香山美子のおすすめ絵本5選!人気の『どうぞのいす』など手掛ける

更新:2021.11.7

『どうぞのいす』など愛らしい動物たちの思いやり溢れる物語を世に送り出す香山美子(こうやまよしこ)。どの作品も幼児期から児童期まで、子どもにぜひ読ませたい心に染みわたる物語ばかりです。今回はその中から特に人気の高い5冊をご紹介します。

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思いやり溢れる絵本を世に送り出す香山美子

香山美子(こうやまよしこ)は1928年東京生まれ。旧制金城女子専門学校在学中に、新聞の懸賞童話に入選したことがきっかけで絵本作家としての道を歩み始めました。児童文学の普及運動を主とする、児童文学者の団体「一般社団法人日本児童文学者協会」には設立当初から参加しており、日本児童文学者協会評議委員も務めています。

さらに少年小説、詩、童謡の作詞など様々な分野で活躍。『おかあさんといっしょ』など幼児番組向けの台本や、「いとまきのうた」「おべんとうばこのうた」など幼児期に欠かせない童謡の作詞も手掛けています。1975年には「げんこつやまのたぬきさん」でゴールデン・ディスク賞も受賞しました。

香山美子の作品は、幼児期の子どもたちに浴びせたい流れるように美しい日本語を使うことでも定評を博しています。

「どうぞ」が繋ぐ思いやりの心を学ぶ本 、香山美子の代表作

うさぎさんが小さな椅子を作って、野原の木の下に置きました。「どうぞのいす」と書かれた立て札と共に。

はじめにやってきたろばさんはどんぐりの入ったかごを椅子の上に置いて木の下でお昼寝。次にやってきたのははちみつの瓶を抱えたくまさん。くまさんは「どうぞのいす」という看板を見てろばさんのどんぐりをみんな食べ、代わりに自分のはちみつ瓶をかごに入れます。

次にきたのは焼きたてパンを持ったきつねさん。さぁ、どうなるのでしょう?

著者
["美子, 香山", "幸造, 柿本"]
出版日

「どうぞのいす」という言葉が織り成す動物たちの思いやりの物語です。

うさぎさんはみんなのために椅子を作り、「どうぞご自由にお座り下さい」という願いを込めて野原に置いておきました。最初に到着したろばさんは、うさぎさんの親切を受けて椅子を利用します。しかし、たまたま荷物だけを置いて木の下で昼寝をしてしまったが為に「どうぞのいす」という文言に誤解が生じてしまうのです。

ものの置かれた「どうぞのいす」は次々とやってくる動物たちにとって、「どうぞご自由に(置かれているものを)お食べ下さい」という意味を持った椅子へと変化します。くまさん、きつねさん、10匹のりすさん、やってきた動物たちは立て札通り椅子の上に置かれた食べ物を食べてしまうのです。

しかしどの動物たちも必ず後の人のことを思いやり、空になった椅子の上に自分の持っている食べ物を置いて行くのでした。今、目の前にいない相手のことを思いやることができる動物たちをぜひ見習いたいですね。

さて、ずいぶんと長い昼寝をしていたろばさんが最後に手にしたものとは何でしょうか?ぜひ、本を手に取って確かめて見てくださいね。きっと、ろばさんのちょっととぼけた言葉にクスッとしてしまいますよ。

相手の思いを汲んで行動する力を学ぶ本

「みんなで使えるように」とうさぎさんが丸い大きなテーブルを作りました。みんなが使うテーブルなので、みんなが来るところに置こう!うさぎさんは大きくて重いテーブルを台車に乗せて運んでいきます。

しばらく行くと、何だか荷物が軽くなったような……。またしばらく行くと何だか更に軽くなって……。うさぎさんを見つけた他の動物たちが手伝いに来てくれたのです。

さて、みんなが大好きな、切り株のある丘にテーブルが到着すると、どうなるのでしょう?

著者
香山 美子
出版日
1984-01-01

みんなが楽しく利用できるようにと大きなテーブルを作るうさぎさん、大きな荷物を持っているうさぎさんを助ける他の動物たち、そして、みんなが楽しくテーブルを利用する為に更に椅子を作るうさぎさん。この物語に出てくる動物たちの行動は、誰かに言われて行ったものではありません。それぞれ相手を見て、相手の思いを汲んで自らの意思で行った行動です。

ろばさんはお昼寝をしていて、重たい荷物を持ったうさぎさんを見つけます。きつねさんは散歩中。くまさんは山へ向かう途中。10匹のりすさんは遊んでいる最中に、それぞれうさぎさんを手伝うのです。自分にもやるべきことがある状況で困っている人を助ける行動力、あなたにはありますか?

更にこの物語に出てくる動物たちは自分たちの取った行動を一切ひけらかすことがありません。黙ってうさぎさんの荷物を押したり、椅子が足りないことに気が付くと黙って作りに戻ったりするのです。せっかく誰かのために良い行動を取ったのに「やってやったんだ!」と恩着せがましく伝えていませんか?

