「物語シリーズ」を筆頭に数々のヒット作を世に送り出してきた西尾維新といえば、独特の言い回しで真理を導く言葉遊びが特徴でしょう。しかし彼の魅力はそれだけではありません。怪異ものからミステリー、ファンタジーまで多彩なジャンルにまたがる作品のなかから、とくにおすすめの10作をランキングでご紹介します。
2002年に『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』でメフィスト賞を受賞したことをきっかけにデビューした西尾維新。代表作の「物語」シリーズをはじめ、巧みなセリフ回しや毒をもった会話、独特のキャラクター性といった特長のある作品を手掛けています。
かなりの速筆で知られ、デビュー作の主人公を語り手とする「戯言」シリーズや、アニメ化された「物語」シリーズ、テレビドラマにもなった「忘却探偵」シリーズなど発表した作品は数えきれないほど。
また執筆のかたわら旅行に出かけるのが好きだそうで、彼の作品に旅をモチーフとしたものが多いのも頷けます。
2006年に「このライトノベルがすごい!」で「戯言」シリーズが1位を獲得したほか、2009年からは「週刊少年ジャンプ」で『めだかボックス』の原作者として連載を開始するなど、人気と実力の高さがうかがえます。
西尾維新が原作を手掛けた短編漫画「どうしても叶えたいたった一つの願いと割とそうでもない99の願い」の前日譚として描かれている本作。イラストは『聖☆おにいさん』で有名な中村光が担当しています。
12年に1度開催される「十二大戦」というバトルロイヤルに、「十二支」の名を冠する12人の異能の戦士たちが集まり、命を懸けて戦う様子が描かれています。
彼らが必死になる理由はただひとつ。大戦の優勝者には、どんな願いもひとつだけ叶えられる権利が与えられていました。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2015-05-19
とにかく12人のキャラクターたちが魅力的。脳内で100通りのシュミレーションをして最良のひとつを事実にできる子の「寝住(ねずみ)」や、体内で毒薬をつくり出せる戌の「怒突(どつく)」、弾切れせずに銃を乱発できる亥の「異能肉(いのうのしし)」など、それぞれ特殊能力を持っています。
自身の能力を駆使して、自分の願いを叶えるために頂点を目指す姿は、滑稽でありながらもひたむきで、つい感情移入してしまうのです。
戦闘シーンの迫力や優勝争いのスリリングな展開はもちろん、個性的な12人のやりとりや背景を楽しみながら読み進めることができるので、きっとお気に入りのキャラクターを見つけられるでしょう。
指輪学園中等部で秘密裏に活動している「美少年探偵団」の活躍を描いた本シリーズ。彼らは校内のトラブルを非公式かつ非公開、そして非営利に「美しく解決」する探偵団です。
団則は、
一、美しくあること
ニ、少年であること
三、探偵であること
四、団(チーム)であること
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2015-10-20
彼らは団則にのっとって華麗にトラブルを解決していくのですが、その一方ですべてのトラブルの原因をつくっているのもまた事実。
しかも秘密裏と銘打ってはいますが、主に校内の事件を取り扱っているため、一部の生徒には活動内容も構成メンバーもバレバレ。 クセモノ揃いなので依頼人たちは恐れをなして口をつぐんでいますが、全校生徒から鼻つまみ者として扱われてもいるのです。
主人公の瞳島眉美(どうじままゆみ)は、あることをきっかけに彼らと深く関わるようになり、なんと男装をして探偵団に入団。
さて彼らは今日も、どんな問題を起こし、どのように解決していくのでしょうか。
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2015年から創刊された講談社の新レーベル『講談社タイガ』にて、『化物語』『掟上今日子の備忘録』などで知られる西尾維新の新シリーズが発売中です。5人の美少年に囲まれた少女の危険な日々を描く、爽快青春ミステリーをご紹介!
