山田洋次のおすすめ代表作5選!多くの名作の脚本を務めた作家

更新:2017.7.23

「男はつらいよ」シリーズや『幸福の黄色いハンカチ』などで知られる日本映画界の巨匠、山田洋次監督。一貫して人間ドラマを描き続けるその真髄を読み解く代表作5作品を紹介します。

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原作から脚本まで手掛ける映画監督、山田洋次

 

山田洋次は、1931年生まれ。1961年に「二階の他人」で監督デビューします。その後、「男はつらいよ」シリーズでよく世に知られるようになりました。

そして「学校」シリーズや『小さいおうち』、『家族はつらいよ』など2017年現在も多くの作品を世に出し続けています。山田洋次は、自身で原作、脚本を書き、それをもとに映画を製作していますが、「釣りバカ日誌」シリーズではいくつか脚本を手掛けるなど脚本家としても有名です。

その作風は、一貫して人間ドラマを描いており、ユーモアを取り入れた日常生活の喜怒哀楽を自然に描いていくスタイルです。そして、忙しい日常の中でつい忘れがちな大切な「何か」をいつも思い出させてくれます。

 

戦争終結時の長崎を舞台にした、山田洋次の感動作『小説 母と暮らせば』

映画脚本『母と暮らせば』をもとに小説にした本作品。広島原爆投下から3日後の1945年8月9日、B29から投下された原子爆弾は、高熱と放射能で長崎市の街と市民を襲いました。

一人の母が、息子が死んで戻ってこないとあきらめていた3年後が物語の舞台。戦争、そして原爆という悲劇で息子を失った母のもとに、死んでしまった息子が突然現れます。
 

著者
["山田 洋次", "井上 麻矢"]
出版日
2015-12-04

物語は、浩二、浩二の母・伸子、そして浩二の婚約者・町子それぞれの視点で、描かれていきます。

原爆で体が消えてしまい、死んだことへの実感がない浩二。そして、息子が死んだことを受け止められずにいた伸子は、いつか浩二は帰ってくると信じて、浩二の婚約者だった町子と親子のように暮らしていました。

死んだはずの浩二が母・伸子の元に現れた理由とは、何だったのか……。ラストシーンは悲しくも、伸子にとって一番の安らぎを得られた瞬間なのかもしれません。

映画『学校Ⅳ』の完全ノベライズ『十五才』

ある日、不登校の少年、川島大介は、置き手紙を残して突然家出をします。

小学校の時に教科書で見た屋久島の縄文杉を見に行くために、ヒッチハイクで一人旅に出ます。そこで出会う人々は、大阪弁のトラックの運転手、引きこもりの青年、血気盛んな老人。それぞれの人生の中で、いろいろな事情を抱えて生きている人たちです。様々な出会いから大介は自信を取り戻し、再び学校へ戻っていきます。

著者
山田 洋次
出版日

大阪から九州に向かうため乗せてもらったトラック運転手のすみれには、引きこもりの息子、登がいます。家族とも話すことのない登ですが、大介とはすぐに打ち解け、登の趣味のジグソーパズルを一緒にして過ごしました。
 

夜通し、お互いのこと、好きだった人のことを話した二人。大介が、屋久島へ出発する日の朝、いつもは、昼まで起きない登が、裸足で大介を追いかけてきます。そして、船のジグソーパズルを大介に渡しますが、裏には、大介に向けた詩が書かれていました。

その詩には、他の人と同じように生きるのではなく、ゆっくりと自分のペースで生きていけばいいという思いが込められています。

それまで、親や先生など周りの大人への不満、素直で賢い子だけがいい子と言われることへの反発、学校へ行くことへの抵抗感でいっぱいだった大介ですが、自分が守られていたことに気づき……。旅を通していろいろな境遇の人との出会いで、大介は少しずつ成長していくのです。

かつて15歳だった人たちには懐かしく、15歳をこれから迎える少年少女には心に響く作品となるでしょう。

「学校」シリーズはこうして生まれた『「学校」が教えてくれたこと』

本作は、山田洋次が、「学校」シリーズを制作するきっかけとなった夜間中学との出会いから始まるエッセイ本です。映画『学校』のシーンを交えて、名シーンやセリフが生まれた背景が描かれていきます。

