赤坂真理のおすすめ作品5選!『ヴァイブレータ』で芥川賞候補に

更新:2017.7.4

赤坂真理は、芥川賞候補にも選ばれたことのある東京出身の小説家です。今回は、近年は評論家としても活躍している彼女の、おすすめ作品を紹介していきます。

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自意識や心の内の葛藤を描き出す作家、赤坂真理

赤坂真理は1964年に東京都杉並区高円寺で生まれます。現在でもサブカルチャー好きの聖地として知られる高円寺に生まれた彼女は、大学卒業後「SALE2」というボンデージファッション雑誌の編集長を経て、1995年に「起爆者」で小説家デビューしました。

ちなみに赤坂真理が編集長を勤めた「SALE2」という雑誌ですが、ジャン・コクトーやマルキ・ド・サドの翻訳など、フランス文学者としても名高い小説家、澁澤龍彦が評論を上げていたという、サブカルファン垂涎ものの雑誌でもあります。

1995年にデビューした赤坂真理は、『蝶の皮膚の下』で文藝賞、三島由紀夫賞、野間文芸新人賞の各賞の候補になりました。その後も『ヴァイブレータ』で芥川賞と野間文芸新人賞の候補に選ばれ、『ミューズ』でまたも芥川賞の候補になるなど、なかなか受賞にまでは至らない作品が続きます。

2012年に、天皇の戦争責任や戦後日本を16歳の視点から問う衝撃作『東京プリズン』で、毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、2013年に同作で紫式部文学賞を受賞し、一躍大ブレイク。評論家としても活躍していくこととなります。

赤坂真理の作品では、女性特有の自意識や葛藤、というものが主に描かれています。そんな重苦しい内容の作品を、読点を極力排除した、非常に軽やかでリズミカルな、捉えようによっては独特な癖のある文体で描き上げているのが特徴です。

また、「J文学」と呼ばれる1990年代頃に起こった、サブカルチャーよりの若者にウケるポップな純文学運動の中心作家としても知られています。

映画化もされた赤坂真理の代表作『ヴァイブレータ』

頭の中から聞こえる、自分の人格であろう声に苛まれ、アルコールと食べ吐きで精神を安定させているライターの女性が主人公。彼女は、ひょんなことから、コンビニで知り合ったトラック運転手のトラックに乗り込み2人で旅をすることになりました。

道中、体と会話を重ねていった2人は、互いの孤独を埋め合い、主人公の女性は旅の終わりに再生へと向かっていく、というあらすじです。

著者
赤坂 真理
出版日

前半部の、主人公が頭の中で溢れ出す声に苛まれているシーンは、思考をそのまま文章化したのかと思わされるほどリズミカルで、かつ直接的な文章となっています。好き嫌いが分かれる部分ではありますが、このリズムにハマってしまう読者は多いでしょう。

思考をそのまま文章化したかのような、ということはつまり、非常に素直に読むことができるということでもあります。純文学における主人公の内面描写といえば、ひとまず難解で読みづらいものという先入観があるものですが、この作品はそう言ったこともなく、主人公の叫びをただ文字におこしただけ、という感覚すら抱けるでしょう。

ただ、社会に圧殺されてしまいそうな女性が主人公ですので、男性はとっかかりが難しいかなとも思いますが、こんなにも読みやすい純文学があるのかと体感していただきたい作品です。

赤坂真理の書くナイン・ストーリーズ『彼が彼女の女だった頃』

自身の心の声を抑圧しながら、誰にも顧みられることなく生きてきた女性が、ジャズセッションによって解放されてゆく「響き線」。狙っている学校に行ければすべてを手に入れることができると妄信し、しかしそれが幻だったということに気が付く「幻の軍隊」。自身をカメラアイが内蔵された箱のように思っている少年が、とある男性「パパ」と触れ合う中で自分を見つけていく「接続体」他、9編からなる短編集です。

著者
赤坂 真理
出版日

もはや掌編と言っていいような超短編から、中編程度の文量がある作品まで収録した作品集ですが、一貫して描かれているのは、主人公たちの自意識の葛藤、自分は自分であるのか、ということです。

しかし、作品によってその自我の模索方法は様々で、例えば上記の「響き線」の主人公は、弟に誘われた、ホテルでのジャズセッションでの音をきっかけに、少しずつ自身を抑圧する悩みから解放されていきます。

「接続体」は、主人公は男の子なのですが、彼は自意識というものをぼんやりと模索しています。そんななか、その模索していた自身を発見できたのは、主人公を買った「パパ」の言葉や、彼との触れ合いの中ででした。

この小説の登場人物たちは、自分を模索しています。それをセックスなどの行為によって、痛みを伴いながら実感として得ていくのです。「接続体」の主人公の「もっとさわって。僕に意味を書きこんで。僕が可視になるように。僕に意味を注いで。僕が人として生まれるように。」という独白が、この短編集を端的に表すセリフなのではないでしょうか。