人類vs地球の戦争を描いた一大巨編の「伝説」シリーズ。「大いなる悲鳴」と呼ばれる原因不明の災害によって人類の3分の1が死滅してしまった世界を舞台に、「人類を滅ぼそうとする地球」と戦います。
主人公は、何事にも動じない無感動な少年・空々空(そらからくう)。その素質を見初められ、地球撲滅軍に加入することになりました。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2012-04-26
中学生の空は、「大いなる悲鳴」で生き残った3分の1の人類。家族や友人、学校などを失いましたが、それでも感情が揺さぶられることはありません。
自分の心に支配されず、事実を事実として受け止めることしかできない彼は、日本政府公認組織の「地球撲滅軍」にスカウトされました。
「地球撲滅軍」は、「人類を守れるなら最悪地球がどうなっても構わない」というスタンスで任務を遂行していきます。「1のために100を犠牲にする」という概念で、通常のヒーローものとは違うベクトルの正義を描いているのが魅力でしょう。
また、本来であれば主人公が「地球を滅ぼすヒーロー」として活躍するはずなのに、空には感情の揺れがほとんど見られないため、およそヒーローらしく描かれていないのもポイント。
空虚であることに苦悩する空は、「地球撲滅軍」として戦うことでどう変わっていくのでしょうか。そして戦いの行方は?先が気になって次々とページをめくってしまうシリーズです。
魔法が存在する佐賀県を舞台にくり広げられるファンタジックアドベンチャー。「魔法の国」と呼ばれている長崎県から、魔法少女のりすかがやってきて、供犠創貴(くぎきずたか)という少年と出会い、物語が動いていきます。
りすかは、自らの血を媒介にして魔法を使うことができる少女。そんな彼女を創貴は「駒」とみなし、利用するために行動をともにするようになるのです。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2004-07-17
2人はりすかの父親を捜しながら、人間に悪事をはたらく魔法使いを倒す「魔法狩り」をおこない、絆を深めていきます。
やがて彼女の父親が企んでいる「箱舟計画」に加担する者の存在が見えてきて、その足取りを追って佐賀県を出るのですが……。
父親を探すために旅をするりすかと、尊敬する父親を超えるために旅をする創貴。知らず知らずのうちに「箱舟計画」へと巻き込まれてしまっている2人の運命から目が離せません。
2007年に3巻が発売されて以来物語は止まってしまっているので、続きが気になるところです。
主人公は櫃内様刻(ひつうちさまとき)と串中弔士(くしなかちょうし)の物語が交互にくり広げられる本シリーズ。舞台は同じ世界観なものの、共通して登場するのはヒロインの病院坂黒猫(びょういんざか くろねこ)だけです。
「病院坂」と名のつく一族と、それに関わる人間たちが巻き起こすさまざまな騒動が描かれています。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2007-10-10
1作目の『きみとぼくの壊れた世界』では、様刻が溺愛している妹の夜月(よるつき)に対し、ちょっかいを出してくる男子生徒に制裁を加えたところ、その翌日男子生徒が死体となって発見されるところから物語が展開していきます。
2作目の『不気味で素朴な囲われた世界』では、分針が止まった時計塔を有する学園を舞台に、弔士がふとしたことから殺人事件に巻き込まれていくのです。
次々に事件が起きる学園ミステリーを2つの視点から楽しめる作品になっています。
西尾維新を代表する「戯言」シリーズと同じ世界観をもったスピンオフ作品。
殺人鬼集団「零崎一賊(れいざきいちぞく)」の面々が主役を務めます。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2011-12-15
「殺し名三位」という圧倒的な殺人能力を持つ集団が「零崎一賊」。彼らに血の繋がりはなく、それなのにお互いを「家族」のように認識し、異様な結束力を見せるのです。誰かひとりが傷つけられると、一賊みなで復讐に乗り出し、ターゲットとその関係者を殺していきます。
零崎一賊の長兄である双識(そうしき)は、人に出会うたびに「人間試験」なるものを実施し、不合格と判断した者を惨殺する非道なことをしていました。また女性を過度に褒めちぎる傾向があり、特に女子高生の制服に熱弁をふるう変態でもあります。
残酷だけど、どこか人間味にあふれていているところが魅力なのでしょう。
「大河ノベル」の企画として、12ヶ月連続で発売された本シリーズは、西尾維新初の時代小説。堅苦しい表現はほとんどなく、SFの要素も交えて読みやすく仕上げられています。
物語の舞台は、「尾張時代」と呼ばれる架空の中世日本。刀をまったく使わない流派「虚刀流(きょとうりゅう)」の7代目当主である七花が、伝説の刀鍛冶・四季崎記紀(しきざききき)が鍛えた12本の刀を集める旅に出発します。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2007-01-10
