平井和正のおすすめ本5選!「幻魔大戦」シリーズなどが有名なSF作家

更新:2020.12.9

平井和正は『幻魔大戦』『8マン』『ウルフガイ』など大人気作品を生んだ小説家です。2000年代にも作品が再漫画化され、今も高い人気を誇っています。SF小説ファンはもちろん、平井和正が原作のマンガ、アニメファンにもぜひ押さえて頂きたい作品を5つ紹介します。

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情念の作家と呼ばれた男、平井和正とは

平井和正は1938年横須賀生まれです。大学在学中に執筆した「殺人地帯」がSFマガジンで奨励賞を獲得しデビュー、その後まもなく、原作を手がけたマンガ『8マン』がヒット、一躍人気作家となります。SF作品を一筋に書き続けた根っからのSF作家です。

書きおろし文庫、オンラインノベルを初めて手がけたのも、平井和正だと言われています。

「通俗きわまりないセンセーショナリズムに首までつかったマンガ原作者」(『サイボーグブルース』あとがきより引用)

彼は、少年マンガやアニメの原作脚本も多く手がける売れっ子作家である自身のことを、このように揶揄していました。

『8マン』の執筆中に彼は、お決まりの展開や正義を振りかざした「暴力」に憤りを感じていたのです。平井和正は、子供の読み物だからと軽んじることなく、『8マン』という作品に真剣に向き合っていました。

また、彼は情念の作家と呼ばれました。幼少期に彼は、小学校教師だった父と疎開した先で、同じ日本人の子どもからいじめにあいます。戦後帰郷した横須賀は、米兵による殺人や婦女暴行などが横行する人種平等とは無縁の街と化していたのです。多感な青年時代には60年安保を経験し、「人類はできそこない」という痛切な情念を持つにいたります。

差別、侵害、虐殺などの愚行を繰り返す人類への激烈な怒りと絶望が、「きれいごと」では終わらない彼の小説作品に込められているのです。少年マンガやアニメでは描くことの許されなかった「無明の闇」を、小説の中で告発し続けます。これが、彼が情念の作家とよばれる大きな由縁です。

しかし、平井和正はあくまでもSF作家。中にはそうした彼の憤りがそのまま火を噴いたような作品もありますが、ここに紹介する作品はどれも極上のSF小説であり、大人も唸らせるエンターテイメント作品です。

「私の“人類ダメ小説”は、闇夜の中に星を懸命に探す作業にほかならなかったようだ」(『死霊狩り3』あとがきより引用)

後のSF作家や、マンガ、アニメ作品に少なからぬ影響を与えたであろう、今読んでも色あせない平井和正の作品をご紹介します。

狼男の純愛と孤高。平井和正の学園バイオレンスヒーロー小説

平井和正の大ヒット小説シリーズ、「ウルフガイ」シリーズ第一作目の作品です。

舞台は日本、一部生徒の暴力により荒廃した私立中学校に、犬神明という少年(狼男)が転校してくるところから物語が始まります。

美人の担任教師、青鹿晶子は、彼が3日前の夜、新宿で不良学生にナイフで刺された少年であることに一目で気がつきました。しかし少年はそのことを否定、身体にも傷ひとつ見当たらなかったのです。青鹿晶子は、混乱しつつもこの少年に強く興味を惹かれていきます。

1973年には実写化もされた人気作品です。映画は名優・松田優作の映画デビュー作としても知られています。また、2007年~2012年まで『ヤングチャンピオン』で漫画化された『ウルフガイ』はこの作品がベースです。

著者
平井 和正
出版日

SF小説に分類されますが、内容的には学園バイオレンスヒーロー物といったテイストです。あとがきで作者本人は「超自然的心情的英雄」と表現しています。

暴力や性描写のシーンはあるものの、血湧き肉躍るエンターテイメント作品として、幅広い世代の読者から今なお熱い支持を受けている作品です。

この作品の魅力の一番の要素は、犬神明のキャラクター性でしょう。過酷な運命を背負わされた彼は、狼であることに誇りを持つがゆえに、汚れた人間世界とうまく折り合いをつけることができないのです。そのため若干15歳にして深い孤独に生きることを選びます。

青鹿晶子をはじめ、彼の孤独に手を差し伸べる人間を拒絶するたび、犬神明は自己嫌悪に陥ります。周囲の人間を傷つけたくないという彼の優しさと、狼の孤高の精神、そして素直な感情との間で苦悩する少年犬神明は、やはり本物のヒーローなのです。それゆえに、胸のすくような後半のアクションシーンでは喝采を送りたくなってしまいます。

