江戸川乱歩のおすすめ作品15選!長編から中短編、代表作まで一挙にご紹介!

更新:2021.11.25

稀代の推理小説家として、国内外に多数のファンを持つ江戸川乱歩。数々の作品がメディア化され、日本の小説界に欠かせない存在となっています。読み応えたっぷりの長編から、心に残る極上の中短編まで、数々の傑作を生み出し続けた江戸川乱歩の作品をご紹介します。

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江戸川乱歩のおすすめ作品15選!世界に誇る日本の推理小説家!

江戸川乱歩は、探偵・明智小五郎が活躍する「怪人二十面相」シリーズをはじめとして、数々の有名な推理小説を、多数世の中に送り出し続けた小説家です。その特徴的なペンネームは、『黒猫』で知られるアメリカの小説家、エドガー・アラン・ポーから取られたもの。乱歩は、彼の作品のファンであり、敬愛から名付けられ、この名前が世界に響くことになったのです。

1894年、三重県の藩士の血筋に生まれた江戸川乱歩は、幼少期から引っ越しが多い家庭であり、生涯で約45回近く転居を繰り返しました。小学生時代から、母親の読み聞かせにより探偵小説に親しみます。早稲田大学在学時は、政治経済学部で学びました。大学を卒業したあとは、会社員や古書店員、あるいは蕎麦屋など、様々な仕事を経て、1923年に「二銭銅貨」で小説家デビューを果たします。

江戸川乱歩が活躍し始めた当時、日本国内の探偵小説は、黎明期とも呼ばれていました。しかし、江戸川乱歩の本格的な探偵小説はもちろんのこと、衆道や男装・女装、グロテスクやサディズムなど、これまでの探偵小説にはなかなか見られなかった嗜好を伴い、斬新に繰り込んでいくスタイルにより、唯一無二の位置を確立し、一般層からも厚い支持を受けるようになります。

江戸川乱歩は、海外作品への造詣もあったことから、『幽鬼の塔』や『三角館の恐怖』をはじめとした、翻案性のある作品も多数残しました。その上で、「怪人二十面相」シリーズのような、少年探偵団も活躍する少年向けの作品も生み出し、幅広い層のファンを獲得していきます。

一方で、推理小説の評論家としての一面や、プロデューサーとしての実力もありました。特に戦後は、自らの執筆活動の傍ら、新人作家の発掘や育成にも力を入れており、筒井康隆や大藪春彦なども、江戸川乱歩の力添えを得ています。出版業界への援助も積極的に行い、晩年のSF小説への支援ぶりも有名です。

このように、日本文学の歴史にも、大きく爪痕を残した作家でした。今回は、そんな江戸川乱歩の作品から、特にチェックしておきたいおすすめの10作品を紹介していきましょう。

明智小五郎が初登場! 本格推理の金字塔『D坂の殺人事件』

D坂で発生した密室殺人事件を、語り手と素人探偵の明智小五郎が解決していく作品です。

語り手と明智探偵は、大通りにある喫茶店で出会い、向かいにある書店で発生した殺人事件の第一発見者となります。語り手は、やがて明智が犯人ではないかと疑い始める、謎が謎を呼ぶ流れが本作の特徴でしょう。

江戸川乱歩作品において、あの有名な明智小五郎が初めて登場した一作であり、複雑な密室とトリックを取り扱った本格推理小説の代表作となっています。作中では、事件と心理学の関係性が深く掘り下げられており、後の乱歩作品にも色濃く取り扱われているテーマの先駆けとなっているのです。

著者
江戸川 乱歩
出版日
1987-06-01

作中で殺人事件が発生するD坂とは、文京区千駄木にある団子坂のことです。数々の小説家が暮らしていた土地ということもあり、乱歩もまた例外ではありませんでした。彼もまた、団子坂で古書店を経営していた過去があるのです。また、作中に登場する古本屋と蕎麦屋は、どちらも彼が働いたことがある場所であり、書き手自身の人生経験を存分に盛り込み、リアリティのある舞台設定に仕上げられているというわけです。

また、本格推理小説ファンにも、嬉しいネタがちりばめられている作品となっています。乱歩の敬愛するエドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』や、アーサー・コナンドイルの『まだらの紐』のトリックは、作中でも取り扱われている有名なエピソードでしょう。

新たな命を吹き込まれたリライト作品『幽霊塔』

アメリカの小説家、アリス・マリエル・ウィリアムソンの『灰色の女』を元に、黒岩涙香が『幽霊塔』のタイトルで翻訳したものを、更に江戸川乱歩がリライトした作品になります。作品のタイトルはそのままですが、舞台は日本に変更され、登場人物たちも日本人に変更されました。

