諏訪哲史のおすすめ作品5選!『アサッテの人』で芥川賞受賞の作家

更新:2021.11.7

芥川賞の受賞作家として、高い知名度を誇る諏訪哲史。小説はもちろん、エッセイや評論の分野でも、高い注目を集めています。小説や文学における教鞭もとっており、豊富な読書量も話題であり、今後の活躍にも期待が集まっています。

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随筆や評論でも活躍する芥川賞作家、諏訪哲史

諏訪哲史は、『アサッテの人』で芥川賞を受賞した小説家です。1969年生まれの愛知県名古屋市出身で、小学生時代から一週間に10冊以上本を読んでおり、40歳になるころには、全体の読書量が1万冊を超えたほどの読書家でもあります。小説はもちろん、その知識を活かした評論や随筆のジャンルでも、高い評価を集めています。評論においては、小説作品はもちろん、詩やマンガも対象としているのも、諏訪ならではの特徴でしょう。

諏訪哲史は、國學院大学文学部に在学中、文学や美術、宗教の分野で種村季弘に師事しました。卒業後は鉄道会社で働きながら、詩作に打ちこみます。6年間の勤務後、退職し書き上げた処女作が『アサッテの人』でした。種村季弘や実父の死後、双極性障害を患いながらも投稿した本作で、群像新人文学賞と芥川賞を受賞します。

2009年からは、愛知淑徳大学で文化創造学部准教授、2012年からはメディアプロデュース学部の准教授として教鞭も取ることになりました。2016年は東海学園大学の人文学部で、教授として学生の指導に当たっています。このような多様な面を持つ諏訪哲史の作品について、特にチェックしておきたい代表作を紹介していきましょう。

諏訪哲史のデビュー作にして芥川賞受賞作

「旅に出る」と書き置きを残していなくなってしまった主人公の叔父。彼の住んでいた団地の取り壊しが決まり、荷物の整理を任された主人公は、叔父の日記を手に入れます。どうもその日記を読む限り、どうやら叔父は旅行に行ったのではない、と悟っていくのでした。

叔父の口から、唐突に飛び出していた「ポンパッ」「チリパッパ」「ホミャウ」などの意味のない言葉たち。物語が進むうち、叔父が吃音症(言葉がハッキリと発せず、流暢な会話を行えない症状)を治そうとしていたことや、ビル管理の仕事をしながら、奇妙な男を目撃していたことなどが明かされていきます。

著者
諏訪 哲史
出版日
2010-07-15

本作の重要なモチーフである吃音については、諏訪哲史自身が、幼少期に実際に悩まされたものでもあります。問題を抱える本人はもちろん、それを取り巻く周囲の人々についてのリアリティある描写も話題になりました。

主人公が叔父の日記を追いながら、彼に関する小説を書き進めていったり、叔父の亡くなった妻の草稿が登場したりするのも、本作ならではの特徴です。シリアスなシーンも、ユーモラスな描写によって、独自の魅力を放っているでしょう。

デビュー作にして芥川賞を受賞した本作を、ぜひ読んでみてください。

詩編のような作風が特徴の短編小説集

10編の作品から構成される短編集です。それぞれの作品ごとに、舞台や世界設定は大きく異なっていますが、どれもが語り手の一人称で展開されていきます。

「百貨店残影」は、主人公が幼少期に訪れたデパートの、空虚な空間について描いています。「真珠譚」では、アコヤガイに飲み込まれてる主人公の精神を綴り、「市民薄暮」は、見てはいけないコミュニケーションを描いた作品です。「甘露経」では、音と文字、あるいは文字とイメージの解離についてを掘り下げており、異なったテーマやモチーフを、書き手ならではのスタイルで取り扱っています。

著者
諏訪 哲史
出版日

「湖中天」では、電車の中で揺すって起こされたものの、乗り換えた先でもまた寝てしまって結局揺すられるところで目が覚め、元に戻ってしまうという循環が描かれています。この作品のように、循環をテーマに扱っているものが多く、これが決して外に出ることができないという意味で、タイトルの「領土」につながっているのです。

小説作品でありながら、詩編のような構成になっているのも、本作のポイントです。言葉選びや文体のリズムに、独自のこだわりを持っている諏訪哲史ならではの仕上がりだと言えるでしょう。

