佐藤正午のおすすめ作品6選!クセになる小説とエッセイ

更新:2021.11.25

佐藤正午をご存知でしょうか?リアリティ溢れる登場人物たちと、計算し尽くされた精緻で予想外なストーリー。一度読むとクセになってしまう、そんな作品を生み出し続けている作家です。今回は、特に魅力の詰まった6つの作品をご紹介します。

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佐世保で生まれた、実力派作家の佐藤正午

佐藤正午は、1955年長崎県佐世保市に生まれ、転校の多い幼少時代を過ごしました。北海道大学国文科を中退し、佐世保市に戻ると、アルバイトをしながら小説を書き始めます。

この頃、佐世保市内の消防署が、正午に鳴らすサイレンを合図にして、執筆を始めることにしていました。正午というペンネームは、この習慣が由来になっています。

そして1983年に書き上げた『永遠の1/2』で、すばる文学賞を受賞し、作家としてデビューしました。以来、数多くの作品を生み出し、数々の賞を受賞しています。

小説もエッセイも一度に味わいたい!『正午派』

デビュー25周年を記念し、佐藤正午の作家としての足跡を追う試みで、刊行されました。内容は多岐にわたります。

25年間の活動の年譜に沿って、単行本に未収録である短編小説や、エッセイを読むことができます。幻と言われる映画脚本まで網羅しており、他では読めない作品ばかりです。

幼少時代の秘蔵写真や、自宅のスナップも掲載されています。中には、実際に仕事をしている机やその周りの写真もあり、作家佐藤正午の現場に迫ったものとなっています。

著者
佐藤 正午
出版日
2009-11-25

まず何から読もうか悩む方、または、小説もエッセイも読んでみたいという方におすすめです。幅広い内容なので、読んでいて飽きることがありません。

短編小説では、佐藤正午の描く現実味のある登場人物と、ストーリーの切れ味が味わえます。短編だけでは味気ないという方、連作になった作品も読むことができますので、ご安心下さい。充分な読み応えがあります。

恋愛相談の回答なども収録されており、エッセイとともに「佐藤正午らしさ」を感じられる内容になっています。作家の素顔を、垣間見られるでしょう。

この本の圧倒的なボリュームは、面白いものを求めるあなたの心を、きっと満たしてくれるはずです。

ちなみにですが、目次にある一編の短編小説が、なぜか本文には掲載されていません。実は、ちょっとした仕掛けがあるのです。思いがけない場所で見つかりますので、探してみて下さい。

彼女の逃避行は、どこへと繋がるのか?『身の上話』

主人公ミチルが、ふいに日常を逸脱したことで始まった、逃避行。それがミチルの夫となった「私」を通して語られます。

仕事も恋人との関係も順調で、平凡な生活を送っていたミチルは、ある日浮気相手に同行し、急な東京行きを決めました。その時に購入した宝くじが、偶然にも当選してしまったことにより、事態は複雑になっていきます。

ミチルは、どこまで非日常に巻き込まれてゆくのか。また、語り手の「私」は、なぜ全てを知り、それを語ろうとするのか……。

著者
佐藤 正午
出版日
2011-11-10

長く続くはずもなかった逃避行は、宝くじの当選金により、形を変えて続くことになります。

大金を独り占めしようとするミチルですが、休む間もなくトラブルが起き、翻弄されます。大金を前に、騙し騙される人々の姿には、怖いほどの生々しさがあります。スリルに溢れた展開に、手に汗を握ってしまうかもしれません。

終盤で、ようやく語り手である「私」が姿を現し、ミチルの行方の見えない逃避行は、思いがけない方向へ進んで行きます。最後まで読み終えた時、初めてタイトルの理由が明かされるでしょう。

誰にでも、ふと魔がさす瞬間がある。そんな人間の心の動きが、巧みに描かれています。先の読めないストーリーが、ページを捲る手を止めさせません。

佐藤正午の直木賞ノミネート作『月の満ち欠け』

小山内という男が待ち合わせをしたのは、るりという小学生の少女とその母親です。るりは非常に大人びた態度で、他人である小山内をよく知っているかのように、振る舞います。

小山内には、11年前に亡くした娘がいました。彼女の名も瑠璃。実は、その娘もるりと同様、年齢にそぐわない奇妙な振る舞いをしていました。小山内は自問します、るりと、今は亡き娘は何者なのか?

