アウトロー小説やホラー小説の名手として知られる作家、福澤徹三。ひとりひとりを丁寧に描く、細やかな人物描写がとても魅力的です。ここでは、そんな人気作家、福澤徹三の作品の中から、おすすめのアウトロー小説をご紹介していきましょう。
1962年、福岡県に生まれた福澤徹三は、高校を卒業後、水商売や日雇いの現場作業員、デザイナーやコピーライターまで様々な職業を転々とし、専門学校の講師を経て、作家としての活動を開始するに至ります。
2000年に『幻日』(2004年『再生ボタン』に改題)でデビューを飾ると、その後も数々の作品を発表し、2008年『すじぼり』で大藪春彦賞を受賞。2014年には『Iターン』が、エキナカ書店大賞に選ばれるなど、ホラーやアウトローものを中心に注目を集める人気作家となりました。
とことん「食」にこだわる「ヤクザ」の組長が登場する、新感覚の料理小説『侠飯』。2017年現在までに、シリーズ作品として『侠飯2 ホット&スパイシー篇』『侠飯3 怒濤の賄い篇』が刊行されており、漫画化やドラマ化もされ人気を博しています。
主人公の若水良太は、就職活動に苦戦中の大学4年生。ある日、自宅マンションの近くで発生した、ヤクザ同士の抗争に巻き込まれそうになったところを、組長の柳刃竜一に助けられます。ところがそのことをきっかけに、柳刃と舎弟の火野を自分の部屋でかくまわなければいけなくなり、良太は恐怖に震えることに。
そんな大混乱の良太を尻目に柳刃は火野に部屋を片付けさせ、自分はキッチンに立ち、ありあわせの材料で手際良く料理を始めます。しかもその料理が絶品。諸事情あり、そのまま部屋に居候することになった柳刃は、その後もこだわりの材料を取り寄せ、良太の部屋のキッチンで、数々の料理を作っていくことになるのです。
- 著者
- 福澤 徹三
- 出版日
- 2014-12-04
とにかく設定が面白く、最後まで楽しく読み進められる作品です。最初は戸惑うばかりだった主人公ですが、柳刃との共同生活によってだらしない生活が改善され、人間的にも徐々に成長していく様子は読み応え十分。柳刃が主人公に送る言葉の数々が、無性にかっこよく胸を打ちます。
登場する料理がなんとも美味しそうに描写され、読んでいて思わずお腹が空いてきてしまうでしょう。使用される調味料や作り方に至るまで、細かく丁寧に綴られているので、料理に興味のある方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
食の大切さを知ることができ、最後には驚きの展開も用意されているおすすめの1冊です。
福澤徹三の『東京難民』は、大都会で自由気ままに大学生活を送っていた青年が、大学除籍をきっかけに貧困へと転落していく姿を描いた作品です。都会の実態を赤裸々に抉り出した本作は、映画化されたことでもたいへん注目を集めました。
東京の私立大学に通う主人公の時枝修は、親からの仕送りで毎日をなんとなく過ごす日々。しかしある日突然、学費の未納によって、自分が大学を除籍になったことを知らされます。親とは連絡が取れず、ガールフレンドにお金を借りて九州の実家へ戻ってみると、両親の代わりに借金取りらしき男たちの姿がありました。
慌てて東京に戻った修でしたが、生活費のために始めたアルバイトは、どれも長続きしません。ついに住んでいたアパートも追い出され、修はあっという間に裏社会へと転落していくことになるのです。
- 著者
- 福澤 徹三
- 出版日
- 2013-07-10
1つずつ道を踏み外し、底のない闇へと落ちていく主人公の姿には、恐ろしいほどのリアリティがあり背筋がゾッとしてしまいます。
いささか楽観的すぎる考えが災いしていくのですが、何不自由なく生きていた若者が同じ状況に置かれれば、似たような行動を取ってしまうのではないかと思わされるでしょう。どんな展開が待っているのか、先を読まずにはいられなくなります。
貧困、格差社会、水商売、ネットカフェ難民など、街の裏の顔に焦点が当てられ、絶望的なシチュエーションの続く本作ですが、けして後味の悪い作品ではありません。若い世代の方には、ぜひ読んでみていただきたいと思います。
福澤徹三の長編小説『白日の鴉』は、痴漢冤罪事件に挑む3人の男の姿を、濃密に描き出した作品です。
製薬会社のMR(営業マン)友永孝は、担当する病院の院長からの誘いを受け電車で向かっていたところ、見知らぬ女性に痴漢の疑いをかけられてしまいます。しかも中年の男性が現れ、痴漢しているところを目撃したと言うのです。
