表紙の絵の可愛さに騙されてはいけません。子どもはもちろん、大人も十分楽しめる本格的なストーリーが詰まっています。そんな太田忠司の人気シリーズからショートショートまで、選んでみました。
太田忠司は1959年愛知県生まれです。思春期に星新一の作品に触れて以来その世界に魅せられ、大学在学中に『帰郷』で星新一ショートショート・コンテスト優秀作を受賞。以後サラリーマン作家として多くのショートショートを執筆してきました。
1990年『僕の殺人』で専業作家となってからは、長編作品やミステリーにも幅を広げています。
豊川家の主人寛治から、妻信子が妄信する”導師”の素性を暴いてくれとの依頼をうけた野上探偵。探偵を夢見る狩野俊介少年とともに豊川家を訪ねると、寛治と信子、彼らの娘である春子、夏子、冬子、執事の滝田と、医学生である昭彦、そして導師が顔をそろえていました。
導師は自らの力を証明するため、敷地内の “月光亭“で奇跡をおこすと宣言し、外から施錠して密室としたうえで、月光亭に閉じこもります。約束の時間になって一同が月光亭を訪れると、滅茶苦茶に荒らされた室内で信子が磔にされて殺害されており、導師は姿を消していたのです。
事件の解決に奔走する野上と狩野少年。真相を追ううちに、やがて豊川家の影にも足を踏み入れていくのでした。
- 著者
- 太田 忠司
- 出版日
- 2009-06-25
太田忠司の「狩野俊介」シリーズは、事件の陰惨さと、それを解決に導く狩野少年の純粋さのコントラストが印象的です。本作はシリーズ第1作目にあたります。
ある日突然野上の前に現れた天涯孤独な12歳の狩野少年。登場するや否や、会ったばかりの郵便配達員が遅配をした理由をいとも簡単に言い当てるというシャーロックホームズも驚くほどの推理力を見せつけます。一方、連日の捜査に疲れて居眠りをするなど、普通の12歳以上に子供らしい一面も持ち合わせた狩野少年は、思わず応援したくなってしまう、とても魅力的な主人公なのです。
本作は密室殺人を成立させるために、大胆で奇想天外なトリックを使用しています。頭のやわらかい狩野少年だからこそ見破ることができたこのトリックは、他のミステリー作品と差別化できるポイントだと言えるでしょう。
人が死ぬとき、その心の中にあった強い想いは、月導(つきしるべ)となる。そして月導を”読む”ことができるのは、特殊な能力を備えた月読(つくよみ)だけ……。
刑事である河井は、殺された姪友香子の事件を個人的に追ううちに、月読である朔夜と出会います。朔夜の力を借りて友香子の月導を読むと、そこには正田という男への恐怖に満ちていました。
一方、香坂家ではある女性が殺され、河井は捜査に駆り出されます。朔夜が被害者の月標を読むと、そこにはケイコという女性の身を案じる想いが溢れていました。
一見バラバラな2つの事件。一体どのような結末を迎えるのでしょうか。
- 著者
- 太田 忠司
- 出版日
- 2008-01-10
450ページという長編で、いくつもの事件が絡まりあう複雑な設計にもかかわらず、一気に読めてしまうのは太田作品ならではです。思春期特有の悶々とした想い、純粋な友情、許されることのない歪んだ愛情……心理描写にも深みがあり、単なるミステリーでは終わりません。
友香子の事件、香坂家で起きた女性の殺人事件、20年前の朔夜の養父の失踪……一見無関係に見えるこれらの事件が物語の後半で一気に重なり合っていく様は、見事としか言いようがありません。読み終わったあと、あれが伏線だったのか!と読み返す面白さも本作の醍醐味です。
探偵だった父清吾の死後、父の事務所を整理していた甘栗晃。そんな彼のもとに12歳の仁礼淑子、通称エルムがやってきました。エルムは失踪した母親の美枝子を探してくれるよう、甘栗探偵事務所に依頼をしていたのです。
清吾が死んだことを伝えるも、行きがかりでその調査を受けることになった晃。清吾の手帳に残された「美枝子は鍵の中に?」という謎の一文に頭を悩ませながらも、仕事を開始します。
そこで晃は、美枝子の知られざる過去、そして思いがけず父清吾の過去までも知ることになるのでした。
- 著者
- 太田 忠司
- 出版日
- 2010-02-25
どこか達観したような成熟さと高校生らしい純朴さを持ち合わせた主人公の甘栗晃と、跳ねっかえりでわがままだけれど甘え上手なエルム。2人のキャラ設定がかわいらしすぎて、ついつい応援したくなってしまいます。メインの2人を囲むキャラクターも生き生きと描かれていて、会話の掛け合いも楽しめるのは太田作品全体に通じるところかもしれません。
また、愛知県生まれの太田の作品は、名古屋を舞台にしたものが多くあります。イタスパやモーニング、そして味噌おでんなど、ご当地グルメがてんこもりで、観光気分を楽しむのもまた一興です。
しかし、本作の最大の醍醐味は、メインの事件が解決したあとのラスト10ページにあります。重い過去を背負った”彼女達”が何をしたのか。それを知ったとき、思わず天を仰いでしまうことでしょう。
ある出来事をきっかけに突如殺人鬼となった人たち。ところがその殺人鬼たちが、熟練したプロの手口で体の一部をえぐり取られて、次々と殺されていくのです。
この一連の殺人事件を追うのは、警視庁捜査一課のエリート刑事・和賀千蔭。事件を追う先々で、和賀は謎の美少女ナツキと遭遇します。事情を聞こうと近づく和賀に「わたしはセクメト」、「シオネを救わなければ」と謎の言葉を告げて立ち去るナツキ。
彼女は、そしてセクメトの正体とは?そしてこの事件の裏にある巨大な陰謀とは?
- 著者
- 太田 忠司
- 出版日
- 2014-12-20
セクメトシリーズの魅力は何といっても登場人物のキャラクターでしょう。かわいい&ハイスペック&ツンツン&でも時々純情なナツキと、有能&熱血漢な和賀刑事の組み合わせは、安定した魅力で読者をひきつけます。
そして刺客として出てくるハイスペックな”襲撃者“と、お茶目なナツキの祖父が繰り広げるスリル満点なカーチェイスも、手に汗握る展開です。
しかしそんなキャラクター達からは想像もつかないような、地球規模のどす黒い陰謀。実際に我々人類が抱える、ある問題の解消を目的としたその陰謀は、決して他人事として片づけていいものではないのかもしれません。
「星町にはいろいろなひとが住んでいます。普通のひとも、ちょっと変わったひとも、すごく変わったひとも。」「それぞれが自分の物語を持っています。そして一瞬のフラッシュの中で、自らの物語を明かしてくれます。」(『星町の物語』より引用)
読み進めると気が付かないうちに不思議の世界に迷い込んでしまう、ショートショート集です。
- 著者
- 太田 忠司
- 出版日
- 2013-09-17
ごく普通のはずの「私」が出会う不思議な出来事の数々。わずか2ページほどの短い文章のなかに、完全な物語と、衝撃の展開がおさまっています。思春期に星新一に刺激を受けて執筆活動を始めた作者にとって、本作は自身の原点と言えるでしょう。
時々ぞっとしたり、思いがけずじんわりあたたかい気持ちになったり。ショートショートを得意とする太田忠司の、才能を味わいつくせる一冊です。
いかがだったでしょうか。ボリュームがあるように見えて一気に読めてしまう気軽さも太田作品ならでは。魅力的なキャラクターと意外性のあるストーリーを楽しんでみてくださいね。