ロックミュージシャンとして有名な大槻ケンヂですが、実は作家としての評価も高く、多くの小説やエッセイなどを発表しています。ここでは、多彩な才能を発揮する大槻によって執筆された、おすすめの書籍をご紹介していきましょう。
1966年、東京都に生まれた大槻ケンヂは、1982年に自身がボーカルを務めるロックバンド「筋肉少年少女帯」(現「筋肉少女帯」)を結成し、1988年にはメジャーデビューを果たします。顔にひび割れのようなメイクを施し、奇抜な世界観を演出したことでもたいへん注目を集め、一躍人気バンドとなりました。
その後、シンガーソングライターや作詞家など、活躍の場をマルチに広げていき、1992年には、処女小説『新興宗教オモイデ教』で作家としてのデビューを飾ります。「くるぐる使い」と「のの子の復讐ジグジグ」で星雲賞を2年連続受賞するなど、作品は高い評価を受け、これまでに数々の小説やエッセイを発表してきました。
男子高校生が抱える悶々とした葛藤や悩みを、読みやすくコミカルな文体で綴った青春小説『グミ・チョコレート・パイン』。大槻ケンヂの半自伝的小説とも言われている本作は、「グミ編」「チョコレート編」「パイン編」で構成される3部作となっています。
主人公の大橋賢三は、本と映画とロックをこよなく愛する高校2年生。なかなか周りに馴染めず、なんともさえない高校生活を送っています。「自分は周りにいる奴らのようなくだらない人間ではない。何か特別な才能があるはずだ」と考える賢三は、数少ない仲間のカワボン、タクオ、山之上たちと、何かできないかと模索する日々を過ごしていました。
そんな賢三は、同じクラスの山口美甘子に密かな想いを寄せています。女の子と話せない不器用な賢三は、彼女をただ遠くから眺めていることしかできませんでしたが、ある日ひょんなことから、美甘子と映画の趣味が同じだということが判明するのです。
- 著者
- 大槻 ケンヂ
- 出版日
- 2006-11-25
全編通して、高校生男子の欲望や願望、やり場のない悶々としたエネルギーのようなものが、赤裸々に描き出されている作品です。自分は特別だと信じながらも、何をしたらいいのかわからず悩み続ける思春期特有のこの想いには、共感出来る方も多くいることでしょう。
作品内には、実在するバンドや映画が多数登場しています。カルト映画やホラー映画などに詳しい方はかなり楽しめるのではないでしょうか。
「若きボンクラ野朗どもへ」と記された大槻ケンヂのメッセージが印象深く、難しい言葉は一切使われていない文章で分かりやすく綴られています。大人が読めば懐かしく、今まさに葛藤しているという若者たちには、希望を与える1冊となるでしょう。
大槻ケンヂの処女小説『新興宗教オモイデ教』は、周囲の人々を敬遠しながら、1人つまらない日常生活を送る男子高校生が主人公です。
主人公の八尾二郎は、鬱屈した日々を壊したいという密かな願望を持つ高校生。クラスメートのなつみが気になっていたのですが、彼女は教師との不倫をきっかけに精神を病んでしまい、1ヶ月前に学校を去ってしまいました。
ところがそんな彼女が、新興宗教「オモイデ教」の信者となって、再び二郎の前に現れたのです。メグマ祈呪術という超能力を使い、悪しきものの精神を狂わせるというオモイデ教。なつみの勧誘により、この団体と関わることになった二郎は、次第に狂気の世界へと巻き込まれていくことになり……。
- 著者
- 大槻 ケンヂ
- 出版日
主人公は内向的な普通の高校生なのですが、脇を固める登場人物たちがとにかく皆個性が強く、知らず知らずのうちに物語の世界に引き込まれてしまいます。
主人公と深く関わることになる、ノイズバンドをやっていた中間や、中間の元相棒であるゾン。ヒロインのなつみや、教祖のトー・コンエなど、世界を憎み破壊衝動に駆られる狂った人物たちが続々と登場してきます。
学校で孤立する主人公が次第に特別な力を身につけ、果たしてどのように変わっていくのか。せつないラストには胸がキュンとなり、思わず感情移入してしまいます。テンポの良い読みやすい文体なので、普段本を読まない方でもすらすらと読むことのできる作品です。
『ロッキン・ホース・バレリーナ』は、パンクバンドを結成する少年たちと、ゴスロリ衣装に身を包む謎の少女との出会いを描いた、大槻ケンヂの長編小説です。
18歳の耕助、ザジ、バンの3人は、パンクバンド「野原」を結成。インディーズとして活躍し、バンドはなかなかの人気ぶりを見せています。そんな野原は、この夏マネージャー得山のハイエースに乗り込み、博多を最終目的地とする初の全国ツアーへと出かけました。