その正体に近付く時、30余年にもわたる、不思議な物語が語られます。

著者
佐藤 正午
出版日
2017-04-06

初めは、少女達の正体を巡る、どこか不気味なミステリーです。

ですが、徐々に姿を現すのは、「瑠璃」という女性の数奇なラブストーリーです。彼女は、欠けても満ちる月のように、死んでもまた生まれ変わることを決めました。たった一人の、大切な人と結ばれるために。

「会いたい人がいる。人はみな会いたい人に会えないままこの世界から消えていったかもしれないんだ。」(『月の満ち欠け』から引用)

本当に、前世というものはあるのか。小山内はもちろん、「瑠璃」の家族たちは、生まれ変わりを信じるかどうか、選択を迫られます。もし信じるのならどう接すればいいのか。生まれ変わりという不可思議な現象に、翻弄される人々の心境が、とてもリアルに描かれています。

一筋縄ではいかない物語、そのラストシーンには感動が待っています。一人の女性の不思議な愛の結末を、どうか見届けてください。

不思議なエッセイ『書くインタビュー1』

「これは、直接会って言葉をやりとりするのではなくて、メールを用いたインタビューです。」(『書くインタビュー1』から引用)

佐藤正午が創作の舞台裏について、質問者とメールでやりとりをします。『身の上話』出版直前(2009年6月)から、『鳩の撃退法』執筆の開始まで(2010年12月)が収録されています。

打ち合わせなしで、質問者がメールを送り始まるのですが、質問者の交代劇や、佐藤正午の秘書の登場など、決して順調とはいかず……。

著者
["佐藤 正午", "伊藤 ことこ", "東根 ユミ"]
出版日
2015-06-05

こんなインタビューは見たことがない!まさしくそんな内容です。

あくまでメールでのやりとりなので、質問は思うように進みません。誤解を招く文面があってやりとりが緊迫したり、佐藤正午の返信がちょっとひねくれていたり……。はらはらしながらも、おかしくなって、つい笑ってしまうかもしれません。

魅力はそれだけではありません。そもそも、これは全て本当に行われたインタビューなのか?読み進むにつれて、つい疑ってしまうでしょう。真相はどうなのでしょうか。

脚色か本当か分からない中でも、生真面目でどこか面白い、そんな作家の人柄が窺えます。いつの間にか、佐藤正午のファンになっていること、間違いなしです。勿論、作品の創作にまつわる話も出てきます。

入門編としても、おすすめの一冊です。

本当に大切なものとは、無くならなければ気付かないようなものなのかも知れません『ありのすさび』

 

ありのすさび(在りの遊び)とは「あるにまかせて特に気にせずにいること、生きているのに慣れて、なおざりにすること」なのだそうです。いつもそばにいる人、もしくは毎日のように接する物、通る道の風景など、あることが当たり前のように思っていたものが失われたとき初めて愛おしいものだったと気づかされた経験は多くの人が持っているのではないでしょうか。本作は日常にありがちで気にも留めないような物事を、佐藤正午が独自の目線で綴ったエッセイです。

 

著者
佐藤 正午
出版日
2007-03-01

最初の「小説家の四季」では、佐藤正午が長崎県佐世保市のビルの7階にある住居兼仕事場で小説を作り上げる間の試行錯誤の過程や、その間に佐藤の身に起こった出来事などが年代順に書かれています。女運が良いという友達から聞いた「女心を絶対に掴むスパゲティ」の作り方を習得する話、万年筆からワープロに移行してインターネットを使えるようになるまでの話、厄年を迎えた話などが面白おかしく描かれています。特にスパゲティの話はレシピまで書かれており、思わぬ結末に笑える秀逸な1作です。

