夏樹静子のおすすめ文庫作品5選!代表作『そして誰かいなくなった』

更新:2017.7.3

女流推理小説家といえば夏樹静子の名を挙げる方も多いかもしれません。実は推理小説だけでなく、ノンフィクションや人間ドラマなど、幅広く魅力的な作品を生み出しています。今回は夏樹静子のおすすめ小説5選をご紹介します。

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夏樹静子とは

慶応義塾大学在学中に『すれ違った死』が江戸川乱歩賞候補になり、それを皮切りに次々と作品を発表。推理小説作家としての階段をかけあがりました。丹念な取材に裏打ちされた緻密なストーリーや繊細な心情描写は、多くの読者をひきつけてやみません。

結婚により4年ほど執筆活動から遠ざかりましたが、長女の出産がきっかけで書いた『天使が消えていく』が江戸川乱歩賞候補となって再び注目を集め、2016年3月に亡くなるまで多くの作品を遺しています。
 

事実は小説より奇なり『裁判百年史ものがたり』

推理小説の要ともなることも多い法律。夏樹静子は、自ら六方全書を読んだり弁護士を雇ったりと、入念な取材を重ねたうえで執筆を行いました。それが縁となり晩年には、裁判所関連の仕事も多くこなしています。本書は、裁判史上でもエポックメイキングな12の裁判に焦点をあてたノンフィクションです。

著者
夏樹 静子
出版日
2012-09-04

ロシアの皇太子を一人の巡査が切りつけ、国際問題となった大津事件。当時、外国の皇族への犯罪には規定がありませんでしたが、ロシアの報復を恐れた明治政府は、被告を日本の皇族殺傷事件と同等に扱って、死刑とするよう裁判所に求めます。

裁判官たちは、権力に屈しそうになりながらも、司法は政治に対して独立であるべきだと信念を貫き、一般人殺傷の罪として刑を科したのでした。裁判官たちが政府の要求をはねのけていく様がとてもドラマチックで、彼らの気高さに胸を打たれることでしょう。

そのほか、尊属殺人罪廃止のきっかけとなった裁判や、判例としてしばしば言及される永山則夫の事件などが扱われています。どの事件も、ただの史実ではなく、「実に沢山の人々が、それぞれの立場から、いろいろな形で、多様な信念をもって、時には文字通り命をかけて関わった」”ものがたり”として描かれています。臨場感にあふれ、いまにも関係者たちの心の叫びが聞こえてきそうです。

事実は小説より奇なりという言葉を思わせる一冊です。

どんでん返しのラストで息をのむ『Wの悲劇』

和辻製薬の会長一族が顔をそろえた山中湖畔の別荘で、一族のマドンナ摩子が大伯父である会長の与兵衛を殺害してしまいました。可愛い摩子を守るため、一族は偽装工作を施すものの、警察に徐々に追い詰められていきます。ついに摩子が捕まり事件は収束したかと思いきや、事態は予想外のほうへ……。

著者
夏樹 静子
出版日
2007-04-12

摩子が警察に追い詰められていく前半は、わかっていてもハラハラせずにはいられないほど臨場感あふれる展開となっています。そして摩子が捕まってからは、どんでん返しに次ぐどんでん返しで、読み終わったあと呆然としてしまうこと間違いありません。

なおタイトルにあるWは、XYZに次ぐ未知数を表すということに着想を得たと、夏樹静子は語っています。この作品において、Wとは一体何を表しているのでしょうか。

エラリークイーンの『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』への挑戦として描かれた、夏樹静子を代表する本格的な推理小説です。

母親の愛情に胸をうたれる『天使が消えていく』

雑誌記者の亜紀子は、先天性心臓疾患の赤ん坊、ゆみ子を取材するにあたり、ゆみ子の母親である志保に出会います。望まない妊娠だった志保はゆみ子を邪魔者扱いして冷たくあたるのですが、ゆみ子は志保を慕い続けるのでした。そんな二人を放っておけない亜紀子は、疎んじられながらも志保のもとを頻繁に訪れるようになります。