ぜひ、お子様だけでなく、大人にも読んで頂きたい1冊です。

香山美子が描く、自然界のやくそくが学べる本

りすのバビーは大きなかごを持って、ヒッコリーのきのみを拾いに出かけます。

あっちにもこっちにも、大きいのも小さいのもたくさんあるヒッコリーの実。大きい実ばかりを拾っていたバビーですが、「軽いものは虫に喰われている」と気が付き、重たいきのみを選んで拾い始めました。

拾った木の実は冬の間の食料として土の中へ。春、バビーは食べ忘れて芽が出たヒッコリーの実を見つけます。残念がるバビー。でもそれは「ヒッコリーと、きと、りすのやくそく」でした。

著者
香山 美子
出版日
1985-11-01

落ちている木の実を食べて命をつなぐ動物。一方、木の実を移動させたり埋めたりするその動物の習性によって、新たな命をつなぐ植物。地球上の食物連鎖、自然界の約束事をわかりやすく、りすの目線から学べる物語です。

りすのこどもバビーはヒッコリーの実を拾いに行き、どのような実が収穫に適しているのかを、実際に体感しながら考え、学んでいきます。大きいものと小さいものでは大きい方が良い。しかし大きくても重さが違うものがあり、軽いものは虫食いの木の実だから重い木の実が良い。そして、自分が埋めた実が芽を出し、やがてヒッコリーの木になっていく、ということなど。

バビーのおかあさんは、バビーが木の実を拾いに行く前に、どのような実を摘むべきかを教えることもできたでしょう。更に、冬に備えて埋めた実が、のちの木の繁栄につながっていくということも、前もって教えることができたはずです。しかし、バビーのおかあさんは、そうはしませんでした。そのおかげで、バビーは身をもって自然界の約束を知ることが出来たのです。

わかっていながらも、わが子のために先回りして情報を詰め込んでしまいがちな現代。子どものみならず、子育て中の親も学ぶことの多い1冊です。

みんな一緒の温かさが学べる本

毎日雪が降り続いて家の中で退屈していたきつねさん。やっと雪が止んだので外に出てみると、今まで気が付かなかった小さい明りが遠くにポツンと見えます。

とんとことんとこ歩いていくと、小さな明りは小さな家の明りでした。一体誰の家なのか、窓から見えたのはたくさんの動物たちの影と、「おやすみ」と電気を消す声が……。

翌日、10匹のりすを誘って昨晩の小さな家に行ってみると、中から出てきたのは老夫婦と猫のみでした。

著者
香山 美子
出版日
1997-10-01

おばあさんとおじいさんと猫だけで暮らす小さな家。その家にはおばあさんたちの寂しさを紛らわすために、おばあさんの作ったぬいぐるみの動物たちがたくさん置いてあります。寂しい雪の日には、ぬいぐるみと会話しながら過ごしているという老夫婦の姿に、雪の中で退屈していたきつね以上の寂しさを感じてしまうことでしょう。

やってきた動物たちを温かく迎え入れ、老夫婦はお土産にとぬいぐるみをプレゼントします。そして、みんなで過ごした楽しいひとときから一変し、帰路につく動物たちの姿を描いた文章のないシーンへ。そこには、また雪がしんしんと降ってきます。ここまで、切ない気持ちでページを繰る読者の思いは、とても素敵に裏切られることとなりますよ。

きつねさんが雪の中を歩いていく姿は「とんとこ とんとこ」。また雪が降り続く様は「さらさら さらさら」と表現されています。温かみを感じるストーリーだけでなく、香山美子の美しい日本語を存分に堪能できる1冊です。

香山美子からの警告・楽して生きることに対する戒めを学ぶ本

「なぜ海の水は塩辛いのか」という疑問を描いた日本の民話絵本です。

昔、ある村に楽をして暮らしている兄と、貧しい弟が居ました。急に冬が来て仕事がなくなった為、弟は兄に米を借りようとします。しかしそれを無下に追い払う兄。困り果てた弟の目の前に現れたのは、髭を生やした不思議なおじいさんでした。

おじいさんの言いつけ通り、峠の小人にむぎまんじゅうと石のひきうすを交換してもらった弟。石のひきうすは欲しいものが何でも出てくる宝物でした。さぁ、それを聞きつけた兄は……。

著者
香山 美子
出版日

この本の主人公である貧しい弟は、臼を用いて米や鮭などの食べ物から家や蔵、なんと馬まで、貧しいせいで手に入れられなかったものを、すべて手に入れます。そして自分の必要なものがすべて手に入ったのちには、村の人々のための食事やお土産など、他人への施しも行っているのです。

一方、臼の存在を知った兄は、弟のもとから宝物の臼だけでなく、菓子折りまでがめつく盗みます。そして、臼からとめどなく溢れる塩によって身を滅ぼしてしまうのです。

この物語では、悪しき心意気を持った者に不条理に天罰が下るということはありません。船が沈没する原因となった塩も、兄自らが望んで出したものです。まさに自業自得、いや身から出たさびと言ったところでしょうか。

今でも臼は海の底に沈んでいるそうですよ。まわすと欲しいものが何でも出てくる臼が手に入ったなら、あなたは何を出しますか?

美しい日本語と優しく心温まるストーリーが人気の香山美子(こうやまよしこ)の絵本を5冊ご紹介しました。幼児でも馴染みやすい可愛い動物が描かれている作品が多く、人間関係を形成する第一段階となる幼児期から楽しむことの出来る本ばかりです。また子どもと一緒に読む大人も、絵本を通して改めて現在の自分をみつめ直すきっかけを与えられることとなるでしょう。ぜひ、本を手に取って温かい気持ちにふれてみてくださいね。

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