枡野浩一の短歌から小説までおすすめ作品5選はこれだ!

更新:2021.11.7

若い世代から圧倒的支持を受ける歌人の枡野浩一。彼が紡ぎ出す素敵な短歌の数々は、読むものの心を掴んで離しません。ここでは、そんな枡野浩一によって綴られた様々な作品の中から、おすすめの5冊をご紹介していきましょう。

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独創的な作品が魅力的な歌人・枡野浩一

1968年、東京都に生まれた枡野浩一は、大学を中退後に広告会社に就職し、コピーライターとして活動していました。退社後は、音楽ライターや漫画評論家として活動する傍ら、角川短歌賞に『フリーライターをやめる50の方法』を応募。作品は最高得票ながら落選となり、そのことがメディアに取り上げられて、たいへん話題になりました。

1997年、短歌集『てのりくじら』と『ドレミふぁんくしょんドロップ』を2冊同時に発売し、歌人デビューを飾ると、その後も歌集だけでなく詩集や小説、エッセイなど幅広いジャンルで作品を発表。枡野が創り出す、古語を使わないわかりやすい短歌は、若い世代から高い評価を受け、「世界一売れている現役の男性歌人」と言われるほどの人気を博しました。2013年には、高校の国語の教科書にも枡野の短歌が掲載されています。

心に響く、枡野浩一の歌人デビュー作

歌人枡野浩一のデビュー作の1つ、『てのりくじら』。イラストは、漫画家でありイラストレーターのオカザキマリが担当しています。

学生時代、国語の授業で習って以来の短歌だという方は、本書によってそのイメージががらりと変わるのではないでしょうか。思わずはっとさせられてしまうほどメッセージ性の強い短歌が多く、ダイレクトに心に響くものばかりです。

著者
枡野 浩一
出版日

冒頭の短歌を1つだけ引用してみましょう。

「こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう」(『てのりくじら』より引用)

この短歌をはじめの一首として、作品内には様々な短歌が、魅力的なイラストとともに登場してきます。五・七・五・七・七、のリズムがとても心地よく、まるで語りかけてくるようなストレートな言葉の数々が、印象深くいつまでも心に残ります。

読み手の心理状態によっても、響き方が変わってくるのが短歌の面白いところかもしれません。きれいごと無しのシュールな短歌が続きますが、読み終わった後にはなぜか元気をもらえている不思議な歌集です。興味のある方はぜひ、この素敵な言葉の数々に触れてみてください。

どこまでも正直な想いが綴られた私小説

枡野浩一の『愛のことはもう仕方ない』は、ウェブ上で連載されていた『神様がくれたインポ』に、新たな書き下ろし短編が加えられ書籍化された私小説です。

全編を通して、著者の日常のあれこれや、記憶、想いなどが切々と語られているエッセイ風の作品になっています。大半を占めているのが、12年前に離婚した妻と、会えずに生き別れとなっている息子への想いです。

著者
枡野 浩一
出版日
2016-06-15

「1度好きになった人のことはなかなか嫌いにならない」と綴る枡野は、何年経っても折り合いのつけられない胸中を、どこまでも正直に吐露しており、その文章に胸が締め付けられてしまいます。

自らを「ジメジメした男」だと揶揄し、「くじけたままでいたい」と堂々と語り、時々は頬が緩むようなユーモアも見せる、とても不思議で読みやすい本です。「男らしさ」という言葉にうんざりしている男性の方には、勇気を与える1冊となるかもしれません。

後悔の念ばかりが語られていますが、最後まで読み進めると、この連載を開始した枡野浩一の本当の想いが明らかになり、不意に目頭を熱くさせられる場面も。枡野が、作家の中村うさぎに「なぜ誰も私を理解してくれないのか」と質問を送り、その回答として届いた文章は必見です。

石川啄木の短歌を斬新に現代語訳したエッセイ集!

