伊藤たかみのおすすめ文庫小説4選!芥川賞受賞作家

更新:2021.11.7

伊藤たかみをご存知でしょうか。子供から大人まで愛される作品を描く、とても魅力的な作者です。今回は彼の作品の中から4作品ご紹介したいと思います。

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児童文学から大人向け作品まで書く伊藤たかみとは

伊藤たかみは1971年、兵庫県の生まれです。大阪、三重で育った後に早稲田大学に進学し、在籍中に『助手席にて、グルグル・ダンスを踊って』で文藝賞を受賞。小説家デビューしました。

その後、代表作『ミカ!』や『ぎぶそん』でも文学賞を受賞した後に、『八月の路上に捨てる』で芥川賞を受賞します。漫画化もされた『ぎぶそん』も有名な作品となりました。

『ミカ!』や『ぎぶそん』などでは思春期の少年少女を描いている一方、『誰かと暮らすということ』では不器用な大人の姿を描きます。小学生から大人まで、幅広いファンが存在する伊藤の作品からは、温かさや希望のようなものが感じられるのです。

伊藤たかみの代表作

この作品の主人公は小学6年生の「ミカ」。物語はミカの双子である「ユウスケ」の視点で進んでいきます。

ミカは男勝りで、気が強い女の子です。男の子には負けない気持ちでいるのに、成長していくにつれて体つきが変わっていき、段々と女の子扱いをされていきます。

著者
伊藤 たかみ
出版日
2004-04-07

双子の2人は、ある日不思議な生き物をみつけました。2人はその生きもののことを「オトトイ」と名づけ、可愛がります。オトトイは、涙にふれると大きくなるらしいのです。

ある日ユウスケは、知らない間に大きくなっているオトトイを見て、ミカが自分に隠れて泣いていることに気が付きます。

双子がお互いを気にしながらも、気を使う優しさが伺えます。ずっと一緒に育ってきたからこそ、幼いながらもお互いの気持ちが分かるのです。泣いているミカを見てみないふりをするユウスケの優しさに、読者はきゅんとしてしまうでしょう。

小学6年生はまだ子どもだけれども、大人へと成長していく第一段階の時期です。力の強さなどを通して今までなかった「男と女の差」が浮き出てきて、戸惑う思春期の2人の姿がとてもリアルに描かれています。ミカは自らの変化に気づいて悩むし、ユウスケも急に女の子っぽくなりはじめるミカに戸惑うのです。

不思議な生き物によって双子の成長が見られる、読み終わるとほっこりする物語となっています。

バンド、恋、青春!

主人公は、中学2年生のガクという男の子です。「ガンズ・アンド・ローゼズ」というバンドに憧れた彼は、ある日バンドを作ることを決意します。

ガクは、幼馴染のリリイ、親友のマロ、ギターが弾けると有名なたけるを集め、何も知識がないところからバンドを始めますが、練習の中で仲違いすることも多く……。

著者
伊藤たかみ
出版日
2010-11-05

皆さんも仲間と何かを成し遂げる際、目標が異なったり意見の食い違いで喧嘩をしてしまった経験があるのではないでしょうか。そんな山場を乗り越えながら、彼らは無邪気に、そして彼らなりの真剣さでバンドと向き合っていきます。

ガクたちは、文化祭でライブをやることを決め、そこに向けて練習を重ねます。本番に挑む姿はまさに青春。本当にキラキラしていて、夢中になって何かを成し遂げることの大切さに気付かされます。爽やかな彼らの姿は、懐かしいと同時に羨ましい姿なのではないでしょうか。

また友達関係にプラスして、恋愛関係のいざこざも見どころの一つ。ガクと幼馴染のリリイは何となくいい雰囲気なのですが、もう一歩の所で止まっています。幼馴染だからこそ気を許している部分もありますし、恋に発展しづらい部分も見られるのです。そこがなんともじれったく、読んでいるこちらがドキドキしてしまいます。

バンドが好きな方もそうではない方も、青春を感じられる純粋な作品となっているので、是非ご覧ください。

反抗期の娘との家族の絆

主人公、正人は実家のスナックを手伝いながら生活しているバツイチ男。彼には、離婚した元妻に引き取られていった娘がいます。

ある日、元妻が入院するということになったため、少しの間だけ娘を引き取ることになりました。新しい恋人も追い出して娘と生活していくことを決めたのですが、やってきた娘は反抗期だったのです。

著者
伊藤 たかみ
出版日

正人と娘とは幼いころに別れたきりです。それに加えて娘は思春期で反抗期。なかなか心を開いてくれない娘に、正人は悲しみます。

正人が住んでいる商店街は「町の下半身」言われるほど治安が悪い場所でしたが、商店街には人情深い人が集まっていました。周りの人に助けられ、正人と娘は少しずつ距離を縮めていきます。

また正人の恋人も、この作品を魅力的にしています。彼女はとても暖かい心の持ち主で、自身と正人の娘との間にある微妙な距離を徐々に縮めていくのです。

作品の結末は、意外にもとても悲しいものでした。それは娘にとっても、正人にとっても、最悪なものです。しかし、家族の絆を育みだした彼らはこれからどう生きていくのだろう、という希望も感じられるものとなっています。

伊藤たかみの心あたたまる短編集

8つの短編が収録されている作品です。職場にしっくりなじむことが出来ない虫壁千加子と、人が嫌いで孤独でいたい安藤正次という2人を中心に、それぞれの物語がどこか交差しているような関連性を持ちながら進んでいきます。

作品全体を通して「誰かと暮らす」というテーマについて深く考えさせられます。

著者
伊藤 たかみ
出版日
2013-01-25

千加子と正次は、1人でいることに関してはプロと言っていいほど慣れているけれど、「誰かと暮らす」ということに関してはからきし苦手なタイプ。この作品は、この2人の恋愛模様が主に描かれています。

2人の周りには、様々な人が暮らしています。店を経営している夫婦や、先日離婚をしたばかりの女性など、そこにも焦点を当てながらも、物語は進んでいくのです。

見えないところにそれぞれの人間関係があって、それぞれが人生を送っているという当たり前のことに気づかされる一方で、誰かが側に居るということはとても幸せなものなのだということを感じることができる作品です。

果たして千加子と正次の関係は進展するのでしょうか。結末はぜひ読んでみてください。

いかがだったでしょうか。1つ1つがほんわかしていて、心が温まる作品となっています。ぜひご覧ください。

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