ありえないほどのピュアさで読者をキュンキュンさせまくる無差別発作少女漫画『君に届け』。読んでいるとこんな青春を送りたかったという憧れが募りすぎて辛い作品です。そして辛すぎるので登場人物を台無しにする蛇足な設定を考えてみました。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2006-05-25
とにかくピュア。この言葉に尽きる大ヒット少女漫画『君に届け』。登場人物ほとんど全員がファンタジーのような純粋さです。
最初はただキュンキュンしながら読んでいた本作ですが、何度も読み返すうちに作品を好きという気持ちは「どうして自分はこんな高校生活を送れなかったのだろうか」という八つ当たりに変化していきました。
だってどこにも風早が、あやねが、千鶴がいないからです。そんなことならと、彼らへの嫉妬心が収まるような、足りない(完全に蛇足な)設定を足してみました。手に入らないなら壊す、好きな子には意地悪する、そんな子供じみた愛を持って設定を足すと、大好きな『君に届け』の登場人物が身近になりました。台無しです。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2014-03-25
風早に好かれて羨ましい。
最初は可愛いと思っていた爽子にも作品にのめり込むほどに嫉妬心が湧いてきます。それまで怖すぎる顔のせいで周囲から避けられていたことを考えても、作品での幸せ度が過ぎるのです。
クラス一のイケメン彼氏、優しくも厳しい友達、広がる交流の輪、青春……。
やはり羨ましすぎます。では彼女にどんな設定を足したらこの気持ちが収まるのか。それは「時代に翻弄される」ではないでしょうか。
戦争もない現代日本で優しい両親に囲まれて育った爽子。もし彼女が戦後まもなくの貧しい時代や、身分で評価が左右されるドロドロの時代だったら朝ドラヒロインを見ているような気持ちになれます。
自分と同じ土俵というより、国民的存在にまで上げてしまえば共感しつつも愛でることができるのです。どうしてこの子はこんなに綺麗な心を持っているのに私は……と自己嫌悪に陥ることなく「朝ドラ」だから、で済ますことができます。精神衛生上、素晴らしいです。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2015-07-24
イケメンでありながらも純粋さ100%という設定で女子に夢を持たさせ、男子を「ケッ」と道にツバを吐かせるくらいにはやさぐれさせるであろう風早。少女漫画に登場する数多くの好感度高すぎ男子の中でも上位を争う人物です。
彼に無い、そして完全に彼の本質を壊す要素は「自意識」ではないでしょうか。
風早はいかんせん自分の容姿が整っており、性格が良く、友達や片思いされる相手が多いことに無意識なのです。そしてそれこそが嫌味のないかっこよさに繋がっています。
そんな彼に自意識を足せば、ジャニーズアイドルになるでしょう。おそらく自分のかっこよさに気づいた瞬間に周囲の誰かが履歴書を事務所に送ったということにして、面接を受けようとするかもしれません。そして着々と自意識を育てていくのです。
本家・風早と変わらず遠い人物になってしまいましたが、実在しますし、ジャニーズのアイドルだと思えばそのかっこよさにも頷けるリアリティがあります。なんせ女の子たちをキャーキャーさせるのが仕事です。それだけかっこよくても全く不自然ではありません。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2015-12-25
いぶし銀のような渋いかっこよさがある男子高校生・龍。そしてガサツキャラとして登場しながらもどんどんかわいくなるちづ。ふたりは幼馴染です。
最初は龍を友達としてしか見ていなかったちづですが、徐々に自分の気持ちに気づいて乙女になっていきます。コロコロと表情が変わるちづに、無表情の中に見え隠れする照れ顔がキュンキュンの龍を見ていると、幼馴染をつくるところから人生をやり直したくなってしまいます。ふたりが付き合った時には嬉しさと同時に、こんな幼馴染がいない自分の設定が辛くなってくるもんです。
そして25巻では大学進学を機に地元を離れる龍がちづにこう言います。
