今回は「笑える作品」をテーマに、異なる作者の作品から5つの小説を厳選しました。思わずおなかを抱えて笑ってしまうものから、失笑するものまで集めています。
『空中ブランコ』でお馴染みの奥田英朗の短編集です。表題作、「イン・ザ・プール」を含む5作品が収録されています。
「精神科医伊良部」シリーズの第1作となっていて、直木賞候補にも挙げられました。
- 著者
- 奥田 英朗
- 出版日
- 2006-03-10
伊良部総合病院の精神科は病院の地下にありました。4作を通して同じ舞台を描き、異なる病状を持った主人公が精神科を訪れます。
精神科を受け持つ伊良部先生は、色白でぽっちゃりしていて、気が優しそうな人物です。そして、ちょっとだけ頼りない印象を持ちます。そんないたって普通な先生ですが、実は注射フェチで、誰にでも注射したくなる癖を持つ面もあるのです。
先生のもとには、各章で1人ずつ、患者が現れます。
第1章、「イン・ザ・プール」は、ある男性が患者です。男性は、編集の仕事をする会社へ勤めていました。運動をするようにと伊良部先生に勧められたため、プールで体を動かすことにしましたが、なんとそれが原因でプール依存症になってしまうのです。
先生のいる精神科に向かい、その症状を解決して行くのですが、伊良部先生の治療は、果たしてこれで治るのか?というほどのゆるいものでした。治す気、あるのかな?と言いたくなってしまうことでしょう。
しかし、男性の症状は、伊良部先生の治療によってなんとかなってしまうのです。
「イン・ザ・プール」以外の短編の主人公も、それぞれの症状を治してもらいます。読んでいて気が抜けるような、心が軽くなるような小説です。このシリーズは続編も執筆されています。そちらも合わせてご覧ください。
『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』で有名な、森見登美彦の長編小説です。2003年に日本ファンタジーノベル大賞を受賞しました。
京都大学農学部に所属していて、現在休学しているという森本が主人公です。森本は、かつて付き合っていた水尾さんを研究対象として観察する日々を送っていました。水尾さんに関するレポートは、とても壮大なものです。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2006-05-30
森本は、水尾さんと付き合っていた時のことが忘れられません。未練はないと本人は言いますが、実際の行動を見るとまさにストーカーです。
しかし、せっかくレポートをまとめていたのに、それを水尾さん本人に止められてしまいました。そして、おなじストーカーである遠藤が、なんと水尾さんとデートの約束を取り付けるのです。
悲しんだ森本は、世の中のカップルを憎みました。そして、同じ仲間と共に打倒カップルの計画を立てていきます。
この作品の見どころは、森本の仲間たちが妄想をする場面の面白さと言えるでしょう。
森本の悪友たちは、皆女性に対しての思いはあるものの、女っ気はない人物ばかりです。彼らは友達以外を憎み、リア充を撲滅すべく団結します。彼らの話がとてもおかしく、一文一文、おなかを抱えて笑ってしまうことでしょう。
皆さんも学生の頃、仲間たちとくだらないことを妄想して、遊んでいた経験はありませんか?その時は真剣に悩んでいたけれど、今となっては楽しかったな、と感じるものがあると思います。彼らの計画は、まさにそんな青春を思い出させるものではないでしょうか。
この作品をひとことで言うと、「バカバカしい」といったものばかりです。けれどなぜか癖になる面白さがありますので、ぜひ読んでみて下さい。
ミステリーの有名作家、東野圭吾のユーモア短編小説です。東野圭吾と言えば、緻密なミステリーを描く大ヒット小説家のイメージがあるかと思います。この作品は、東野が描いた中では珍しい、ユーモア小説です。
1993年から、小説誌『小説すばる』と『小説新潮』に掲載されたものをまとめました。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
東野のブラックユーモア満載の作品です。「○笑小説」がつく作品はいくつか執筆されていますが、こちらはその中の1作目となります。今回は、『怪笑小説』からいくつかの短編をご紹介していきます。
「鬱積電車」の舞台は満員電車です。満員電車に乗る人々たちは、それぞれ思いを持ちながら電車に揺られていました。すし詰めの車内ではどうしてもイライラして、早く席に座りたい、降りたい、と思うでしょう。そんな鬱積を描いた作品です。思わず、あるある、とつぶやいてしまうような乗客の様子や心の声が著されています。
