『ルドルフとイッパイアッテナ』の作者として有名な斉藤洋。著作にはのんびりとした動物が主人公の温かみあるストーリーが多く、幼児から大人までワクワクした温かい気持ちで楽しめます。今回は色々な世代に人気を博している代表作5冊をご紹介します。
斉藤洋(本名:齊藤 洋)は、1952年生まれの亜細亜大学経営学部教授。そして、児童文学作家兼日本のドイツ文学者です。
非常勤講師であった1986年『ルドルフとイッパイアッテナ』を講談社児童文学新人賞に投稿。受賞をきっかけに児童文学作家として歩み始めました。
「ルドルフとイッパイアッテナ」シリーズをはじめとし、戦国時代が舞台の「なん者ひなた丸」シリーズや、淡々としたペンギンチームの活躍を描く「ペンギンたんけんたい」シリーズ、「ナツカのお化け事件簿」シリーズなど、シリーズものを描き、児童書作家として人気を博しています。
斉藤洋の作品は『ルドルフとイッパイアッテナ』に代表されるように動物が主人公のものが多く、また主人公がのんびりとした雰囲気を纏っているため、幼児から大人まで温かい気持ちで読めるでしょう。
優しい飼い主の元で暮らすルドルフは、トラックに半日も乗って知らない土地に来てしまいました。トラックから降りて出会ったのは、とてつもなく大きなトラ猫。2匹はルドルフの持っていたししゃもを取り合ううちに心を通わせていきます。
名前を尋ねられて「おれの名まえはいっぱいあってな。」と答えたせいで、ルドルフは勘違いからトラ猫を「イッパイアッテナ」と呼ぶことになります。2匹の教養たっぷり野良猫生活、スタートです!
- 著者
- 斉藤 洋
- 出版日
- 1987-05-20
この物語の醍醐味は何といっても、ルドルフとイッパイアッテナの愉快な掛け合いです。ルドルフは元々育ちの良い飼い猫なので、猫の世界では世間知らず。他の猫から一目置かれているイッパイアッテナのことを「おじさん」呼ばわりしたり、とんでもなく核心をついた質問をしてしまったり、純粋すぎる猫と虚勢を張った猫の会話には、思わず笑みがこぼれてしまうでしょう。
一方、この物語は猫の世界を描いたものでありながら、人間である私たちの教訓となるようなイッパイアッテナの言葉がたくさん出てきます。
「ことばを乱暴にしたり、下品にしたりするとな、しぜんに心も乱暴になったり、下品になってしまうもんだ。」(『ルドルフとイッパイアッテナ』より引用)
イッパイアッテナは野良猫として生き続けるためにたくさんの「生きていく術」(教養)を身につけています。街で快適に暮らすためには人間たちに可愛がられる必要があること。いくら可愛がってくれていても毎日行くと嫌がられるから数日おきが良いこと。優しすぎると生きていけないこと。自分が生きていきたい場所に応じて立ち振る舞いを考えるべきであること。そして猫同士の信頼関係。
イッパイアッテナがルドルフに教えていることを、自分の身に置き換えてみると、もしかしたら反省すべき点があるかもしれませんね。
イッパイアッテナは、なんと人間の文字を読むこともできます。それも生きやすくするための技の1つです。勉強家なので、学校の図書室にだって行きます。猫の世界だって、教養のあるものがピンチを制するのですから。「なんで勉強しなきゃいけないの?」と嘆いている子どもたちが読んだら「目からうろこ」となるでしょう。
ぜひ、人間にも通じる猫の「教養」を読んでみてくださいね。
小学校はどのように行くのか、どのようなことを学ぶのか、どのような教室があるのかなど、小学校にこれから入学する子供から、既に小学校に通っている子供まで楽しめます。
迷路、まちがいさがし、数字合わせなど遊びながら学校内を探検しましょう。小学校に関するしっかりしたストーリー性がありながらも、答えが巻末に載っている本格派の遊び絵本です。
- 著者
- ["斉藤 洋", "田中 六大"]
- 出版日
- 2012-02-16
物語は小学生の男の子が幼稚園バスを見送るシーンから始まります。小学生になる時の第一関門は、自分たちだけで学校に通うことですね。幼稚園バスとの対比により、子どもの心細い気持ちも感じますが、この本の通学路は迷路になっています。自分の通う道には何があるのかなと本を読みながらワクワクしてしまうでしょう。
また国語の時間にはひらがなの勉強ができる迷路、算数の時間には数字合わせが載っています。音楽室や図工室など学校内の紹介には、そこで使われる道具を用いた「探し物クイズ」があります。遊ぶようにしながら、学校の仕組みを学ぶこともできるでしょう。
この本には、真面目な学校説明だけでなく、少し面白い校長先生や「泥棒」も登場します。給食時間の校長先生、下校時刻の泥棒には注目ですよ。
この本を手に取って、ぜひ学校への希望を膨らませて下さいね。
小学生の男の子カールが、天才科学者のローゼンベルク博士、操縦担当のフランク、コックのハンス、シェパード犬のラインゴルトと共に、潜水艇イーゲル号に乗って冒険の旅に出る「イーゲル号航海記」シリーズ1巻。
