元祖肉食系女子と謳われる自由奔放で男性経験豊富な宇野千代。その美貌と、小説家としての才能、着物デザイナーとしての実績など彼女の話題は後を絶ちません。作品にも彼女の生き様は色濃く反映されており、女ならではの美しさを学ぶことができます。今回はそんな宇野千代の魅力が引き立つ5つの作品をご紹介します。
宇野千代は、小説家の尾崎士郎や画家の東郷青児など、多くの男性たちと恋愛を経験した、元祖肉食女子と呼ばれる小説家です。小説の執筆のほか、着物デザイナーや実業家、編集者としても活躍し、その多彩さは異彩を放ちました。
彼女独特の人生観は昭和・平成と多くの女性陣に愛され、女性向け自己啓発本の走りといえる本も執筆しました。常に明日を見据えながらも自由奔放に生きる宇野の生き様に感銘を受けたファンは多く、その作品はドラマ化するなど様々な形で受け継がれています。
幸吉とおはんは大変仲の良い夫婦として連れ立っていましたが、幸吉は芸者のおかよに惚れてしまいます。おはんは幸吉の想いが他の女に移ったことを感じ、自ら彼の元を去りました。
それから数年後、幸吉は、彼の息子を育てているおはんと偶然再会します。そして彼女とたびたび会うようになり、やがて愛情を取り戻していきます。
一方おかよは、幸吉との愛情を疑うことなく芸者置屋の発展のため意気込んでいて、まさか幸吉が元妻や息子と再び時間を過ごしていることなど気付きません。しかし、やがて全てが明るみに出る悲劇が彼女らを襲うのです。
- 著者
- 宇野 千代
- 出版日
- 1975-02-02
宇野千代が脚光を浴びるきっかけになった作品で、本人も「最高の出来」と評する代表作です。とにもかくにも男に尽くす2人の女性と、その間でどっちつかずで揺れる男との関係がリアルに描かれています。
男性独特の、複数の女性に愛を持っていることが正義というような風情と、それに巻き込まれながらも準ずる女性の姿。こんな一方的な関係性が成立するのも、男と女の関係の不思議なところ、と宇野千代は割り切っているのではないでしょうか。美しい方言や言葉遣いがちりばめられ、まるで絵を見ているような感覚で読み進められる、宇野の文才をしかと感じられる一冊です。
『生きていく私』は宇野千代が80年間の人生を綴った自叙伝です。宇野は酒屋の家に生まれ、少女時代は「千代さま」と言われて育ちました。芸能との出会い、化粧などを覚えていき、成長とともに女性になっていきます。
初めて男と交際をして以降、男と仕事の間を点々とする放浪の人生が始まります。宇野の恋愛は、魅力的な男を主体的に攻め落として虜にし、また次の男へ……という流れをくり返していくのです。そのなかには著名な作家、芸術家などが多数存在していました。
やがて文才やファッションの才能などを開花させていった宇野は、したたかに奔放に、かつ健康に生きていくのです。
宇野の自由奔放な生き方は、周囲にも大きな影響を与え、その頃は珍しかった女性のショートヘアを真似する女性も現れました。
- 著者
- 宇野 千代
- 出版日
- 1996-02-19
宇野の生涯を描いた読み応えのある自叙伝です。ロマンティックで波乱万丈という言葉を体現するかのような展開が待ち受けています。そこには、何のしがらみもなく生きることでしか表現できない美しさがあるのです。
彼女の魅力は、あとくされがないこと。とにかく始めて、終わればそれまで、といった男女の関係の築き方はむしろ最先端であるようにも見えます。時代が変わっても、すべての女性たちにぜひ読んでほしい、エッセンスが詰まった一冊です。
宇野千代はいつだって行動を起こしてきました。その時代に応じて、自分の目的を達成するために最も適している行動を見定め、誰も見たことのない道を切り開いていきます。彼女が90歳という大台を越えて語る、「人生」「恋愛」「善意」「結婚」「健康」などへの考え方が詰め込まれたエッセイ集です。
