山口洋子のおすすめ本5選!『演歌の虫』で直木賞を受賞

更新:2017.7.7

『演歌の虫』、『老梅』で直木賞を受賞した山口洋子。力強い作品を数多く生み出してきた彼女のおすすめの本を5冊ご紹介します。

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山口洋子とは。女優、クラブ経営、作詞家など……

1937年、名古屋市に生まれた山口洋子は、東映ニューフェイス4期生に選ばれ女優の道を志します。しかしすぐにその道を諦め、19歳のとき銀座にクラブ「姫」をオープン。各界の著名人を顧客として抱えるなど経営面で手腕を発揮し、店を銀座有数のクラブへと成長させます。

その後、1968年頃からは作詞活動を開始。「よこはま・たそがれ」などのヒット作を次々と生み出し、目ざましい活躍をします。1980年代に入ると小説の執筆活動も始め、1985年に『演歌の虫』『老梅』で直木賞を受賞します。

幅広い分野で成功を収め、異色のキャリアを歩んできた山口洋子。77歳でこの世を去るまで、力強く生命力にあふれた作品を次々と生み出してきたその姿は、夜の街で磨かれた感性を存分に表現しています。

山口洋子の原点と、人生の歩みが記された自伝

銀座にクラブ「姫」をオープンしてから起こった数々の出来事や、共に夜の街を生きたホステス達との思い出、そして時代の変化とともに訪れる、彼女自身とクラブ「姫」の衰退までの流れを記しています。その歩みはまさに紆余曲折。楽しい思い出も、辛い思い出も、色濃く残ります。

1950年代~1970年代の銀座は、良くも悪くも桁外れに豪快で華やかな街でした。よく飲み、よく遊ぶ当時の大人たちの様子が、彼女の視点から忠実に描かれています。

著者
山口 洋子
出版日

本当に起こった出来事とは到底思えないほどの、物騒で刺激の強いエピソードか数多く登場するのが印象的です。やくざが店の経営の邪魔をしにきたり、一緒に働いていたホステスが次々と亡くなっていったりと、ドラマや映画の世界にしか存在していなかったような話が、事実としてこれでもかというくらい詰め込まれています。

そんな激動の時代を生きた彼女の目線は、鋭さと温かさにあふれています。いわゆる「ダメ人間」のような人物も彼女の周りには現れるのですが、誰一人として見捨てるようなことはしません。荒々しい口調になりながらも、愛のある接し方で厳しくもや優しい声をかけていきます。

山口洋子が持つ、純粋な心や温かさを感じることができる作品です。

夜の街を生きる男女の物語

ホステス、ホスト、ゲイボーイ……様々な状況におかれ、苦しい思いをしながらも懸命に夜の街を生きる男女を、3つの視点から描いたのがこの作品です。

1作目の「死んでいった夜の蝶(ホステス編)」では、1957年に起こった銀座マダムの殺人事件を皮切りに、様々な理由で亡くなっていったホステスたちを描いています。ミス・ユニバースを獲得した後にやってきた飯野矢住代や、プレイガールで数々の男を手玉に取りお金を稼ぎながらも、家族との関係で悩みを抱えていた女性など、個性豊かな夜の蝶たちが数多く登場します。

2作目は、ホストとして働く男たちを描いた「夜の靴音(ホスト編)」。寿司屋の見習いからナンバーワンへと昇りつめた男性、貢ぐ女をターゲットにお金を巻き上げる男性、プロ野球選手から転身し夢を追いかける男性と、それぞれの仕事観や人生の考え方を、ホストとしての働き方を交えたリアルな視点で描いています。

3作目は、ゲイボーイの心の内や葛藤を描いた「『ラ・ママ』の美しい男たち」。ゲイバー「ラ・ママ」で働く人たちは、生き生きと毎日を過ごしながらも、心の内では性への葛藤や自らの生き方に対する自問が絶えません。家族や社会、囲まれた環境の中で迷いながらも自らの生き方を貫く、ゲイボーイたちの姿が描かれています。

著者
山口 洋子
出版日

夜の街に生きる人間は、自分という存在や生き方を理解しようとすることに余念がないと言えます。お金のためならどんな手段も厭わないなど首をかしげたくなるようなエピソードも出てくるのですが、そんな人たちの言葉にも、圧倒するような凄みがあります。思わずうなずいてしまうような気迫が伝わってくるのです。

その気迫の背景には、幼少期の辛い過去や家族との衝突など、決して穏やかではない出来事があります。そのような辛い現実から逃げずに、世の中を生きようとするパワーが彼らの原動力となるのです。

山口洋子という人間が持つ生命力を存分に感じられますし、懸命に世界を生きている登場人物の姿からも力をもらうことができます。自分の生き方に迷いが生じてしまった際に、読みたい一冊です。

