華やかな世界観に散りばめられた衝撃のトリック。複雑かつ繊細なキャラクター達を生き生きと描く山村美紗の世界は、小説の中に留まらず数多くの映像化をはたしてきました。今回は数多くの作品の中でも特におすすめの作品を5つ、ご紹介したいと思います。
山村美紗は1934年8月25日生まれ。日本を代表する女性ミステリー作家です。父親の仕事の関係で日本の統治下であった朝鮮で産まれ育ち、1957年に京都府立大学文学部国文科を卒業。その後は京都市立伏見中学で国語の教師として働いていましたが結婚し、1967年頃から執筆活動を始めます。
1970年に『京城の死』で江戸川乱歩賞、その翌年の1971年に『死体はクーラーが好き』で小説サンデー毎日新人賞の候補となり、ついに1974年『マラッカの海に消えた』で作家としてメジャーデビューを果たします。こうしてついに、日本のアガサ・クリスティーと呼ばれる有名女流作家が誕生したのです。
作品のなかでは京都を舞台にしたものも多く登場し、また自身が華道や茶道に通じていたこともあり、ミステリーの世界でありながらも、どこか華やかな印象を受ける作品も少なくありません。ミステリーと華やかさというギャップの中で起こるトリックこそ、山村美紗が「ミステリー界の女王」と呼ばれる所以なのでしょう。
主人公であるアメリカ副大統領令嬢、キャサリン・ターナーは、小川麻衣子がニューヨークで開いた生け花の個展を見て、華道を師事するために来日を決意。父親とともに日本へとやってきました。
早速華道を習うべく小川麻衣子を探しますが、家元廃止を訴えて華道界を騒がす渦中にいる麻衣子とは全く連絡が取れず、やっと会えても麻衣子はキャサリンの訴えを受け入れてはくれませんでした。
そんな中、堀川三条近くの空也堂で毒殺された麻衣子の遺体が発見されます......。
- 著者
- 山村 美紗
- 出版日
主人公のキャサリン・ターナーは、20歳の女子大生で、スタイルも抜群に良く金髪碧眼の魅力的な女性です。そんなキャラクターが生き生きと京都の街を舞う今作は、これから続くキャサリンシリーズの人気を含意するような1作目になっています。
探していた人の不可解な死や、雪に閉ざされたお家元の茶室で起きる二重密室の事件、誘拐、殺人......キャンプ場にあったはずのキャンピングカーの消失など、様々なサスペンスが詰まった読み応えのある1冊です。
次々に起きる事件を、キャサリンが外国人ならではの目線で追いかけていくテンポの良いストーリー展開は、長編小説でありながらとても読みやすくなっています。そして明かされる、強い愛憎が巻き起こした悲劇の告白......華やかな舞台で起こる日本ならではのトリックに、あなたもきっと驚嘆するでしょう。
京都出身の石原明子は東京の大学へ進学し、卒業後は病院で働いていたごく普通の女性でした。彼氏とも順調な交際を続けている中、父親の急死をきっかけに家業である葬儀社を継ぐ為、京都に帰る事になります。
ある日、著名な大学教授から葬儀依頼の電話がかかってきました。その葬儀の中で、明子は遺体の不審な点に気づきます。
古都で起きた事件の、明子がたどり着いた巧妙なアリバイトリックとは......。
- 著者
- 山村 美紗
- 出版日
赤い霊柩車「葬儀屋探偵 明子」は1992年に初めてドラマ化され、放送開始から20年以上経った今でも次々と映像化されている高視聴率の大人気シリーズです。主演は片平なぎさで、山村美紗の娘である山村紅葉も出演しています。
葬儀の時に感じた小さな疑問は、明子の中でどんどん膨らんでいき、やがて確信に変わっていきます。そんな中、東京に残してきた恋人から結婚を迫られる明子は、仕事か結婚か究極の選択をしなければならなくなるのです。
仕事と恋の間で揺れ動きながらも堅実に密室のトリックに近づいていく、明子の大胆さと誠実さが生き生きと描かれている魅力的な作品です。短い文章の中にある不可能にみえて華麗なアリバイ崩しは、盲点を突かれた気がして思わずハッとしてしまいます。
本格ミステリーと働く女性ならではの共感出来るエピソードは、気が付けば読み終わっているほどはまり込んでしまう1冊です。
大原麻子が教師をしている中学校の修学旅行の最中に、女子生徒が旅館の屋上から転落死すると言う事件が起こりました。その際女子生徒は「エジプト」「ミイラ」という謎の言葉を残していたのです。
事故なのか自殺なのか、調査をしている麻子の周りで第2、第3の事件が起こります。事件の真相を解く鍵は、2年前エジプトのカイロで外交官をしていた麻子の父が、謎の事故死をしていたことへと繋がっていくのです。
京都と過去のエジプトを繋ぐミッシングリングとは何なのでしょうか?
