ハートフルで知恵がいっぱい詰まった、杉山亮の子供向け推理小説や、人気の昔話をご紹介します。本はどれも絵入りなので、まだ文字が読めないお子様への読み聞かせにもぴったり。一緒に謎解きをしながらユニークな物語をお楽しみください。
杉山亮(すぎやまあきら)は、1976年から都の公立保育園の第1号男性保育士として活躍しました。1983年まで保育園や幼稚園に勤務し、その後、おもちゃ作家に転身。「おもちゃいろいろ・なぞなぞ工房」を主宰し、その後、児童書の執筆やストーリーテラーとして活躍している作家です。
遊びの天才と言われる杉山亮は、幼稚園や保育園でも子供たちと本気で遊びます。教育現場では、子供たちの自由な考えやアイデアを尊重するため、あえて結論づけたり、教えたりということは控えめのスタンスだったそうです。
この頃の杉山亮のユニークな経験談に、カッパの話があります。ある時、保育園の子供たちに水辺に近寄らないようにと注意を促すために、カッパの話をしました。これに子供たちがかなり興味を持ったことに気づいた杉山亮は、数日間、ことあるごとにカッパの話をしたのだとか。
そのうち、日に日にカッパが現実味を帯びてきた子供たちには変化が起こります。カッパの歌を歌う子や、万が一カッパに出会ったらお皿の水をこぼして弱らせようと、布団をまるめてタックルの練習を始める子まで出てきたのです。
すっかり子供たちが信じ切った頃を見計らって、杉山亮はカッパを探しに川へ行こうと提案します。子供たちは、喜ぶ子から、怯えて休むと言いだす子まで様々。
当日はなんとか皆で揃ってカッパ探しに行くことになります。この冒険がさぞかし楽しかったらしく、後日、うらやましがった他のクラスの子供たちも、カッパ探しに出かけたそうです。
また、杉山亮の十八番の出し物(?)に、1人が1行ずつお話を創る、リレー方式の物語づくりがありました。前の子が創った1行分の話を受けて、次の子が話を膨らませていくゲームで、子供たちの想像力を自由に遊ばせるのです。
こんなふうに、いつも子供たちとの時間を楽しむ杉山亮は、子供1人ひとりの様子を見て、軌道修正をしたりもします。きっといつもにぎやかで楽しいクラスだったことでしょう。このアイデアと優しさに溢れた杉山亮の物語を是非お楽しみください。
主人公は探偵ミルキー杉山。街の美術館から絵が盗まれる事件、本を返さない嘘つき探しの事件、宝石を盗んだ泥棒の暗号解きをする事件の、3つの物語が展開します。
推理の方法は話ごとに違い、1話では出来事を時系列で確認。2話では、あやしい人物たちに共通した、不自然なポイントが解明の鍵に。3話では、犯人が落とした絵文字の暗号解きとなっています。3つの推理法が徐々にレベルアップし、飽きずに楽しめるでしょう。
- 著者
- 杉山 亮
- 出版日
作者が主人公であるに違いないと思わせる、探偵のミルキー杉山。わくわくすることが大好きで、ちょっと頼りないようなところもあり、お金に弱くて、真面目で憎めない探偵です。
物語の中では、鋭い推理をしたかと思えば、謎が解けないからと、わけあって別れて暮らしている妻に事件を相談しに行ったりもします。こうしたリアルな人間味までにじませたストーリーが、平和だけれど、平和過ぎない独特な世界観を形作っているようです。
ところでこの本は、推理小説ですが、見開きごとに絵と文章が描かれており、小さな子供でも絵でストーリーを追えるようになっています。ミルキー杉山と一緒に推理を進めるかのように読みながら、見開きごとに絵でも確認できるのですから、楽しさも倍増です。
そして、もう一つの仕掛けにドアノブのページがあります。物語は3つに分かれているのですが、どの事件も必ず犯人を突き止める答えが書かれたページの前に「解答へん」と書かれたドアノブのページがあり、読者に一旦読むことをストップさせるのです。
これはドアノブのページをすぐにめくって答えを読んでしまう前に、もう一度自分で犯人を考えてみようというもの。お子さんと一緒にあれこれ考えてみるのも楽しそうですね。