ところがツアーの道中、彼らは「ロッキン・ホース・バレリーナ」を履いた謎のゴスロリ少女、七曲町子と出会うことになります。半ば無理やり彼らに同行してきた彼女。聞けばビジュアル系ロックバンドのボーカルに抱かれるため、博多を目指していると言うのです。こうして3人の少年とマネージャーに、風変わりな少女を加えた、ひと夏の奇妙な旅が幕を開けたのでした。
- 著者
- 大槻 ケンヂ
- 出版日
- 2007-09-25
「ロッキン・ホース・バレリーナ」とは、厚い底の素材に木を使用した、ロリータファッションに合わせられることの多いブランドシューズです。本作を読んで、そのファッションに憧れを抱いた女の子も多いのではないでしょうか。ツアー中の少年たちの姿も非常にリアルに描かれており、バンド経験のある方には共感必至の1冊です。
それぞれにトラウマや挫折の経験を抱える登場人物たちが、ドタバタと旅を続ける様子には、青春の熱をひしひしと感じてしまいます。かつてバンドマンだったマネージャーの想いにぐっとくる場面もあり、音楽が好きな老若男女すべての方に、ぜひおすすめしたい作品です。
「18歳で夏でバカ」なこの輝きを、登場人物たちと一緒に追体験してみてはいかがでしょうか。
狂気と残酷さを漂わせる、5つの作品からなる大槻ケンヂの短編集『くるぐる使い』。本作に収録された、表題作と「のの子の復讐ジグジグ」は星雲賞を受賞し、たいへん高い評価を受けました。
「くるぐる使い」は、サーカス団に入った「くるぐる」と「くるぐる使い」に起きた悲劇を描いた物語です。「くるぐる」とは精神が壊れてしまった娘のことをさします。稀に、未来や過去が見えるといった特別な能力を持つものがおり、主人公はそんな「くるぐる」の娘を操って芸をさせる「くるぐる使い」だったのです。
その娘の能力は神がかっていました。芸をしながら各地をまわり、たちまち脚光を浴びてサーカス団からの誘いを受けます。サーカスに入っても活躍を続ける娘と主人公でしたが、娘の能力が徐々に弱まっていることに気づき……。
- 著者
- 大槻 ケンヂ
- 出版日
5つの物語では、どれも超常現象と呼べるような不思議な出来事が起こります。もちろんSFなのですが、物語には妙なリアリティがあり、虚構とも現実とも言えないような空間に吸い込まれるような感覚を、読者は味わうでしょう。そんな世界に迷い込んだ思春期の少年少女たち。狂気の中に切なさと悲しみがあり、忘れられなくなる作品ばかりです。
悪霊に取り憑かれた少女を救おうとする「憑かれたな」や、夢に囚われた少年の末路を描く「春陽綺談」など、ダークな世界観の物語が続き、「のの子の復讐ジグジグ」では、いじめに遭っていた少女が最後にある復讐を試みます。
決して後味の良い物語とは言えませんが、どれも魅力的な文体で綴られた素晴らしい作品です。興味のある方はぜひ1度読んでみてください。
『リンダリンダラバーソール』は、1990年代初頭のバンドブームを、著者の経験も交えて描いた自伝エッセイ風の長編小説です。
主人公は大槻賢二、20歳。女の子と会話することすらほとんどなかった高校生活を送り、紆余曲折を経て大学生となりました。ロックバンド「筋肉少女帯」として活動する賢二は、ある日ライブハウスの前で「ブルーハーツって知ってる?」と声をかけてきた、ラバーソールを履く少女、コマコと出会います。
そうこうしている間に、世間ではバンドブームが到来。「筋肉少女帯」はメジャーデビューを飾ることとなり、その喧騒の渦へと巻き込まれていくことになるのです。
- 著者
- 大槻 ケンヂ
- 出版日
- 2006-08-29
作品内には、ブルーハーツをはじめ、BUCK-TICKやX-JAPAN、電気グルーヴやユニコーンなど、当時一世を風靡した様々なバンドや人物たちが実名で登場します。ダイエーで買ったヘアスプレーで髪を逆立て、元に戻す時はママレモンがおすすめ、といったロックバンドの裏話が多数綴られ、興味深く読み進めることができます。
バンドブームの到来によって多くの無名の若者がスターとなり、終焉と同時に消えていく。その中での著者の体験が、面白おかしく丁寧に描かれています。
作品をグッと引き締めているのは、「コマコ」の存在ではないでしょうか。一見するとエッセイのような内容ですが、彼女の魅力溢れるエピソードの数々によって、とても感動的な物語として読むことができる1冊になっています。
大槻ケンヂのおすすめ作品を厳選してご紹介しました。バンド経験のある方や音楽が好きな方はもちろん、そうでない方でも十分楽しめる作品ばかりです。気になった作品があればぜひ読んでみてくださいね。