カルト的ファンの支持を受け、ホラー好きを唸らせ続ける吉村達也。そのスピード感あるストーリー展開と、読者を一瞬で引きずり込む圧倒的な吸引力を、余すところなく堪能できる5作品を選出!一度ハマると抜け出せない、流砂の如き吉村ワールドを紐解きます。
1952年、東京都に生まれた吉村達也。大学卒業後、ニッポン放送の社員を経て扶桑社に出向します。扶桑社時代に書いた『Kの悲劇』で作家デビューを飾り、1990年より専業作家となりました。ホラー小説の執筆以外にも、ニッポン放送時代にオールナイトニッポンのパーソナリティを務め、詰将棋で才能を発揮するなど多岐に渡り才能を発揮しました。
ホラー小説に分類されることが多い吉村ですが、彼の作品は、推理小説、サスペンス、オカルトなど、多様な側面を含みます。豊富な引き出しを存分に活用し、ジャンルの壁を軽々と越え、卓越した発想力と描写力、意外性に溢れた構成力を武器に、数々の名作を遺しました。
吉村達也は2012年5月、進行性胃癌のため60歳の若さでこの世を去ります。その際、自らのオフィシャルサイトで「長らくごぶさたしておりました。突然ですが、私はこのたび、死んでしまいました。」との発表がなされ、世間を驚かせました。
舞台は東北の村にある小さな高校、希望の光学園。事件のきっかけはクラスメイトの自殺でした。黒板には座席表を模した作者不明のビンゴの図が描かれ、各自の机には次々と死の象徴が現れます。
漂い始める不穏な空気、耐え難いほどの緊張感、そしてタテ、ヨコ、ナナメが一列に並び、ついに迎えたビンゴの瞬間……。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
本書に不必要な出し惜しみやフェイントはありません。ゲーム感覚で人が死ぬ、不謹慎極まりない倫理違反のこの設定に、怒りを覚える隙もないほどの速さで、ストーリーは進みます。
読者は予想を裏切る展開に翻弄され、戦慄し、追いつめられていきます。そして、ビンゴで生徒が一斉に死ぬその一瞬は、大変凄惨で残酷です。迎えるラストでは、脳天をぶち抜かれたかのようなショックが待ち受けています。
人間の弱さ、哀しさ、残酷さを暴く告発の書として、強くおすすめいたします。非常に怖いです。暗くなってから読む際は、眠れぬ夜をご覚悟ください。
韓国の山間の一軒家で繰り広げられる、恐ろしくも哀しい物語です。登場人物は、仲の良い美人姉妹と薬剤師の父、病気の母、そして看護婦です。母が亡くなって家族は歪み、この世のものならぬ存在と奇妙な現象に脅かされ、姉妹の心が徐々に壊れていき……。
妄想と現実、生と死の境界線が曖昧になる中で、悲劇的な結末へと転落していく家族を描きます。韓国ホラー映画、『箪笥』の小説版です。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
映画『箪笥』は、韓国の古典怪談である『薔花紅蓮伝』を下敷きに、人の心の闇と家族の崩壊を描いた衝撃作です。そして『姉妹―Two sisters』は、映画の脚本をもとに吉村達也がノベライズ化した小説です。納得がいかないところは映画監督本人に問い合わせながら執筆したそうで、映画では明かされないバックグラウンドも丁寧に掬い取り、詳細に描いています。
本書はホラーでありながら、ミステリーやサスペンスの要素も多分に含みまれており、謎と事件が連鎖的に訪れ、雪崩れ込んだクライマックスでは戦慄の真相に息をのむことになるでしょう。
ただ怖いだけにとどまらない、胸を締め付けるような息苦しさと切なさが胸に残る一冊です。ぜひ映画『箪笥』とセットでお楽しみください。
北薗雪夫は総美学園中等部3年A組の担任です。雪のように白い肌と鋭い目、びっしりとはやした髭面の彼には、5人の中学生を殺害した壮絶な過去がありました。