犬の訓練士スピッツかわいは、お嫁さんがほしいけど独り者。その訳は、仕事で預かった犬や、捨犬たちで家が犬だらけだから。いつもてんやわんやで掃除に追われながら、犬たちを養っているのです。
そんな主人公が犬との散歩中、ひょんなことから事件解決に協力することに……。犬のにおい捜査と、推理で見事に事件を解決します。これが噂となり、探偵依頼が来るようになったスピッツかわいは、犬たちと一緒に奮闘するのでした。
- 著者
- 杉山 亮
- 出版日
- 2002-07-01
『わんわん探偵団』も、3つの事件の物語が描かれています。本の冒頭にある目次には、前半の「事件編」をよく読んで、じっくり考えてから後半の「解決編」を読むようにと注意書きが入っており、読者の探偵気分を盛り上げてくれますよ。
主人公のスピッツかわいは、犬が大好きで、面倒見のいい、優しい青年です。お隣の絵本店の女主人はなえさんを密かに想っていますが、脈があるのか無いのか分かりません。いつも犬の世話に追われて、犬の養育費で出費がかさむ一方なので、アプローチすることもできないようです。
そんな、ある意味崖っぷちのスピッツかわいですが、とてものほほんと、楽しそうに暮らしています。そして、本業は探偵ではないけれど、犬たちを養うためならなんでもやるぞと、人助けをするのです。
ところが街の人たちは、そう甘くもなく、探偵依頼をしたのにお金を出さない、すごいケチなおじいさんなども登場します。事件を解決したにもかかわらずお金をもらえないスピッツかわい。しかし、そう怒ることもなく、まぁいいかと流してしまうのも、この物語のいいところです。
こんなふうに、いい意味でのらりくらりと人と関わりながら、名探偵としての実績を積んだスピッツかわいは、とうとう御礼の大金を受け取る日がきます。人生をこんなふうに生きていけたらさぞかし平和だろうなと思わせる、魅力的な物語です。
昔あるところに薬草採取を生業とする父親と娘がいました。二人はいつものように森へ出掛けて薬草採りをします。ひと仕事終えた父親は、娘を先に家に帰して、自分は夕飯のために魚釣りをするのでした。
父親の大好物を作って帰りを待つ娘。ところが帰って来た父親はびしょ濡れで、なんだか様子がおかしいのです。そして、なぜか家の外から戸を開けてくれという父親の声が!娘は父親の大好物は何かと尋ねるのですが……。
- 著者
- 杉山 亮
- 出版日
- 2011-10-14
仲の良い父親と娘が、毎日一緒に薬草採りをして働くというところから話が始まります。いつものように森でひと仕事終えると、父親は娘に先に帰るように声をかけますが、家には誰も入れないようにと言うのです。
これに対して娘は、父親の大好物を作って待っているねと帰るのですが、こうしたやり取りからも、とても仲の良い親子だということが伝わります。貧しいながらも肩を寄せ合って暮らす2人を、温かく見守りたくなるような話です。
ところが、ちょっとした父親の行動から、平和な日常は恐怖の色へと塗り替えられていきます。重厚でリアルなトーンで描かれた絵が、美しく、かつ、不気味なインパクトへと引き込んでいく迫力に、ドキドキ感が高まるでしょう。
後半では、父親の大好物を作って待っていた、まだ幼くて可愛い娘が、怖ろしい目にあうのですが、ことの真相は、カッパが人を闇雲に傷つけるような妖怪ではなかったということでした。
この物語の全体を貫いているのは親子の愛です。子を思う親心と、親を思う子供の心がとても自然に描かれています。
そして、大したことではないと本人が思っていることでも、むやみやたらと乱暴な感情を垂れ流しにすることは、時として思いもよらぬ人を傷つけているかもしれない、という教訓もにじませた物語です。
街で美味しいと評判のケーキ屋さんで働くショコラとセーヌ、ナポレオンには別の顔がありました。それは、お金を積まれても、気に入った仕事しか引き受けないという、とびきりビューティフルな泥棒チーム。
