映画、ドラマ、アニメと数々のメディア化が進み、幅広い層のファンを獲得している小説家・森博嗣。緻密なトリックと、人間味あふれる登場人物たちが魅力です。推理小説を中心に、SFやエッセイなど、新たな分野にも着々と進出している森博嗣の作品を10冊ご紹介します。
1957年、愛知県の工務店に生まれた森博嗣は、自身も大学院の工学部建築学科へと進み、卒業後は三重大学工学部の助手として働き始めました。
夏休みの一週間を使って執筆した『冷たい密室と博士たち』が処女作です。当時のメフィストに投稿し、早速次回作のオファーを受けるというスピードデビューでした。その後、代表作である『すべてがFになる』が、第1回のメフィスト賞を受賞し、シリーズ化を果たして、自身の代表作として長く愛されることになります。
2005年に退職するまでは、勤務を続けながら、大人気小説家として多数の作品を発表します。森博嗣の特徴のひとつとして、その非常にハイペースな刊行スピードが挙げられ、それは専業作家になる前も健在だったのです。年間10冊以上が刊行されることもありました。
彼の執筆する作品には、工学部出身という特色が大いに活かされています。科学や工学にまつわるトリックやモチーフが、数多の作品に取り入れられているのです。更に、森博嗣は非常に多趣味な人物としても知られており、鉄道模型や飛行機模型の愛好ぶりは、作品にも色濃く表れています。理系知識を用いた専門性の高い構成はもちろん、論理的な話運びの中に含まれたジョークや詩的な表現の挿入は、彼の多彩な人生をふんだんに感じさせると言えるでしょう。
デビュー当時の作風もあって多くの作品が推理小説となっていますが、ミステリー分野以外にもどんどん進出しており、SFはもちろん、エッセイなどのジャンルでも、多くのファンを獲得しています。
森博嗣のデビュー作であり、数々のメディア化を果たした代表作でもあります。大人気となる「S&M」シリーズの第1作目でもあり、まずはここからスタートさせたいという人も多いでしょう。
主人公の犀川や彼が率いる大学の研究室の面々に加え、恩師の娘である西之園など多数の研究者が集う研究所。離島で起こる不可解な殺人事件を巡り、トリックと人間関係が多いに絡み合う本格的な推理ミステリーとなっています。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 1998-12-11
コミック、ゲーム、実写映画、実写ドラマ、テレビアニメと、多大なるメディアミックスを果たした出世作です。多数の著名なミステリー作家を輩出した、メフィスト誌から生まれた賞の第1回受賞作ということで、刊行当時から世間の注目度が非常に高い1作でした。
緻密に組まれたトリックや、最先端のIT技術をフル稼働させた舞台設計、そして主人公の犀川や、その後の森博嗣作品に大きな影響力を及ぼす真賀田四季など、深い人生を持つ登場人物たちのやり取りに、思わず読みふけってしまうこと間違いなしでしょう。
作られてから百年間、ひとりの死者も出さず、貧富の差もなく、誰もが幸福に暮らしている国が舞台です。そんな幸福な世界で発生する、空前の密室殺人事件。殺されたのは、愛されていたはずの美しい女王でした。街に迷い込んだ主人公たち二人は、謎の解決に乗り出しますが、国民たちは事件の存在さえ認めようとしません。
登場人物たちの心情が揺れ動いていく様を、ミステリーのトリックと絡めて劇的に描き出していく、シリーズ1作目の傑作です。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2004-01-28
森博嗣と言えば、理系ミステリーが圧倒的に多いイメージがありますよね。本作は、そんな本格推理ファンにも嬉しい、緻密で非常に複雑なトリックとストーリーが展開されているのですが、その一方でファンタジーらしい異国の雰囲気を感じることもできます。
ただトリックを解き明かすだけではなく、登場人物の人生や心の流れを、丁寧かつドラマティックに演出しているため、一粒で二度おいしい、多様なテイストを楽しめることでしょう。
どうして人を殺してはいけないのか、人が人を裁くことは可能なのかということを、訴えかけるように問いかける作品です。他シリーズ作と共有されるテーマや、見覚えのある登場人物が現れるのも、ファンならではの楽しみどころかもしれません。
瀬在丸紅子が活躍する、森博嗣の大人気作品群「V」シリーズの1作目です。
6月6日、44歳になる人物のもとに届いた1通の脅迫状。1年に1度だけ、決められたルールの中で、否応なしに起きてしまう殺人事件のターゲットではないかと疑い、探偵の保呂草は解決を依頼されます。
しかし、尽力もむなしく、密室で殺されてしまう依頼人。多くの登場人物たちの中から犯人を見つけ出すまでのハラハラの展開は、手に汗握るものがあります。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2002-07-16
