江戸が舞台の時代小説おすすめ5選!

更新:2021.12.21

江戸時代といえばよく時代劇にも取り上げられる時代。将軍や大奥、奉行所、江戸っ子などはお馴染みのモチーフです。そんな江戸時代を舞台にしたおすすめの小説を5作ご紹介します。特に身分違いの恋のお話は、多くの現代の女性に支持されています。

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まさに江戸時代版「ロミオとジュリエット」!藤沢周平の時代小説『蝉しぐれ』

舞台は藤沢文学に多く登場する架空の国、海坂藩の武家社会です。その下級藩士である主人公・文四郎と隣家の娘ふくとの淡い初恋と2人の激動の半生が、瑞々しい叙情と迫真の臨場感で描かれています。恋の芽生え、そして藩の政争に巻き込まれ叶わぬ恋の苦しさと別れを綴る、多くの人の心を震わせた時代小説です。

著者
藤沢 周平
出版日

父と家を失い、家禄を減らされ侘しい気持ちで過ごす文四郎は、隣家のふくにほのかな恋心を抱いています。しかしその気持ちの正体が何であるのか、文四郎は気付かずにいました。ある日ふくが突然奥勤めで江戸に行くことになりますが、若い2人は互いの思いを伝えることなく別れるのです。

ふくが殿様の側室になったことを知った文四郎は、そこで初めてこの感情が何なのかを理解します。それは他人に思い人を奪われた怒りや屈辱、ふくとはもう終わったのだという悲しさ、そして何よりも誰かを激しく愛おしく思う気持ちでした。

若い文四郎が、自分の気持ちと正面から向き合い、その正体が何なのかはっきり気付く場面には甘く切ない気持ちがこみ上げます。今まで心の奥底で押し殺してきた感情が一気に流れ出す場面に、藤沢周平が描く青春の激しさが描かれるのです。

物語のラストシーンでは、人の親となり大人になった2人が、少しずつ距離を縮めるように近づき、抱き合う場面があります。あの別れの時に気持ちを伝えあっていたら、もっと別の道を選べたのではなかったか。そんな悔しい気持ちを持ちながらも、それでも前を向いて別々の道を歩むと決めた2人。そんな主人公たちの生き様にぐっと胸が熱くなる、切なく儚い恋の物語です。

「鬼平」が痛快に悪を裁く長編時代小説!『鬼平犯科帳』

重罪人を取り締まる〈火付盗賊改方〉の新しい御頭となった長谷川平蔵は、小太りで人当たりの良い温和な風貌。しかしその一方で、冷静な追捕や残酷な取り調べを行うことから「鬼平」と盗賊たちから恐れられていました。

テレビドラマでも有名な「鬼平」の鮮やかな手腕がきらめく、長編時代小説の第一章のはじまりです。

著者
池波 正太郎
出版日

この作品には血頭の丹兵衛という、虐殺と強奪を繰り返す盗賊が現れます。鬼平は別の事件で投獄されている小房の粂八に話を聞くと、本物の丹兵衛は多くの手下に慕われていた人柄であり、これはにせものの丹兵衛の仕業であると粂八は主張します。鬼平は粂八を牢から出し、ことの真偽を確かめるため彼を密偵として調査に向かわせるのですが……。

シリーズ全般を通して鬼平と盗賊の対決が中心に描かれているのですが、この盗賊にも様々なタイプが登場します。金を強奪し、殺傷をする荒々しい者もいれば、盗賊としての誇りとプライドを持ち合わせるかっこいい盗賊もでてきます。

盗まれて困る者たちからはとらない、殺傷はしない、女性に手をださない、この3点が池波流の真の盗賊のモラルです。一方的に取り締まる側からストーリーが進むのではなく、盗賊からみた視点や、彼らの人生や価値観が細かく描かれているのがこの作品の面白さといえるでしょう。

桜きらめく美しき恋愛を描いた時代小説『雷桜』

山間にある瀬田村の庄屋の一人娘として生まれた遊(ゆう)。彼女は雷鳴が轟く初節句の日に突然何者かにさらわれてしまいます。村中の必至の捜索にもかかわらず、遊の手がかりは何一つ見つかりませんでした。そして十数年の時を経て突然山から帰ってきた遊は、御三卿清水家の当主・斉道と数奇な運命のもと巡り合うのです。

