありますが、一般的な動物図鑑などとは異なり、読み物としても愉快な絵本です。家でじっくり読んで興味深い動物を見つけ、動物園へそれを見に行くような使い方もできるでしょう。

著者
あべ 弘士
出版日
1995-04-15

「こんにちは よくきたね」ページを開けると出迎えてくれる飼育員さんが、動物園を案内してくれているかのような絵本です。時々ページに現れる、ひげ面メガネの飼育員さんはあべ弘士本人に違いありません。長年、旭山動物園に飼育係として勤務をしていたあべ弘士ならではの、ユニークな解説が満載です。

それぞれの動物のページには、愛情にあふれた解説がついています。例えば「ゴリラは夕焼けと星空が好き」「レッサーパンダは何をやってもぬいぐるみ」だなんて、他の動物図鑑やガイドブックには絶対に書かれていないでしょう。

ゲラゲラと笑いながら、それでいてなるほどと思わせるうんちくもあって、誰もがどんどん引き込まれていく『どうぶつえんガイド』です。

優しい言葉と平仮名で書かれているので、小学校低学年の夏休みの読書にもおすすめです。そのあとに実際に動物園へ行って、自分なりの動物図鑑をあべ弘士のように作ったら、立派な自由研究にもなりますね!

新しい世界への希望をつなげる『新世界へ』

はるか遠くにあるという新しい世界・約束の地へ向けて、渡り鳥が雪山や氷の海といった極寒を越えて、昼も夜も飛び続ける物語です。何羽もの渡り鳥が連なって、高く低く飛び続けます。お父さん、お母さん鳥と共に若い鳥たちは苦難を乗り越え、最後には初めて見る新しい世界へ、約束の地へと到着するのです。

渡り鳥の飛ぶ姿が、雄大でダイナミックなスケールで描かれています。鳥たちが緑豊かな約束の地を発見する場面では、希望を捨てず、目指したものを手に入れた時の清々しい達成感を、読者の胸にも残してくれる絵本です。

著者
あべ 弘士
出版日
2012-11-13

『新世界へ』は、あべ弘士が北極のスバールバル諸島へ旅をしたとき、そこで出会った生き物たちにインスパイアされて作られた物語です。

後に、あべ弘士は「北極はとても『生命』にあふれる地でした。」と述べています。氷と岩しかない不毛な地というイメージの北極が、そこで出会った何万羽という数のウミガラスやシロクマ、魚たちによって、豊穣な土地であると意識を変えられたのです。

絵本の最後にはあべ弘士による解説があり、登場する渡り鳥たちは「カオジロガン」という渡り鳥で、毎年3000キロ以上も遠くの越冬地へ約1か月間飛び続けると説明されています。そのためヒナの成長はとても早く、若鳥も親鳥と共に自力で長い旅をするのだそうです。この越冬地こそが、カオジロガンにとって代々受け継がれてきた「約束の地」であり、若い鳥たちには初めて訪れる「新世界」なのでしょう。

しかし、この絵本から感じ取れることは、新世界へ向けて一生懸命に飛ぶ鳥たちの努力の物語だけではありません。

鳥たちの姿は生命力と苦難を乗り越える力強さに溢れ、最後に待つ約束の地は緑豊かで青々としています。それはまるで私たち人間にも、強い希望をもって進めば新世界へ突き抜けることができるのだと、エールを送ってくれているかのようです。

あべ弘士のダイナミックなイラストが心に迫る『エゾオオカミ物語』

寒い寒い冬の夜、ふくろうおじさんの話を聞きにモモンガたちがやってきます。ふくろうおじさんは、北海道の大地に住んでいたエゾオオカミが絶滅してしまったお話を、モモンガたちに聞かせてやるのです。

それはたった100年ほど前のことでした……。北海道の大地にはエゾシカとエゾオオカミ、アイヌの人たちが暮らしており、特にアイヌの人たちとオオカミは互いの息づかいを感じながら、お互いを尊敬しあうように生きていたのです。

ある冬の日、雪が何日も降り続きシカが大勢が死んでしまいます。シカを狩ることができなくなったオオカミは、仕方がなく牧場の馬を襲うのですが、土地の開拓にやって来ていた内地の人間にオオカミは殺されてしまうのです。

ふくろうおじさんが静かに語る物語から、絶滅動物と環境保護について深く考えさせられる物語です。

著者
あべ 弘士
出版日
2008-11-26

凍える寒さを感じさせる深い青が、全編にわたり印象的です。

北海道の冬山、木々に積もる雪、青々とした緑が美しい夏の山が丁寧に描かれていて、旭川生まれのあべ弘士だからこそ描くことができた景色でしょう。その中に描かれている動物たちはダイナミックで、エゾオオカミの遠吠えや、フクロウの毛並みや鋭い目つきは読む人に迫ってくるようです。

エゾオオカミが絶滅した後、今度はシカが増え続け人間の畑や森を食いつくすようになり、人間たちはそれを怒っています。最後にふくろうおじさんが「今度はエゾシカが悪者になっているが、そうしたのは本当は誰なのか」と、話を聞いているモモンガたちに問いかけます。読む人の胸に深く突き刺さる質問です。

遠目にも映える色使いのイラストと、ふくろうおじさんの静かな語りですすむお話なので、読み聞かせ絵本としてもおすすめです。動物が好きな子どもたちはもちろんのこと、誰もがあべ弘士のイラストをみたら、ぐっと心を掴まれて物語に引き込まれていくでしょう。そしてふくろうおじさんの質問が、それぞれの胸に一石を投じるのです。

ここでご紹介したどの絵本にも動物が登場します。それらはどれもキャラクターのように可愛いらしい姿をしているわけではありません。読む人が、時に怖いと思うほどの力強さを秘めています。そんな生命感があふれ出すような絵だからこそ、子どもも大人もくぎ付けになり、何かを感じ取ることができるのです。可愛らしい動物が登場する絵本は他にたくさんありますが、あべ弘士が描く唯一無二の動物の姿に、心を突き動かされてみてください。

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