「虚刀流」は、主に手刀や足刀を使う拳法のこと。作中では「剣法」と記してあります。
実は開祖に剣術の才能がまったくなかったためにはじまった流派なのですが、同じく刀の才能の無い七花が12本の「刀」を巡る運命に振り回されていくのは皮肉なもの。
そこに、七花の父親に自らの父親を殺されたとがめという少女が現れ、2人で旅をすることになるのですが……運命に翻弄されつつ徐々に心の距離を近づけていくさまが見どころになっています。
西尾維新のデビュー作を含めた一連のシリーズ。当初は主人公の「ぼく」の周りで起きる殺人事件を解決する推理小説として描かれ、徐々に異能者とのバトル小説へとシフトしていきます。
随所にちりばめられた登場人物たちの言葉遊びが面白く、読み応え充分。またシリーズものではあるものの、ネタバレをしないように配慮されているため、どの巻から呼んでも問題なく読み進められる構成にも脱帽です。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2008-04-15
主人公であり語り部でもある「ぼく」。本名は明らかにされていません。「戯言遣い」とか「いーちゃん」「いーたん」などさまざまな愛称で呼ばれています。
京都の鹿鳴館大学に通っている「ぼく」は、友人で天才お嬢様である玖渚友(くなぎさとも)のつきそいとして、日本海に浮かぶ孤島に行きました。天才ばかりが集められたその場所で、首切り殺人事件が発生。「ぼく」は事件を解決しようと推理するのですが……。
ミステリーものからバトルものへとシフトしていく過程で、「ぼく」と友の関係性も強固なものとなっていきます。共依存関係が切なく、心を揺さぶられるでしょう。
ほぼ1日で事件を解決へと導いてしまう探偵の掟上今日子(おきてがみきょうこ)。
一切メモを取らず、捜査の内容をすべて記憶してしまう超記憶の持ち主ですが、眠った瞬間にすべてを忘れてしまう「忘却探偵」でもありました。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2014-10-15
作中で語り部も務めている隠館厄介(かくしだてやくすけ)は、幼い頃から行く先々で事件に巻き込まれる厄介な性分をしています。しかも必ずと言っていいほど巨悪犯罪に遭遇し。あまつさえ犯人と疑われてしまう始末……。
身の潔白を証明するために懇意にしているのが、掟上今日子です。
探偵としての信頼は、やがて好意へと変化していきますが、眠るとすべての記憶がリセットされてしまう彼女からは毎回「はじめまして」と挨拶される切なさ。
事件のトリックはもちろん、2人の関係性に注目しながら読んでみてください。
「忘却探偵」シリーズについてはこちらの記事で紹介しています。
『掟上今日子の備忘録』から始まる「忘却探偵」シリーズを全巻ネタバレ紹介!
眠ると記憶が失われてしまう白い髪の美女、掟上今日子。「忘却探偵」として名を馳せる彼女はあらゆる難事件をスピード解決に導きます。密室に暗号、叙述トリックと、王道なのに一癖も二癖もある本作。新垣結衣主演でテレビドラマ化、漫画化もされたその魅力に迫ります。
作者自身が「自信作」と評する「物語」シリーズ。21世紀初頭の日本の田舎町を舞台にして、「怪異」にまつわる少し不思議なストーリーが展開されます。
主人公は、春休み中に吸血鬼の眷属にされてしまった高校3年生の阿良々木暦(あららぎこよみ)。ふとしたきっかけで常人ならざる力を手にした彼が、さまざまな人と出会い、心の交流をしていきます。
- 著者
- 西尾 維新
- 出版日
- 2006-11-01
「吸血鬼」「おもし蟹」「迷い牛」などの「怪異」に巻き込まれてしまった暦。クラスメイトの秘密を知ってしまったことから、物語は大きく展開していきます。
戦場ヶ原ひたぎという少女は、高校生の平均的な体型をしているにもかかわらず、体重が5kgしかありませんでした。彼女の「体重喪失」にはある理由があるのですが……。
不思議な現象にはしっかりと理由づけがされているので、ただのオカルトではありません。出現した原因を探り推理していくので、納得感をもって読み進めることができるでしょう。
さらにアクションシーンやラブコメ要素もあって読みごたえ抜群。シリーズ累計23巻が発表されていますが、まだまだ続きが気になる作品です。
「物語」シリーズについてはこちらの記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
5分でわかる「物語」シリーズ!複雑に絡み合うシリーズを時系列順に解説【ネタバレ注意】
西尾維新の人気シリーズである「物語シリーズ」。第1巻となる『化物語』を始め、発表作はいずれも人気作となっていますが、発表順がそのまま物語の時系列になっていないのがこの作品の特徴の1つ。ここでは、物語上の時系列順に本をご紹介します。
作品を生み出し続ける西尾維新。まずは今回ご紹介したうちの一冊を手にっとっていただければ、たちまちはまってしまうこと請け合いです。