軍事系であり、ロボット戦闘もので、さらにコメディと恋愛もありのライトノベル『フルメタル・パニック!』。その真髄は全体に仕掛けられた伏線と、SF要素にあります。アニメや漫画、ゲームにもなっています。1998年から10年以上かけて完結された本作の魅力をご紹介します。
「キケンだ。ふせろっ!」(『フルメタル・パニック!戦うボーイ・ミーツ・ガール』より引用)
とある平和な日本の高校に転校してきたミリタリーオタクが、主人公の相良宗介です。彼の鞄の中には銃器がぎっしりと詰まり、思い込みと勘違いで校内で銃をぶっ放す......そんな「戦争ボケ」の宗介の正体は、実は世界最強の武装集団「ミスリル」のエリート傭兵だったのです。
彼は女子高生の千鳥かなめを極秘に護衛するという任務を与えられていました。かなめの知られざる秘密とは、一体なんなのでしょうか。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 1998-09-18
幼いころから激戦地で過ごしてきた宗介は、戦争がすべての価値観の基準となっています。そんな彼が平和ボケした日本で行動を起こすと、それはギャグとボケでしかなくなるのです。
そんなある日、護衛対象のかなめが誘拐され、物語が動きだします。戦闘の中でこそ力を発揮する宗介は、いかにして反撃するのでしょうか。
ロボットあり、軍事要素あり、ハードでシリアスな心理描写あり、それゆえに爆笑ありと、ページをめくる手が止まらない面白さです。完璧な悪役に対して、正義側の人々は個性が強烈すぎて、勧善懲悪とは言い切れないところに魅力があります。
かなめの誘拐事件も無事に解決し、平和に爆破活動(自称「くんれん」)を楽しんでいた宗介。しかしそれでは済まされないのがこの世界です。
武装集団「ミスリル」の美少女艦長テレサ・テスタロッサ大佐(愛称テッサ)を狙い、テロ組織が襲い掛かってきたのです。東京壊滅をもくろむテロ組織からテッサを守るために戦う宗介と、そこに巻き込まれるかなめ。
新たなヒロインの登場です。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 1999-03-18
この世界に存在しないはずのことを知っている人間、「ウィスパード」。彼らはブラックテクノロジーと呼ばれる高度の技術を世界にもたらしています。
今作の戦闘シーンの魅力は、ブラックテクノロジーにより制作された「ラムダ・ドライバ」という兵器にあります。これは、使用する者の精神を物理世界に介入させるという兵器であり、ロボットに搭載されて、機能向上の役割を果たすものです。
テロ組織が操る「ベヘモス」と宗介が操る「アーバレスト」。共にラムダ・ドライバが搭載されているものの、使われ方が違うことで戦闘パターンに特色が生まれています。
本作は戦闘だけでなく、非行少年を構成させるための組織であったはずのA21がテロ組織となった背景やその目的、構成員のセイナが看取られるシーンなど、読み応えのあるシーンが満載です。
もちろんお約束のラブコメ展開も。宗介をめぐる、かなめとテッサの三角関係にもご注目です。
「ふたりだけで、南の島へ行こう」(『フルメタル・パニック!揺れるイントゥ・ザ・ブルー』より引用)
宗介の誘いにちょっぴりときめきを感じたかなめの純情は、あっさりと裏切られることになります。
科学兵器解体所を襲った「猛毒」、そしてテロ組織。1巻で死んだと見せかけた悪役も再登場し、宗介たちは窮地に立たされます。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2000-02-01
ミスリル作戦部西太平洋戦隊の潜水艦「トゥアハー・デ・ダナン」。宗介とかなめは、その記念パーティーの航行に搭乗しますが、テロリストたちに制御を奪われてしまうのです。
限界深度への潜水航行や、米軍艦へのミサイル攻撃をさせられる「トゥアハー・デ・ダナン」。米海軍による攻撃で、もはやこれまでと思われますが、かなめのウィスパードの能力によって戦艦の制御を奪い返すことに成功します。
どじっこで方向音痴で純情なテッサに、ひと筋縄ではいかないメインヒロインのかなめ。2人のタッグプレイが見どころです。
絶望的な状況だからこそ、それぞれが自分にできることをすることで、未来を変えることができる.....爽やかで最高の読後感が訪れます。
マフィアの屋敷に潜む、最新の人型兵器にそっくりの機体。宗介と敵との間には圧倒的な技術差が横たわっていました。そして敗北を喫した宗介をあざ笑うかのように、テロ組織による破壊活動がくり広げられていくのです。
一方、東京に残っているかなめは、正体不明のストーカーに悩まされていて......?
