2015年から創刊された講談社の新レーベル『講談社タイガ』にて、『化物語』『掟上今日子の備忘録』などで知られる西尾維新の新シリーズが発売中です。5人の美少年に囲まれた少女の危険な日々を描く、爽快青春ミステリーをご紹介!
『化物語』をはじめとした「物語」シリーズ、ドラマ化された『掟上今日子の備忘録』で知られる「忘却探偵」シリーズなど、ファンの多い西尾維新。文字というより、鮮明な映像を見ているような文章が印象的です。
講談社の新レーベル『講談社タイガ』の創刊にあわせて、西尾維新による「美少年探偵」シリーズは始まりました。 大人気PCゲーム「刀剣乱舞」などのイラストを手掛けるキナコによる表紙が素敵で、表紙買いする人もいるかもしれません。全巻集めて並べてみるとぱっきりした色が壮観ですよ!すべての巻が薄めであり、手に取りやすく読みやすいのも魅力です。
主人公は私立指輪学園に通う少女、瞳島眉美(どうじままゆみ)。彼女はある理由から、美しい目を褒められることを嫌っています。ある夜、とある「探し物」をきっかけに彼女は「美少年探偵団」と名乗る5人の美少年と関わることになりました。
美少年探偵団とは、校内のトラブルを秘密裏に解決することで知られている謎の団体。自ら名乗るだけあり、メンバーは5人ともすばらしい美少年なのですが、だれもかれも個性が強すぎて「実はほとんどすべてのトラブルの元凶ではないか」と噂されるほど……。
5人の美少年に囲まれた一人の少女の、美しくにぎやかな日々を描いた青春ミステリーです。
西尾維新のファンはもちろん、「思ってもみなかったどんでん返しが読みたい!」「濃いキャラクターが出てくる話が好き」という人には特におすすめできるシリーズです。 また、「物語」シリーズの読者もつい吹き出してしまう小ネタも随所にちりばめられているので、ファンの方も手に取る価値があります!
では、1巻から順にご紹介していきましょう。
10年前に一度だけ見た星を探している少女、瞳島眉美。
その星が見つからなければ自分の夢をあきらめることを、眉美は両親と約束していました。そして今夜がその、10年めで最後の夜だったのです。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2015-10-20
「十年前に見た星を探している」という眉美に、救いの手をさしのべたのは双頭院学(そうとういんまなぶ)。なんと彼こそが、校内で噂になっている「美少年探偵団」の団長でした。
彼らの根城である美術室へ連れてこられた眉美は、そこで七色の声を持つ生徒会長・咲口長広(さきぐちながひろ)、おいしすぎて吐き出してしまう料理を作る不良・袋井満(ふくろいみちる)、女子が自分の足を出せなくなってしまったほどの美脚を誇る足利飆太(あしかがひょうた)、超絶技巧の寡黙な芸術家・指輪創作(ゆびわそうさく)といった、5人の個性的な探偵団のメンバーと対面します。
感心するのは、眉美も含めて6人のメンバーがいるにも関わらず、誰も埋もれていないということ。西尾維新の物語は全て特徴的な言い回しと濃いキャラクターがウリですが、本シリーズもその魅力は健在です。
タイムリミットはあと1日。それまでに眉美が10年間探し続けた「星」を、美少年探偵団は見つけられるのでしょうか。そして「星」の正体とは?眉美の秘密とは……?
第1巻は眉美と探偵団の面々の出会いがメインであり、読みはじめでは個性的な美少年たちと比べて眉美のキャラが薄く感じられるかもしれませんが、「地味な女の子が美少年たちに囲まれる」というハーレムストーリーでは断じてありません!それどころか、眉美はメンバーの中でも一番キャラが立っています。
個性豊かな面々と主人公・眉美の出会いが描かれた1巻。謎解きだけでなく、犯罪組織との冷や汗握る攻防戦も見どころです。
通学途中、眉美はひとりのサラリーマンとすれ違います。少々「不自然」なサラリーマンは、上着のポケットからスマートフォンを取り出したのと一緒に、何かを落としてしまいました。
問題は、その落とし物が「ぽとり」じゃなくて「どさり」だったこと。
なんと彼が落としたのは100万円の札束ではありませんか!!
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2015-12-17
通りすがりに100万円を落とされたら、誰だってびっくりします。現金100万円をポケットで持ち歩くサラリーマンなんてそうそういません。
さて、100万円を横領することなく持ち主に返した眉美は、お礼として10万円を渡されます。しかしその札束は、全てよくできた偽札だったのです。しかも、お金の中にまぎれこんでいたのはカジノの招待状。なんとそのカジノは、ライバル校の体育館で開催されていて……!?
