寺村輝夫の「こまったさん」シリーズ、「わかったさん」シリーズでお馴染みのあかね書房ですが、名作はそれだけではありません。今回は、あかね書房の絵本をご紹介します。
寺村輝夫が取締役として在籍していたあかね書房。「こまったさん」や「わかったさん」のシリーズは、寺村が在籍時に出版したシリーズでした。
他には、小学校の教科毎に補助教材として使えそうな本や、工作、自由研究をテーマとした本、トリックアートの絵本など、非常にバラエティに富んだ本を出版していますが、どうにも「学習」に寄った、お堅いイメージを持っている方もいるかもしれません。
今回は、そんなあかね書房が出版している絵本のご紹介です。
自分の名前も忘れてしまうほどのわすれんぼう、ハリネズミのハリーは、お友達のポーちゃんの誕生会に招かれます。
これは絶対に忘れられないと、部屋中にメモを貼ったりして忘れないよう努めますが、当日、肝心のプレゼントを用意するのを忘れていたことに気づいて……。
ハリーは、無事にポーちゃんをお祝いしてあげられるのでしょうか?
- 著者
- 竹下 文子
- 出版日
著者の竹下文子といえば、多数の作品を発表されている作家です。
せっかく立派な名前があるのに、忘れてしまうからハリー。ポーちゃんも、本当は立派な名前があるけれど、思い出そうとすると、ポーッとしてしまうからポーちゃん。もう、二人の設定からしてほんわかした気分になると同時に、「そんな調子で大丈夫か~?」と心配になってきます。
ポーちゃんの誕生日を忘れたくない一心で、部屋中にメモを貼ったりするハリーの努力は、可愛いと同時に、「そうそう、その調子!」と応援したくなります。
とても微笑ましいお話なので、素直に子どもと楽しめる一冊です。
いつもと同じように、今日も学校へと向かうジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー。そんな彼に、いつものようにありえない災難が降りかかります。
ワニが現れてかばんに噛み付いて離れなかったり、ライオンが現れてズボンを破かれてしまったり、高潮で橋から流されそうになったり……。
でも、先生は何一つ信じてくれません。なかなか時間通りに着けないジョンは、今日も今日とて先生に怒られ続けます。
- 著者
- ジョン・バーニンガム
- 出版日
- 1988-09-01
ジョン・バーニンガムは、世界的に活躍する絵本界の巨匠の一人。イギリスを代表する絵本作家です。
ご覧の通り、ちょっと寂しい雰囲気の素朴な画風ながら、文は詩のようにリズミカルで読みやすく、読んでいると次第に楽しくなってきます。
訳の谷川俊太郎ですが、バーニンガム作品の翻訳を数多く手掛けており、バーニンガム作品の良さを削ぐことなく、巧みに翻訳しています。
本作で主人公のジョンに降りかかる災難は、どれも突拍子も無く、非現実的すぎて、厳しい先生でなくても「そんなことあるわけない」と言いたくなるほどです。遅刻の理由を説明しては、「もう少しマシな言い訳をしなさい」と言わんばかりに叱られるジョンですが、最後は……。
おっと、大切なオチですから、結末はぜひ、お子様と確認してみてください。なかなか痛快ですよ。
古い腕時計を物置で見つけたコウくん。ねじを巻いて腕に着けたら、腕時計はゆっくり動き始めます。
翌朝、腕時計は早い音を立てて動いていて、コウくんの胸も「チキチキチキチキ」。
腕時計の早い「チキチキ」は、コウくんどころから街中の人たちに伝わっていって……。
- 著者
- 角野 栄子
- 出版日
- 1996-11-01
『魔女の宅急便』で有名な角野栄子。ご自身の著作もとても多いのですが、翻訳も数多く手掛けており、講談社版のディック・ブルーナ作品の翻訳もしています。
そんな角野栄子の軽快な文章に添える絵を描いているのは、これまたご自身でもオリジナルの絵本を数多く発表されている荒井良二。
本作を読んだ方の感想として多いのが、「ついついつられて早口になってしまった」ということ。角野栄子の文がリズミカルな上、「コッチリポッチリ」とか「チキチキチキチキ」という時計の擬音表現が巧みで、読んでいる内にどんどん引き込まれ、読むのも焦ったり急いだりしてしまうのです。
荒井良二のカオスな感じの挿絵がまた、しっちゃかめっちゃかな大騒ぎの様子を見事に描写していて、視覚的にも楽しい作品に仕上がっています。
夜寝る前……はおすすめしませんが、お子様がドキドキ興奮されても大丈夫な時間にはぜひ。親子で楽しめること間違い無しの一冊です。
古事記の国生みの段といえば、小学校高学年の社会科で習うお話です。詳しくは忘れたけれど、大まかな流れは覚えているという方も多いのではないでしょうか?