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2000-11-01
今作は上下巻となっています。上巻は、敵方の新型武器のチラ見せや宗介がメリダ島へ渡る場面など、下巻のためのプロローグ的な内容ですが、読み飛ばすと下巻の面白さが半減する、ニクい1冊です。
下巻は、宗介の敗北、窮地、そして大逆転。これまで幾度も宗介たちを追い詰めてきた敵とのラストバトルとなっています。
宗介はこれまでエリート傭兵として、美しいと言えるほど冷徹に殺人をしてきました。しかしかなめと高校生活を送るうちに人間味を帯びたことで弱くなっていたのです。一方で新しい生活のおかげで、これまでとは別の力も手に入れています。彼の成長の瞬間をお見逃しなく。
クリスマス・イブに行われる高校の臨時旅行は、豪華客船クルーズ。その日は奇しくもかなめの誕生日でした。
宗介を置いて出航したかなめたちの豪華客船は穏やかに海を進み......テロリストにシージャックされるのです。またお決まりのテロリストかと思いきや、自称「悪逆非道」な覆面テロリストはどうやら見知った人物のようで......?
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2003-03-20
宗介たちの通う高校の生徒たちが事件に巻き込まれる今作。宗介ら「ミスリル」のメンバーが、豪華客船をジャックすることからストーリーは始まります。
宗介の日頃の奇行のせいか、危機に慣れすぎた生徒たちの対応はギャグそのもの。しかし、そんな楽しい時間も長くは続きません。豪華客船の船長の正体がテロ援助組織「アマルガム」の構成員であったことや、ウィスパードの実験や調査を行う機材が極秘に積み込まれていたのです。
「ミスリル」の戦艦と「アマルガム」の特殊潜航艇の戦いや、かなめによるおとり作戦、そしてテッサが拉致されてしまい、序盤のお遊びジャックが嘘のように、本気の戦闘へと突入します。そしてその戦いのなかで宗介は、かなめに対する思いを自覚するのです。
「理屈ではない。彼女は特別なのだ。(中略)彼女を独占したいと思う。他のだれかに彼女を自由にさせるなど、とても我慢できない」(『フルメタル・パニック!踊るベリー・メリー・クリスマス』より引用)
三角関係の終わりを決めた宗介の決意と、切ないテッサの様子にグッとくること間違いありません。
気付けば高校生活が日常となっていた宗介。このまま平和な日常が続き卒業するのだろうと思いきや、生徒会長だった宗介の友人、林水が警告をしてきます。それは、普通に高校生活を送り続けるのはもう無理であるという内容でした。
そして宗介たちに襲いくる「アマルガム」の攻撃。平和な東京が、一瞬にして戦場と化します。高校の生徒全員が人質に取られ、世界各地の「ミスリル」基地はことごとく「アマルガム」に潰されていってしまうのです。
宗介の選択は......?