「必ず 戻るから
その時は家族になろうな」
高校生ながら有言実行の堅実なイメージがある龍は、この言葉を高校生のたわごとでは終わらせないでしょう。こんな実直なカップルいるんだろうか、いたら羨まし過ぎます。
そんなふたりに足りないのはおそらく「スウェット」。高校を卒業して制服を脱いだら、これからはスウェットをユニフォームにしていただきたいのです。
若くしての結婚、そしてスウェットを着て夫婦仲良くスーパーで買い物をしていたとしたら、一気にどこか既視感があるふたりに。これならファンタジー感が減り、とてもリアリティを感じられる幼馴染像になるのです。こんな幸せもいいなぁとほのぼのと違う角度からの人生を考えさせてくれます。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2017-02-24
ここまで登場人物たちに蛇足をつけまくりましたが、やはりリアリティが増すものの、『君に届け』の魅力である純粋さが台無しになってしまいました。分かっていたことかもしれませんが、今のままで十分だからここまで人気があるのです。
そこでここからは普通に28巻の見所をご紹介させていただきます。蛇足の必要なしのキュンキュン展開をお伝えします。やっぱり王道が一番です。
28巻のみどころは風早×爽子のイチャイチャシーン、ピン×あやねのドキドキシーンです。
まず本作での風早×爽子の見所は年末のシーンから。みんなでいく前にふたりだけで初詣に行こうと約束したものの、その日はあいにくの吹雪。12月31日が誕生日の爽子にせめて誕生部プレゼントだけでも渡そうとした風早ですが、爽子は電話に出ません。
まさかと思って待ち合わせ場所に行くと、そこには雪に降られながら待っている彼女の姿がありました。そこから近い風早の家へ行った爽子は、彼の母親から今日はもう遅いから泊まっていくよう言われます。
初めてのお泊まりに嬉しそうなふたりは手をつなぎ、キスをし、はしゃぎます。母親からおかしなことはしないようにと言われましたが、彼らはとても健全です。
そして風早はついに意を決して爽子にプレゼントを渡します。それは何と彼女の左手の薬指にぴったり。
「いつかもっとちゃんとしたの渡すから!」
爽子は嬉しくて泣き出してしまいます。そんな彼女を見て風早は何度もキスをするのです。そしてふたりはそのままこたつで眠ってしまいました。やっぱりどこまでも健全。そしてどちらも可愛過ぎます。
そしてピン×あやねの28巻の名シーンは初詣から。ちづの計画によってみんなの初詣に教師であるピンも参加することになりました。27巻でピンが好きという気持ちを爽子とちづに打ち明けたあやねはさらに自覚した自分の気持ちに戸惑い、うまく彼と話せません。
しかし彼女はおみくじの恋愛のところに「思うだけでは駄目」と書かれていたことを思い出してどうにか行動を起こさないと、と思います。その時、みんなにたかられてジュースをおごっていたピンのお金があやねの番になって底をつきます。チャンスだと思い、必死に食い下がるあやね。
「ずるい!!あたしもなんか欲しい!!
…合格したら!!…ごほうびに!!
……!!
けしごむいっこちょーだい…」(中略あり)
本当に欲しいものを言えないあやね。初登場時のギャルギャルしさからは想像できない可愛さです。否定されて悲しい表情を見せるあやねに、ピンは真面目な表情になり「考えといてやる!絶対合格すれよ!!」と言います。
それを聞いたあやねは一気に明るい表情に変わり「……がんばる!!」と答えるのです。男性経験は豊富であるものの、今まで本当には誰かに恋したことのなかったあやねのこのギャップ。消しゴムくらいいくらでもあげたくなる可愛さですが、ピンのものでなきゃ駄目なのでしょう。
- 著者
- 椎名 軽穂
- 出版日
- 2017-07-25
結局蛇足を足すと俗っぽさが出すぎて作品が全く違うものになってしまいました。繰り返しになりますが『君に届け』はこのままだから読者をキュンキュンさせる名作になったのです。
風早と爽子、龍とちづは安泰モードになったので、残すところ展開的に気になるのはあやねの初恋の行方です。果たして29巻ではどうなるのでしょうか?次巻は2017年7月25日発売です!