- 著者
- 山村 美紗
- 出版日
1980年に発表された今作は、かたせ梨乃主演でドラマ化されている、人気シリーズです。ドラマではかたせ梨乃演じる希麻倫子は社長令嬢でありカメラマン。愛称はキャサリンとなっており、「キャサリン」シリーズの1つになります。
中学生の売春や密室、また京都美術館で開催されていたエジプト展で、遺宝を盗もうとした男の謎の中毒死や女子中学生転落死の謎など、複雑に絡み合った一見関係性のない事件を解き明かそうとする麻子。
第2、第3と次々に起きる不可解な変死事件に、中学校教師と新聞記者の男がタッグを組み真相へ挑みます。
エジプトと京都を舞台に巻き起こる数々の事件を、鮮やかにプロデュースした山村美紗ならではの世界は、テンポが良く、複雑な事件をわかりやすくホロホロと読み解くように展開していきます。手の込んだ複雑なミステリーを読みたい方におすすめの1冊です。
京都私立大学に通う小川麻子は、弁護士を目指して日夜勉強に励んでいました。しかし九州の実家に住む父親が亡くなった事から、学費や生活費を稼ぐために仕事をしながら大学へ通い続ける事を決意します。そして、隣に住んでいたホステスの紹介で、高級クラブ「花屋敷」に勤め始めることになるのです。
麻子が京都でクラブホステスを始めて2週間。やっと仕事にも慣れてきた頃、クラブのナンバー2であるリリィが自分の部屋で死亡しているのが発見されました。部屋の状態は鍵がかかっており、チェーンロックまでされていて完璧な密室となっています。
その数日後、今度は麻子の隣の部屋に住んでいる奈美が、転落死すると言う事件が起こりました。
リリィと奈美は2人とも本当に自殺だったのか......女子大生ホステスの小川麻子が、友人に起きた事件の謎に挑みます。
- 著者
- 山村 美紗
- 出版日
夜の仕事と昼間の勉強、その両立生活にも慣れてきた頃、リリィが自宅マンションの部屋で死亡していると言うニュースを耳にした麻子は、お店で出会った弁護士の北川信彦と共に、事件の調査に乗り出しました。自殺か他殺か......様々な噂が飛び交う中、今度は麻子の部屋の隣人でもあり、仕事仲間の奈美が近くのマンションの6階から転落死したという情報が入ります。
密室の謎に、友人の謎の死と立て続けに起きた事件は、はたして本当に自殺だったのでしょうか。
短編小説の中に閉じ込められた京都の華やかな夜の世界の謎を、小川麻子と北川信彦の二人が鮮やかに解決する本シリーズは、様々な世界の裏側を知っているホステスが探偵役という、いまだかつてない設定のもと、愛情、憎しみ、虚栄など人間の持つダークな部分を暴き出します。
ホステスならではの知識と情報力を、難しいけれどもわかりやすいサスペンスにからめてプレゼンする手腕は、流石山村美紗と言えるでしょう。
卒業を控えた大学生男女7人は、ゼミ教授のが持っていた別荘を出資し合って購入。そして別荘を民宿に変え、男2人が代表として経営する事にしました。
3年後、25歳になった女性達は、当時していた2つの約束を果たしてもらうため、初めてその民宿を訪れます。久しぶりの再会に沸き立つ中、男性側から1つの約束の返事を待って欲しいと言われる女性達。
その夜から集まったメンバーが次々と殺されていく、連続殺人の幕が開けるのです。
- 著者
- 山村 美紗
- 出版日
- 2011-11-10
久しぶりに同級生7人が集まった民宿で起こる連続殺人事件。単純に事件が起きていくだけのストーリーではなく、密室の謎であったり不可解な現場であったりと、山村美紗の得意分野がこれでもかと凝縮されています。リズムよく展開されるストーリーに、一見複雑で不可能なトリックが紐解かれていく様は、何度でも読み返したくなるほど面白い作品です。
京都の山奥で起きる愛憎と殺人のサスペンスに、まるでその場所にいるかのような臨場感と共感を呼び起こすストーリー展開で、気が付けば山村美紗の世界にどっぷりとはまってしまいます。
連続殺人に絡まっている愛情と憎しみに挑んでいく姿は、思わず夢中で読みふけってしまうほど魅力的です。娘の山村紅葉もおすすめする珠玉の1冊を、是非読んでみて下さい。
複雑なミステリーやトリックの中に散りばめられた、古都の魅力や華やかな世界。重々しい事件の間に垣間見える、登場人物の恋模様には思わず共感せざるを得ません。
トリックが絶妙にほろほろと解明されていく様は、流石ミステリーの女王と言わしめた山村美紗の作品と言えます。昔ならではの本格ミステリーに挑戦してみたい方に、是非おすすめの5冊です。