坂東眞砂子は、精緻な歴史描写と背筋が粟立つようなホラー展開が魅力の作品を、数多く送りだしてきた小説家です。確固たる主観を持ち、自らの生み出す作品に、日々の生活や思考を色濃く反映しているのが特徴となっています。
坂東眞砂子は、高知県生まれの小説家です。奈良女子大学では家政学部住居学科に所属し、卒業後はイタリアに留学して、インテリアデザインを学びました。日本に戻ってからは、フリーライターとして働いたあと、小説家としてデビューを果たしました。
デビュー当時は、その後のホラーやミステリーとは遠く、児童向けのファンタジー小説を執筆。1982年には、毎日童話新人賞優秀賞を受賞しています。
ホラーやミステリーに力を入れ始めたのは1990年代に突入してからで、1994年には日本ホラー小説大賞で佳作を受賞しました。
坂東眞砂子の作品は、ただおどろおどろしいだけでなくて、生や性をテーマとしてピックアップしたものが多く、多数の要素を組み合わせて作品の世界を構築しています。1996年には島清恋愛文学賞を受賞、2002年には柴田錬三郎賞を受賞するなど、より幅広い分野での活躍が見られるようになりました。
代表作の『死国』や『狗神』は実写映画化を果たしており、1996年には直木賞を受賞するなどの実績を残しています。2014年に病死したものの、亡くなる直前まで新作を発表し続けていました。濃密な作家人生を送った坂東眞砂子の作品の中から、ぜひ手にとってほしい代表作をご紹介します。
明治末期、越後の山村を舞台に、濃密な愛憎劇が繰り広げられる大長編です。東京からやって来た旅芸人の男と地主の若夫婦が三角関係に陥ったことで、伝説の山妣の物語が徐々に明らかになっていきます。やがて静かな山奥で引き起こされる凄惨な事件が、人々の運命を変えていくストーリーです。
物語は3部構成になっており、1部では山妣の伝説が語られ、2部では山妣の知られざる過去が、3部では登場人物たちの複雑な人間関係がどんどん深まっていきます。ミステリーとホラー、そして歴史が絡み合った、読み応え十分の一冊となっています。
- 著者
- 坂東 真砂子
- 出版日
- 1999-12-27
本作は直木賞の受賞作であり、初めて坂東作品を手に取る人にもおすすめです。3部構成で多数の登場人物と時系列を処理していることから、読者は山妣に対するイメージを二転三転させられるでしょう。作中で姿を変えていく山妣の行く末を、迫りくるような文体で堪能できるはずです。
また豪雪地帯の静かな地方で激しく巻き起こる男女関係も、本作の見どころのひとつです。説得力のあるサスペンスは、人々の欲望や大胆さを鮮やかに描き出しています。
本作の舞台は飛鳥時代。人が見た夢を解き明かす役目を負った白妙は、高市皇子の夢解きを依頼されます。高市皇子はかつて持統天皇の右腕を務めており、その夢を解くうちに白妙は、少女讃良の心を覗けるようになってしまうのでした。
夢を解くうちに、白妙の前に明らかになっていく持統天皇の恐ろしい秘密。読者はページをめくるごとに、その呪術的な世界にのめり込んでしまうでしょう。かつて日本に君臨した力強き女帝をテーマにした、迫力の一作となっています。
- 著者
- 坂東 眞砂子
- 出版日
- 2015-01-20
本作のテーマは、持統天皇が権力のもとに歩んできた人だといえるでしょう。一見非情で凄惨なようにも思えますが、物語が展開していくうちに、その影にある様々な登場人物の想いや葛藤、持統天皇自身の信念なども伝わってきます。絶対的な立場に君臨していたからこそ、孤独に戦う姿には、共感も生まれるかもしれません。
飛鳥時代という、途方もなく遠い時代をテーマにしているため、古代の土地関係や歴史上の人物を把握していると、更に楽しめる一作でしょう。しかし、歴史に造詣が深くない人でも読みやすいように構成されている上、白妙が夢を覗き込むというスタイルを取っているので、現代のエンターテイメント好きにもぴったりの作品に仕上がっています。
