作家、脚本家、俳優、演出家など複数の顔を持つ岩松了のおすすめ作品を4作ご紹介します。狂うような愛、若者たちの複雑な関係性、伝えられない思い、そしてほっとするエッセイ。岩松了ならではの独自の視点で描かれる作品は必読です。
岩松了は俳優、演出家、映画監督など複数の顔を持っているのです。そんな彼は、作家という一面も持ち合わせており、少し変わった経歴の持ち主でもあります。
少年時代には本を読むより、外で遊ぶことが好きだったそう。受験勉強から逃れるためにと読み始めた本にのめり込んでいったのが中学時代で、以降は一気に読書家になったようです。
岩松了は東京外国語大学のロシア語科を中退しています。大学時代の縁で演劇をはじめ、そこから俳優、演出などと活動の幅を広げていきました。
大学中退後は「自由劇団」に所属した岩松了。その後「東京乾電池」に加入します。「東京乾電池」はコントなど行うお笑い系の劇団です。
1980年代後半から『蒲団と達磨』、『テレビ・デイズ』などの戯曲作品を発表し、岸田国士戯曲賞、読売文学賞などを受賞しました。その後、1990年代以降、脚本家・監督としてテレビドラマや映画の世界でも活躍していきます。
岩松了の作品の特徴は、人間のリアクションを巧みな言葉で表現してる点でしょう。お芝居も呼びかけやそれに対するとっさの反応、リアクションを言葉にしてつないで作品を作り出していきます。純粋な気持ちでそのままを受け入れて楽しむことができる、そんな作品が多いです。
渋谷南平台の住宅地に住む少年ナオヤ。ナオヤにはかつてよく遊んでいたケンイチという友達がいました。しかし、ケンイチの家は今では真っ黒に干からびた向日葵に覆われて、廃墟のようになっています。
そんなケンイチの家の前で、ナオヤはマリーという女性に会いました。マリーはかつてケンイチの家だったその場所で隠れるように住んでいたのです。マリーと、その廃墟のような家に訪れる人々との出会いの中で、ナオヤは忘れかけていた過去の記憶がどんどんと呼び起こされていくのでした。
- 著者
- 岩松 了
- 出版日
- 2004-03-18
『シブヤから遠く離れて』は岩松了が書き下ろした戯曲で、同年Bunkamuraシアターコクーンで蜷川幸雄演出によって初演された現代劇です。2016年には、同作品が岩松了の演出で再演。その際には岩松自身も俳優として出演しています。
2004年に上演された際には、ナオヤを嵐の二宮和也が、マリーを小泉今日子が演じ、人気を集めました。この『シブヤから遠く離れて』は、蜷川幸雄が希望し、岩松了と初めてタッグを組んだ作品です。
この作品は淡々と語られてはいますが、繊細で狂気を含んだ世界を描いています。脚本そのものはもちろん、演出家、キャストとの組み合わせにより、戯曲そのものの魅力が広がり、作品を充実させてくれます。
舞台は都心から離れた地方の自動車運転免許教習の合宿所です。その合宿所には様々な背景を持った人々が集まります。短期の滞在のなかで、それぞれのコミュニティーが生まれ、そして平凡なようで非日常の生活を過ごしていくのでした。
ギャンブルにはまる男、合宿所内で恋に落ちる者、近くのラーメン屋の娘に恋をする男。22人もの登場人物の間で交わされるのはなに気ないやりとり。そんな中、些細な出来事をきっかけに、彼らの関係性に歪みが現れ始めます。
- 著者
- 若松了
- 出版日
- 1994-04-25
『アイスクリームマン』は1992年に岩松了が所属していた劇団「東京乾電池」によって上演されました。初演以降、様々な演出家により再演がされており、非常に人気が高かった作品です。2005年には岩松了プロデュース作品3連続公演の第一弾として上演されています。
岩松了は『アイスクリームマン』を執筆するにあたり、実際に自動車運転免許教習所の合宿所に2日間滞在し、取材をしたのだとか。誰もが体験し得る可能性があるリアルな若者たちの日常に引き込まれる作品です。
合宿所という閉鎖空間を舞台とした群像劇であり、何気ない言葉のキャッチボールで物語を形づくっていきます。説明ではなく言葉の自然なやりとりを重視した戯曲は岩松了作品の特徴のひとつ。彼の持ち味を楽しむことができる作品です。
主人公は家業を継ぎ、仕立て屋をしている男です。死んでしまった弟の妻だった女にひそかに思いを寄せています。しかし、弟を思ってか、意気地がなくてか、その思いは伝えることができません。
女も次第に男の思いに気づいていくものの、お互いはっきりと気持ちを表そうとはしないのでした。そんな中、男の兄が中国人の恋人を連れて帰ってきたため、2人の微妙な関係も次第にゆっくりと狂い出していくのです。
- 著者
- 岩松 了
- 出版日
『水の戯れ』は1998年に「竹中直人の会」によって上演された演劇であり、岩松了がその脚本を書いています。2014年に再演され、男を光石研、相手役の女を菊池亜希子、兄役を池田成志が演じました。
この戯曲は、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』から着想を得たと言われています。岩松了がその登場人物であるワーニャとエレーナが結婚したら、と考えて作品を作り上げたそうです。
誰もが経験したことがあるであろう恋愛のすれ違い。それに驚きや狂気を加えながら独特の視点で作品が描かれています。日常の中に潜む狂気を緊迫感をもって味わうことができるでしょう。
岩松了の初めてのエッセイ集『食卓で会いましょう』。1999年にポット出版より出版されました。
戯曲作家、演出家、俳優、ヘビースモーカーなど様々な顔を持つ岩松ならではのバラエティに富んだエッセイが集まっています。パチンコで負けたときの気持ちや、世の中で役に立たない人とは、など独自の視点で爽快に語るエッセイ集です。
- 著者
- 岩松 了
- 出版日
ヘビースモーカーとして知られる岩松がパチンコ屋の隣の喫茶店で、たばこを吹かしながら書いたような作品が集まっています。
日常の他愛のない話、たばこやパチンコの話から演劇や物語についてなど岩松了の魅力をあらゆる角度から楽しむことができるでしょう。「食卓」という名前の通り、様々なメニューの中から食べたいものを選ぶように、様々なエッセイの中から作品を選びぶことができるのが特量です。
ゆったりと何度も読みたくなるエッセイ集になっています。
岩松了の戯曲作品、そしてエッセイ集をご紹介しました。どの作品も彼らしい独特の世界観を味わうことができる作品です。日常の中の歪み、狂気、心の底の思いを感じることができるでしょう。本で戯曲を読んだら、ぜひDVDで演劇も楽しんでみてはいかがでしょうか。