辻真先は、冒険推理作品の小説家として活躍する一方で、漫画の原作者や、アニメや特撮作品の脚本家、エッセイストとしても活躍する、多彩なスキルを持った人物です。大学教授としての一面も持っており、多様な持ち味があります。
辻真先は、小説宝石の新人賞候補作をデビュー作とする小説家です。「スーパー&ポスト」シリーズや「克郎&智佐子」シリーズ、「迷犬ルパン」シリーズなどの推理や冒険をテーマにしたシリーズ作品を多く手がけながら、それぞれの作品の世界観を繋がらせており、別シリーズの登場人物が、ゲストとして描かれているものも多くなっています。作中の学校や会社など、舞台が共有されているという面白さも、人気を呼んでいる点でしょう。
このように、多数の小説作品を発表している辻真先ですが、アニメの脚本家としても活動しています。桂真佐喜の名義で、『鉄腕アトム』などの脚本も執筆していました。1979年のアニメグランプリ脚本部門を受賞しているほか、『サザエさん』『どろろ』『ルパン三世』などの有名なアニメ作品も多数手掛けています。
小説やアニメ脚本のほかにも、『戦国獅子伝』や『どんまいキャプテン』、『ネオマスク』などではマンガ原作を手がけており、アニメやミステリーに関するエッセイも多数執筆しています。多彩な表現力を持っている辻真先の作品の中から、特にチェックしておきたい5作品をピックアップして紹介しましょう。
辻真先の大人気「スーパー&ポテト」シリーズの第一作目です。通称スーパーの可能キリコと、通称ポテトの牧薩次の二人が、3つの事件に挑みます。時刻表をネタにした仮題事件からスタートし、中学殺人事件、林一曹殺人事件に立ち向かっていく二人のドタバタのやり取りも魅力となっています。
美女のキリコと、さえないポテトのコンビネーションもさることながら、軽妙でテンポが良く、それでいて凝ったトリックは、ミステリー好きにはたまらない一冊でしょう。所々に差し込まれた切ないエピソードは、大人が読んでも胸に迫るものがあります。
- 著者
- 辻 真先
- 出版日
- 2004-04-09
本作の見どころの一つは、冒頭で「この作品の犯人は読者である」と明記されているところです。読者が犯人とはどういうことだ?と頭を抱える人も多いかもしれませんが、読み切ってみると、確かに納得できる筋書きになっています。叙述トリックを巧妙に組み上げた傑作だと言えるでしょう。
書き手が初めて書いた長編にして、その後人気シリーズとして刊行されるに至った作品でもあります。中学生向けのストーリーであるため、分かりやすさが重視されていますが、子ども向けとあなどれない魅力的な構図になっています。作者や編集者など、本来は物語の外側にいるべき人を、思いがけない方法で登場させているのです。
物語の舞台は南の孤島。新作の推理劇である「天使の殺人」の主演・北風みね子のオーディションのため、三人の女優が合宿をしています。しかし、東京で待機する劇団のもとに届いたのは、北風みね子が亡くなったというニュース。
一体、三人のうちの誰が死んだのかを確かめるため、演出家の青江は孤島に向かいます。台風のため、音信不通になってしまった島では、想像もできない事件が彼を待ち受けていました。作中の現実と、作中の作品が不規則に入れ替わっていく、メタ構造を利用した傑作ミステリーです。
- 著者
- 辻 真先
- 出版日
- 2002-02-22
非常にハイクオリティのメタ小説となっており、犯人や被害者も明確にならないのが、この作品のポイントといえるでしょう。ミステリー小説であれば、ある種鉄板の存在である探偵の正体も、時に作者さえ不明になってしまう、異色の作品となっているのです。
作中の重要なキーワードとなる天使は、被害者候補の三人の中から、誰が北風みね子であれば辻褄が合うのかを考えなければいけません。通常のミステリーとはまったく異なったポイントから物語が展開されていくため、最後まで結果が見えないという魅力的な作品になっているのです。