森博嗣の作品の見どころは、やはりそのどこまでもロジックにのっとった推理ですが、実はそれだけではないのです。
魅力的な登場人物たちは、わき役のひとりに至るまで、決してムダがありません。ユーモアに溢れた粋な会話や、テンポの良い会話運びは、読者を物語に世界に引き込むための、とても重要な役割を担っています。
さらにこの「V」シリーズでは、主要登場人物たちの恋模様も必見です。アナグラムのパズルゲームや、数学的なマトリクスに加えて、人間味あふれるやりとりも堪能できるでしょう。
タイトルにもある水柿という登場人物は、33歳のN大学助教授。工学部で働く彼の周囲には、様々なミステリーが溢れており、日々事件の連続です。後に作家となる彼には、2歳下のミステリー好きの妻がいて、彼は身の回りで起きたちょっとした不思議な出来事を、彼女に話し始めます。謎が謎を呼ぶ魅力的なストーリー展開がポイントです。
ここまで読んで察したかもしれませんが、どこか森博嗣本人の影を感じますよね。一見私小説ともとれるような、極上のフィクション小説です。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2004-12-01
森博嗣を既に読み込んでいる人であれば、作者の影や人生をそこかしに見つけることが出来るため、くすっと出来る箸休めの1冊になるでしょう。もしも初めて森作品を読む人であれば、このあと続いていく「M」シリーズの1作目としてだけではなく、作者の自己紹介のように読み進められるかもしれません。
森博嗣ならではの叙述トリックをふんだんに使っていますが、軽くて読みやすいため、普段ミステリー小説を読み込んでいない人にもおすすめできる1冊です。
なんとすべての作品が書き下ろしという、非常に贅沢な仕様の短編集です。それぞれが濃密ながら、コンパクトにまとめられているため、手に取りやすいでしょう。
「S&M」シリーズの短編である「誰もいなくなった」では、萌絵をはじめとしたミステリィ研究会のメンバーが直面した、屋上密室の事件を知ることができます。また「ミステリィ対戦の前夜」では、合宿に参加した部員たちを取り巻く不思議な出来事が描かれます。
「虚空の黙祷者」では、殺人事件の容疑者となった夫が失踪された、1人の女性の物語が展開され、夫が殺した可能性がある人物の息子が、彼女にプロポーズをしてくるという衝撃のストーリーが続くのです。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2000-07-14
森博嗣と言えば、やはり長編というイメージが強いですよね。しかしこの短編集は、そんなイメージを払拭してしまうかもしれません。
緻密なトリックと、繊細な展開は、短編でも健在しています。森博嗣ならではのセンスとスキルをフル稼働させた、極上の仕上がりとなっています。
ミステリー作家として不動の地位を築いた森博嗣の、初のラブコメディ作品です。
主人公は、大学院のドクターコースに在籍している佳那。どきどきという感覚を探求するのが趣味という少し変わった彼女は、7つの大きな悩みを抱えています。恋をした相手をひたすらに追いかけ、ストーカーまがいの行動を繰り返していく彼女と、そんな彼女を取り巻く特徴的な男性たちの物語です。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2008-04-25
森博嗣は推理小説だけで良いと思っている人には、是非手に取ってもらいたい1冊です。ミステリーで培われた文章のセンスと、魅力的なストーリー展開、そして、どこまでも個性ある登場人物たちの世界に、どっぷりとつかることができます。
初めて森博嗣を手に取る人が、恋愛小説を目的として手に取ってみるのも良いでしょう。そしてもちろん、これまで彼のミステリーを堪能してきた人にも、是非読み込んでほしい1作です。彼の世界観を踏襲しつつ、新しい道を知れるかもしれません。
主人公を取り巻く、一風変わった男性たちの魅力を味わってみてください。ラストシーンでは、思わずきゅんとしてしまうこと間違いなしです。
自由な人生を送っている主人公、探偵の頸城。気ままな日々を送っている彼のもとに、ある1件の依頼が舞い込みます。依頼人は、非常に麗しい女性。彼女の母親が、かつて元夫に預けていたという美術品を、取り返してもらえないかというものでした。どうにか元夫に接触を試みる頸城ですが、なんと彼は殺し屋のゾラという人物に命を狙われているという噂があり、なかなか近づくことが出来ません。
ミステリーにアクションと、雄々しい男の生き様を堪能できる1冊です。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