港に不思議な求人広告を見つけたカールは、張り紙に従って歩くうちに渦巻きの調査に行くという不思議な潜水艇に乗り込んでしまいます。目的地について、渦巻きに巻き込まれたカールたちがたどり着いたのは……。
- 著者
- 斉藤 洋
- 出版日
主人公のカールは一見普通の小学生ですが、とても冷めた考え方の持ち主です。学校にはワクワクするようなこともないから、毎日行くところじゃないと思っていたり、ドイツと日本のハーフであるという自分の境遇の説明を面倒くさいと一歩引いてみていたり。
そんな冷めた少年が一緒に旅をする仲間もとても個性的です。犬であるラインゴルトさえ、全生物の言語を理解する能力を持っています。きっと、ごく普通の生活を送ったなら、異質な存在となり得るであろうイーゲル号のメンバーたち。
しかし彼らはお互い、自分の好奇心を満たすだけの不要な侵入はしません。一定の距離と思いやりを保ったイーゲル号は、誰にとってもとても居心地のよい場所です。彼らの絶妙な距離の取り方にはとても感心させられるでしょう。
今回、イーゲル号は不思議な渦の調査に向かいます。実際に渦の中に飛び込んだ結果、たどり着いたのは魚人の世界でした。魚と鳥のいさかいごとに巻き込まれることとなりますが、その解決方法はとても平和的かつ知的です。
たくさんの伏線が張られた何度も読み返したくなるような冒険ストーリーとなっていますので、子どもだけでなく、大人が読んでも楽しめるでしょう。いつもの道をちょっと変えて、冒険に出たくなる1冊です。
神出鬼没のペンギンたちが色々な動物たちに出会って巻き起こる騒動を描いた大人気の「ペンギンたんけんたい」シリーズ。今回の舞台は南の島です。
50人乗りのカヌーに乗って南の島にやってきたペンギンたんけんたい。「エンヤラ、ドッコイ!」(『ペンギンたんけんたい』本文から引用)と掛け声をかけて島の探検を始めます。
最初に出会ったのはライオンです。「ガオーッ!」と脅したにもかかわらず「ペンギンたんけんたいだ!」と言い残し通り過ぎます。不思議に思ったライオンは後ろをついて行き……。
- 著者
- 斉藤 洋
- 出版日
- 1991-08-07
動物園でよく見かけるペンギンは、ヨチヨチ歩く姿が愛らしいですね。ペンギンは群れから離れない集団生活の動物です。
この物語に登場するペンギンたちも50羽で集団行動を取っています。先頭は隊長、その後ろが副隊長、その後ろでノートを抱えているのは副副隊長。ずいぶん本格的な探検隊ですね。
ノートを持つ副副隊長はことあるごとにメモを取り、泳ぐときにはノートを守って上向きとなります。物語の最後にはなぜ島を探検していたのかが判明するのですが、ライオンの心残りは副副隊長のせいなのかな……と思うと、思わず笑ってしまうことでしょう。
淡々としたペンギン探検隊の姿、そしてそれに振り回されるライオン、ニシキヘビ、ワニの姿はそれぞれの持つイメージと真逆で心を惹きつけられますよ。
ぜひ、この本を手に取り、ペンギンと共に南の島の探検に出て下さいね。
小児科医のクラウスは幼い頃住んでいた町イェーデシュタットの市立病院に赴任してきます。到着早々、幼稚園時代の深い思い出である人形劇に遭遇。不思議な気持ちで導かれるように少年期に過ごした街の西側、ウーアトゥルム広場に行ってみると、子どもの頃には一度も開いたことのなかった扉が開いていて……。
親友アルフレートに自分の正体を明かせないまま、再び離別するクラウス。ちょうど赴任から2年、クラウスが知る親友の真実とは?
- 著者
- 斉藤 洋
- 出版日
- 2011-04-06
この物語に出てくる時計台には不思議なうわさがたくさんあります。しかも「入り口から入る人は見るけど出てくる人は見ない」「夜中の3時に銅像のペガサスが動く」「時計台の先端に白フクロウがとまると死者が出る」など、学校の怪談を彷彿とさせるような少し怖いうわさばかり。
しかし、こんな怖いうわさも斉藤洋作品らしい心温まる物語の布石です。読み終わったら自分の街のうわさも調べたくなるかもしれませんね。
端的に言うとこの物語はクラウスとアルフレートの友情物語です。ただし、クラウスは小児科医となった大人、アルフレートは小学生のまま、そして友情を育む場所は時空の歪んだ時計台の中。最終的に2人は2度目の永遠の別れをすることとなります。一見切なくて悲しい物語、しかし読み終わった後に清々しさと前向きで明るい心を持つこととなるでしょう。
ぜひ真の友情から遠のいている大人の方にも読んで頂きたい1冊です。
子どもだけでなくその親も一緒に読んで楽しむことの出来る斉藤洋の本を5冊ご紹介しました。どの本も読み終わった後に前向きで明るい気持ちになれるものばかりです。短編で読みやすいながらもシリーズ化されていて長く世界観を楽しめる作品が多数ありますので、ぜひ気になる作品から手に取って斉藤洋の世界を堪能してみてくださいね。