2部の「ありのすさび」では佐藤正午が日々の中で興味を持った言葉にまつわる話が描かれています。毎日辞書を枕元に置き、部屋の様々なところにも辞書を置き、気になる言葉があればすぐに調べなければ気が済まない佐藤の言葉へのこだわり、言葉への想いがあふれた小品集です。

3部の「猫と小説と小説家」では佐藤正午が猫を飼いはじめてから他人に譲るまでの顛末、譲った猫への未練が描かれた後、小説家になる前の自分を回想して終わります。その間に興味は猫から派生して夏目漱石の『吾輩は猫である』と『坊ちゃん』、谷崎潤一郎の『猫と庄造と二人のをんな』についての分析や感想などが描かれているのですが、これらは同作品を読んだことがない人に是非おすすめしたい見事な読書案内です。

本作を読む限り、佐藤正午は佐世保からほとんど動かず交流する人間も多くないのですが、そんな狭い空間で起こるささやかな出来事を思わぬ角度からとらえて表現する巧みな文章は、狭さや小ささなど全く感じさせず、万華鏡のような広がりを見せて読む者を魅了します。何気ない日常が視点の持ち方次第で大きく豊かになることを教えられ、自分が無意識に受け流している物事の多さに気づかされるでしょう。

佐藤正午の技巧が光る衝撃の人間ドラマ

 

物語は、主人公の男が15年前に起きた殺人事件の犯人だと思われる女に会いに行くところから始まります。事件は既に時効を過ぎ今更どうなるものではないのですが、そこで男は自分の推理が正しいか否かを問い、女は男に事実を知る覚悟の有無を問うのです。

 

著者
佐藤 正午
出版日
2015-09-08

主人公の古堀徹は検察事務官として働いていますが、給料の大半は離婚した妻子への慰謝料に消え、古い借家で犬と共に単調な生活を送る日々でした。しかしある夜、村里ちあきという女子大生が古堀の家を訪ねてきます。彼女は15年前に古堀が住んでいたアパートの隣の部屋の夫婦の娘ですが、引っ越してからは全く音信不通の間柄でした。ちあきは幼い頃の記憶を母が歪めようとしており、当時ちあきの母と仲が良かった古堀が何かを知っているのではないかと思って来たのですが、それは古堀の全く知らない話でした。

ちあきが帰った後、古堀は昔の日記を取り出し過去を振り返ります。15年前、ちあきの父親はアパートの駐車場で何者かに撲殺されており、事件は未解決のまま時効を迎えていました。最も犯行動機があったのは、ちあきの母親の悦子です。悦子は夫からたび重なる暴力を受けていたのですが、犯行当時は友人と会っていたというアリバイがありました。

事件当日、古堀は同じ検察事務官で恋人の千野美由起とデートする約束だったのですが、悦子に頼まれてちあきを預かり3人でレストランに行き食事をして帰ったところ、遺体の第一発見者となるのです。警察に電話をするためアパートの階段を上がった古堀は、そこに悦子の香りがすることに気が付いたのですが、なぜかそれを口外することはありませんでした。古堀は過去を探るうち、悦子と同じ香りを持つ人間が身近に1人いたことに気が付き、事件について、ある確信にたどり着きます。

同時に古堀は、悦子の夫の暴力を知りながらあえて何もせず、美由起が示す悦子とちあきに対する不快感に対しても何もしなかった自分を思い出します。美由起の叔母の真理子から「血のめぐりが悪い男」と評された時も深く考えず、結局は美由起に振られ、美由起はその後努力して検察官へと出世したのに古堀は相変わらず事務官のまま目的のない日々を重ねるだけの存在でした。そんな彼が15年前の事件の真相を突き止め犯人に会いに行く、ここまでが「アンダーリポート」に描かれていることです。「ブルー」はその後日談ですが、意外な結末に戦慄を覚えることでしょう。佐藤正午が「アンダーリポート」の中に幾重にも引いていた伏線がこつぜんと姿を現し、読む人を圧倒します。単なる推理小説の枠にとどまらない奥深い作品です。

佐藤正午の作品を6つ紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?どれも個性的ですが、一度読み始めれば、夢中になってしまう作品ばかりです。この機会に、是非お手に取ってみて下さい。

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