赤坂真理のデビュー作を含む短編集『コーリング』

リストカットでしか生きていることを実感できない主人公が、自傷癖のある青年と出会い、お互いを強く求めあう表題作「コーリング」。多重人格者であり、酒の飲み過ぎで麻酔の効かない女性が、親知らずを抜くために行った歯医者で、麻酔を打つ際に人と目を合わせられない医者と出会う「フィギュアズ」や赤坂真理のデビュー作「起爆者」など、6編を収録した短編集です。

著者
赤坂 真理
出版日

初期作をまとめた短編集だけあって、赤坂真理の人と人との繋がりの模索や、痛みによってでしか自分という存在を認識できない主人公の再生といったテーマが色濃く反映されている本で、特に表題作「コーリング」はそれが顕著です。

自傷行為でしか自分の存在を感じられないものの、死にたいと思ったことはない、むしろ自分が傷つき、流血しているところを愛する人に見ていてもらいたいとすら思っている主人公。そんな彼女が、自助グループで、同じく自傷癖のある青年と出会い、強く惹かれ合います。その惹かれ合いの中で、主人公は自分というものを感じていくことになるのです。

この短編集で取り扱われている作品は「コーリング」のように重々しいものですが、「物語自体がダメ」という人以外はすんなりと読むことができる作品群です。

赤坂真理の単行本デビュー作『蝶の皮膚の下』

主人公の梨花は優秀なホテルウーマンでしたが、自分は誰にも必要とされていないのではないかという不安におびえていました。そんな日常の中で出会ったのが、元世界ランカーのプロボクサーである航。しかし彼は今、「相手の記憶を反復する」という不思議な病に侵されていたのです。

専門医も交え、彼の治療に乗り出すものの、次第に梨花の精神も狂い始めて……。

著者
赤坂 真理
出版日

『蝶の皮膚の下』は赤坂真理の単行本デビュー作。こちらも初期作だけあって、「自分を見つけられない主人公が痛みによって自分を見出していく」という作品テーマが大きく押し出された一作です。

自分は誰からも必要とされていないのでは、と不安を感じる梨花は、病気である航との性交渉や彼からの暴力によって、自分が必要とされているのだという実感を得ていきます。もちろんそれによって、梨花の精神はおかしくなっていくのですが。

最終的には喋ることもできなくなり、アルコールに依存していく梨花。そんな彼女がアルコール中毒の果てに見出すものは何なのか、ぜひ実際に本で確認してみてください。

3.11の前に書かれていた預言書的作品「太陽の涙」

「僕らは太陽の涙。太陽が泣きこぼす、熱いしずくが固まってできた。」(「太陽の涙」より引用)。

沖縄を連想させる架空の諸島に位置する島が物語の舞台です。いくつかの島を併合した「本国」に戦争で勝った国の軍隊を駐留させられています。

しかも島では放射能に耐えることができる金属が採取でき、さらに加工できる技術がありました。そのような経緯から、「ヒヌカムイ」と呼ばれる原発が設置されてしまいます。しかしそこで作られたエネルギーは「本国」に送られていくだけ。

そのヒヌカムイのせいで恋人が死んでしまった主人公。主人公は、ヒヌカムイを止めるという決意をし、それを果たし消滅していきます。

著者
赤坂 真理
出版日
2013-04-05

上記のあらすじからもわかるように、自分という存在を、痛みを通じて書いてきた赤坂真理のこれまでの作風からは大きく外れた作品です。冒頭の「僕らは太陽の涙。太陽が泣きこぼす、熱いしずくが固まってできた。」のように少し散文詩的なリズムすら感じ、赤坂の切れ味鋭い、独特な小気味良い文体はなりを潜めています。

本国に勝った国が軍隊を駐留させている、という沖縄をモチーフにしたとしか考えられないような島に原発が設置され、主人公は失った恋人のために原発を「伝説の剣」で破壊する。あらすじとしてはやや神話チックでありながらも、政治問題も多分に取り入れた本作は、上記の4作品とは全く趣の異なる作品に仕上がっています。

赤坂真理の新境地にして、3.11という日本で起こった歴史的な悲劇を前に、『太陽の涙』で原発問題に警鐘を鳴らしていた彼女の作品には感服するほかありません。

いかがでしたでしょうか。赤坂真理の作品は、『蝶の皮膚の下』のような初期作品になるほど、自分を感じることのできない主人公が、痛みによって自分を感じる、自傷的な小説です。逆に年を経ていくごとに、『太陽の涙』や『東京プリズン』のような政治色の強い作品も増えてきます。時代によって作風が大きく変わる赤坂真理ですが、そんな「自分」にとらわれていない部分が魅力なのかもしれません。

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