なお、犬神明という同名の成人した狼男が主人公の大人気シリーズがあるのですが、こちらは「アダルトウルフガイ」シリーズと呼ばれるもので、同一人物ではありません。

サイボーグ特捜官の苦悩と選択を描く平井和正の作品

平井和正といえば、「ウルフガイ」シリーズや「幻魔大戦」シリーズが有名ですが、この『サイボーグブルース』が一番好きというファンも多いサイボーグ物の名作になります。

主人公の黒人アーネスト・ライトは、同僚の警官に熱線銃で撃たれて殉職した元警官です。彼はサイボーグ特捜官となるべく、わずかに残った脳を機械の身体に移植され、死の世界から呼び戻されました。

そうして彼は、ロボット高速戦車をも破壊し、電子加速状態に入れば数十分の一秒間に複数の人間の腕をもぎとることが可能な超強力サイボーグとなります。しかし、自らをまがまがしいブラック・モンスターと呼び嫌悪しているのです。

同僚の裏切りによって肉体を失った事への恨み、終わりのない人間世界の不条理への憤りが、アーネスト・ライトの精神を蝕んでいきます。人類への憎悪と不信が膨れ上がったとき、アーネスト・ライトは、べつの人類であるダーク・パワーという超能力集団と出会うのです。

著者
平井 和正
出版日

全体として、ゴツッとしたハードボイルドテイストの作品です。荒廃し、救いの光も見えない世界、孤独でアウトローな主人公の心境などが「ブルース」というタイトルとも相まって、物悲しいダーティなムードを際立たせています。

「この小説を書かせたのは、僕の裡なるエイトマンなのである」(『サイボーグブルース』あとがきより引用)

1960年代に大ヒットした『8マン』では描くことが許されなかった、ダークサイドをクローズアップした小説であることを、あとがきで明かしています。
 

 

 

本作には、連作短編5作が収録されています。

1章の「ブラック・モンスター」には、「サイボーグ捜査官」という原作があり、そちらは日本が舞台になっているためか、少し昭和レトロ感が漂っていますが、表題ともなった2章の「サイボーグ・ブルース」は、謎めいた展開で、ハードボイルドなミステリーとしても楽しめるでしょう。

他の章で登場するロボットやサイボーグといったキャラクターも、それぞれに苦悩や葛藤を抱えていて、技術が進んだ今だからこそ、人間らしさとは何か、人間とは何かを改めて考えさせられる作品です。

 

救いのない世界?残虐は人間の性なのか

タイトルは、まるでホラー、オカルト小説のようですがSF作品です。ミリタリーSFのカラーが強めで、サバイバル、寄生モノの要素も含んでいます。骨太で読み応えのある一冊です。

元々、マンガ『デスハンター』の原作として書かれたものを、『死霊狩り』というタイトルで書き直した作品で、後に再漫画化もされました。全3部作のうち本作が一作目です。

不死身の元レーサー田村俊夫は、十万ドルの報酬と引き換えに、あるテストを受ける事を承諾します。俊夫が連れて行かれたのは、軍事要塞のごとき絶海の孤島です。そこには俊夫のほかにも千人以上の人間が集められていました。工作員、テロリスト、殺し屋、国籍も信条も異なる彼らに、唯一共通するのは、強靱な肉体を持っていること、そして容易には死なないことでした。

ジャングルでの過酷なサバイバル、さらに苛烈な訓練生活が続き、人数は激減。ようやく生き残ったメンバーに、真の目的が告げられます。彼らは、宇宙からの侵略者に憑依された操り人間、生ける死人(ゾンビー)を狩るために養成されたゾンビー・ハンターだったのです。

著者
平井 和正
出版日

発表から数十年が経た今読み直しても、古臭さを感じさせず、のっけから息詰まる展開に惹き込まれます。

とんでもなく凶悪なキャラクターがぞろぞろ登場しますが、「生存試験」の中にあっては人間らしく思えてくるから不思議です。もしかするとそれは、救いのない物語の中でも何か光を見つけたい、という読者側の願望なのかもしれません。

悪とは何か、人間らしさとは何か、と読み手に試練を課すように極限状態が続き、勧善懲悪では片付かない物語です。差別や暴力といった人類の闇の部分が存分に描かれています。しかし、重いテーマが内包されているとはいえ、スリリングな展開や壮大なスケール感など、まさに圧巻のエンターテイメント作品です。

天才二人の合作!壮大壮絶な大人の時代物SF

平井和正の代表作にして大ヒット作といえば「幻魔大戦」シリーズ。この『新幻魔大戦』は、マンガ『幻魔大戦』(石ノ森章太郎との共作)の打ち切り後、同じく石ノ森章太郎との共作で、新たな「幻魔大戦」として世に送り出されました。

女子大生の香川千波は、怪しげな店で出されたESP賦活剤という幻覚剤を口にしたことがきっかけで強力な超能力に目覚め、世界の終末を予知します。異次元ともわからない世界から現れた、幻魔という無差別無制限の破壊を繰り返す一族が地球へ侵攻してきた死滅世界です。