著者
宇江佐 真理
出版日
2004-02-25

瀬田村に戻ってきた遊は、ずっと山で暮らしていたせいか、人里の暮らしには馴染めません。男のような風貌と口調、自由に村と山を行き来しながら暮らす遊は、村中から「狼女」や「おとこ姉様」などと呼ばれてしまいます。

一方の斉道は、将軍家斉の息子という身分。江戸の監視下で大勢の家来に囲まれて窮屈な生活をしています。高い身分のために言いたい事もやりたい事もままならず、ついに気の病を患ってしまうのです。

作中ではそんな対照的な2人を結びつけるかのように、一本の雷桜が描かれています。それは遊が連れ去られたあの日に落雷した銀杏の木の割れ目から自然と芽生えた桜です。下は銀杏で上は桜という不思議な木が、物語の中心に象徴的に描かれます。

また茜色に染まり傾きかけた夕陽の中、全く異なる生き様の2人が惹かれあい結ばれる場面は、まるで一枚の絵のようです。そんな美しい場面がこの作品には多く登場します。瀬田山という人里離れた場所で雷桜が咲き乱れるひと時に、2人は短い恋の花を咲かせるのです。

居眠り剣士が巻き起こす長編時代小説の幕開け!『陽炎ノ辻 ─ 居眠り磐音江戸双紙』

故郷である豊後関前藩で起こった騒動で、大切な友を失ってしまった坂崎磐音(いわね)。憔悴のなかで故郷を離れて江戸で浪人暮らしを始めましたが、様々なハプニングが磐音に訪れて……!?江戸下町を舞台に繰り広げられる戦いあり、人情あり、涙ありの書き下ろし長編時代小説です。

著者
佐伯 泰英
出版日
2002-04-09

ある日、何者かの脅しにあっている両替商の用心棒を引き受けることとなった磐音。そこから田沼意次の政策と対立する闇の勢力の陰謀に巻き込まれてしまいます。彼の前には次々と強敵が立ちはだかりますが、磐音は華麗な剣術で敵を爽やかに倒していくのです。

磐音の強さの秘密は「居眠り剣法」にあります。磐音の構えは、彼の師匠によると「春先の縁側で日向ぼっこしている年寄りの猫のよう」なのです。起きているのか眠っているのか分からないその構えと柔らかな動きに、敵もたちまちペースを乱され、磐音の春風が吹くような穏やかな剣術に屈してしまうのです。

磐音の活躍はそれだけではなく、悪徳の高利貸しからお金を借りて困っている近所の人々を助けることもあります。不当な利息を要求する悪役も、磐音の剣の腕前と鍛えられた大音声を見せつけられて降参するのです。爽快に悪を裁く様子はここでも描かれます。

江戸で繰り広げられる様々な出会いと別れを通じて、磐音は剣士として、そして人間としてまた大きく成長していきます。そんな春風が爽やかに通りゆく時代小説です。

美人女医・千鶴が江戸で起こる難事件に挑む!『風光る―藍染袴お匙帖』

藍染川沿いに診療所をもつ女医の千鶴。長崎に留学し、シーボルトの元で修業を積んだこともある彼女は、医者として多くの人々に慕われていました。

ある時、近所の堀江町にある建物の縁の下から人骨が発見されます。奉行所に勤める亀之助は、これは2年前に神隠しにあって突然消えた徳蔵のものではないかと考え、千鶴に検死を依頼します。そして彼女はこの事件にかかわる様々な騒動に巻き込まれていくこととなるのです。

著者
藤原 緋沙子
出版日
2005-02-01

人骨の頭部には鋭利な刃物で突かれたような穴が開いていました。これは殺人事件の可能性があるとして、千鶴は人骨から復顔を試みるのです。この様子はまるで監察医が警察の捜査と協力して難事件に立ち向かう現代の物語のようですね。しかしこの作品の舞台は江戸時代。現代で使われているような高度な医術や機械もまだ発達していません。一体彼女はどのような方法で元の人相を推定していくのでしょうか。

この話を含め、本作には全部で4話の短編が収録されています。いずれも千鶴が医者として事件の解決に協力していきますが、彼女を取り巻く人々との交流や人情、そして何よりも人命を尊び、患者の体だけではなく心の声も大切にする千鶴の人柄に、読者も温かい気持ちに包まれるのです。

江戸を舞台にしたおすすめの小説を5選ご紹介しました。時代小説というと、かたくて難しいイメージもありますよね。今回の作品はどれも、人情や感動があふれるお話ばかりです。江戸の粋をどうぞお楽しみ下さい。

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