会話文だけでストーリーが展開する、諏訪哲史の革命的な一冊

本作の主な舞台は、主人公・隆志の妹・朝子が入院している病室です。朝子は骨髄ガンを患い、長きにわたって入院をしています。二人は実の兄妹ではないものの、深い絆で繋がっており、自らの病名を知ってしまった朝子を、隆志は一生懸命励まします。

そんなある日、朝子は同室の女性が、自分と兄の会話を盗聴し、物語に仕立てていることを知ってしまいました。二人はいっきに「物語」の中の登場人物に姿を変えてしまいます。小説を書くという行為にスポットを当てた、革命的な一冊となっているでしょう。

著者
諏訪 哲史
出版日
2011-07-15

本作の特徴は、ストーリーのすべてが会話文で構成されているという点です。いわゆる地の文はひとつも存在せず、手法として非常に挑戦的と言えます。地の文が存在しないからこそ映し出される景色や、会話文だけだからこそ、うまく隠すことができる事実があるのです。

基本的には、兄の隆志と、妹の朝子の会話で物語が進行し、ごくまれに、看護師や親戚の声が入って来ます。他愛ない二人の会話も、「物語」の中の人物になることで、不思議な変化を迎えます。この巧妙なギミックは、最後の数ページに到達したとき、あなたに衝撃を与えてくれるはずです。

二人の詩人の人生。諏訪哲史が描く衝撃の作品

主人公の井崎修一は、詩誌の編集者で、自身も詩人です。美しき少年詩人・月原篤の投稿作品をきっかけとして、二人は出会い、複雑な愛憎を抱き合いながら、距離を縮めていきます。やがて、篤は世界の果てを求めてイタリアに旅立ち、ふとした瞬間に行方不明になってしまうのでした。

修一は、篤が残したメッセージや詩を手に、彼の人生を小説に仕立てようと試み始めます。篤が求めた世界の果ての正体や、二人の間にのみ存在した唯一無二の絆について、掘り下げている一冊となっています。

著者
諏訪 哲史
出版日
2012-06-15

『アサッテの人』や『りすん』でも、小説を書く登場人物を描いてきた諏訪哲史。彼の作品の中で、小説を書くということは、非常に重要なモチーフとされることが多いです。本作も同様であり、修一が篤についての小説を書くことによって、二人の関係性をより印象深くしていると言えるでしょう。

黄昏の鉄道で迷子になるシーンや、乗務員宿舎で病が蔓延るシーンなど、印象的な描写を挟みつつも、どこかメタフィクションの体裁を感じさせるのが特徴です。幻想的な景色と、小説の本質に切り込む、挑戦的な作品となっており、諏訪哲史らしい一冊とも言えるでしょう。

新聞連載された、諏訪哲史の大人気読書エッセイ

諏訪哲史が、2010年から4年間、中日新聞で連載した読書エッセイをまとめた一冊です。幼少期から読書家であった諏訪哲史が、小説はもちろんのこと、詩やマンガも取り上げて語っている書評集ではありますが、「文学」にスポットを当てた自叙伝だとも言えるでしょう。

取り上げている作品や作者は多岐に渡っており、その読書世界の広さを知ることができます。自身が師事した種村季弘をはじめとして、梶井基次郎や谷崎純一郎、三島由紀夫などの日本近代作家から、ボルヘス、プルースト、ロブ=グリエまで、紹介している作品は多様です。

著者
諏訪 哲史
出版日
2014-10-27

40歳にして、既に1万冊を読破した読書好きである諏訪哲史が、厳選した100冊について語っているという、非常に豪華な仕様の一冊です。ただあらすじを描き、おすすめのポイントをピッアップするという仕様ではなく、文体や批評に焦点を当てているところが、諏訪ならではのエッセイと言えるでしょう。

また、このエッセイでは、新聞という連載媒体の都合もあり、紹介に制限があります。一冊の本の紹介は3ページで、一人の作家で一作しか紹介してはいけないのです。この制約の中で展開される、独自の読書エッセイ。掲載された作品を手にとってみるのも良いでしょう。

いかがでしたか?諏訪哲史の作品は、どれも独自の魅力にあふれています。興味をもったあなたは、ぜひ手にとってみてください。

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