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2004-10-20
本作では、日常が壊れ、仲間が失われていく様子が描かれています。かなめの友人を中心に人質をとる「アマルガム」に、彼女はひとつの決断をすることに。それは、「アマルガム」に自らを預けることでした。
自分の意思でかなめが「アマルガム」についたといえども、実質は連れ去られたも同然。破壊された街並みと「ミスリル」の惨敗を前にして、宗介はこう言います。
「楽しい毎日だった。ありがとう」(『フルメタル・パニック!つづくオン・マイ・オウン』より引用)
これまでは「戦争ボケ」としてギャグ要員となっていた宗介。しかし改めて自分が戦争の中に生きる存在であることや、自分の手が血に汚れているかを自覚し、武器を構える姿はまさに悲壮そのものといえるでしょう。
絶対的な窮地にあっても諦めず立ち向かうミスリルメンバーに、それを指揮するテッサの魅力もひとしお。続きが気になる一冊です。
東南アジアの街、ナムサクを1人で訪れた宗介。彼はそこで人型兵器「アーム・スレイブ」の闇闘技会チームへの参加を希望し、勝利を呼び込むのです。
なぜ宗介は闇闘技会に参加しようと思ったのか。その答えは、警察に連行され、VIP用闇バトルへ招待された彼のみが知っています。
「大切なものを奪われた。だから俺は絶対に取り戻す」(『フルメタル・パニック!燃えるワン・マン・フォース』より引用)
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2006-01-20
これまでの戦いとは打って変わり、今作は人型兵器の中でも弱いとされてきた「サベージ」という初期型の機体での戦闘がメインとなります。
弱い機体を適切に操縦し、知的戦略で自分よりも性能を上回る相手を倒す。戦闘というよりもプロレスに近い戦いは、どれもアツいものばかりです。
また今作は、戦場へと身を投じ、自らの心から平和を追い出していく宗介が、ある出会いによって新たな思いを抱くところも見どころのひとつです。新しく登場した少女ナミの存在が彼にどのような思いを抱かせたのか、ぜひお手にとってご確認ください。
フランス対外保安総局のエージェント、レモン。彼はナムサクで重傷を負った宗介を保護し、アメリカへと逃がします。
一方、サンフランシスコ南部の病院で保護されたテッサ。彼女はうつろな瞳で胸の内の絶望を精神科医に話します。
奇しくも双方アメリカ大陸にいる宗介とミスリルメンバー。彼らは無事に合流することができるのでしょうか。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2007-03-01
今作の注目ポイントは「アーバレスト」の後継機、新型の「レーバテイン」です。ラムダ・ドライバを搭載したこの機体のスペックは圧倒的で、ジャンプの際に、中にいる宗介の意識を遠のかせるほど。強すぎて、しかし実はかなり大きな欠点をもつ「レーバテイン」を使った宗介の無双は快感です。
前作までの伏線を拾いあげ、解き明かしながら、結末は明るい方へと進んでいきます。
ミスリルメンバーが徐々に集結し、圧倒的な力を持つ「レーバテイン」の存在もあり、これまでとは物語の空気が変わってきます。
そんななかテッサは、秘密裏にとある情報の入手に奔走していきます。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2008-02-20
本作では、1981年の12月24日に、ソ連の実験施設で起きた事故がすべての始まりだったことが明かされます。
この世界において、ソ連が崩壊しておらず、中国が南北に分裂している理由、ウィスパード出現の原因、そしてなぜかなめの誕生日がクリスマスイブなのかまでも明らかになるのです。
今回注目すべきなのは、狙撃の名手クルツ。彼は明るく陽気な美形なのですが、口を開けば下品でセクハラをしてしまう残念な青年でした。そんな彼が狙撃の師匠と対峙し、致命傷を負いながらも宗介たちを救うために長距離狙撃に挑戦する場面は、手に汗握ること間違いなしです。
ウィスパードが生まれる前の過去を改変することで「本来の世界」を取り戻そうとする、テッサの双子の兄レナード。かなめはレナードに同調し、歪んでしまった時間を元に戻そうと行動を共にします。
この世界を終わらせようとする「アマルガム」と、この世界を存続させようとする「ミスリル」。どちらが正義なのかわからぬまま、物語は最後の戦いへと向かいます。
- 著者
- 賀東 招二
- 出版日
- 2010-07-17
今作のクライマックスは、「ミスリル」において宗介の父親役だったカリーニンが、「アマルガム」の幹部として彼の前に立ちふさがるところでしょう。2人の戦いは熾烈を極め、しかし最後にカリーニンは言うのです。
「イキナサイ」(『フルメタル・パニック!ずっと、スタンド・バイ・ミー』より引用)
日本語で発せられた言葉。それは「行きなさい」とも「生きなさい」とも取れる言葉でした。核ミサイルが迫るなかで、死にたくない、高校へ帰りたいと宗介は強く思います。
上下巻となっている今作。間違いなく言えることは、上巻を読むときは下巻も手に入れて置くべきだということです。なぜなら、これが物語の本当の終わりだからです。
絶対に死んでいたはずの人間がなぜ生きていたのか、なぜかなめの運がやたら良かったのか。『フルメタル・パニック!』が「SFアクション」とされる理由をご堪能ください。
ミリタリーロボコメディと見せかけて、しっかりSF、おまけに泣かせにかかってくる『フルメタル・パニック!』。かなめと宗介の約束が果たされるハッピーエンドをお見逃しなく!