本作で登場する新キャラクターの札槻嘘(ふだつきらい)は、指輪学園のライバル校・髪飾中学校の生徒会長です。本作だけでなく次巻以降も要所要所で姿を現します。シリーズを通して人気が高い、胡散臭く食えないぺてん師であり、ビジネスマンな少年です。本作では彼が運営するカジノを潰すべく、美少年探偵団が動きます。
今回は副団長の咲口長広が大活躍!……するのですが、それ以上に眉美のツッコミがキレキレです。
才色兼備の美少年でさえ残念にしてしまう、冴え渡るツッコミで分かるように、1巻ではおとなしめだった眉美の本性がじわじわと出てくるのが、非常に楽しい部分です。10年間星を探し続けたというエピソードから、てっきり可憐なところがあるのかと思いきや、実は彼女けっこう辛辣な少女でした。
「瞳島さん。美少年探偵団の招集令です――今日は何をおいても、美術室にお出でください」(『屋根裏の美少年』から引用)
美術室の改装をすることになった美少年探偵団のメンバー。しかし、部屋の天井から33枚もの絵を発見されました。名のある画家が描いたといわれても納得でいてしまうほどの、美しい絵の数々。しかし、それらの絵にはどうしても拭えない違和感があって……?
- 著者
- ["西尾 維新", "キナコ"]
- 出版日
- 2016-03-17
絵を観察していたメンバーはあることに気付きます。それは「人物がいない」ということ。
まさか絵の中から人を誘拐したのでは……?
絵の謎は徐々に、7年前に学園で起こった不可能誘拐事件に結びついていきます。つまり、今回はその奇妙な誘拐事件の謎解きです。さらに2巻で登場した札槻嘘も再登場し、なんと眉美をスカウトします!彼に引っ掻き回され、探偵団のメンバーはどんな反応を示すのでしょうか?
絵に関する謎解きももちろん爽快ですが、3巻の読みどころは眉美が探偵団の一員になっていく過程です。
2巻でも眉美の本性が出てきているとご紹介しましたが、3巻は言葉遣いだけでなく眉美の探偵団に対する姿勢そのものが描かれています。1巻で読んだ眉美がもはや別人かと思うくらい個性が立ってきているのは、「依頼人」だった眉美が、美少年探偵団の「一員」になってきていて、それに応じて彼女の心もどんどんオープンになってきているからなのでしょう。
仲良しこよしをするだけが仲間ではありません。随所で団長の口ぐせ、「最悪の状況でも、最高のチームでいよう」というセリフは、読者の心の奥に残ります。
特に今回注目なのは、生足君こと美脚の足利飆太です。普段ふわふわしている言動が目立つだけに、今作では彼の、眉美への向き合い方が胸にせまってきます。眉美が本当に探偵団の一員になる過程は、彼女が10年間星を見つめ続け、孤独を味わった過去を知っているからこそ、ほろりときてしまうのです。
ある日、眉美は廊下で座敷童を見かけます。和服を着てしずしずとこちらへ歩いてくる美しい少女。まるで百合の花のように気品漂う歩みでやってきた少女は、眉美を見上げてこう言い放ちました。
「どけや、貧困層。ひき殺されてえのか」(『押絵と旅する美少年』から引用)
- 著者
- ["西尾 維新", "キナコ"]
- 出版日
- 2016-09-21
4巻は、今までのシリーズの中でも特に突拍子のない始まり方をします。冒頭から可憐な少女の暴言が出たかと思えば、なんと探偵団の拠点である美術室には、人の背丈ほどある巨大な羽子板が!?
探偵団は、この羽子板は眉美が廊下で出会った和服の美少女が持ってきたのではないかと考えました。眉美からその少女の特徴を聞いて、騒がしい彼らが全員そろって沈黙。そして、双頭院は言います。
「その子は川池湖滝という――ナガヒロの婚約者だ」(『押絵と旅する美少年』から引用)
というわけで4巻は、生徒会長・咲口長広の婚約者がメインのお話です。実は前回までちらほらと話には出ていたのですが、実像はいまいちわからなかった婚約者の正体が、やっと明らかになります。
さて、湖滝はどうやって巨大羽子板を美術室に持ち込んだのでしょうか?そして気になる咲口との婚約は、一体どういう事情なのでしょうか?
