「敵は海賊」シリーズ、「戦闘妖精」シリーズといった作品を世に出してきたSF作家、神林長平。「SF作家第三世代」を代表する作家でもあります。今回は、特におすすめしたい作品を5作ご紹介します。
神林長平は1953年に新潟県で生まれました。1979年に「狐と踊れ」がハヤカワ・SFコンテストに佳作入選し、『SFマガジン』で掲載されたことによって作家デビューを果たします。
星雲賞をたびたび受賞し、2015年まで日本SF作家クラブの11代目会長も務めました。「敵は海賊」シリーズ、「戦闘妖精・雪風」シリーズをはじめ、多くの短編・長編を世に出してきました。日本のSF作家第三世代としても有名な作家です。
今回は、神林長平のおすすめ作品をご紹介します。
地球に突如として南極に出現した「超空間通路」から侵攻してきたのは、惑星「フェアリィ」から送られてきた正体不明の異星体ジャム。地球人とは異なった価値観をもつ異星体とは当然交渉ができません。侵入を防ぐことしかできないため、強力なリーダーもいない地球防衛機構のフェアリィ空軍は、異星体が送り込まれてくる地球への通路の入り口で戦い続けています。
- 著者
- 神林 長平
- 出版日
- 2001-12-01
帰還率100パーセントを誇る特殊戦機雪風はジャムに撃墜され、パイロットの意志ではなく、瞬時に自らの意志で別の機体に自己転送し、付近のジャムを撃墜します。その後、重傷の深井中尉とともに帰ってきました。
特殊戦機雪風はなぜ別の機体へ自己転送したのか、そしてその時、機体に何が起こっていたのか。そのことは、深井中尉の友人でもあるブッカー少佐を悩ませていました。そして、彼の悩みを解消する唯一の手がかりである深井中尉がようやく目覚めます。
目覚めた中尉の記憶の中にあるジャムとの戦闘、そして明らかになるほどに深まるジャム兵器への脅威。深井中尉はなおもジャムとの戦いの場に向かうことになります。
そもそもジャムとは一体何者なのか。読み進んでいくにつれ、恐怖がつのっていくことでしょう。
神林長平の火星三部作の1冊です。
火星では、核戦争後の放射能汚染をきっかけに、人間は地下に、アンドロイドが地上に活動拠点が変わります。地上にいるアンドロイドが上位なのか、それとも地下にいるとはいえ、人間の方が上位なのか。そんな人間VSアンドロイドの争いの中、秋川は見たこともないはずの世界、地球で生活している夢を見てうなされます。
- 著者
- 神林 長平
- 出版日
- 1986-03-01
夢の世界では、奇妙に明るい太陽、広々とした空間、巨大な都市、青い海がでてきます。火星生まれで火星育ちの主人公にとっては見たことのない世界です。それにもかかわらず、夢ではそんな見たこともない世界でなんの違和感もなく生活しています。
夢の中で戦争がおこり、「おれはいったいなぜ生まれてきたのだ」と思いながら死ぬところで目が覚めます。
なぜ見たこともない世界が夢にでてくるのか、なぜそこまでリアルな夢を見るのか。そして主人公が悩みを抱える、自分が生まれてきた理由。その答えは読み進むにつれて解明されていきます。
アンドロイド、という言葉で思いつくものはいくつかあります。ですが、ここまで人間と同じように感情を持ち、思想を持つと、もはやアンドロイドVS人間ではなく、普通の人間と人間との争いにしか見えないのです。逆にいうと、ここまで人間と同じようになってくると、人間とは一体何なのかと考えてしまうかもしれません。
「自分はなぜ生きているのか」、そんな究極の問いに迫るような作品です。
伝説の海賊・匋冥(ようめい)との戦から生きて還った唯一の男であり、海賊課刑事のラテル。何でも食べ、一番の好物は海賊という猫型異星人のアプロ。そして唯一冷静な判断ができるコンピューターフリゲート艦のラジェンドラ。彼らは行方不明の王女を探しに行くことになり、そこから彼らの奮闘劇が繰り広げられていきます。
- 著者
- 神林 長平
- 出版日