名コンビ・猪俣公章との思い出を綴る

クラブ「姫」の経営から音楽の世界へと活動の幅を広げた山口ですが、作曲家の猪俣公章とは名コンビと謳われていました。「千曲川」「一度だけなら」など、共に数々のヒット曲を生み出し、「いのさん」「おっかぁ」と呼び合うほど親しい間柄となりました。

しかし、常に順風満帆な生活を送っていたわけではありません。両者ともに浮き沈みがあり、時には衝突してお互いに冷たい態度を取ってしまうこともありました。けれども猪俣が亡くなった後は、次々と愉しかった日々が甦ります。

ライバルであり親友でもあった2人。女とお酒が大好きだった猪俣を、愉快なエピソードを交えながら記しています。

著者
山口 洋子
出版日

坂本冬実、森進一などを弟子に持つ昭和の名作曲家、猪俣公章。親しい間柄だからこそ知ることができた、彼の素性が余すところなく盛り込まれています。仕事の話、プライベートの話、どちらも豪快で荒々しい様子ですが、山口洋子はそんな彼を、本当は寂しがり屋なのだと語っています。繊細な心の動きを言葉の端々から読み取っているのです。

お酒での失敗談や性癖など、他人に話すことが憚られる内容までも盛り込んでしまうところに、山口洋子らしさが現れています。自分の感じたことを包み隠さずそのままの言葉で表現しており、読み進めていくうちに心地よさが生まれます。すかっとした爽快感のある人間模様や、1980年代の音楽業界の様子を感じ取ることができる作品です。

男と女の物語が詰まった山口洋子の短編集

中年銀行マンと、芸能界でマルチに活躍する美女の不倫を描いた、表題作の「ドント・ディスターブ」や、ナンパを生業とする男の夏の出来事を描いた「Mrサマータイム」など、7つの物語を収録した短編集です。

「ドント・ディスターブ」は、家庭を持つ中年銀行マン唐木が、自身の銀行に講演会に来た美女を接待したことがきっかけに、不倫関係になる物語です。2人はホテルで時間を共にするようになり、仲も深まっていきます。そして関係をもってから2年、家族にも不倫がバレてしまい、唐木は今の関係を終わらせようとするのですが……。

「Mrサマータイム」は、自らのルックスを武器に次々と女性を抱いていく道夫が主人公。いつものように、いきつけのホテルのプールで美容サロンの美人社長を誘いますがあっけなく失敗。しかしある朝、プールで溺れかけていた彼女を救出し、そのまま男女の関係に。そして知ってはいけない秘密を知り……。

著者
山口 洋子
出版日

男女の関係をストレートな表現で記している本作。生々しいベットシーンや愛を囁きあう場面があったりと、刺激の強い内容です。大人の恋愛がテーマということもあり、登場する女性の放つ言葉には不思議な魅力があります。

例えば「ドント・ディスターブ」に登場する女性は唐木を次のような言葉で誘っています。

「そうよ、不倫。正しい不倫のありかたって唐木さん御存知」(『ドント・ディスターブ』より引用)

色っぽい雰囲気をまとった女性の口から、こんな言葉が出てきたら男はイチコロなのでしょう。読者も心を持っていかれそうな感覚になってしまいます。

愛し合う男と女たちには、果たしてどのような結末が待っているのでしょうか?読み進めずにはいられない、そんな魅力にあふれた短編集です。

直木賞を受賞した山口洋子の代表作

1985年に直木賞受賞した『演歌の虫』。いわずとしれた山口洋子の代表作です。主人公は作詞家として活動する中村容子。そして、彼女と仕事での親睦があった有能な音楽ディレクターの室田克也を中心に、音楽業界の裏側を舞台にした物語が進んでいきます。

様々な問題を起こしつつも、頭の中には常に演歌のことがある室田。そんな室田を慕っていた中村でしたが、突然、悲しい別れが訪れます。

著者
山口 洋子
出版日

音楽業界の裏側が描かれている本作。華々しいスター街道を歩む歌手たちとは裏腹に、音楽プロデューサーや作詞家・作曲家といった裏方たちの、陽の当たらない仕事ぶりが詳しく描かれています。しかし、厳しい環境にいながらも彼らが音楽を愛する気持ちは変わりません。健気に仕事に取り組む姿がたくましく映ります。

主人公の女性が作詞家で、名前が中村容子という点から、本作は山口洋子自身の姿を重ねているのではないかと言われています。彼女が生きてきた音楽業界の実態と、そこで出会った人々の温かさを、この作品に投影しているのではないでしょうか。ぜひ、手に取って読んでほしい一冊です。

クラブ「姫」での経験を、後の執筆活動につなげた山口洋子。あなたも、迫力と魅力に満ちた彼女の人生に触れてみませんか?

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