まったく身に覚えのない友永はその場から逃走しようとしますが、駅前の交番に勤務する新人警察官、新田真人に捕まり、留置場へ入れられることになってしまいました。
ですがその後、友永を逮捕した新田は、被害者の女性と目撃者の男性が一緒にいるところを見てしまい、冤罪ではないかと疑うようになります。悩んだ末に、そのことを老弁護士の五味陣介に相談し、真相を究明するため動き出した新田は、予想もしていなかった巨大な陰謀の存在を知ることになるのです。
- 著者
- 福澤 徹三
- 出版日
- 2015-11-18
日本で起訴された人間が有罪になる確率は、なんと99.98%なんだとか。そんな中で、痴漢の冤罪を証明するのがどれほど難しいことか。
警察や検察の体質、留置場や拘置所の実態なども交えながら、細かく丁寧に描かれており、痴漢冤罪の恐さをひしひしと感じてしまいます。電車を利用する男性にとっては、けして他人ごととは思えない問題ではないでしょうか。
男はいったい、誰になんのために嵌められたのでしょうか。一介の営業マン、新人警察官、老弁護士と、力を持たない、いたって普通の男性3人が主人公となり、現代社会の闇へと闘いを挑みます。終盤はハラハラドキドキしてしまい、俄然読む手が止まらなくなることでしょう。
ごく普通のサラリーマンがヤクザの抗争に巻き込まれ、次々に襲い来る修羅場に立ち向かっていく様子を描いた傑作小説『Iターン』。なんとも明るいタッチで綴られている本作は、エキナカ書店大賞に選ばれました。
広告代理店に勤務する47歳のサラリーマン狛江は、リストラ寸前。突然、北九州支店へと左遷されることになり、単身赴任を余儀なくされてしまいます。東京へ戻るべく、なんとか業績を上げようと意気込む狛江でしたが、一緒に仕事をすることになった2人の部下は、のんびりとしていて頼りない限り。慣れない土地で悪戦苦闘する日々を送ります。
そんな中、狛江は仕事上のミスによって借金を背負う羽目になり、対立を続ける2つの組のヤクザたちからも睨まれ、窮地に追いやられてしまうのです。更にはヤクザ同士の抗争にまで巻き込まれていくことになり……。
- 著者
- 福澤 徹三
- 出版日
- 2013-02-08
テンポの良さとスピード感に乗せて、最後まで一気に読めてしまう作品です。
主人公はとにかく災難続き。まるでジェットコースターのようにどん底へと落ちていく様子は、見ていて辛くなってしまいますが、どんな状況に陥ってもドタバタと奮闘する姿に応援の声をあげたくなってしまいます。
その日1日を生き延びるために必死に足掻き、徐々に開き直りの境地にまで達する姿はなんともかっこよく、痛快の一言。読後には不思議な爽快感に包まれ、登場人物たちそれぞれに愛着すら感じていることに気づきます。福澤徹三の作品の中では、とてもコメディ要素が強く、気軽に読める小説です。
あることをきっかけに、ヤクザの事務所に出入りすることになった大学生の主人公と、アウトローな男たちの過激な交流を描く『すじぼり』は、大藪春彦賞を受賞し話題になった1冊です。
主人公の滝川亮は、北九州の私立大学4年生。タクシー運転手をする父親と2人暮しですが、親子関係はうまくいっていません。就職先もなく、やりたいことも見つからず、ただ毎日を無気力に過ごす亮は、ある日悪友たちとクラブの金庫から大麻を盗み、ヤクザたちから追われることになってしまいます。
そんな亮を助けてくれたのが、速水総業の組長である速水です。速水総業は、任侠を重んじる古い体質のヤクザ組で、亮はこの出会いをきっかけに、速水総業の人々と関わっていきます。そして徐々に、組の男たちの生き方に惹かれるようになるのです。
- 著者
- 福澤 徹三
- 出版日
- 2009-07-25
物語では、敵対する組同士の壮絶な抗争が勃発し、スリリングなストーリー展開から目が離せません。
大学生の視点から描かれているためか、敵対する組の構図や人間関係が非常にわかりやすく、極道の世界で熱いしのぎを削っていく男たちの姿に興奮し、思わずテンションが上がってしまいます。
組長の速水をはじめ、若頭の武石や、妙に礼儀正しい下っ端の松原など、それぞれのキャラクターがとにかく魅力的に描かれており、感情移入すること必至。ハードな描写も多々ありますがとても読みやすい作品なので、興味のある方はぜひ読んでみてくださいね。
福澤徹三のおすすめアウトロー小説を、5冊ご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。一気に読める面白い作品ばかりなので、普段見ている日常とは、少し違った世界をぜひ覗いてみてくださいね。