本作は、子どもが解りやすいようにまとめながらも、古事記に忠実に描かれた全6巻の絵本の第1巻になります。
高天原を治める天之御中主(あまのみなかぬし)大神が、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)と伊邪那美命(いざなみのみこと)に国作りを命じ、日本の国土である大八州(おおやしま)と、天照大御神、月読命、須佐之男命の三柱の神様が生まれるまでのお話です。
- 著者
- 舟崎 克彦
- 出版日
- 1995-10-15
日本神話は、実は小学校低学年でも国語の時間に触れられます。
「因幡の白兎」のお話は、皆さんもご存知でしょうが古事記の一説です。この『くにのはじまり』を初めとする「日本の神話」でも、第4巻で取り上げられています。
「古事記」は神話なので物語性が高く、「日本書紀」は歴史書なので史実に基づいていると習いましたが、なるほど、古事記のお話は物語としても興味深いものばかりです。
本作の著者、舟崎克彦は、「ぽっぺん先生」シリーズで有名なので、本書を読むとイメージの違いに驚かれるかもしれません。舟崎は「日本の神話」シリーズの製作にあたり、『スーホの白い馬』などでおなじみの赤羽末吉に絵をお願いすると決めていたそうです。
原典に忠実に、無駄に脚色せずに構成された船崎の文と、大和絵や水墨画などの画風を取り入れた和のテイストの強い赤羽の挿絵によって、厳粛な神代の時代を感じさせる絵本に仕上がっています。
小さい頃には難しいかもしれませんが、日本に生まれた以上、小学校に上がる頃には触れさせておきたい一冊です。
愛する息子を失った男が、自身に押し寄せる様々な悲しみという感情の形を語ります。
怒りを伴った悲しみ。湧き上がる思い出と共にやってくる、寂しさと喪失感。わけもなくただただ悲しいこともあれば、悲しみのあまり、声を上げて暴れたくなったりもする。
「悲しい」と一言で言っても、その形は千差万別。個人の中でさえ、その時その時、形を変えて現われる。
「消えうせてしまいたい」とすら思う彼ですが、最後、一本のろうそくを前に、彼は何を想うのでしょうか……?
- 著者
- マイケル・ローゼン
- 出版日
- 2004-12-10
産経児童出版文化賞美術賞を受賞した本作は、マイケル・ローゼン作、クェンティン・ブレイク絵の作品を谷川俊太郎が翻訳したものです。
この作品を手に取った皆さんは、誰もが思ったことでしょう。「なんてストレートで素っ気ないタイトルなんだろう」と。
しかし、実際に開いて読んでみると、そのタイトルに納得させられます。
「悲しい」ということに、それ以上の表現は無いからです。
著者であるマイケル・ローゼンは、代表作『きょうはみんなでクマがりだ』で知られる作家ですが、子どもをテーマにした詩で有名な詩人でもあります。ローゼンは、次男エディを髄膜炎で亡くしています。
現実に自分の身に降りかかった悲しみを、絵本と言う形にまとめたのが本作なのです。詩人であるローゼンが書いた文は、詩的な分、感情の生々しさがよく現われています。そんなローゼンの文を、同じく詩人である谷川俊太郎が翻訳したのです。
詩人が詩人の詩を理解し、込められた心をそのままに翻訳したかのような本作は、読者にことさら涙を煽るようなものではありません。でも、著者ほどの大きな悲しみに触れたことがない人でも共感できるほど、様々な形の悲しみを描いているのです。
ローゼンと絵本で何作か競演したクェンティン・ブレイクの絵も、落ち着いた淡い色彩の水彩画で、巧みに悲しみの形を表現しています。
内容的には難しいかもしれません。あかね書房でも、ジャンルを「大人向けの絵本」としていますが、日常の中で必ず触れる感情だからこそ、小さい内からも読んであげたい一冊です。
いかがでしたか?
「こまったさん」や「わかったさん」シリーズ以外では、参考書コーナーや夏休みの工作、自由研究コーナーなどで見かけることの多いあかね書房ですが、絵本や児童書もコンスタントに出しているのですね。
「日本の神話」シリーズなどは、如何にもあかね書房といったイメージですが、他の絵本も、学校の図書室向けのセットという形態でも販売しているくらいなので、お子様が学校の読書の時間に読む用に買って持たせるのも好いかもしれませんね。