心に残る詩にはどんなものがあるでしょうか。時にはやる気を奮い立たせてくれたり、時には涙と一緒に心にたまった余計なものを洗い流してくれたりする力があります。声に出して読みたくなるような、工藤直子の詩が楽しめる絵本や詩集を紹介します。
詩人、童話作家として活躍している工藤直子は、子どもでも大人でも楽しめる優しい言葉でつづった詩歌に定評があり、「ふきのとう」や「おれはかまきり」は、国語の教科書にも掲載されています。
作品の随所に遊び心が散りばめられていて、擬人化された植物や虫などあらゆる生き物が、その個性を存分に発揮しています。工藤直子は作品を生み出す際に、それらの植物や虫などになりきって書くのだそうです。
児童文学の世界に入る前はコピーライターとして活躍していた時期もあり、その頃に培った経験からか、短いフレーズで人の心を掴むところが彼女の作品の魅力です。
大きさが全く違うクジラとイルカ。ふたりは、星たちが空一杯に煌めく夜に出会います。小さなイルカは、こんな夜には誰かとお茶を飲みたいと思っていました。そして大きなクジラは、こんな夜には誰かとビールを飲みたいとつぶやくのです。
ふたりはすぐに友達になり、互いの好きな飲み物を用意して楽しい時間を過ごし、その後もしばしば楽しい時間を共有するようになります。
- 著者
- 工藤 直子
- 出版日
イルカは泳ぐのが大好きでとても活発だけれど、クジラは落ち着いていてのんびりと本を読むのが好き。しかしふたりに共通している優しさが、物語を通じて読み手の心を温めてくれます。
彼らの過ごす日々に大きな事件や激しい感情の浮き沈みはないけれど、そこにはほんわかとした安らぎの時間が流れています。長旅に疲れた蝶々が岩と間違えてクジラの頭で休んだとき、ふたり一緒に蝶々を送ってあげるエピソードなどは、読者の心をやわらかくしてくれます。
こんな友達が欲しいな、と誰もが思うことでしょう。イルカとクジラが過ごす幸せな日々をおすそ分けしてもらえる、そんな作品です。
かわいらしいライオンとカタツムリの物語です。カタツムリはライオンに対して、「ライオンは百獣の王であり、哲学的な存在だ」というイメージを持っています。カタツムリにそのことを聞かされたライオンは、その日、哲学的であろうと努力するのです。
ライオンは姿勢を正して少し首を傾げ、哲学的な自分を演出します。誰かがそんな自分を見に来てくれないかとワクワクしている姿が、とてもキュートです。1日頑張って哲学的な姿勢を保っていたライオンも、空腹には耐えられません。「おなかがすくと、てつがくはだめだな」とライオンはつぶやき、哲学的な姿勢を中断します。
- 著者
- 工藤 直子
- 出版日
- 1982-07-01
自分のやっていることを誰かに見て欲しい、知ってほしいという根本的な欲求は、誰もが持っているものだと思います。この作品の主人公であるライオンもまたしかり。そして、自分の描いたカッコイイ自分像に一生懸命近づこうとする姿勢は、誰もが応援したくなるものではないでしょうか。
1日頑張っても誰も自分の哲学的な姿勢を見に来てくれなかったライオンでしたが、カタツムリにそのことを報告すると、カタツムリは言葉を尽くして誉めてくれます。その誉め言葉を聞きなおすライオンがとてもかわいくて、本作が長きにわたって愛される理由がわかります。
味わい深い版画に添えられたいくつもの詩は、大人も子どもも肩ひじ張ることなく気軽に楽しめる作品ばかりです。無邪気な心で、「のはらむら」の住人になったような気分を味わうことができます。
日本のどこかにある「のはらむら」、そこにはかたつむりでんきちや、ふくろうげんぞうなど、たくさんの詩人たちがいます。この作品には、「のはらむら」の魅力あふれる詩人たちが詠んだ詩がいくつも収録されているのです。
- 著者
- ["工藤 直子", "保手浜 孝"]
- 出版日
- 1992-10-01
カブトムシやカマキリ、そして杉の木など、人間以外の視点で詠まれた詩は、それらの詩人になりきって読むととても楽しめます。
またどの詩も季節を感じられるものになっていて、それぞれのキャラクターの特徴もいかされています。
のはらむらの詩人たちは皆とても個性的です。版画で描かれる詩人たちの姿はため息が出るほど素晴らしく、その時の気分や季節によって、部屋の一番目立つ場所に飾っておきたくなるような魅力があります。
この作品の主人公は、昔自分の生まれた森に想いをはせるピアノ。ある日ピアノのもとに、部屋の外からカーテンをすり抜けて風が遊びにきます。風に語りかけられてうれしくなったピアノは、自分の体に使われている木が生まれ育った森の夢をみるです。
このピアノは、工藤直子の家にあるもので「ノイマンじいさん」と呼ばれています。ノイマンじいさんの想いが詩となり、丸みを帯びた柔らかなタッチの挿絵が、その詩に彩りを添えます。
- 著者
- 工藤 直子
- 出版日
- 2009-06-01
生き生きと描き出されるノイマンじいさんの生まれ故郷。詩を読むと、読者は小鳥のさえずりやリスの足音が聞こえてくるような、不思議な気分を味わうことができるかもしれません。
長年多くの人に愛されてきたピアノの心を覗けば、どんなものも、すぐには捨てずに大切に扱いたいという気持ちが芽生えることでしょう。
弾き手の奏でる曲によって違う夢を見るピアノは、まるで人間のよう。この弾き手はいったいどんなメロディーを奏でているのだろうと、想像力をかき立てられる作品です。
本作では、生き物たちが強い力を出して踏ん張る写真に、工藤直子の詩が添えられています。表紙のカエルは、植物のツルに足を絡ませて一生懸命踏ん張っているようです。「よいしょ」という言葉がとてもよく似合いますね。
ページをめくれば、立派なカマを振り上げるカマキリや、自分より大きな荷物を一生懸命に運ぶアリなど、あらゆるシーンで頑張る生き物たちの姿を見ることができます。
- 著者
- 工藤 直子
- 出版日
- 2006-07-01
手のひらサイズで持ち運びが便利なこのフォトポエム集は、電車でのお出かけや、旅行のお供にもピッタリです。日々のストレスで心がさび付いてしまいそうな時、そっとページをめくって「よいしょ」と頑張る生き物たちを眺めてみましょう。心についた余計なさびが落ちていくような、清々しさを感じられるのではないでしょうか。
勉強や仕事がはかどらない時、一度気持ちを切り替えるつもりでページをめくってみましょう。短い文章の中に、生き物たちのやる気がこめられています。
難しいのではないか、理解できないのではないかと思って、詩というジャンルに苦手意識を持っている人もいるかもしれません。でも、工藤直子の描き出す詩はほのぼのとしていて、難しい理屈を並べなくてもいいんだと感じられる作品ばかりです。
短い言葉の中にいろんな思いや教訓や個性が秘められている彼女の作品は今まで詩に興味がなかったという人にも楽しんでもらえるはずです。