主人公は、叔父の依頼で幽霊塔と呼ばれる屋敷に赴きます。そこには、謎の多い時計塔があり、秘密の迷路には莫大な遺産が残されているということ。そして彼は幽霊塔で、絶世の美女と運命的な出会いを果たすのです。主人公は、やがて巻き起こる怪事件に挑んでいくことになります。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-06-06

幼少期、江戸川乱歩は翻訳者の黒岩涙香の大ファンでした。リライト時、遺族の許可のもと、謝礼も支払い、原作の良さを守りながら、新たな作品として生み出すことに注力したのでした。

1959年には、一度発表した本作を、新たに少年向けにリライトした『時計塔の秘密』も発表します。初期から一貫して、古い時計塔をめぐる宝探しの様子や、世にも奇妙な蜘蛛屋敷の全貌、謎の漂う美女など、ミステリー鉄板の好奇心をくすぐる要素がたっぷり詰まっていますよ。

明智VS女盗賊!手に汗握る展開に注目『黒蜥蜴』

江戸川乱歩の代表作である「明智小五郎」シリーズの人気作のひとつです。黒蜥蜴と呼ばれる女盗賊と、明智探偵の対決を描いた一作で、乱歩得意の本格推理パートはもちろん、トリックと意匠をこらした、二人のやり取りは必見でしょう。

日本一のダイヤ「エジプトの星」を狙う、暗黒街の女王・黒蜥蜴は、有名宝石商の娘を誘拐しようと目論みます。彼女の身辺警護を依頼された明智小五郎は、あの手この手を使って黒蜥蜴と渡り合っていくのです。

著者
江戸川 乱歩
出版日
1993-05-01

江戸川乱歩自身も、本作をトリッキーでアクロバットと称しており、黒蜥蜴は書き手としても重要視している登場人物の一人でした。乱歩らしいエロやグロを掘り下げ、物語をより盛り上げているのはもちろんのこと、ただの推理小説にはない、激しい頭脳合戦も魅力です。

そして、お互いの力を認め合うからこそ成立する、明智小五郎と黒蜥蜴の関係性にも注目です。意外にも切ない展開は、あなたの胸に迫ってくることでしょう。

本作『黒蜥蜴』は、複数回にわたり、様々なメディアミックスを展開されてきた作品でもあります。特に、映画やテレビドラマなどの映像作品は、時代ごとのアレンジが加わっており、原作共々楽しんでみると良いでしょう。

江戸川乱歩、断筆明けの第一作!推理小説家が主人公『陰獣』

本作『陰獣』は、江戸川乱歩が自らの作品に嫌悪感を抱き、一時断筆していた間に構想が練られたものとなっています。一度は筆をおき、各地を放浪していた乱歩が、14ヶ月の間をあけ、再び小説家になった最初の作品がこれでした。

主人公は、寒川という探偵小説家であり、静子という女性と知り合います。彼女が、かつての恋人である探偵小説家、春泥から脅迫をされていることを知り、寒川はその行方を追うことになりますが、手掛かりをつかめないうちに、脅迫の通り、静子の現在の夫が、死体として発見されてしまい……。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-02-20

謎を追う主人公は、明るい作風が特徴の探偵小説家。対して、暗い作風が特徴で、静子に脅迫を仕掛けてくる春泥もまた、探偵小説家です。どちらも実在の作家がモデルとなっており、後者はなんと乱歩自身を元に生み出されました。

春泥の小説として、作中ではセルフパロディで様々なタイトルが登場します。『屋根裏の散歩者』や『D坂の殺人事件』、『パノラマ島奇談』や、デビュー作『二銭銅貨』など、江戸川乱歩のファンであれば、くすりと出来るようなギミックも、魅力的なポイントだと言えるでしょう。

明智探偵が活躍する短編・勧善懲悪の物語『屋根裏の散歩者』

「明智小五郎」シリーズの一作であり、友人の紹介で明智に出会った郷田という男の物語です。学校を卒業してからも、仕事に就かず、両親からの仕送りで生活している彼は、日常のすべてに退屈を感じていました。何ものにも興味を持てない日々でしたが、そんなとき、明智小五郎と出会ったことで、犯罪に興味を持つようになっていきます。

変装や落書き、尾行や暗号など、3ヶ月ほどは犯罪の真似事に興じていた郷田でしたが、やがてそれにも飽き、再び退屈な日々に戻りかけていたところで、ふとしたきっかけから、天井板を外し、屋根裏を散歩することにはまってしまいます。他の下宿人たちを、屋根裏から盗み見することに夢中になってしまう郷田は、ついに殺人にまで興味を持ち始めてしまうのです。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-05-20