冒頭の悪口雑言が印象的な湖滝に、眉美も完全に及び腰です。毒舌のレベルを越えた鋭い言葉遣いは、読者もひるんでしまうほど。しかし、読み進めると彼女がかわいく思えてきちゃうのが不思議なところなのです。
ラスト数ページで誰しも湖滝にときめくことでしょう。最後の一行を読み終わるころには、きっとあなたも湖滝をかわいいと思ってしまいます。
前作の事件(勝手に美術室に羽子板を持ち込まれた)により、美少年探偵団は美術室のセキュリティ強化を考えます。
まずは行方不明になっている美術室の鍵を手に入れようと、冬季合宿と称して鍵の持ち主に会いに行くことにしました。その相手は、指輪学園を追放された元美術教師・永久井とわ子。彼女は島にこもって芸術活動をしていたのですが……描き上げたのは、「見えない絵」でした。
- 著者
- ["西尾 維新", "キナコ"]
- 出版日
- 2016-10-19
今回の舞台は指輪学園ではなく、野良間(のらま)島。普段美少年探偵団が拠点として使い、改造の限りを施した豪華な美術室の、以前の持ち主が登場します。
美術室の鍵を持っているその女性は、永久井とわ子(とわいとわこ)。探偵団の団長・双頭院に「我々の先駆者」と言わしめる奇想天外な彼女は、現在無人島に一人こもって「自然を超える不自然」をテーマに作品制作をおこなう芸術家なのでした。
彼女は7年の歳月をかけ、島そのものをカンバスに5枚の絵を完成させます。
「あんたらも探偵団を名乗るなら、あたしの描いた5枚の絵を、この島にいる間に見つけてみてよ」(『パノラマ島美談』から引用)
永久井にそう提案された探偵団は、島にある5つの美術館に1枚ずつ置いたというその絵を探すことに。しかしその絵は眉美にも「見ることができない」不思議な仕掛けが施されていて……!?
眉美の目でも見ることができない絵。どんな仕掛けが施されているのか、その謎解きも気になるところです。美少年探偵団と名乗ってはいますが、実はメンバーそれぞれにはそこまで推理力があるわけではありません。しかしそれが、読者と同じ目線で絵画を見ている気分にさせてくれて心地いいのです。
謎が解けたときは、自分が考えたようにすっきりできます。いわゆる本格ミステリは苦手でも、手軽に騙される快感を味わいたい人にはもってこいなのがこの5巻です。
また、この作品の見どころは、眉美と探偵団メンバーとの1対1の会話です。絵一枚につき一人、短編集のように語られています。今までの「美少年探偵団」という組織としてでなく、メンバー一人一人としてスポットライトが当たる本作は、シリーズのなかでも貴重な一冊です。
メンバーそれぞれの内面を読みたい!という人は待ちに待った内容でしょう。特に普段ほとんど口を開かない指輪創作とのやりとりは必読ですよ。
美少年探偵団の副団長であり、私立指輪学園の生徒会長でもある咲口長広。彼の卒業が近づき、学園では新しい生徒会長を決める選挙が始まります。ほぼ出来レースで、副会長だった少女が当選確実だと思われましたが、なんとその少女がD坂でひき逃げに遭ってしまったいました!
事件解決のため、美少年探偵団が画策したのは、眉美を生徒会長にすることで……!?
- 著者
- ["西尾 維新", "キナコ"]
- 出版日
- 2017-03-22
D坂で起きた交通事故に巻き込まれたのは、最有力生徒会長候補だった少女・長縄和菜(ながなわわな)。現副会長として咲口を支えてきた才女が選挙に出られなくなってしまい、さすがの咲口も頭を抱えてしまいます。
もしかしてこのひき逃げ事件は、長縄の立候補を取り消すための何者かの策では?と考えた美少年探偵団は、事件の真相を探るため、そして平和な学園生活のために、なんと眉美を会長に立候補させることにしました。美少年探偵団の創設者や新たな敵が登場し、見どころ満載の6巻です。
今回、登場する美少年探偵団の適役は、今までの「犯罪組織」や「ライバル校」とは雰囲気が違います。話が通じるようには見えず、平気で人を殺そうとする存在です。その上、正体がうまく見えない謎だらの相手なのです。日常の中にいきなり、突然非日常的な恐怖を出現させるという、西尾維新らしい展開です。
この危険な存在が、どう探偵団に関わってくるのでしょうか?これまでの和気あいあいとした雰囲気から一転、シリアスな展開になる場面も出てくるかもしれません……。
そして、そうなったとき、探偵団は今のままでいられるのでしょうか。かつて誰もが体験した「青春」を思い出して、くすぐったくほろにがい気分になるような、そんな一冊です。
メインキャラがこぞって個性的なのに、加えて毎巻さらに個性的なキーパーソンが次々に登場するシリーズ。予測困難な謎解きも楽しく、冒頭からは想像もつかなかったラストが毎回出迎えてくれる読み味が特徴です。
6巻が不穏な終わり方をしているだけに、今後の展開によっては探偵団に大きな危機が降りかかるかもしれません。彼らの絆とその個性でどう乗り切っていくのか、そしてどんな謎が待っているのかが楽しみですね!
キャラクターたちの謎もまだまだ残されています。これまで出てきたキャラクターも、これから出るであろうキャラクターも待ち遠しい西尾維新ワールド。ぜひ、みなさんも手に取ってみてください。