多数の人気シリーズを生み出している時代小説家、佐伯泰英。大ヒット作品を次々と送り出していて、さらに写真家としても名をあげた多彩な人物です。今回は彼の作品の中で、特におすすめしたい5冊を、ランキング形式で紹介していきます。
佐伯泰英は時代小説家として高い知名度を誇っていますが、小説家としてデビューした当時は、ノンフィクション作品や冒険作品、ミステリー作品などを多く出版していました。
作品のクオリティ自体は非常に高いものでしたが、南米など当時の日本人にはなじみのない場所を舞台にした作品を多く発表していたことから、部数が思うように伸びず仕事が減ってしまいます。廃業寸前になってしまったところで、生き残りをかけて時代小説へと転向していったのでした。
1999年に出版された『瑠璃の寺』は、発売1週間で重版がかかるほどの人気作品となり、以降は数々の時代小説を発表していきます。文庫本1冊の執筆にかかる時間はおよそ20日程度といわれており、月刊佐伯と評されることもありました。短期スパンで新作をどんどん送り出し、多くのファンを獲得していきます。
ドラマ化された『陽炎の辻~居眠り磐音 江戸双紙~』や『密命 寒月霞切り』などの「江戸双紙」シリーズも大人気となりました。その後も、「鎌倉河岸補物控」シリーズや「酔いどれ小籐次留書」シリーズなどが映像化されています。今回はこのような人気作品を多数発表した佐伯泰英のおすすめ作品を、ランキング形式で紹介していきましょう。
舞台は直参旗本座光寺家。主人公は、本宮藤之助という最下級身分の武士です。シリーズタイトルでもある交代寄合とは、参勤交代を義務化されている旗本三十四家のことを指しています。貧しく低い身分であるため、本宮家の当主は神社の神職を兼任しており、更にそのかたわらで農作にも勤しむ始末です。
藤之助は安政の地震が起きたため江戸屋敷に駆けつけたところ、当主が妓楼から大金を奪って女郎と姿を消していたことが発覚してしまうのです。藤之介は腕ひとつを頼りに、幕末の世界に乗り出していきます。
- 著者
- 佐伯 泰英
- 出版日
- 2015-09-15
幕末の武士の時代が、お家事情から政治の移り変わりまで、リアリティのある描写であらわされています。主人公である藤之助は、いまいちうだつの上がらない武家ですが、一方で豪剣の使い手という心踊る設定にも注目したいですね。
また、物語が進むにつれ、長崎に設立された東方交易や、国同士の熾烈な暗闘など、様々なテイストが追加されている冒険小説のスタイルなのも、本シリーズの持ち味です。攘夷過激派や幕閣の暗躍など、この時代ならではの戦いも見逃せません。全23巻で完結しているので、いっきにチェックしたいところです。
『惜櫟荘だより』は、佐伯泰英初のエッセイ集。タイトルにある惜櫟荘とは、熱海の仕事場から海の方へ一段下がったところにある別荘で、佐伯が譲り受けることになった建物のことです。その見た目は、岩波書店の創業者である岩波茂雄が、建築家の吉田五十八に設計させたという、荘厳なものです。
本書はその惜櫟荘を完全修復させる様子を追いながら進んでいくスタイルとなっています。
改装工事にあたった工務店の関係者が集まって、あれやこれやと言いながら解体と修復を進めていく姿は、非常に興味深いでしょう。もちろん、完全修復の様子だけではなく、写真家としての人生を振り返ったり、若かりしころの出会いについて語ったりなど、佐伯をより深く理解するのにぴったりの一冊となっています。
- 著者
- 佐伯 泰英
- 出版日
- 2016-01-16
多数の時代小説シリーズを発表し続ける作者が、別荘の修復はもちろん、自らの執筆環境や、人生で起きた様々なことを綴っています。1971年から1974年まで滞在していたというスペインでの生活についても触れられており、書き手の世界観を構築するポイントを、随所から伺い知ることが出来る一冊でしょう。
ヒットメーカーとして名高い作者が不遇の時代にどのようにして踏ん張ったのかも、詳しく記載されています。いままで1作でも佐伯作品に触れたことがある人は、ぜひ本書でそのバックボーンにも手を伸ばしてみてください。
本作は「長崎絵師通吏辰次郎」シリーズの1作目であり、発表時は『瑠璃の寺』というタイトルであったものを後々改題した作品です。
