細川智栄子といえば『王家の紋章』を読んだことがある方も多いのではないでしょうか?きらきらした瞳に心優しいヒロイン、そして若干複雑な恋愛模様と、どの作品も少女漫画らしい、やさしい世界がひろがっています。今回はそんな細川作品を4つご紹介します。
細川智栄子は1935年生まれの漫画家。1958年、細川千栄子名義で『くれないのばら』という作品でデビューしています。代表作『王家の紋章』は2017年現在で40年以上連載を続けている、少女漫画史上でも屈指の長寿作品です。
5歳下の実妹・芙~みんとともに執筆をしており、 著者名のクレジットは「細川智栄子あんど芙~みん」となっています。
『王家の紋章』は間違いなく、細川智栄子の代表作といえるでしょう。
現代の少女キャロルと古代エジプトの少年王メンフィスとの、3000年の時空を超えたロマンスです。
主人公のキャロル・リードは考古学を熱心に学ぶアメリカ人。リード・コンツェルンを経営する資産家の娘で、エジプトのカイロ学園に留学しています。彼女の父が出資していた発掘調査によって、王家の谷にファラオの墓が発見されたところから、この長い長い物語がはじまるのです。
- 著者
- ["細川 智栄子", "芙~みん"]
- 出版日
墓に眠っていたのは美しい容姿をもった少年王、メンフィスのミイラです。ミイラのそばには小さな花束が供えられており、生前の姿に似せて作られるという人型棺にキャロルは見とれるのでした。
しかし、研究のため墓から運び出したメンフィスのミイラが、まもなく泥棒によって盗み出されてしまいます。そして、墓を暴いたことへの呪いとして、キャロルは古代エジプトへと連れ去られてしまうのです。
タイムスリップした先で彼女が出会うのが、17歳のメンフィス王。強引で激しく、しかしまっすぐな気性のメンフィスに、彼女はだんだんと惹かれていきます。
「いいわけはもうきかぬ」
「わたしはあなたを愛していないわ」
「かまわぬ!私はお前を……愛している……」(『王家の紋章』より引用)
なんて強引なんでしょう。メンフィスの人となりが表れている名場面です。
古代と現代を行き来する、壮大な歴史ロマンの連載開始は1976年。月刊プリンセスにて2017年現在も連載中で、美内すずえの『ガラスの仮面』や魔夜峰央の『パタリロ!』などと並ぶ、ご長寿少女漫画のひとつとしても有名です。
1800年代後半、ラ・ベル・エポックなフランスが舞台の『伯爵令嬢』は、孤児院で暮らす少女コリンヌが主人公です。
ある日コリンヌは、アランという男性に見初められ、結婚を申し込まれます。彼は孤児院へ出資をしており断れない状況なのですが、彼女の心は目が見えない孤独な貴族、リシャールに惹かれています。
そんななかで、実はコリンヌが伯爵令嬢であることが判明する……という、ロマンチックな物語です。
- 著者
- ["細川 智栄子", "芙~みん"]
- 出版日
- 1979-12-01
コリンヌは執事に連れられ、祖父と母が待つというパリへ船で向かうのですが、なんとその船が貨物船と衝突し、海に沈んでしまいます。そして船内で知り合った貧しい娘、アンナは、彼女と入れ替わって伯爵令嬢となるべく、コリンヌを海に投げ出すのでした。
「私って、本当はお姫様だったりしないかな?」(『伯爵令嬢』より引用)
女の子なら誰でも1度は夢見ることかもしれません。古き良き時代のフランスを舞台にした、華やかなラブロマンスです。2014年には宝塚で舞台化もされました。
物語の冒頭は東北の山深くにある、地獄谷。ふたりの幼い姉妹・摩奈と理沙を連れた若い母親は雨の中、夜道を急いでいますが、姉の摩奈が雷に打たれて黒焦げになり、死んでしまいます。
「だれか だれか 助けて」(『黒い微笑』より引用)
と泣き叫ぶ母親に応えたのは、なんと不気味な悪霊。悪霊は摩奈を元通りに生き返らせますが、15年後にまた会おうと不気味な言葉を残して去っていきます。そして母親はそのまま、倒れてきた木の下敷きになって亡くなってしまうのです。
- 著者
- ["細川 知栄子", "芙~みん"]
- 出版日
- 2003-12-01
15年がたち、育ての母親を本当の母と信じて疑わず、美しい姉妹に成長した摩奈と理沙。特に摩奈は、誰もが認める優しくて賢い美少女に育っていました。
恐ろしい地獄谷でのできごとは全く記憶になく、幸せに暮らしていましたが、悪霊はあの日の約束を忘れてはいませんでした……。
墓場で儀式を行い摩奈の体に取り憑いた悪霊は、摩奈の美貌を利用して、あらゆる人間の人生を壊してやろうともくろみます。首をねじ切られた死体、犬の生首……と、いかにも和風ホラーかと思いきや、物語が進むにつれて姉妹の出自の秘密が明らかになり、舞台はイギリスへと飛ぶのです。
貴族の大邸宅やドレスといったモチーフが少女漫画らしく華やかです。悪霊にとりつかれた摩奈の運命は、そしてイギリスの魔城で蘇った、悪霊の記憶とは何なのでしょうか。摩奈の妖しい美貌も見どころのひとつです。
1968年~1969年に連載していた作品『あこがれ』。主人公はウエディングドレスのデザイナーを目指す少女、春日千穂です。彼女が様々な困難を乗り越えながら、才能を見いだされ、夢を叶える物語です。
デザイナーの命ともいえる、利き手である右手が事故で動かなくなったり、ライバルの陰謀によってデザインを盗まれたりと、彼女の行く手には次々と障害がと立ちふさがります。しかしいつでもひたむきな千穂の様子に読者は励まされるでしょう。
「花嫁衣裳は誰が着る」のタイトルで、1986年にドラマ化もされた作品です。
- 著者
- ["細川 智栄子", "芙~みん"]
- 出版日
ページを開けば、登場人物の丸くてキラキラした瞳や、すらりと長い脚のプロポーション、ロマンチックな洋服のデザインなど、昭和の人形を思い出させるレトロな可愛さがあります。
「『あこがれ』を読んでデザイナーになりました」(『あこがれ』文庫版5巻著者コメントより引用)
という読者がいるのもうなずけます。また、千穂に命を助けられたスター、上月光が踊っているのは「ゴーゴーダンス」であるなど、1960年代当時の流行もうかがえます。当時の少女漫画の歴史を振り返れば、黎明期ともいえる時代です。連載当時の少女たちも、夢に向かって突き進む千穂の姿にあこがれたことでしょう。
いかがでしたか?不動の大人気を誇る『王家の紋章』だけでなく、少女の夢にあふれた素敵な作品がたくさんあります。作品によっては単行本しかなく入手しづらい場合もありますが、電子書籍サービスでの提供や文庫化も進んでいるので、見つけた際はぜひお手にとってみてください!