子どもが読めば好奇心がくすぐられ、大人が読むと哲学的な深さを感じる和田誠の絵本。今回はたくさん出版されている作品の中からオリジナルの絵本、谷川俊太郎とコラボした絵本など、初心者にもおすすめの物語を紹介したいと思います。
本の装画を多数手がける和田誠をご存知でしょうか。彼は有名メーカーのロゴマークデザインを手がけ、80年代には映画監督を務めるなど多方面で活躍するイラストレーターです。
手がけた絵本はオリジナル作品をはじめ谷川俊太郎、SF作家として有名な星新一とも多くコラボしています。その作品は子どもの興味を引きつけるだけでなく、大人が読んでも楽しめる物語です。また和田誠の奥様は料理研究家で知られる平野レミ。そんな和田が手がけた絵本の中には、奥様や家族が登場する物語もいくつかあります。
これから紹介する和田誠の絵本は図書館での蔵書も多く、学校などでの読み聞かせや道徳の時間に使われている絵本も選びました。絵本を選ぶときに絵や物語が好みであることを基準に選ばれることも多いと思います。
もしかしたら既に手に取っている本もあるかも知れませんが、和田誠が手がけた絵本はたくさんありますので、今度は作者名から絵本を探してみるのも面白いと思いますよ。
ある日曜日、何もすることのないひろしは穴を掘り始めます。はじめは浅い穴でしたが、掘り進めていくうちだんだんと広くなり、ひろしがすっぽりと入るほどの大きさになります。通りがかったお母さんやお父さん、妹が声をかけても、手の平に豆ができても、ひろしは穴を掘り続けるのです。
『あな』は谷川俊太郎の物語に、和田誠が挿絵を描いた絵本です。和田らしいシンプルな絵は、穴を淡々を掘っていく男の子の様子ととてもマッチしていて、読者をぐんぐん物語に引き込んでいきます。
- 著者
- 谷川 俊太郎
- 出版日
- 1983-03-05
自分が入れるほどの大きさの穴を掘るのはとても大変だと思いますが、「もっと深く、もっと深く」と掘り進めていきます。一体どこまで掘っていくのか心配になりますが、横から穴を掘ってきた芋虫と遭遇したことで、今度は穴の中に座り、土のにおいや穴の中から空を見上げはじめました。
一心不乱に穴を掘り続けるひろしの子どもらしい行動とともに、大人が読むと少し哲学的な雰囲気も感じる不思議な絵本。果たしてひろしが掘った穴は最後にどうなったのでしょう。親子でひろしの気持ちに寄り添いながら読んでみてくださいね。
星新一が子供向けに書いた物語『はなとひみつ』。初版が発売されたのは1979年のことです。星新一といえば日本の有名なSF作家であり、この絵本も表紙からは想像のつかないような展開が待っています。
ある日、花が大好きなはなこは色んな花を写生するために野原へ出かけました。そして花を描いているうちに、ふとあることを思いついて、絵に描き加えます。
それは、地面の下にいるもぐらに草や木の世話をさせ、きれいな花を咲かせるお手伝いをさせるところでした。
- 著者
- 星 新一
- 出版日
- 2009-05-01
子どもはひとつの物事から、様々な想像を広げていくことができます。しかしこの物語では、はなこの描いた絵が風に吹かれて飛んで行ってしまうのです。
ここからが星新一らしさなのですが、海の上で風が止み落ちかけた絵を鳥たちが上手い具合にリレーをしていきます。そして、仲間と間違って一旦加えたカモメが仲間ではないことに気がつき、なんとある国が作った秘密研究所に落としてしまいました。
一体ここからどうなってしまうか続きが気になりますね。40年以上前の物語とは思えないくらい今読んでも色あせることなく、子どもはもちろん大人も楽しめる内容で、和田誠の挿絵も古さを感じさせません。
この後の展開を想像しながらぜひ親子で『はなとひみつ』を読んでいただき、予想外の展開をお楽しみください。
和田誠ファンの中で、和田家の実話ではと噂されるのが『ねこのシジミ』です。
ある日、公園に捨てられていた仔猫のきょうだい。その中でも目ヤニがついてタレ目だった1匹の猫が最後まで残ってしまいましたが、通りかかった男の子に拾われて行ったのでした。その猫がシジミです。
台所で丸まっている姿を、男の子のお母さんがシジミのようだと思い、そのまま猫の名前につけます。名前もつけてもらって家族の一員らしくなったシジミですが、名付け親のお母さんは、シジミなのにフジミと呼んだり、猫の名前をコロコロ変えて呼びます。
- 著者
- 和田 誠
- 出版日
- 1996-09-01
名前を変えられてもちゃんと自分の事だとわかるシジミ。ストーリーはシジミの目線を通し、猫の1日の過ごし方や生活の様子が描かれていて、猫が好きな方にはたまらない内容だと思います。
そんなある日、シジミの住んでいる家に泥棒が入ってきました。シジミは泥棒の足にくっついていましたが、部屋に閉じ込められてしまいます。その後、半年ほどして犯人は捕まったのですが、「猫がくっついてきて仕事がしにくい」という供述があり、警察が確認しに家へやってきました。証拠写真を撮る場面では、シジミとともに平野レミらしき方の微笑む姿も描かれています。
「自由」や「気まぐれ」といったイメージのある猫ですが、『ねこのシジミ』を読んでみると、人間より寿命の短い彼らにはその分濃い猫時間があるように感じます。猫は好きだけど飼えないという方にもおすすめの1冊ですよ。
絵本の枠を超え、月についての知識も得られる『ぬすまれた月』。物語では昔、月に何かが住んでいると考えられてきました。あなたの目には、月には何が住んでいるように見えますか?