これらに共通して宇野が伝えているメッセージは、行動を起こせということです。そして、その行動を遮る失敗への恐怖や恥への防御本能が、いかに不要なものであるかを力強い言葉で伝えています。
誰しもが持つ不安や心配を見通したうえで、そんなものから決別してきた彼女だから言える言葉は、読者の背中を押すのです。
- 著者
- 宇野 千代
- 出版日
宇野にとって行動と思考は、常に同時に進行しており、表裏一体でした。彼女の面白い点は、通常の人なら失敗と捉えることを、反省と学びというセットに仕立ててポジティブに変換してしまうところです。
例えば、結婚と離婚を数多く重ねた彼女はそのたびに家を建てますが、通常であればこれはとてつもない浪費や無駄だと猛省するポイントなはず。しかし彼女はそれを随筆にまとめて、10軒以上の家を建てたことを経験談に変換してしまえますし、本書でも知恵として結婚を語るエッセンスにしているのです。
美しく気高い宇野千代の人生論を読めば、先が見えないと嘆いている女性も、悩んでいる場合ではないと思えることでしょう。
樹齢千年を越える老木の桜。着物デザイナーの女性・吉野は、老いてしまったこの桜の木を復活させるために奔走し、やがて花を咲かせることに成功します。
そして桜の木をきっかけに骨董店と料亭を経営する老女・高雄とその養女に出会いました。
3人はそれぞれ年齢も生き様も全く違う女性ですが、彼女たちが老樹を基軸に重なり合い、お互いがお互いに対して愛情や恩情、そして憎しみや憧れなどの深い感情を抱いていきます。そして、3人の過去や恋人などの存在が渦となり、悲劇の結末へと導かれていくのです。
- 著者
- 宇野 千代
- 出版日
人生の終盤に差し掛かった宇野が、文章にさらに深みを増して、女性の老いを1本の桜の大樹に重ねて描いています。
美しさとは何なのか、人生の最後まで美しくあるとはどういうことなのか。女性らしい目線を感じさせながらも、湿っぽい風情は一切見せない宇野自身の心をそのまま映したかのような作品です。
若い読者にとっては老いへの新しい目線を与え、これから老いを迎えようという女性には背筋の伸びる気持ちを与えてくれる一冊でしょう。
「僕」は海外で画家として活動したのち、妻子の待つ日本に帰郷しますが、離れていた月日があまりに長かったため、妻との関係も子どもへの愛情も不確かなものになっていました。そして安らぎを求めて別の愛を探します。そこに呼応した女性は3人……。
自由奔放に「僕」を振り回す若い美女・高尾、清楚で知的な令嬢・つゆ子、そして余命わずかと言われながら純真に生きるとも子。三者三様に美しい女性の間を、流されながら翻弄される「僕」ですが、やはり自分の居心地の良い存在が誰なのか、決めることができません。
もちろん妻にはこの関係は秘密にしたまま。はたして「僕」の心に安らぎは訪れるのでしょうか。
- 著者
- 宇野 千代
- 出版日
本作は、作者の宇野自身と東郷青児の体験に基づいて描かれたもので、単なるうつろいやすい男の恋愛慕情物語というよりは、男という生物の頼りなさや馬鹿さを見守る、彼女の目線を感じる作品となっています。
自分の目的に対して、したたかに男を利用するのは女の方なのかもしれない、と大人の女性の余裕も感じさせられる、宇野らしい作品です。
宇野千代は男に愛されてやまない女性であり、主体性と自由を掲げ、真の美しさを振りまく女性でした。その作品から彼女の生き様を感じることで、男女限らず少しでも多くの読者が、恋愛とは何なのか、人生とは何なのかを改めて問うきっかけに繋がればと思います。ぜひ元祖肉食系女子・宇野千代の魅力的な世界に触れてみてください。