物語の舞台は、ソ連参戦がまことしやかに噂されている満州です。士気向上を目指した国策映画を撮影するために、あじあ号がハルピンを出発したところから、ストーリーが展開されていきます。このあじあ号とは、実在した鉄道の名前で、当日の満州鉄道が誇る超特急列車でした。
しかし、万事うまくはいきません。正体不明のどことなく怪しげな軍人乗客や、中身のわからない謎の積荷の数々。あじあ号の運行の影に隠された、特殊任務とは一体何なのでしょうか?ソ連軍や中国ゲリラからの攻撃に追い立てられる、あじあ号の運命に、はらはらすること間違いなしの大長編です。
- 著者
- 辻 真先
- 出版日
満州に実在していたあじあ号の運行情景や、それを追い詰めるソ連軍や中国ゲリラの描写が、非常に丁寧に行われている作品です。時代考証も徹底されており、物語の中にいるような臨場感を堪能できるでしょう。次なる展開が気になり、どんどんのめり込んでしまうかもしれません。
辻真先は根っからの鉄道ファンであり、自作のエッセイにおいても、たびたび鉄道について取り上げています。「トラベル・ライター瓜生慎」シリーズでも、鉄道に関するエピソードは頻出しているほどです。そんな書き手が、二年間という月日をかけて書き上げた、鉄道冒険の真骨頂と言える作品でしょう。
人気の「スーパー&ポテト」シリーズから、短編5作を収録した連作集になっています。ユーカリおばさんこと、亀谷ユーカリが、孫娘の綾川くるみとその恋人・三木津新哉が持ちこむ事件を解決していくというストーリーです。「ユーカリさん 吝嗇の人」では、その様子が細かく描かれており、コミカルで楽しいキャラクター像を楽しめます。
ほかに、「遠くで死にたい」「北に恋して」「特急「燕」驀進す」、そして表題作である「死ぬほど愛した…」を収録しています。スーパーとポテト、そしてユーカリおばさんが救援するシーンもあり、謎解きや掛け合いが、より魅力的になっている、登場人物像を深く楽しめるミステリー作品だと言えるでしょう。
- 著者
- 辻 真先
- 出版日
「スーパー&ポスト」シリーズを読んでいる人にはおなじみの、ユーカリおばさんにスポットライトを当てた短編連作集。ファンには嬉しい番外編の盛り合わせとなっています。ユーカリおばさんだけではなく、シリーズ本編で登場した様々なキャラクターが、少しずつ出演しているのも魅力でしょう。ファンはぜひチェックしたい作品のひとつです。
もちろん、シリーズを読んでいない人も、辻真先ならではのトリックが楽しめるミステリー作品となっています。「特急『燕』驀進す」は、旅行雑誌に寄稿された架空の乗車記録という設定になっています。作者が得意とするメタ的な設定と、列車トリックが絶妙に組み合わされている仕様です。
物語は、太平洋戦争末期の沖縄を舞台にしています。那覇も壊滅し、もはや逃げ込める場所はヤンバルの密林しかなくなっていました。琉球王家の子孫や、辻遊郭の尾類、軍医、新聞記者など、それぞれがヤンバルを目指していくストーリーです。
登場人物たちは、鉄道の仕事で来沖していた加瀬という男の提案により、沖縄軽鉄の機関車を運転し、終点である嘉手納駅を目指すことを決めます。沖縄本土を北上していく旅路と、密室殺人をはじめとした推理の要素が、絶妙なバランスで噛み合っている一冊です。
- 著者
- 辻 真先
- 出版日
辻真先ならではのミステリー描写はもちろんのこと、本作の見どころは、やはり沖縄軽鉄のリアリティ溢れる描写とも言えるでしょう。沖縄戦が始まってしまってからは、軽便鉄道が貨物や乗客を運んだことはなく、人間ではないにしても、やはり戦争の犠牲者のひとりなのでした。そんな機関車が、再び沖縄の人々を救う手助けになってくれる様子は、思わずぐっときてしまうかもしれません。
また、登場人物それぞれをしっかり掘り下げているため、ヒューマンドラマも見どころのひとつとなっています。それぞれが自らのヤンバルを目指していく姿は、戦時中の凄惨な景色と相まって、とても力強く見えることでしょう。
いかがでしたか?作品数も多く、シリーズから短編まで、辻真先の本は選択肢が豊富です。あなたの気になったものを、ぜひいくつでも手にとってみてください。