女王に最も信頼されている女官長シャルファインが託されたのは、行方不明となってしまった王女探しです。はじめに頼ったのは伝説の海賊・匋冥。はじめは依頼を断った彼でしたが、シャルファインが海賊となって同じ艦に乗ることで、依頼を引き受けることにします。
匋冥を捕まえに来ているのにケーキにかぶりついているアプロと、それを見つけたラテルは相変わらず漫才のような喧嘩をするのです。そうこうしている間に、匋冥をとり逃してしまう彼ら。すると、天使から突然女の子を預けられてしまいます。
ラテルとアプロが預けられた子供が王女なのか、はたまた海賊になってしまったシャルファインはどうなるのか。一見シリアスな場面ではありますが、きっちりラテルとアプロが笑いを提供してくれます。SFドタバタコメディ、ぜひご堪能ください。
文章の執筆を支援する人工知能が搭載された「ワーカム」。いわゆる辞書に書かれているような意味でしか言葉を認識してくれないため、人間の持つ感覚的なニュアンスはなかなか伝わりません。そのため、書きたい文章が書けず、表現したいことを書こうとすると拒否されます。
人工知能との知恵比べと思いながら読んでいくと、だんだん物語が恐怖に感じられる、そんな作品です。
- 著者
- 神林長平
- 出版日
- 2011-06-10
「私を生んだのは姉だった。姉は私をかわいがってくれた。姉にとって私は大切な息子であり、ただ一人の弟だった」
そんな一文を受け付けてくれないワーカム。なぜなら、「姉」は「弟」を生まないからです。生むのは「母」であり、「姉」が「弟」を生むというのは意味が通らないからです。ワーカムは、正しい言葉の使い方でない文は認識してくれないのでした。
しかし、小説としてどうしてもそう表現したいという思いから、主人公は様々な視点から試していきます。「姉」「弟」を固有名詞として認識させようとするものの、間際らしい表現だから書体等の体裁を変えるように要求される始末。それを拒否すると、消されてしまいます。
言葉は人間が生み出してきた表現の1つ。その言葉の概念はその時その時に沸き起こる人間の感情、感覚、思いを込めて作られ、進化していきます。本作では、それを固定化することでしか対応できない機械と、感情で生きる人間との闘いが描かれています。
人間の進化の結果生み出されたはずの機械に、いつのまにか支配され、自由な表現ができなくなってしまうことが不幸なのでしょうか。それとも、それに気づいてしまったことが不幸なのでしょうか。そんなことを考えてしまう作品です。
人間社会のすべてを管理している「浮遊都市制御体」、この制御体が認識しなければ、たとえ人間の目に見えており、形もある人間であったとしても存在しないものと見なされてしまいます。そのため、認識されていなければ、自動販売機からソフトクリームを買うこともできません。さらには、「幽霊」と呼ばれ、警察機構から追われてしまうことになるのです。
- 著者
- 神林 長平
- 出版日
- 1986-08-01
ある少年は制御体から、「おまえなど必要ない」「生きている価値がない」「おまえは存在しない」というように無視され続けます。孤独な生き方を強いられてきた少年が出会ったのは、自称「悪魔」の堕天使。
少年以外の人には見えない悪魔は、少年に赤い表紙の本「ルーブリック・コード」を託します。そこには、異世界の神の言葉が綴られており……。
機械である制御体は、思想の書かれた書籍は燃やそうとします。本作では、それに人間が従うような世界です。感情もなく、ただ機械的に行われる人間排除とそれに従う人間たち。そんな状況を異様だと思わない状況に置かれていたら、恐怖でしかありませんよね。その世界を壊そうとする少年は「悪魔」でしょうか?それとも「神」でしょうか。
この「ペンタグラム」のほか6編、計7編で構成されていますが、制御体を軸に話がつながる連作となっています。
SFといえば、人工知能・アンドロイド・宇宙艦隊・宇宙開拓等々、想像力だけではなくある程度の科学的知識がないと、と思っている方もおられると思いますが、神林長平の作品はとっつきやすいものが多く、SF初心者でも充分楽しんでいただける作品です。ぜひご一読ください。