ある日、腹黒いハラグーロにだまされた宝石商のおじさんが、盗まれた宝石を取り返してほしいとお店にやって来ます。正義感の強い泥棒トリオは知恵をしぼって、作戦開始!見事、難題に挑み、鮮やかな手口で取り返します。
- 著者
- 杉山 亮
- 出版日
主人公の3人は、気に入った仕事しか受けず、頼まれた物以外、どんな高価な物も決して盗まないという泥棒チーム。ただの泥棒ではない、自分たちなりの美学を持っているのです。
そんなショコラたちが営むケーキ屋さんにあるお客さんが訪れます。そして、泥棒依頼の暗号である「アップルパイをアップルぬきで」と言うのでした。
さあ、泥棒チームへの仕事依頼です!依頼人の宝石商のおじさんが、腹黒いハラグーロに騙されてしまった話を聞いて3人の正義感が燃えます。もうお分かりかと思いますが、この主人公たちは善悪の区別なく泥棒を働く悪人ではなく、ねずみ小僧のような正義のヒーローなのです。
ところが、宝石商のおじさんを騙した、やたらとずるくて、警戒心が強いハラグーロの家を調べてみると、とても守りが堅く……。しかし、難題であればあるほど燃えるタイプのショコラは、逆に喜々として頭をひねり、グッドアイデアにひらめくのです。
この推理小説は、子供向けではありますが、物事を攻略するためには、どう下調べをして、どう計画を立てていけばいいのかが書かれています。
さらに、すべての状況や条件を洗い出してから、こう攻めるとどうなるかと、いくつかシミュレーションをしながら、攻略法を絞り込んでいくあたりは、子供にとって考えることの参考になりそうです。
児童書ならではの、奇想天外で自由な発想と、ちょっとリアルな要素が混在したストーリーは、とてもテンポよく進んでいきます。
ハラグーロの家に忍び込んだショコラが、見つかりそうになるピンチに陥っても、慌てず心を落ち着けて、最後の最後まで粘り強く盗まれた物を探す姿は、なかなかのものです。
なんとか危機を乗り越えて、ショコラはハラグーロの家から逃げ出しますが、最後の逃走は乗りたくなかったセーヌの車で……。知恵と度胸のあるスーパーカッコいいショコラなのですが、実は車酔いという弱点があったのです。
杉山亮が描く主人公らしく、どこか抜けていたり、弱さが垣間見えたりする、愛すべき人間……。こうした主人公の魅力ある人となりで、読者がより一層、親しみ深く、楽しく読むことができるのでしょう。
実在した禅僧の一休宗純がモデルとなった昔話を、杉山亮が書き起こした絵本。大人の勝手で理不尽な行動を、こぞうの一休さんが、とんちでやり返します。やり込められた大人の中には、仕返しを企てる者もありますが、それもとんちでクリア!
賢くて、弱い者を守る一休さんのとんちは、いつしか殿様の耳にまで届くのでした。そして、今度はお殿様から難題を突き付けられますが、見事に切り抜け、たくさんの褒美を授かるのです。
- 著者
- 杉山 亮
- 出版日
- 2011-01-27
『一休さん』は、誰もが知っていると言ってもいいほど、よく知られた昔話です。長く愛される人気の秘密は、世の中にある理不尽な出来事を、まだ幼いこぞうさんがとんちを使って、バッサバッサと切るように、解決していくところにあるのでしょう。
普通なら弱者ゆえに泣き寝入りするしかないようなことを、小さな子供が知恵のあるとんちで切り抜けるのですから、胸がすくような思いがするのではないでしょうか。
この絵本には、代表的なとんち話が3話入っています。可愛らしいこぞうさんたちの絵を見ながら読み聞かせすれば、きっと子供たちは、こぞうさんたちの気持ちになって楽しめそうです。
一休さんの楽しいとんち話は、子供たちに一度は触れてほしい作品の1つではないでしょうか。
犯人を捜してドキドキしたり、かっぱの不思議な世界や一休さんのとんち話まで、杉山亮ワールドの児童書は、楽しさと驚きに溢れています。本には、子供たちが楽しみながら自然に学び取れることもいっぱいです。また、この著者の本には、どれにも平和や愛が感じられ、読後感の良いものばかり。親子で楽しめる、ギフトにもおすすめのラインナップです。