児童文学の中には、大人が読んでも楽しめる作品が多くあります。ここで紹介する本には、心躍る冒険があり、作品から学ぶ事があり、どれをとっても面白い優れた内容。これらの作品のポイント、物語の捉え方、作品の要点を紹介します。
オタバリに住み元気に遊び回る子供たちは、ある時自分たちのお金が盗まれている事に気づきます。子供たちは、冴えた頭で推理を展開。犯人を捜していくというのが、この物語『オタバリの少年探偵たち』です。
- 著者
- セシル・デイ・ルイス
- 出版日
大人対子供という構図は、様々な物語に見受けられますが、この小説ほど、物語に引きつけられ、一緒になって犯人捜しを行い、犯人逮捕に向けて夢中になれる本はないでしょう。
世の中では、多くの場合、大人と子供の対決になると、大人側が勝利を収めます。けんかをすれば大人が勝ちますし、口で言い争いをしても大人が勝ちますし、例えば子供が、大人の悪人を捉えようとしても、逆に捕まってしまう事も多いのではないでしょうか。
そのような構図はここでも繰り広げられており、大勢の子供が大人を相手に大規模な戦いを繰り広げます。戦いと度重なる推理の末に、どういった結末が待っているか、物語の行方を推理しながら読んでいっても面白いかもしれません。この物語は、読者を引き込みながら優れた筆致で進んでいくので、すらすらとページをめくる事が出来るでしょう。
子供とは、一人でいると大きな力を発揮する事もなく、無力で無害な存在です。しかし、一度行われた悪事に対して大勢が集まると、大きな力を発揮。大人と渡り合えるほどの力を発揮する事もあります。
子供たちの冴えた推理は、大人が読んでも驚くような優れた内容。その他にも、事件を追っていく行動力など、読んでいて思い知らされる事は多く、読み始めると、気がついたら最後のページを読んでいた、という事になりかねません。
何度読んでも楽しめる児童書とは、この本のためにあるような言葉なのではないでしょうか。気になる人は、ぜひ手に取ってみてください。
ホビットのビルボ・バギンズが、魔法使いガンダルフ、ドワーフと連れだって、竜のもつ宝を求めて旅をする物語です。
- 著者
- J.R.R. トールキン
- 出版日
- 2000-08-18
この『ホビットの冒険』について、児童文学者の瀬田貞二は、「このような物語の形式は、冒険に出て帰ってくる、という構図に尽きる」といいます。確かに『竹取物語』『桃太郎』『指輪物語』などの多くの物語も、行って帰るという構図をもっており、面白い物語、完成された物語というのは、同じような構図をもっている事が分かります。
この『ホビットの冒険』では、竜のスマウグのもつ宝を求めて、ビルボやドワーフたちが戦いを繰り広げるのですが、物語は、どこを読んでも冒険に次ぐ冒険の連続で、心躍る楽しい出来映えです。
作者J.R.Rトールキンの『指輪物語』を知っている人なら、思わずニヤッとしてしまうような場面が多く存在している点も特徴。この物語が、単なるひとつの冒険の記録ではなく、壮大な歴史物語の一部である事を思わせるような、広大な背景をうかがい知る事ができるでしょう。
『指輪物語』は、世界三大ファンタジーのひとつと呼ばれている世界傑作ですが、この『ホビットの冒険』は、そんな『指輪物語』の前日譚になります。
大人から子供まで幅広く楽しめる内容となっていますので、興味のある人は、ぜひ読んでみてください。
本作は、英雄ジークフリートが竜を退治するところから始まります。もしかすると、児童文学ではありながら、子供向けではないかもしれません。物語の中では、猜疑心の強い人物が強い力をもち英雄視されており、美しい姫も行き過ぎた復讐に全てを捧げる事になるからです。
- 著者
- 出版日
- 1953-10-15
疑り深い考えも、行き過ぎた復讐も、その理由は、王への忠誠のためであったり、夫への忠誠のためであったり。この本の訳者は、物語の中ではそのような行動について、きちんとした理由がある、と説明します。しかし、それと同時に、このような忠誠を作者が褒め称える事はない、とも指摘します。