ある所に月が大好きな男がいました。彼は月のことがとても好きではしごをどんどん伸ばしていき、とうとう月を手にするのです。そして家に持って帰り、箱に入れて毎日形の変わる月を眺めて楽しむのですが……。
- 著者
- 和田 誠
- 出版日
毎日箱を開けて楽しんでいた男の様子を窓から泥棒が見ていました。そしてこっそり忍び込んで箱を盗むのですが、開けてみると中は空っぽ。実はこの時泥棒が見たのは、地球から見ると太陽がわにきてみえなくなってしまう「新月」だったのです。
そして次に女性が箱を拾ったときには、月は三日月になっていました。この三日月で竪琴を作って奏でると、誰も聞いたようなことのない音色がしたのです。そして彼女は外国から招待されますが、移動中の船内でバッグを開くと半月になっていて、怒った彼女は月を海に捨ててしまいます。
今度は海に捨てられてしまった月ですが、この物語で和田誠が伝えたかったことが、次からの展開に凝縮されているように思います。みんなのものを一人占めしてしまうことで、みんなの調和が乱れてしまうという。これは『ぬすまれた月』だけではなく、世の中の物事にも当てはまるのはないでしょうか。
月について学べるのはもちろん、周りとの調和を考えるきっかけがさりげなく書かれている『ぬすまれた月』。この本は、お子様が成長していく過程で年齢に応じた読み方、考えができそうな絵本です。ぜひ本棚の1冊に加えてみてはいかがでしょうか。
いろいろな事に興味を持っていそうな男の子が表紙を飾る『どんなかんじかなあ』。この絵本は、小学校の読み聞かせや道徳でも取り扱われている人気の作品です。
ひろ君の友達、まりちゃんは目が見えません。目が見えないのはどんな感じだろうとひろ君は目を閉じてみます。真っ暗なようですが意外と色々な音が聞こえてきて、びっくりして目を開けるひろ君。しかし目を開けると、彼の周りはいつも通りの世の中で、特別に騒がしいことはないのでした。
- 著者
- 中山 千夏
- 出版日
- 2005-07-01
ひろ君は目の見えない友達がきっかけて目を閉じて新たな発見をしました。また彼には耳の聞こえない友達もいて、今度は耳栓をして風景やお母さんを見てみると、いつもは気づかない発見をします。
世の中には目の見えない、耳の聞こえないなど様々な境遇の人達がいます。普段、その人の立場になって考えることはあまりないのではないでしょうか。『どんなかんじかなあ』では、色々な境遇の人達がいること、また相手の立場になって考えてみることの大切さを教えてくれるのです。
そしてひろ君はどうしてこれだけ周りのことが見えているのでしょう。詳しくは『どんなかんじかなあ』を最後までお読みいただき、確認をしてみてください。
和田誠が装画を手がけた絵本の特集はいかがでしたか。まだまだ紹介しきれなかった絵本もたくさんありますが、冒険やミステリーなど子どもの好奇心をくすぐる絵本もたくさん出版されています。ぜひ、今回紹介した絵本をきっかけに和田誠の世界をたっぷり楽しんでみてはいかがでしょうか。