そんなとき福岡のホテルで、宿泊客とホテルの経営者が相次いで殺される事件が発生しました。警察は、一人の売春婦を容疑者として追い詰めるのですが、彼女もまた殺されてしまいます。そしてついに、彼女を裏で操っていた真の黒幕が捕らえられ、その人物こそが売春婦の殺人にもかかわっていると思われたのですが……。

著者
夏樹 静子
出版日

結婚によりしばらく執筆活動から遠ざかっていた夏樹静子ですが、本作で江戸川乱歩賞候補となったことで再び注目を集める存在になりました。作者自身の子供への想いが投影されており、本格的なミステリーでありながら、母性を描いた文学的傑作でもあります。

ラスト10ページで明かされる真実を、誰が予想できたでしょうか。また、これほどまでに強い想いがほかにあるでしょうか。ひとりの母親としての夏樹静子を感じることができる作品です。

名作のオマージュ『そして誰かいなくなった』

豪華クルーザーの旅に招待されたのは、会社役員秘書、エッセイスト、医者、弁護士、プロゴルファーの五人。二人のクルーとともに、一週間の予定で葉山から沖縄に向かっていました。

初日の夜、突如船内に”裁判官”の声が響き渡ります。その声は、船に乗っている七人ひとりひとりの罪を告発するものでした。驚き青ざめる七人でしたが、アガサ・クリスティーの名作『そして誰もいなくなった』と酷似した光景であることから、その場にいない招待者の悪ふざけだろうと考え、一度は心を落ちつけます。

しかし、翌朝一人が死体となって発見され、さらには小説と同様に動物の置物がひとつなくなっていたのです。その後も置物がなくなるとともに次々と人が殺され、パニックに陥る船内。

犯人は一体誰なのでしょうか。そしてその狙いは何なのでしょうか。

著者
夏樹 静子
出版日

タイトルから明らかなように、アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』のオマージュです。原作では孤島が舞台でしたが、本作では海上にうつしています。狭く閉ざされた船内は、人が次々と殺されていく展開における恐怖をかきたてるのに格好の舞台と言えるでしょう。

原作の読者には結末が予想できてしまうオマージュ作品が多い中で、本作は意表をつかれるラストが準備されており、原作を読んだかどうかに関わらず楽しめる作品になっています。「誰か」がいなくなるという言葉の意味に気が付いた時、思わず唸ること間違いありません。

ひとがひとを裁く難しさを問う『量刑』

主人公の岬は、不倫相手の秀人に依頼された極秘の届けものの途中で、交通事故を起こしてしまいます。そして、まだ息のあった母娘を弾みで殺めてしまった岬。秀人と共に山中に死体を遺棄することを決意します。何があっても岬を陰で支えることを誓う秀人。一方で、自分の関与を一切他言しないよう岬に言い含め、秀人を愛する岬もそれに同意するのでした。

やがて岬は逮捕され、量刑に厳しいことで有名な神谷裁判長が担当になったことから、死刑判決の可能性が濃厚に。秀人は岬をなんとか救うため、神谷の家族に近づきます。神谷は、家族の命と裁判官としての信念との間で苦しみながら、岬に刑を下すのでした。

著者
夏樹 静子
出版日

警察に厳しく追及され何度も崩れ落ちそうになりながら、かろうじて持ちこたえる岬に、感情移入する読者も多いと思います。一方、決して自らは表に出ようとしない秀人にいらだたしさを感じつつ、どこかその狡さを理解できてしまうひともいるでしょう。

そして、家族の命を握られたなかで決断を迫られる神谷裁判長。言葉ひとつで被告の命を左右する裁判長というの職責の重さを痛感するとともに、彼もまたひとりの人間なのだという当たり前の事実に気づかされます。

ひとがひとを裁く難しさを問う社会派小説でありながら、関係者たちの心の揺れを繊細に描いた文学的な要素も強い作品となっています。読み応えがある一冊です。

推理小説と聞いて思い浮かべるものとは、また一味違った作品が多かったのではないでしょうか。ぜひこの機会に読んでみてくださいね。

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