「あるジーサンに線香を」に登場する人物は、新島先生です。新島先生は、突然ジーサンと呼ばれる人物に、日記をつけてくれと頼まれました。さらに、若返りの薬をジーサンのために作ってくれと頼まれます。そして、実験は成功するのですが、結末は意外なものとなりました。
ミステリーのイメージが強い作家ですが、ブラックユーモアを描くこちらの作品も非常におすすめです。テイストは異なりますが、さらさらと読めてしまうようなライトな作品となっています。
『押入れのちよ』や『砂の王国』で有名な荻原浩の、記念すべきデビュー作です。
日本の秘境、大牛郡牛穴村という過疎地の田舎が作品の舞台となっています。村の再生を願い、村おこしをするために手を組んだのは、とある東京の広告代理店でした。
その名もユニバーサル広告社は、なんと倒産寸前だったのです。
- 著者
- 荻原 浩
- 出版日
- 2001-10-01
牛穴村は、超過疎地のど田舎です。人口は少なく、特産品はかんぴょうやオロロ豆でした。危機的状況にある村ですが、協力する企業もまた危機的状況にあります。
彼らが村おこしのために考えた作戦とは、「牛穴村 新発売キャンペーン」という突拍子も無いものだったのです。
まず目につくのは、村人たちの方言でしょう。さすが、「日本の秘境」と納得してしまうほどの、聞き慣れない言葉ばかりです。方言に困るのは、広告会社側でした。うまく意思疎通できていない、ちぐはぐさがなんとも笑いを誘います。
村人もとても個性的ですが、会社の人間も負けていません。突拍子もないアイディアを生み出す者や、マイペースに仕事を進めていく者、というように、1人1人の個性が強く、会社自体も変わっている社風を持ちます。だからこそ、倒産危機なのでしょうか。
今回、村人と広告代理店の面々が企画する村おこし計画というのが、いかにもよくあるような計画なのです。読んでいて、くだらないなと感じる場面もあります。しかし、そんなくだらない計画を真面目に行っている登場人物たちの様子がまるで冗談のようで面白いのです。
笑いあり、興奮ありの作品ですが、村おこし企画がなければ出会わなかった田舎と都会の人たちが、一致団結して頑張っていく姿に温かい気持ちにもなるでしょう。
他人の嘘を確実に見抜く・成瀬、演説の達人・響野、スリの天才・久遠、正確な体内時計を持つ女・雪子の4人が、銀行強盗団として金を盗みますが、現金輸送車強盗犯の車と衝突し、彼らの売り上げを奪われてしまいます。彼らは売り上げを奪還すべく奮闘するのですが、事件は思わぬ方向へと進んでいくことに。
- 著者
- 幸太郎, 伊坂
- 出版日
4人の手際よくスマートな銀行強盗描写は、読んでいてスカッとする見事な表現力で描かれています。伊坂幸太郎の繊細な人間関係の描写に興味を惹かれることはもちろん、不可解な強盗事件の推理や伏線の回収を楽しめるのもこの小説の特徴です。
『陽気なギャングの日常と襲撃』『陽気なギャングは三つ数えろ』とシリーズ化もされています。華麗なる銀行強盗と、4人の複雑な人間模様を描いた、サスペンスとコメディの融合小説といえるでしょう。
ミステリー小説家として有名な浅田次郎のエンタテインメイト小説です。
この作品の主に3人の人物が登場します。事業に失敗し、友達と彼女一気に失った「大前」、ラスベガスの魅力に取りつかれ、身を打って生活していた「梶野」、英雄であった過去の栄光にすがる「ジョン」、この3人が繰り広げる物語です。
- 著者
- 浅田 次郎
- 出版日
- 2004-11-01
舞台はラスベガス、3人が偶然の出会いを果たしたのは、街の目玉であるカジノでした。3人の人生や価値観はそれぞれ異なるものの、出会ったことで個人の人生は大きく変化していくのです。
3人も昔は大きな夢を見て、掴んだり、掴みかけたりした人生を歩んでいましたが、あえなく砕けてしまったのでした。夢の膨らむラスベガスと、3人の不幸な過去を交差させ、ジョークを交えながら面白可笑しく展開させていきます。二転も三転もしていく登場人物たちの人生は、めまぐるしい中でも笑えるものとして著されているのです。
作者の浅田次郎自身もラスベガスにはとても詳しいようで、作品の中には、浅田自身の経験や考えがたくさん反映さえているようです。まるで本当にラスベガスを旅行しているみたいに、場所の魅力がありありと思い浮かぶのは、作者の経験による作品だからでしょうか。
作品全体がドタバタしていて、ふり幅が激しいのですが、読んでいくうちに巻き込まれていきます。面白くて一気に読めること間違いなしです。
どれも有名な作家の作品ばかりです。普段の嫌なことを忘れてしまうほど夢中で読み、笑える作品たちとなっているため、気になったものから是非お手に取ってみて下さいね。