あまんきみこのおすすめの絵本5選!『おにたのぼうし』の作者

更新:2017.7.10 作成:2017.7.10

あまんきみこという名前は記憶になくても教科書に載っていた『おにたのぼうし』『白いぼうし』『ちいちゃんのかげおくり』などを覚えている方は多いのではないでしょうか。長く掲載されているため、親子で共通の話題にもなりますよね。優しい語り口のあまんきみこ作品をご紹介します。

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絵本作家、あまんきみことは

あまんきみこは1931年に旧満州で生まれました。終戦後帰国し、結婚・出産後、日本女子大学児童学科通信教育部に入学し、児童文学を志します。

根底にあったものは彼女の幼少時の体験でしょう。両親・祖父母・2人のおば、そして本人の7人家族で育ったあまんきみこは、まわりの大人に偉人伝や民話・世界の童話などのお話をしてもらっていました。

そうやって物語のシャワーを浴びて育ったあまんは空想の世界を自ら紡ぎだしていきます。

童謡「ことりのうた」で知られる与田準一の勧めで児童文学の同人となり、1968年に出版した「車のいろは空のいろ」が日本児童文学者協会新人賞等を受賞し、以来2017年現在まで精力的に作品を執筆しています。

あまんきみこの作品は現実とファンタジーの狭間の世界を描いていると言えるでしょう。登場人物あるいは読み手が、夢の中にいるのではないかと思うような優しい作品がたくさんあります。

偏見だけで人を判断してはいけない、と学びになる絵本

『おにたのぼうし』はあまんきみこの作品の中でも比較的初期の頃に発表されたものです。出版されて約50年を数えますが、今でも子どもたちに人気の絵本。特に、節分の時期になるとよく読まれています。

物置小屋の天井に住んでいる黒鬼の子どもの「おにた」。おにたは、人間が鬼を悪者と決めつけている事に疑問を持っています。

おにたは、鬼の角さえなければ人間の子どもと外見は変わりありません。おにたはこうつぶやきます。

「にんげんって おかしいな。おには わるいって きめているんだから。おににも いろいろあるのにな。 にんげんにも いろいろいるみたいに。」(『おにたのぼうし』より引用)

著者
あまん きみこ
出版日

ある節分の夜のこと。いつも住んでいる物置小屋に豆がまかれてしまうのでおにたは飛び出してしまいます。外は一面銀世界。自分の角を隠すために帽子をかぶって歩き始めます。しかし、どこの家に行っても玄関に魔除けのひいらぎが飾ってあって入り込めません。

ようやく見つけたトタン屋根の家に入り込んだのですが、そこには病気のお母さんと小さな女の子が暮らしていました。女の子はお母さんを看病しようと小さい手で雪を集めます。見かねたおにたは女の子を助けてあげるのですが……。

おにたの一途さが読み手の心を打ちます。その一方で、わたしたちは物事の一面しか見ていないのではないかと、思わず胸に手を当ててしまいます。少し寂しいお話ですが、子どもたちに人気があるのはいわさきちひろの絵がとても可愛らしいからでしょう。おにたや女の子の様子が本物の子どものようで、ふと、おにたがそこにいるのではと、外をのぞきたくなりますよ。

あまんきみこの作品には『ちびっこ ちびおに』がありますが、この作品も子おにが人間の世界にやってくるお話です。よろしかったらこちらもご覧になってくださいね。

信頼する事で相手の気持ちを変える事ができる

時々「性善説」と「性悪説」について議論を交わされる事がありますが、『きつねのおきゃくさま』を読んでいると、人間はやはり「性善説」だと感じるのではないでしょうか。

どんな悪人でも根っからのワルはいない、人から信じられる事で、例え悪人でも善人になれる、そんなメッセージがこの作品の行間から伝わってきます。

それが決してお説教くさくない文体、しかも少しユーモラスに書かれているところにあまんきみこの優しさが込められているようです。

著者
あまん きみこ
出版日
1984-08-20

『きつねのおきゃくさま』の表紙を開くと、見返しに森が描かれています。この時点で、読者も森の中に引き込まれてしまいます。この森の中でどんな事が起こるのでしょうか……。