誰にも悟られていないと思っていた郷田の秘密の行いも、明智小五郎にかかれば、すぐに暴かれてしまいます。シリーズの初期作であるにも関わらず、今後彼が、名探偵としてどれだけの活躍を経ていくのか、隅々から痛感するでしょう。

ごくコンパクトにまとまっている短編小説ですが、読み応えは十分です。江戸川乱歩ならではの、偏った嗜好のある登場人物や、鳥肌の立つような展開は、本作でも健在ですね。ページをめくってすぐ、その世界にのめり込めるでしょう。

そして明智小五郎の探偵としての活躍が、痛快極まりない仕上がりになっています。勧善懲悪のストーリーであると同時に、明智がただ犯罪者を逮捕することだけを念頭に入れた人物ではないことが分かる展開となっているのです。

緻密に作りこまれた、幻想と狂気の世界『パノラマ島奇談』

小説家の人見廣介は、自分とそっくりの旧友・菰田源三郎が急死したことを知らされます。このことで、旧友になりすまして、莫大な遺産を持つ菰田家に入り込もうという計画を進めていくのです。

計画実行のため、無人島に自らの考え出した終生の夢・パノラマ島を作り出す人見。怪しくも美しい、狂気の世界で繰り広げられる怪奇な物語となっています。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-07-21

パノラマ島の緻密な描写は、読み手をいっきに物語の世界観にのめり込ませます。この世のものとは思えない、空想を実現させた絢爛な世界観は、人見の邪悪な思想と混じり合い、複雑な様相を生み出していくのです。

なりすましという計画自体は、荒唐無稽にも思えます。それでも、人見という人間は自殺をしたことにし、自らを消し去った上で、遥々源三郎の墓まで出向き、あたかも息を吹き返したかのように偽装するという、滑稽ながらも慎重な計画ぶりは、現実と幻想の橋渡しになっているのでしょう。

江戸川乱歩、心理学への造詣が導いた傑作!『心理試験』

主人公である蕗屋清一郎は、若く貧しい大学生です。親友の斎藤から、下宿先の老婆が大金を持っていることを教えられ、殺害と強盗を決意します。

綿密な計画を構築し、実行に移す蕗屋。この事件は、笠森という心理テストを操る予審判事が担当することになりますが、対策を練っておいた蕗屋は、こちらも難なくクリアします。一見犯人の勝ち逃げのように思えますが、そこにあの名探偵、明智小五郎が登場するのです。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-11-20

江戸川乱歩は、犯罪と心理学の関係について、特に深く研究し、様々な作品に反映していった小説家でした。本作『心理実験』は、その影をより色濃く感じることが出来る一作だと言えるでしょう。単語への反応検査であるミュンスターベルヒの心理試験について知った乱歩が、探偵小説として描き出したという歴史があります。

犯人の視点から事件を語る倒叙スタイルの小説であることも、本作の特徴のひとつです。江戸川乱歩の代表作のひとつである『D坂の殺人事件』と対になっていることから、どちらも合わせて読むことで、より一層物語の世界観を堪能することが出来るでしょう。

読み応えのある大長編!江戸川乱歩渾身の通俗もの『蜘蛛男』

東京Y町にオープンした小さな美術商・稲垣商店。事務員として秋垣商店に就職した里見という女性は、店長の稲垣と出かけた日から行方不明になり、後日石膏像に塗り込められたバラバラの遺体として発見されてしまいます。

里見の次は、彼女の姉もまた、水族館の水槽の中で死体で発見されました。この不可解な事件の犯人は蜘蛛男。事件を調査していた探偵の畔栁博士と、助手の野崎青年が、蜘蛛男を巡り、解決に乗り出していくストーリーです。

著者
江戸川 乱歩
出版日
1993-02-01

私立探偵の畔栁博士は、犯罪学者としての一面も持っている名手です。事件の様相や、被害者のスタイルから、解決のためのあらゆる分析を進めていきます。そのロジックの細かく劇的なスタイルは、本格探偵小説を楽しみたい人にうってつけでしょう。

また、途中参加をするおなじみの名探偵・明智小五郎ファンにもおすすめの一冊です。彼の登場まで、ヤキモキしてしまう人も多いかもしれません。犯人の異常性や、不気味な存在感が漂いつつ、驚きのラストに向かって、激動の展開が続きます。