主人公の額田彩子は、薫陶社という出版社で働くOLです。恋人と別れ、巣鴨に引っ越してきたばかり。戦前の絵本をテーマにした企画に取り組んでいたところ、ある不思議な日本画に出会うことになります。なぜかその絵に深く惹きつけられてしまった彩子は、戦前の貧しい画家たちがパリに憧れながらも、池袋をパリに見立て、その想像を膨らましていたことを知っていくのです。
現代と戦前が平行して進んでいくストーリー展開に注目したい一作です。彩子が惹かれる画を描いた、才能ある画家の男性と彼に執着する2人の女性。彼らの恋愛の行く上を、坂東の得意なオカルト風のスタイルで、鮮やかに描きだしています。
- 著者
- 坂東 眞砂子
- 出版日
- 1998-10-20
島清恋愛文学賞を受賞した作品です。坂東作品の多くは、因習が重なり合った地方を舞台にしていることが多いですが、今作の舞台は東京であり、雑踏と群衆が満ちる世界でストーリーが展開されているという特徴があります。
また本作は、心に迫る恋愛ものではあるものの、愛憎に満ちたシリアスな展開が用意されており、そこに時代を超えて絡み合うオカルティックな流れも含まれています。坂東眞砂子の持ち味を活かしながらも、新たに切り開かれた新境地だと言えるでしょう。これまで彼女の作品をひとつでも手にとったことがある人には、ぜひおすすめしたい一冊です。
鎌倉時代を舞台に、男女それぞれの想いが交錯する壮大なストーリーとなっています。
踊りや唄などの芸を売り、自由きままに生きる傀儡女の叉香。彼女は、復讐のために鎌倉を目指す武士や、すべてを奪われて瀕死になった女性、西域からやって来た異国の僧侶など様々な人物と出会い、その運命を交わらせていきます。
- 著者
- 坂東 眞砂子
- 出版日
- 2012-07-20
『傀儡』というタイトルが、叉香の仕事だけではなく、それぞれ生き様や、裏権力の世界、欲望に振り回される様子など、多様なニュアンスを含んでいます。まったく異なった背景を持つ4人を描写しているため、感情移入しやすい人物がいるかもしれません。本来であればお互い交わらずに暮らしていたはずの人々が、怨念にとりつかれ互いに影響を及ぼし合う姿は、読み応え十分となっています。
当時は武家社会が台頭し、禅宗が世間に広く普及し始めたころでした。そのような世間事情を色濃く反映しており、精緻な描写が話題となった一作です。時代背景を理解している人はもちろん、初めて鎌倉時代の作品に触れる人も、新たな世界を得る楽しみを味わえます。
舞台は高知県のとある村。坊之宮美希は、紙漉きで和紙を作る仕事をしながら、つつましやかな生活を送っています。かつて美希は、自覚ないまま実兄と肉体関係を持ち、裏切りと死産という壮絶な経験をしたことから、恋愛や人生そのものに諦めを抱いていました。そんな彼女のもとに、奴田という青年との新しい恋の予感が舞い込みます。
しかし次々と村人が倒れるという、原因不明の怪事件のもとに、事態は暗くなっていきます。坊之宮の血筋は、狗神の血筋として忌み嫌われている背景があったのです。先祖祭りが始まるころ、大きな悲劇が幕を開けようとしているのでした。
- 著者
- 坂東 真砂子
- 出版日
実写映画化もされた坂東眞砂子の代表作のひとつです。その後コミカライズもされており、より多くの坂東ファンを獲得するきっかけにもなりました。
高知の村を舞台に、狗神憑きという不可思議なホラー要素と、それにまつわる差別や因縁を色濃く描き出しています。伝承や民俗学などの要素がふんだんに含まれており、坂東眞砂子ならではの世界観を堪能することができるでしょう。その上、近親相姦をはじめとした、人間関係における欲望や執着も丹念に描かれており、迫力のある悲劇と恐怖を堪能できます。
いかがでしたか?どの作品から読み始めても、坂東眞砂子の世界にひたれること間違いなしです。興味をもった作品をぜひ手にとってみてください。