科学、歴史、神話、哲学、民間伝承……多彩なジャンルを横断しながら構築される壮大なストーリーが特徴のSF作家、光瀬龍。1999年に亡くなりましたが、時が経ってもそのオリジナリティあふれる世界観は多くの人を魅了しています。
光瀬龍は1958年にSF作家としてのキャリアをスタートさせました。
東京都で高校教師として働くかたわら、同人誌「宇宙塵」にて小説を発表。小松左京、星新一、筒井康隆などと並び、戦後SF作家のひとりとして数えられています。
単なるハードなSF要素だけではなく、歴史小説や青春小説、ジュブナイルものといった様々なジャンルを取り入れた破天荒ともいえるその構成は、映画監督の押井守をはじめ、多くの人に影響を与えました。代表作である『百億の昼と千億の夜』は、日本SF小説のオールタイムベストとして高い人気を誇っています。
国内外を問わず、SF小説として屈指のスケールと独自性を持つ光瀬龍の代表作、『百億の昼と千億の夜』。初出は1965年ですが、2006年にSFマガジン誌上で行われたオールタイムベストでは日本SF長編部門でランキング1位となるなど、長年にわたって根強い人気を誇っています。
哲学者のプラトン、仏教を開いた釈迦、仏のひとりである阿修羅、キリスト教の開祖イエスといった、神話的・歴史的な登場人物たちが、はるか未来の地球を舞台にサイボーグとなって激しい戦いをくり広げる物語です。
- 著者
- 光瀬 龍
- 出版日
- 2010-04-05
登場人物だけでも相当に奇想天外な話に思えますが、さらに人類の存亡を操る黒幕の存在、滅んでしまった未来の都市、遠く離れた異星に広がるディストピア文明といったさまざまなSF要素が盛り込まれています。また、東西の哲学や宗教、各時代の歴史や暮らし、民間伝承なども随所にみることができ、まさに唯一無二の世界が打ち立てられているのです。
歴史のいたるところで人類へと干渉し、人知れず導いてきた「神」とはいったい何者なのか。そして人類は無限の発展の先にどこへたどり着くのか……。
複雑に絡み合うストーリーが徐々に解きほぐされていき、読後には強い余韻が刻まれます。
『夕ばえ作戦』は、中高生向けのジュブナイル小説。1974年にはNHKでドラマ化されて人気を博し、2008年には漫画化もされています。
とある古道具屋で買った奇妙な機械をいじっているうち、江戸時代へとタイムスリップしてしまった中学生の茂。風魔忍者と伊賀忍者の争いに巻き込まれた彼は、なんと才覚を見込まれ、伊賀忍者の頭領となってしまうのです……。
- 著者
- 光瀬 龍
- 出版日
ユニークなのは、「栄養状態の悪い江戸時代の人間より、現代人の方が体格も力も強い」という設定です。これにより中学生の茂でも、江戸時代では大人顔負けの身体能力を持ち、さらに現代の道具を使った「忍術」によって敵対する風魔の忍者を次々と倒していきます。
ヤンチャだけど正義感にあふれる少年たち、激しいバトルや忍術合戦、思春期の淡い恋、そして思わずほろりと来るラスト……と、まっすぐなジュブナイル小説です。
1972年に単行本化された『喪われた都市の記録』もまた、遠大な時間的・空間的スケールと独特の哲学をもって描かれたSF長編小説です。
はるか未来、技術の進化によって太陽系内惑星へと生存領域を拡大した人類。しかし、各惑星に建設された都市は新たな問題も生み出しています。火星の都市、東キャナル市で発見されたとある奇妙な物体をきっかけに、物語が動きだします。
- 著者
- 光瀬 龍
- 出版日
「文明はどこへ行くのか?」「経済や科学技術の発展の先に、いったい何があるのか?」といった問いかけがくり返されます。
はるか昔に滅びた惑星アイララからの通信、語られる惑星都市の問題、そして進み始める崩壊へのカウントダウン……。後半から加速していく物語には、とある驚くような仕掛けも施されています。長い長い時を経てたどり着く歴史の果てに漂う無常観を、読者それぞれで受け止めてください。
「SFの本領は短編にある」という言葉があるように、光瀬龍も優れた短編を多く残しました。その代表的なひとつが「宇宙年代記シリーズ」です。
- 著者
- 光瀬 龍
- 出版日
「タイトル+西暦」という形で描かれる連作短編は、先述した『喪われた都市の記録』に登場する東キャナル市をはじめ、人類が宇宙に進出し、徐々に他の惑星を開拓していくまでの苦難と工夫の歴史が綴られています。
時代小説や歴史エッセイも書いていた光瀬龍ならではの、抒情性と冷徹さを併せ持つ筆致、そして他作品にも通底する、広大な宇宙の厳しさ、そして歴史から見る人の命の儚さといった哲学もしっかりと表されています。
過酷な環境にさらされながらも、未来のために様々な困難に立ち向かっていく人々。彼らが織り成すドラマに、読者は胸をうたれるでしょう。
本作は光瀬龍の没後10年を機に刊行されました。学生時代に別名義で記していた作品を含む、単行本未収録の短編やエッセイなどで構成された一冊です。
- 著者
- 光瀬龍
- 出版日
- 2009-07-03
特にファンにとってうれしいのは、単行本未収録の短編でしょう。SF同人誌「宇宙塵」に菊川善六名義で掲載された初の小説『肖像』など計13編が収録されており、自伝的なエッセイとあわせて、作家・光瀬龍の原点をより深く知ることができます。
また光瀬が記してきた「あとがき」などから、彼のもつこだわりがどのようにして作品に反映されてきたのかも分析されています。
ファン向けの内容ですが、彼の作品を読んで興味を持った方はぜひ手にとってみてください。
他に類をみない壮大な構成とその哲学で、今もなお読者を惹きつける光瀬龍の作品たち。ここで紹介した5冊以外にもまだまだ魅力的なものがあるので、これをきっかけにぜひ読んでみてください。