時は享保4年、南蛮絵師である通吏辰次郎は、季次家の遺児である茂嘉を連れて江戸に出向いていました。目的は、季次家が没落するきっかけになってしまった密貿易の冤罪を解消するためです。しかしこの事件の真実は、思いがけないものでした。
辰次郎は、季次家を主家として仰いでおり、惨殺された当主や初恋の人の無念を晴らし、お家を再興させるため、多くの試練や刺客に立ち向かっていく物語となっています。
- 著者
- 佐伯 泰英
- 出版日
- 2013-02-15
1作目が発表された際、佐伯泰英自身はシリーズ化する予定はなかったとのことです。確かに本作は、多くの登場人物が登場して物語は大きく広がっているものの、スタート時からのテーマは決してぶれることなく、1本のストーリーとして美しく完結しています。読みやすい文体と、軽妙なやり取りによって、いっきに読むことができるでしょう。
しかし、続編の『白虎の剣』と合わせて読むと、更に楽しみが増えるのも事実です。事件のあと、長崎へ戻った辰次郎たちの人生に触れることができます。ミステリー調の展開も相まって、次のページで何が起きているのか、ワクワクが止まりません。謎の側妻の正体や黒覆面の武士の秘密などは、思わず手に汗握る展開が待ち構えていますよ。
「密命」シリーズは、『密命 巻之一 見参! 寒月霞斬り』を1作目として、全26巻が刊行された長編時代小説です。主人公の金杉惣三郎は、元豊後相良の藩士で、ふぬけた生きざまをバカにされていたものの、実は秘剣の使い手。長身で無精ひげを生やし、江戸に潜んで、藩主の密命に従っています。
1巻では、消えた蔵書を奪還するため、惣三郎が大活躍。2巻では、尾張徳川家の陰謀と刺客に立ち向かっていきます。シリーズが進むうちに、惣三郎の息子である清乃助も剣の道を歩み、父と共に活躍するようになります。妖刀・村正や、町の火消しとの物語、隠れキリシタンの疑惑など、時代ならではの魅力的な登場人物や奮闘が魅力のシリーズです。
- 著者
- 佐伯 泰英
- 出版日
- 2015-03-12
テレビドラマ化もされた大人気シリーズで、佐伯泰英の代表作とも言えるでしょう。江戸をメイン舞台とし、当時の激動の時代に立ち向かう主人公たちの勇姿が描かれています。武士としての覚悟や親子の絆など、胸に迫るエピソードも数多く散りばめられています。
佐伯らしい時代ミステリー要素もふんだんに盛り込まれていて、清々しく人間味の溢れた登場人物たちや、迫力の剣技も見どころのひとつ。物語が進むうちに明らかになってくる事実や、増えていく仲間、成長して頼もしい存在になっていく息子など、世界が広がっていく様子も魅力的です。
「居眠り磐音 江戸双紙」シリーズとして、『陽炎ノ辻』を1作目とし、51作で一度完結した長編時代小説です。
主人公の佐々木磐音は、騒動がきっかけで自らの藩を離れ、江戸の深川六間堀で浪々とした毎日を過ごしていました。ある日用心棒を引き受けた磐音は、その依頼の影に潜む陰謀に巻き込まれてしまうことになります。
細かいことに気を取られず、まるで春風のような生き方の磐音が、痛快に悪を斬っていくのがこのシリーズの何よりの魅力でしょう。長屋の娘であるおこんや、その後のシリーズでも登場する嫡男の空也、磐音を高く評価する豊後関前藩の福坂実高など、多数の登場人物の関係性や成長なども、見どころとなっています。
- 著者
- 佐伯 泰英
- 出版日
- 2002-04-09
シリーズ累計発行部数は2000万部を突破するなど、佐伯泰英作品のナンバーワンヒットシリーズとなっています。2016年には、一旦シリーズが完結したものの、その翌年の2017年からは、続編となる「空也十番勝負」シリーズが展開されており、本作の世界観が更に広がっています。
今津屋や幕府、佐々木道場など、磐音たちの人生を彩る様々な舞台の様子も必見です。主人公が浪人になった切ない過去や、二朱銀をめぐる数々の陰謀など、一作ごとの密度も大満足のはず。当時の商売や政治など、人々が生きる背景も活き活きと描かれた名作シリーズです。
いかがでしたか?長編時代シリーズを豊富に発表している佐伯泰英は、ここで紹介した作品以外にもまだまだ魅力的なものがたくさんあります。興味をもったあなたは、ぜひ手にとってみてください。