幼少期のトラウマ、歪んだ自己認識、のしかかる深く重い母の愛が彼に与えた影響は甚大で、最悪な形となって表出します。精神の深奥に巣喰う強烈なエゴと渇きを描き切った渾身の一作です。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
人は誰しも知らず知らずに、思考の癖や認知の歪みを自分の内に育てつつ、それらをうまく制御しながら大人へと成長します。しかしその過程で深刻なトラウマを経験してしまうと、柔らかな感性は傷つき損なわれ、人格は屈折し、思考、認知、行動は時に制御不能となります。
白い悪魔の如き殺人鬼、北薗雪夫。その人格形成の裏側には、彼の白い肌をからかった子供達の無垢な残酷さと、最も身近な存在である母親からの歪んだ愛がありました。環境が人に及ぼす影響がいかに大きいかをまざまざと思い知らされます。マザーコンプレックスという言葉を思い浮かべずにはいられません。
激しくおぞましい憎悪はとどまるところを知らず、暴走する怒りと狂気が生徒を絶望のどん底に突き落とします。冷たい視線が首筋に絡みつくようで、読了後までじわじわとした恐怖が続く一冊です。
女子中高生をターゲットにした連続殺人が起こります。しかも被害者の断末魔はケータイを通じて他人にライブ中継される……。16歳の高校生、坂口葉月のケータイからも、殺される同級生の大絶叫が響き渡るのです。殺人者の魔の手は着実に葉月のもとへ忍び寄り、葉月は親友、千春に助けを求めますが……。携帯電話の存在意義と生活における位置づけを問う問題作です。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
すっかり生活必需品の一つとなった携帯電話ですが、そんなわたしたちの万能無敵なライフラインが、ある日突如として連続猟奇殺人者の狂気の棲み処と化したら……。同じような手口を用いた異常殺人が7件も起き、犯人も犯行理由も不明な中、電波に乗せて届く恐怖と迫りくる殺意に背筋が凍ります。
本書では、自らが生み出した文明の利器に振り回され、逆に支配されていく人間の愚かしさが教訓的に描かれています。携帯電話に依存する現代社会の危うさを鋭く切り取り、警鐘を鳴らしているのです。
主人公は精密機器メーカーに勤務している町田輝樹。ある日彼のもとに、差出人不明のノートが届きます。表紙に『かげろう日記』と記されたそのノートは、かつて輝樹に捨てられ、その後不遇の死を遂げた元恋人、内藤茜の日記でした。彼女が書き綴った輝樹への切なる想いはやがて狂気の色を帯び、輝樹の神経を擦り減らしていくのですが……。
- 著者
- 吉村 達也
- 出版日
本作は、主人公が元彼女の綴った日記を読み進めていく形式で展開していきます。ホラーとミステリーの境界線を跨いでいるため、醍醐味とも言える、全身の毛が逆立つような恐怖と謎解きの快感、その双方を味わうことが出来るでしょう。
死してなお輝樹に絡みつく茜の愛と情念はドロついた粘液のようで、彼女の剥き出しの感情にあてられた輝樹は、罪悪感と猜疑心に苛まれます。バレンタインデーには、血文字ならぬチョコレート文字で日記が綴られ、粘度の高い茜の執念を象徴するかのようです。確実に死へ向かい行く日々の中で、じわじわと精神が破壊されていく茜の様子が、生々しい心理描写で綴られています。
本作は紙面や書体の使い方にも趣向が凝らされ、ストーリーをよりリアルに感じられる仕組みとなっています。一気読み必須の怒涛の展開の末、明かされる真相はまさに驚愕です。
いかがだったでしょうか?目を背け、逃れようともがくほどに目を奪われて引き寄せられ、終いにどっぷりと吞み込まれてしまう、そんな吉村達也ワールドの恐怖と興奮、驚愕、感動を、存分にご堪能いただけたらと思います。