『ダブル・キャスト』『クリス・クロス』などSFファンタジーのライトノベル作家として有名な高畑京一郎。その作品は、"ハズレがない"とライトノベルファンに絶賛されています。今回はランキング形式で高畑京一郎作品の魅力に迫っていきましょう。
高畑京一郎は1967年、静岡生まれのライトノベル作家です。
1994年に国内最大と言われている電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞。受賞作の『クリス・クロス 混沌の魔王』でデビューしました。2002年度からは電撃ゲーム小説大賞の選考委員も務めるています。
専業作家であるにもかかわらず筆が遅く、新刊の発売予定の延期、また、新刊の発売自体が消滅してしまったことも。しかしその分「世に出た作品にはハズレがなく間違いなく面白い」と言われています。いつ出るかわからない新刊を待ち望む熱狂的なファンを持つことでも有名です。
本書は著者初の長編連載小説です。「Hyper Hybrid Organization 01」シリーズである本編だけでなく、本編の過去を描く外伝「Hyper Hybrid Organization 00」シリーズも刊行されています。
主人公・山口貴久はデート中に改造人間を操る「黒い覆面集団」と「ガーディアン」の抗争に巻き込まれ、恋人である緑川百合子を失います。「ガーディアン」への復讐を誓い「黒い覆面集団・ユニコーン」に接触しますが……。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
シリーズ第1巻となる『Hyper Hybrid Organization 01‐01―運命の日 』では、貴久が悪の組織に入団するきっかけとなる事件、そして入団に至る経緯が描かれます。
ヒーローが悪を滅ぼす戦いには犠牲はないのでしょうか?ヒーローはいかなる時にも悪くないのでしょうか?今までの勧善懲悪ものの常識に疑問を投げかける作品です。
マスコミや世間に英雄扱いをされるガーディアン。しかし恋人の緑川百合子は、ガーディアンの一撃で死に至っています。その一部始終をしっかりと目の前で見ていた貴久にとっては、正義と言われているガーディアンこそが殺人犯であり、悪です。
世間がガーディアンを正義とするならばと、悪の世界に身をゆだねることを選んだ主人公の行動は突飛ですが、納得できるでしょう。
自分が普段見ているニュースは本当に事実なのか深読みをしてみたくなる一冊です。
「二心同体」となった2人の涼介の復讐劇を描くSFファンタジー作品です。
北高に通うやんちゃな少年・川崎涼介は、父親に頼まれた小包が元でビルから転落。一方、東高に通う成績優秀でひ弱な少年・浦和涼介は、帰宅途中に転落死する川崎涼介を目撃します。
見知らぬ場所で、なぜか目を覚ました川崎涼介は自宅へと向かいますが、そこで行われていたのは自分の葬儀でした。ある日、自分の死を目撃した浦和涼介の体内へ、自らの心が徐々に乗り移っていると理解した川崎涼介は、妹の亜季と共に復讐を企てますが……。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
テーマは「復讐」です。しかし川崎の仲間や家族を想う真っすぐさ、清々しいまでの熱さが、暗くなりがちなテーマを前向きにし、浦和や紅一点の妹・亜季との絡みが物語を読みやすく導いてくれます。
感情的で喧嘩っ早い川崎、そして知的でひ弱な浦和。この両極端すぎる二人の「二心同体」ぶりは滑稽で、爽快な部分もありますが、読者はどうしても違和感の方を強く感じます。しかしその違和感は、浦和涼介の成長ぶりによって拭われることとなるのです。
浦和は元々華奢で、ケンカなんてもってのほかというガリ勉タイプの少年でした。しかし物語が終盤に進むにつれ浦和自身にも、明晰な頭脳と共に体を張った行動が増えていきます。乗り移りつつある川崎の考えや行動を浦和は知り得ません。しかし同じ肉体を共有し、同じ目標をもって行動をすることで、川崎らしさが浦和の体に沁みついたのです。
川崎の存在が良い形で体に沁みついた浦和は、事件の解決以上に川崎の存在意義を確かなもの、素晴らしいものへと確立しました。亜季が絡まれるラストシーンでは、死んだ川崎が安心できるような明るい未来を予感させます。
青春時代と少し不思議な物語の世界が味わえる一冊です。
電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞し、1994年に刊行された、高畑京一郎の1作目となる作品です。日本初のバーチャルRPGノベルであり、ラジオドラマ化されました。
仮想現実型RPG「ダンジョントライアル」の一般試写に参加した主人公は、「ゲイル」というキャラクターで盗賊としてゲームに参加し、リリス、シェインら冒険中に出会ったキャラクターたちと共に勝ち進んでいきます。
しかし、地下3階を過ぎたところで「魔王ギガント」を名乗る想定外の声が聞こえて来て……。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
本書が発売されたのは1994年。VR(バーチャルリアリティ)がゲーム機として身近なものとなってきたのは2016年頃からです。発売当初は、ゲーム内の仮想空間という舞台設定に、ファンタジーの印象を受けた方もいたことでしょう。しかし昨今では、本当に起こりうるかもしれない物語として読むことができます。
作中でプレイされる「ダンジョントライアル」は、最大256人の同時接続が可能。プレイヤーは全方位モニターマスク、ヘッドホン、筋肉の動きを感知する電極を付けてカプセルの中で催眠状態となっています。
現実世界のように体感できるゲームは、単純な「楽しさ」という魅力もありますが、リアルすぎることで、空想世界と現実世界の区別がつきにくくなる、という恐ろしい点もありました。何でも本物のように作り出すことの出来るVR世界。その盲点を突きながら、リアルであることにこだわる開発者の江崎新一が作り出す、えげつない罠の数々。自分は現実を生きているのか、ゲームの中にいるのか、技術の進歩に怖さを覚えるかもしれません。
ぜひゲーム好きな方に、そして興味をお持ちの方に手に取っていただきたい一冊です。
タイムトラベルを題材としたSFファンタジーであり、主人公の恋愛物語も楽しめる作品です。ラジオドラマ化、映画化もされています。
主人公は高校2年生の鹿島翔香。ある日、翔香は昨日の記憶が抜け落ちていることに気が付きます。記憶をたどるために開いた日記には、混乱する翔香に対し「若松くんに相談しなさい。最初は冷たい人だと思うかもしれないけど、彼は頼りになる人だから。」という、自分の筆跡で書かれた文章が……。
- 著者
- 高畑 京一郎
- 出版日
本書のポイントは、タイムリープと呼んでいる意識内時間移動現象(意識だけが時間を行き来すること)と、時間軸で起きた出来事を決して覆していけない(同じ時は2度来ない)ということです。時空を移動する物語は昔から多数登場していますが、この2つの設定により物語がより理論的で納得のいくものにしています。
一方、主人公・翔香とコンビを組むのは、一見とっつきにくそうな秀才・若松和彦です。二人の掛け合いはとても微笑ましくもあり、読みやすいテンポをつくる役も担っています。
冒頭から様々な時間軸が入り乱れ、読み進めるうちにどんどん時空パズルが解けていきます。その爽快感から、あれよあれよという間に一気読みしてしまう!そんな一冊です。
ライトノベルの草分け的存在である高畑京一郎の作品をランキング形式でご紹介しました。作品数は多くありませんが、どの作品にも緻密でしっかりとした世界観があります。ファンタジー要素も存分に含まれていますので、SFの好きな男性はもちろん女性でも気軽に楽しめるでしょう。ぜひ順番に手に取って高畑京一郎の世界を味わってみてくださいね。