短編ホラーの傑作集!背筋粟立つ10編を収録「人でなしの恋」

主人公の京子は、友人の紹介で、門野という男性と出会い、結婚を果たします。憂いのある美しい青年である門野は、溢れんばかりの愛を注いでくれるため、初めこそ夢中になっていた京子でしたが、やがてその愛は偽りのものだと感じ始めます。

ある晩、門野が別の女性と秘密の逢瀬を重ねているのではないかと疑惑を抱く京子。勇気を振り絞り、密会していると思わしき現場に押し入ろうとしますが……。
 

著者
江戸川 乱歩
出版日
1995-10-01

「人でなしの恋」は、発表当時は読者人気もあまり高くなく、編集者からもあまり高い評価を得られませんでした。しかし、書き手である江戸川乱歩は、本作を特に気に入った作品のひとつとして挙げており、その執着ぶりは、作品の完成度からもうかがい知ることが出来るでしょう。

登場人物の心理状況を、非常に細かく追っているため、感情の揺れ動きに、どきどきする場面もあります。乱歩ならではの異常愛をテーマにした作品たちは、短編という限られた長さに、怪しくも美しい展開が盛り込まれています。もちろん、表題作の「人でなしの恋」以外の作品たちも同様ですよ。

復讐との死闘……誘拐された名探偵の行方は?『魔術師』

先ほど紹介した『蜘蛛男』の、時系列続きの作品が、この『魔術師』です。事件を解決し、静かな湖畔のホテルで羽を伸ばそうとしているおなじみの明智小五郎。この湖畔で出会った大きな宝石店の令嬢・玉村妙子との出会いが、明智を大きく変えていきます。

妙子の父である善太郎や、玉村家の長男たちの元に届き始める、数字だけの不気味な通信。日ごと届けられるそれは、少しずつ数が減っていきます。真意の分からない脅迫に怯える妙子は、明智に助けを求めますが、それに応えるために休養先から戻ったところを誘拐されてしまう明智。壮絶な展開に注目してください。

著者
江戸川 乱歩
出版日
1993-03-01

本作では、令嬢である妙子との間に、ほのかな恋心を育てる明智の様子を楽しむことができます。更に、賊の手に落ちてしまう探偵のピンチを細かく描いているのも特徴です。痛快な謎解き劇だけではなく、明智の人間らしい一面や、二人の恋の行方も楽しめる長編作品に仕上がっていると言えるでしょう。

また、魔術師サイドの人物の描き方もまた、本作の魅力のひとつです。異常なまでの執着心を持ち、玉村一家に復讐を目論む不気味な魔術師たちもまた、賊として描かれながらも、その魅力や人間性を疎かにされていないでしょう。

明智探偵VS怪人20面相のバトル!『怪人二十面相―少年探偵』

明智小五郎と少年探偵団対、怪人20面相のバトルで元々小学生の中学年から高学年の子供向けミステリー小説です。怪人20面相は「血が嫌い」という理由で追いつめられると暴力的な行動を取るものの、一貫して残虐的なシーンはありません。江戸川乱歩の作品が見たいけれど、まだグロテスクな表現は怖いと感じる方はこちらが入門編になるかと思います。

著者
江戸川 乱歩
出版日

予告状を送り、挑発的な性格が奇抜なトリックと相まって、「少年倶楽部」という戦前から発行されていた雑誌で連載当時、爆発的な人気を博し戦後も「少年クラブ」に引き続き書き続け、当時の読者の心を掴みました。

怪人20面相は、魔法使いのよう。「どんなに明るい場所で、どんなに近寄ってながめても、少しも変装とはわからない」程の変装上手で「僕自身でも、本当の顔を忘れてしまっているのかもしれない」と描かれています。

冷血で完全無欠な怪盗というイメージを抱いている方もいたかと思いますが、実は人間味溢れるキャラクター。大悪党なのにどこか憎めないミスをしたりする姿は可愛いらしく感じてしまいます。現在でも色褪せることのない怪盗20面相の素敵なミステリーです。

時代を感じる軍事ミステリー!『偉大なる夢』

1925年に発表された軍事スパイを題材としたミステリー小説です。この作品が発表された頃戦争の影が見え隠れしていた背景が、この作品を生み出したのかもしれません。

工学博士、五十嵐東三が東京―ニューヨーク間を5時間で飛ぶ超高速機を開発することが夢。博士は軍から援助を受け長野県にある温泉の裏山ある、某貴族の別荘に秘密設計班として籠ります。

著者
江戸川 乱歩
出版日

そんなとき、五十嵐博士の長男「新一」と助手の南博士の妹「京子」が山の見晴らし台から目撃した煙突の中からはい出した怪しい人物は何者なのか……。開発が成功すれば瞬時に敵国に行けるというこの超高速機を狙う者とは!?