香川千波と同様に、幻魔の侵攻を察知していた超能力集団がいます。ベアトリス王女率いるエスパー戦士団です。王女はタイムリープ能力を持つ江戸娘お蝶と、さまざまな知識を持つ千波を融合し、複合人格を持つお時という人物をつくり過去へと向かわせます。

お時の使命は、幻魔に対抗できる強力な超能力の家系をつくり、人類の歴史を変えることです。ここから舞台は江戸時代に移り、史実も取り入れながら壮絶な時代物SFが展開されていきます。

著者
["平井 和正", "石ノ森 章太郎"]
出版日
2009-10-09

「幻魔大戦」シリーズは、平井和正と石ノ森章太郎という同年生まれの人気作家が作り上げた、累計2000万部超のメガヒットシリーズです。

しかし、石ノ森章太郎が著書の中で「10年早すぎた」と語っているように、最初の『幻魔大戦』は『少年マガジン』での連載が一年ほどで打ち切りになってしまいます。

その後、同じペアでSF小説誌『SFマガジン』で連載を開始したのが『新幻魔大戦』です。

作品には、実在の人物をモデルにした悪漢キャラクターたちや、犬神一族、妖術使いなどが惜しげも無くてんこ盛りに登場します。幻魔と対抗するという以上に、江戸時代へタイムリープしたお時の目を通して描かれる、時代物的な波瀾万丈の冒険活劇が魅力です。

『幻魔大戦』は、もともと少年マンガとして誕生しましたが、この作品には成人向けの描写も多く、マンガや映画の『幻魔大戦』のイメージで読むと驚くかもしれません。二人の巨匠が手がけた大人向けの時代物SF、それが『新幻魔大戦』なのです。


「幻魔大戦」シリーズについて詳しく知りたい方は<「幻魔大戦」シリーズの魅力を全編ネタバレ解説!名作漫画は今でも面白い!>をご覧ください。

平井和正のエッセンスが詰まった短編集

表題作「悪徳学園」を含む、平井和正の初期短編を5編収録した短編集です。

狼男、宇宙人、エスパー、サイボーグ、世紀末、と5編それぞれ扱う題材も異なっていて、関連性はありませんが、読みごたえのある作品が揃っています。平井和正ファンであれば必読の内容といえるでしょう。

短編なので、入門編として読むのもおすすめですが、ある程度人気シリーズを読んでからですと、作品や作者への理解が深まり、さらに面白いかもしれません。

著者
平井 和正
出版日

ここでは、5編の読みどころを紹介します。

表題作の「悪徳学園」は人気作品「ウルフガイ」シリーズの一作目、『狼の紋章』の原案となった作品です。『狼の紋章』の犬神明よりも少し大人びた印象かもしれません。

「星新一の内的宇宙(インナー・スペース)」は、ユーモア溢れた短編です。人類の暗部を描くハードボイルド作品の多い平井和正ですが、けして恐ろしい人物ではないということがよくわかります。実在のSF作家(今となっては巨匠揃い)が実名で登場しているので、SFファンならニヤリとしてしまうでしょう。

「転生」は、宇宙人と人間の純愛の物語です。自己犠牲をもいとわない無償の愛という点では『狼の紋章』の犬神明と青鹿晶子に通じるところがあります。美しく切ない物語です。

「親殺し」では、人類は絶滅の危機に瀕しています。我が子が親に刃をむけ始めるという、悪夢の世界が舞台です。

理由もわからず妻を我が子に殺された元刑事は、その復讐を誓っていました。しかし、自分以外のただ一人生き残りである元作家の男の命は、風前の灯火です。

「ぼくは、そのとき自分が人類の一員であることを恥じた」(「親殺し」より抜粋)

このセリフは、元作家である死にかけた男が、主人公である刑事に切々と語る長いセリフの一部です。

傲慢にも他の種族を絶滅に追いやり、我が物顔で地球に君臨する人類など、滅びて然るべきなのだ、と元作家は語り続けます。それは、愚行を繰り返す人類に対する平井和正自身の叫びでもあるのです。

『悪徳学園』収録の5作品は、情念の作家と呼ばれた彼のエッセンスが詰まった短編集になっています。

平井和正は、少年マンガやアニメの原作者としても、広く知られる作家です。けれどそうした原作では描くことの叶わなかった情念が、彼の小説作品には溢れています。

頑なともいえるほど真っ直ぐに、SF小説という手段で、愚かな人類の光を探し続けた平井和正ですが、どれほど多忙な日々でもファンレターへの返事を書き、ファンへの感謝を忘れなかったといいます。

人類の愚行をえぐりだすような作品の数々は、純粋で心の優しい彼の人間性の裏返しだったのかもしれません。

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