明治時代に活躍した歌人、石川啄木の短歌を、現代風にアレンジして綴った枡野浩一のエッセイ集『石川くん』。

国語の授業で、誰もが1度は触れたであろう啄木の短歌が、面白おかしいエピソードとともに紹介され、漫画家兼イラストレーターの朝倉世界一のイラストが素敵に作品を彩っています。

著者
枡野 浩一
出版日
2007-04-20

本書は、石川啄木のこの一首からスタートします。

「友がみなわれよりえらく見ゆる日よ 花を買ひ来て 妻としたしむ」(『石川くん』より引用)

この石川啄木の代表的な短歌が、いったいどのように姿を変えるのでしょうか。枡野の手によって現代風に書き換えられると、なんとも親しみやすく面白い短歌になるのです。

石川啄木を「石川くん」と呼び、枡野独自の言葉選びでわかりやすく訳された短歌の数々は、とても興味深く読むことができます。知られざる破天荒な啄木の私生活までもが存分に描かれており、イメージが大きく変わることでしょう。

あまりにも赤裸々に暴露されているので、驚かされることも多々ありますが、石川啄木という偉大な歌人に、興味を持つきっかけをくれる作品です。枡野浩一の啄木愛に溢れた1冊となっているので、気になった方はぜひ一読してみてはいかがでしょうか。

ツイッターで高い評価を受けた枡野浩一の人気詩集

前向きな言葉の数々に、くじけそうなときがあるという枡野浩一が綴る詩集『くじけな』は、ツイッターにつぶやかれてきた詩を1冊の本にまとめた作品です。

作品内の詩には、「くじけな」「夢をあきらめな」「小さいことにくよくよする」など、人を元気づけるときに使われることの多い言葉の、語尾を伏せたと思われるものがタイトルとして付けられています。少し変えるだけで、意味がまったく違ってくるのは面白いですね。

著者
枡野 浩一
出版日
2011-06-14

愛の言葉にくじけそうなときは、くじけてもいいのだと綴り、くじけた心でしか見えないものがあるという言葉に、様々なことに気づかされる思いがします。紡ぎ出される柔らかい日本語の数々が心地よく、1遍が140字以内と短いので、あっという間に最後まで読み終えてしまうことでしょう。

くじけないで、がんばって、夢をあきらめないで、君はそのままでいい、といった前向きな言葉の数々に励まされることがある一方、そこはかとない圧迫感を感じてしまう方もいるのではないでしょうか。本書は、そんな方にうってつけの言葉で溢れています。

『くじけな』の書籍化が決まった直後に3.11の震災が起こり、それ以降の詩から言葉のテイストが微妙に変わっているところにも、誠実さを感じられる作品になっています。

短歌を通じてイケメン2人の青春を描く枡野浩一の長編小説

枡野浩一による、初の長編小説となった『ショートソング』は、短歌を通して出会った、対照的な2人の青年を主人公とした青春小説です。

著者
枡野 浩一
出版日

国友克夫はハーフで内気な19歳。美少年であるにもかかわらず、その性格が災いし、未だに童貞であることをコンプレックスに感じています。そんな国友が、ある日大学の憧れの先輩、須之内舞子に誘われました。すっかりデートだと思い込んでいたのですが、先輩に連れてこられたのは、古いビルで行われていた歌会。まったくの素人である国友は、訳もわからぬまま短歌を詠む羽目になるのです。

その歌会で出会ったのが、長身で眼鏡をかけたプレイボーイの天才歌人、伊賀寛介です。国友の詠む短歌に才能を感じた伊賀は、短歌をはじめるよう国友に勧め、こうしてまったくタイプの違う2人の男が、短歌を通じて交流を持つようになります。

2人の主人公が、視点を交互に変えながら物語は進みます。舞子も加えた3人の日常が、淡い恋心も交えて展開されていき、全体的にコミカルでとても読みやすい作品です。文章の合間には、登場人物たちの心情や状況に上手く重ねられた、様々な短歌が挿入され、独特の魅力を醸し出した内容から目が離せなくなっていくでしょう。

吉祥寺を舞台に、実在するカフェも多数登場し、葛藤や挫折を経験しながら成長していく若者たちの青春物語が、時におしゃれに、時にユーモア満載の文章で描かれていきます。短歌に興味はないという方でも最後まで面白く読める小説なので、ぜひ気軽に読んでみてください。

歌人・枡野浩一のおすすめ作品をご紹介しました。ジャンルは様々ですが、短歌の魅力を知ることができる素敵な作品ばかりです。気になった作品があれば、ぜひチェックしてみてくださいね。

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