この1冊は、森博嗣の新境地を切り開いた作品だと言っても良いでしょう。本格的なミステリーの体裁を取り、トリックや推理に納得の濃厚さがあるのは彼らしいポイントですが、文章から漂うハードボイルドな雰囲気は、これまでなかなか見れなかったものです。手に汗握るドキドキの展開が楽しめるでしょう。
登場人物の心情をすぐ隣で感じ取れるような展開は、他の作品ではなかなか味わえないリアリティに溢れています。殺し屋・ゾラの意外な正体とは?頸城のラブストーリーの顛末は?気になる伏線があちこちに張り巡らされています。
主人公の大学教授は、とある小さなレストランで出会った、少し変わった子に惹かれていきます。そのレストランは、都会の隅にひっそりと存在している隠れ家で、かつて失踪した後輩が通っていたお店でもありました。なんと、訪れるたびに立地が変わり、異なる女性が相手をしてくれるというもの。
ハートフルで愛らしく、そしてどこか不思議な、胸に迫る淡い1冊に仕上がっています。こちらもまた、森博嗣の新たな境地を築いた作品だと言えるでしょう。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2009-06-10
本格的なミステリーを手がけ続けている作者らしく、謎や事件をそこかしこに散りばめた世界設定。森博嗣ファンが読めば、設定や世界観のあちこちに、彼ならではのポイントを感じることが出来るでしょう。
登場人物のひとりひとりに、食事に対する哲学を感じ取れるのも、この作品ならではの読みどころです。それぞれの女性は格別の美人というわけではありませんが、食事の作法が美しく、物語に沿って少しずつ課題を与える役割を担っています。
また、少し変わった子にゆっくりと惹かれていく主人公・小山の感情が揺れ動く様子は、どこか切なく、甘い雰囲気をかもし出しています。日常に潜む幻想的な世界に触れていると、驚きのラストシーンが……。思わずぞくりとする、本作品ならではのテイストを堪能してください。
主人公は、喜嶋先生と呼ばれる研究者です。大学が舞台となっており、学ぶことの意義はもちろん、純粋な研究への欲求や、学問そのものの深遠について密に切り込んでいく作品となっています。
森博嗣の自伝的な小説となっており、主人公から見た指導教官や研究者のあり方、学生のスタンスなどは、彼独自の視点や、矜持的なものも垣間見ることができます。閉ざされた静かな学術機関で展開される、人生のドラマが堪能できるでしょう。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2013-10-16
自らの信じる研究に対してひたむきに向きあう姿は、とても美しく、静かなものを感じることが出来るでしょう。刊行当時から、森博嗣の自伝的な小説という売り込みがあり、ファン必見の1冊でもあります。
本作の中では、生活と研究のバランスを問いています。ある人物は人生をすべて投げ打って研究に向かい、そしてある人物は静かにその場を去っていくのです。
「もう僕からはあの発想は生まれない」という一文は、悲痛ながらも、敬意の込められた一言だと言えるでしょう。
フィクションとしての完成度も高いと言えます。ラストの意外な展開に驚きながらも、物語の余韻を堪能してみてください。
主人公の新太は、夏休みを心待ちにする男の子。ある日、親友のハリィが行方不明になってしまいます。そしてハリィに続き、次々に姿を消す友人たち。謎は深まるばかりです。
そんな新太が出会ったのは、伯爵と名乗る黒ずくめのおじさん。この伯爵との出会いが、新太の日々を変えていきます。秘書のチャフラフスカさんやハリィのお母さんなど多くの人たちと出会いながら、消えた友達を探すために伯爵と奔走するひと夏の物語。新太と伯爵のユーモラスでテンポの良い会話劇も、この作品ならではの魅力でしょう。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2008-11-14
誰もが経験したことのある夏休みを描く、どこかノスタルジックな雰囲気が特徴です。森博嗣らしいミステリー要素が満載ですが、子どもでも読めるような冒険の展開もふんだんに含まれているため、親子で楽しむのも良いかもしれません。
子どもの日記というテイストで描かれているため、些細な出来事も、とてもドラマチックに感じられます。大人は昔を思い出して、子どもはもしもの世界を思い描いて、わくわくしながら読み進められるジュブナイルミステリーだと言えるでしょう。
一方で、残酷な現実や、冷徹な出来事も容赦なく主人公たちに降りかかってきます。事件の伏線や、新太と伯爵を待ち受ける驚きの顛末に注目してください。
いかがでしたか?森博嗣の世界は、代表的な長編シリーズはもちろん、それ以外に多様な楽しみ方が出来るものです。気になった作品からぜひチャレンジしてみてください。どっぷりと堪能できるものが、きっとあるはずです。