このお話は子どもがすきな「同じパターンの繰り返し」が取り入れられています。お腹がすいたきつねの前にひよこが現れ、きつねは自分の家に引き入れてたっぷり太らせてから食べようと企みました。次にあひる、そしてうさぎ……。きつねは次々と巧みに動物たちを招き入れていくのです。

ところが、将来食べられるとも思っていない動物たちは、きつねを褒めるのでした。

「きつねおにいちゃんって やさしいね」
「きつねおにいちゃんは、とっても しんせつなの」
「きつねおにいちゃんは かみさまみたいなんだよ」(いずれも『きつねのおきゃくさま』より引用)

こんな言葉を今まで誰からも言われた事がないきつねはうっとりしてしまうのです。そして、本来自分が食べるはすだったひよこたちを守るために、おおかみと戦って死んでしまったのでした。はずかしそうに笑いながら。

ひよこたちがきつねに全幅の信頼を寄せたからこそ、きつねは変わったのです。

最後のページをさらにめくると裏表紙見返しにも森の絵が描かれています。このお話は、誰も知らない、森の中での小さなお話だったのかもしれませんね。

戦争の悲惨さを伝える、あまんきみこの絵本

『ちいちゃんのかげおくり』は戦争を題材した作品で、教科書に長く掲載されています。

「かげおくり」とは、自分の影を10秒ほど見つめた後で空を見上げると、自分の影が空に浮かび上がっているように見えることを利用した遊びのこと。この作品を習った直後、校庭で「かげおくり」をした方も多いのではないでしょうか。

あまんきみこは1931年生まれですから、小学生の頃は戦争の真っただ中でした。満州に住んでいたので直接空襲の被害には遭ってはいませんが満州でも敗戦後は混乱していました。

『ちいちゃんのかげおくり』は、戦争の悲惨さを実体験しているあまんきみこだからこそ出来た作品なのです。

著者
あまん きみこ
出版日

この作品では家族がかげおくりをする場面から始まります。お父さんに召集令状が来たのでみんなでご先祖のお墓にお参りした帰り道でのことです。お母さんは、この戦争は負けるのではないかとうっすらと感じていたのでしょう。お父さんが出征する時に「からだのよわい おとうさんまで いくさにいかなければ ならないなんて」とつぶやくのです。

やがて空襲が始まり、ちいちゃんはかげおくりができなくなりました。そしてある夜、空襲から逃げていくうちにお母さんやお兄ちゃんとはぐれてしまい、一夜明けた焼野原でちいちゃんはひとりぼっちになってしまったのです。

ちいちゃんはどこかから聴こえてくるお父さんやお母さんの声に導かれてかげおくりをしました。すると、いつのまにか空に家族の影が映っています。ちいちゃんの影も空にのぼっていきました……。

戦争を題材にした絵本には『かわいそうなぞう』『すみれ島』などありますが、『ちいちゃんのかげおくり』は、主人公のちいちゃんが読者である子どもたちとほぼ同じ歳です。読んでいくうちに、感情移入しやすく、同時に戦争の悲惨さを感じとる事ができるでしょう。

「ねずみくん」シリーズでおなじみの上野紀子が描くちいちゃんのあどけなさがさらに読み手の心を打つ作品です。

「きつねのかみさま」って誰のこと?

あまんきみこのファンタジックな世界が堪能できるのが『きつねのかみさま』です。大人が読んだら「ただのお話」に感じるかもしれませんが、子どもが読むと「こんな森に行ってみたいなあ」と思うでしょう。

ファンタジー作品にありがちな「あ、夢だったのか」といういわゆる夢オチでもない、でもどう見ても現実に起こった話ではない、そんな意識のボーダーラインにゆらゆらと存在しそうな作品です。

そして、実は表紙カバーの見返しは、できることなら最初は読まない方がいいでしょう。

著者
あまん きみこ
出版日

『きつねのかみさま』は絵本全体がグリーン系でまとめられています。表紙・裏表紙がグリーンベース、見返しもグリーン、中の絵もグリーンが基調。りえちゃんと弟のけんちゃんの服は黒っぽい色。赤いのはりえちゃんのリボンと最後のページのトンボだけです。この絵本を手に取った時から森の中にいるという気分になります。