じりじりと進んで行くストーリー展開で短編とは一味違う趣があります。激動の最中、江戸川乱歩がミステリーに拘った感慨深くなる一冊です。戦時中に執筆された作品だからか、彼特有の暗さなどは少なめです。しかし江戸川乱歩のミステリーのおもしろさは健在。彼の独特な雰囲気が苦手だという人も読みやすい1冊なのではないでしょうか。

利己的な人間の闇が集約された1冊!『孤島の鬼』

この作品が世に出された頃はまだ同性愛を語ることさえままならない世間だったはずなのに、禁忌を犯してまでも題材として取り上げるというのは作家魂を感じます。

物語の主人公は「蓑裏金之助」が25歳の頃、木崎初代と恋に落ちたことから歯車が狂い出していきます。初代は「命に次に大事」なもの系譜図を持っていますが、初代は3歳の頃捨てられ、系譜図は初代の出生が書かれた重要な部分が破れ身元を特定できずにいました。それでも金之助は初代に求婚し二人は結婚に向け絆を深めて行きました。

著者
江戸川 乱歩
出版日

そんな2人の仲を家柄、収入、学歴が金之助よりも格上で頭脳明晰な美男子「諸戸道雄」が崩れさせます。彼は初代に求婚してきたのですが、道雄はかつて金之助に恋心を抱き、酔った勢いで想いを伝えたことさえある、金之助の学生時代の先輩だったのです。

道雄の目的は初代ではなく、金之助なのではないか……?と疑惑に包まれる中、なんと初代が殺され系譜図も盗まれてしまうのです!恐ろしい表現や目を背けたくなるストーリー展開です。グロテスクな場面もあり、寒気さえ感じるほどの内容ですが、江戸川乱歩を体感するに相応しい、ぞくぞくする1冊です!

焦らされたラストに独特な余韻が残る『人間椅子』

読み進めて行けば行くほど、ぞっと背筋が凍っていくような展開で女性にぜひ読んでいただきたい作品です。

主人公は外務省書記官夫人「佳子」に届いた一通のはがきと、はがきに添えられた原稿用紙から始まります。

原稿は自分のことを「醜い容貌の持ち主」で「貧乏な家具職人」と紹介している人物によるものでした。その内容は独特のフェティシズムを持つ者の言葉が並べられていました。家具を作り、中でも椅子の注文に関しては作り終えると座り心地を確かめ想いを馳せては恍惚とする男。

著者
江戸川 乱歩
出版日
2015-03-20

内容はどんどん穏やかではなくなっていき、椅子の形に沿って潜ることができるよう作り直し、納品先で盗みを働くことなどを悪びれることなく書き綴っています。しかも自体はもっと恐ろし

い方向へ向かいます。なんとその男は潜った状態で、人に座ってもらうことに喜びを感じるようになっていたのです……。

読み進めて行くと、疑惑が確信に変わっていき女性ならば、佳子に感情移入してしまうかもしれません。すっきりしているようで、恐ろしい余韻が残るラストまで一気に読めてしまう作品です。

戦争の悲しさと夫婦のすれ違いを江戸川乱歩はこう描く!「芋虫」

戦争から帰還した夫は、手足を失ってしまい話すこともできません。日々介抱する妻は食事の介助や、妻主導の一方的な夫婦の営みにだんだんサディスティックな目線で夫に接してしまう……というストーリー展開。

著者
江戸川 乱歩
出版日

夫にイライラしてしまう妻というのはありふれたものですが、そこは江戸川乱歩流。切なく、そして人間の隠された醜い部分が噴き出した時の恐ろしさと共に進んでいきます。

ラストは背中がぞくぞくするような、それでいて言い知れぬもやもやが残ります。江戸川乱歩の作品は一筋縄ではいかなしこの感覚がたまりません。衝撃を受けるラストはしばらく呆然としてしまうかもしれません。

人間臭く、人の恐ろしさや人間が持つ残虐さ、夫婦でしかわからない関係性も緻密に描かれています。短編とは思えない読みごたえのある作品です。

いかがでしたか?江戸川乱歩の作品は、シリーズから長編、短編に至るまで、どれも魅力たっぷりの作品ばかりです。読み応え抜群ですから、ぜひ手にとってみてください。


江戸川乱歩好きにおすすめなのが江戸川乱歩の作品をベースに再構築された漫画『小林少年と不逞の怪人』。気になる方はぜひ<『小林少年と不逞の怪人』全巻ネタバレ紹介!美麗なミステリ漫画!>をご覧ください。

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