自分が正しいと思ったら、どこまでもそれを信じる事も大切です。しかし、私達は、この本から、自分の正しさを過信すると、好ましくない行動に走ってしまう事もある、という事を学ぶ事が出来ます。特に、子供のうちは、物事をよく考えずに行動してしまう事が多々ありますから、この本には、そういった子供への戒めといった役割もあるのかもしれません。
数々の英雄が戦いを繰り広げる場面は、読んでいて面白いのですが、本書からは、単純な構造の物語とは異なる、教訓を得ることができます。読んでみて、面白かったという感想を得て終わり、というのも小説の楽しみ方のひとつですが、そこからなにかを学んで、人生に活かそうとする事も、小説を読む大切な役割だと言えるでしょう。
明快な勧善懲悪の物語とはひと味違った、複雑な思いが交錯する物語を読んでみたい人に、おすすめしたい一冊です。
子供は、いつでも正直で、素直なものです。子供が、秘密をもったり嘘をついたりするのは、たいてい悪さをした時であり、親に言えない事をした時であり、それを隠して秘密にしようとした時なのではないでしょうか。『クローディアの秘密』では、家出を通して様々な出来事を体験し、おばあさんと秘密を共有するようになるクローディアの冒険が描かれています。
- 著者
- E.L.カニグズバーグ
- 出版日
- 2000-06-16
子供が大人へと成長する時というのは、なにか大きなきっかけがあるものです。それは恋でをした時、仕事を始めた時、ひとり暮らしを始めた時など、人によって様々なのではないでしょうか。
この物語は、子供の家出という形で話が始まるのですが、家出して向かう先はメトロポリタン美術館。なぜ美術館なのか、美術館で生活できるのか、など大きな疑問がわき起こります。そして、この家出が大きな冒険に発展していく様子も読んでいて面白く、読者の心を鷲づかみにするのです。
子供らしいおませな会話に思わず笑ってしまったり、大人でもうらやむような冒険を繰り広げたり、見所は盛りだくさん。この本を読んでいけば、至るところに面白い記述があり、一緒に冒険したくなるような面白さがあるのではないでしょうか。
子供が秘密をもつのは、悪い事をした時や、親に言えない事をした時である場合が多いのですが、この物語における、クローディアの秘密とはなんなのか。それは、実際に本書を読んで確かめてみてください。
おじさんとおばさんの家にひとときの間滞在しているトムは、友達もおらず、退屈していました。そんなとき、古時計が真夜中に普通より多い13回も時を打つのを聞き、不思議に思います。そこでベットを抜け出したトムは、真夜中の庭園に誘い出される事に。そこで繰り広げられる不思議な出来事を描いたのが、この本『トムは真夜中の庭で』です。
- 著者
- フィリパ・ピアス
- 出版日
- 2000-06-16
トムはその庭園で少女と出会い、共に遊び、楽しいひとときを送ります。トムは、毎晩のように部屋を抜け出して、庭園に行き少女と遊びました。
この物語におけるポイントは、おじさんとおばさんに隠れて少女と遊びに行く、というところ。それは、トムにとっての秘密であり、子供が秘密をもつという点において、この物語は上記の『クローディアの秘密』と同じ性質を持っているといえるでしょう。物語は、トムの身に起こる不思議な出来事を取り巻いて進んでいくのですが、物語のつくりが非常に巧妙で、最後にはあっと驚く展開が待っています。
普通、読者を驚かすような展開を描く時は、いかに読者に悟られないように書いていくかが、大きなポイントです。その点、著者は、この物語において、これしかないというほど巧みに出来事を配置していき、最後にそれらがきれいに収まるという構造をとっています。そこに、著者の物語を描く力量が表れており、読者は、最後まで楽しく読み進めていく事ができるのです。
トムが、真夜中の庭で体験した出来事は、最後にどのような展開を見せるのか。これ以上ないほどに優れた結末が気になる人は、ぜひ本書を手に取ってみてください。
児童文学は、大人向けの本と違って、面白い台詞回しがあり、分かりやすい構造、納得のいく単純明快な結末をとる場合が多くあります。難しい本を読んで、知性を鍛え、社会問題を考える事も大切ですが、たまには心躍る冒険の世界を楽しむ事もいいのではないでしょうか。ここで紹介した本はどれも面白い本ばかりですので、興味のある人は、ぜひ手にとってみてください。