どのページも構成が素晴らしいのですが、圧巻と感じるのは7~8ページの全面見開き。りえちゃんが森に忘れていったなわとびできつねたちが遊んでいる様子が描かれていますが、ページを開いたとたんにきつねたちがバッと視界に入ってきて、まるでりえちゃんたちと一緒にきつねたちの様子をうかがっているようです。

10匹のきつねはそれぞれポーズも表情も違いますので、自然と見入ってしまいます。きっとりえちゃんたちも時間を忘れてきつねたちを見ていたのでしょうね。

りえちゃんは、しっかり者のお姉ちゃんですが、しっかりしているだけでなくやさしい女の子です。実は、きつねの中にも「りえちゃん」がいます。きつねのりえちゃんは、「りえ」と書かれたなわとびを拾い、これは神様のプレゼントだと思ってしまうのです。きつねのりえちゃんが喜んでいる様子に、「わたしもりえよ」と言い出せない人間のりえちゃん。「ごちゃごちゃのきもち」のまま、せっかく探しにきたなわとびをそのまま森においてくことにしたのです。

そう、「きつねのかみさま」とはりえちゃんの事なのでした。

裏表紙にはきつねのりえちゃんの後ろ姿が描かれています。視線の先にりえちゃんとけんちゃんがいるのでしょうね。

本当にこんな小学校があるのかな?

あまんきみこの作品の中でもぜひ夏に読んでいただきたいのが『海の小学校』です。

本作を描いたとき、彼女は80歳を過ぎていますが、ベテランでありながらデビューの頃と筆致が変わらないこの作品を読むと、彼女の内側から溢れ出るファンタジーの世界を作り出す熱意を感じられるでしょう。

あまんきみこの文章と、いとうえみの絵が見事にマッチした夏らしい作品です。

著者
あまんきみこ
出版日
2015-07-31

『海の小学校』は表紙を見ているだけでも涼しげです。主人公は小学校中学年くらいの男の子。あまんきみこの作品は女の子が主人公が多いですよね。彼女が意識したのがどうかはわかりませんが、最近は男の子を主人公にする事で、小学生男子が親近感を覚える絵本や児童書も増えています。おはなし会でも、女の子、動物、男の子といろいろな主人公の作品を紹介しているのです。

表紙を開いて1ページ目を見ると、普通の小学生の男の子の生活が見開き全面に描かれています。テレビゲームの本体とコントローラ、テレビではヒーローが戦っていて、主人公のヒロくんは恐竜の本を読んでいます。床に置いてあるうさぎのぬいぐるみは妹のものでしょうね。

自由なはずのお留守番、それでもヒロくんはつまらない。お母さんと妹が一緒に食事会に行ってしまってひとりぼっちだからです。

そんなヒロくんをおじさんのタミオさんが仕事の助手に誘います。おじさんの仕事は「ピアノいしゃ」、つまり調律師なのです。どうやらヒロくんを心配したお母さんがおじさんに頼んだようですね。

さて、おじさんの目的地は「海の小学校」。ひみつのトンネルをくぐったところにありました。まるで竜宮城のように、海の中にある小学校なのです。調律が済んだピアノをおじさんが弾きながら歌を歌いだすと、魚たちが泳ぎながらやってきて踊りだします。

クライマックスの見開き、ピアノを弾くおじさんと並んで歌うヒロくん、そしてその周りを踊る魚たち……見ているだけで涼しくなってきますよ。

この「海の小学校」、どこにあるんでしょう。きっとおじさんとヒロくんだけの秘密なんですね。

いかがでしたでしょうか。あまんきみこのデビュー間もない時期の作品から最近の作品まで5冊選んでご紹介しました。半世紀すぎてもなお、児童文学の第一線で活躍する彼女の作品は、世代を越えて読み継がれています。三世代にわたるあまんきみこファンもいる事でしょう。

この機会にぜひ、ご紹介した5冊はもちろんの事、他の作品もごらんになってくださいね。