何らかの事情で中学や、小学校も行けなかった人たちが、昼間仕事をして、夜間中学に通っています。山田洋次は実際に夜間中学で授業を受け、働く先生方と共に映画「学校」を作りました。

著者
山田 洋次
出版日

映画『学校』に出てくるイノさんのように大人でも字が書けなかったり、読めなかったりする人は実際にいることがわかります。駅で切符を買えない、病院に行っても標識が読めないなど日常生活で大変な苦労があることを山田洋次は、この学校を通して初めて知ったそうです。

しかし、夜間中学では皆、似たような境遇であり、そのことを隠すことも恥ずかしがる必要もありません。そして、先生方は生徒一人一人に合わせたカリキュラムを組み、生徒と向き合っています。
 

そういった事実を背景に映画『学校』が作られています。映画「学校」シリーズが好きな人には、作品の背景を知ることができる内容となっていますので楽しめるのではないでしょうか。

シリーズの一作『学校Ⅱ』は、養護学校を舞台にした作品ですが、同じように、北海道にある養護学校をモデルにしています。映画に出てくる少年は、実際に出会った同じ少年がモデルとなっていることも。

本を読んだあとに映画を再見してみると、また違った発見があるかもしれません。

柳家小さん師匠に捧げる『放蕩かっぽれ節-山田洋次落語集』

子供の頃から落語ファンという山田洋次は、人間国宝となった今は亡き、5代目柳家小さん師匠に、「真二つ」、「頓馬の使者」、「目玉」の3作品を提供しています。この3作品と、さらに落語を下書きにした作品3本が収録された本書。落語ならではの人間の欲や性(さが)をユーモラスに描いています。

著者
山田 洋次
出版日

中でも、「頓馬の使者」という作品は滑稽で、夫婦の真髄について描かれています。

結婚は人生の墓場なり、なんてえことを申します、というまくらで始まります。舞台は江戸の昔。女房に心底首ったけの男がいました。この男、八公が出来心で女郎買いをしてしまって、さあ大変。泣いて詫びる亭主を烈火のごとく怒ったおきくは亭主を追い出しました。しかし、その亭主の留守中に、おきくは流行病で死んでしまいます。

馴染みの熊さんはそそくさと八公のところへ、女房が死んだと伝えに行くのです。しかし、おきくと離れ離れになり、夜も眠れない、道端でわんわん泣いてしまう八公にすんなり、死んだとは到底言えないのです。それどころか、生きてると嘘を言ってしまいます。八公はおきくが死んでしまったのではと疑うものだから、じゃあ、会いに行こうと長屋へ二人で行くことに……。

この話のオチで、まくらの意味がよくわかります。可笑しくも皮肉なお話です。他にも「真二つ」はこの題目がまさにオチ。欲ばかり求めて元も子もなくなるお話です。そして「目玉」は一代で財を成した問屋の奇想天外な物語。この3作品は、柳家小さん師匠が高座に上げていらっしゃいますので、読み終わってから聞いてみてはいかがでしょうか。

山田洋次の原点『映画館(こや)がはねて』

幼少期を満州で過ごした山田洋次。その生い立ちから映画監督になってからのことなど、エピソード毎にまとめられた本作品。戦後を経験した作者ならではの視点で描かれたユーモア溢れる内容です。

著者
山田 洋次
出版日

いくつかある見出しの中で「寅さんはなぜ新幹線に乗らないか」というのがあります。寅さんは、日本各地を旅して露天商をして生計を立てています。けれど、寅さんの乗り物はいつもバスか鈍行列車。飛行機はおろか、新幹線も特急にも乗ったことがないそうです。もちろん経済的な理由が一番にしても、手持ちに余裕があっても「寅さんは決して新幹線には乗らないだろう」というのです。

その理由は、早く着いてしまうから。効率化と真逆の発想ですが、寅さんの性格を考えると納得がいきます。

山田洋次の作品に、共通していること。それは人間をありのままに受け入れる寛大さのように思います。人間はダメなところもあるけれど、思いやることもできる、と。人生は捨てたもんじゃないと希望を持たせてくれます。そんな5作品をぜひ読んでみてください。