庄野潤三の作品を彼の代表作『プールサイド小景』を含む、5作品ご紹介します。芥川賞をはじめとして、数多くの賞を受賞した彼の作品は時代を超えて人々に愛され続けています。気になるものがあったら、ぜひ読んでみてください。
庄野潤三は、1921年に生まれ、大正・昭和・平成と激動の時代を生きた小説家です。出身地は大阪府で、大学卒業までを地元大阪で過ごします。大阪外国語学校では英語科を卒業しており、外国語も堪能でした。
大学卒業後は大学院に進み、東洋史を専攻していましたが、戦争の影響を受けて早期卒業せざるを得なくなります。また、戦後は歴史教員として働き、中学野球の監督をしていた時代もありました。その後、庄野潤三は朝日放送に入社します。
庄野が作家として注目を浴び始めたのは、1955年に『プールサイド小景』で芥川賞を受賞した頃からです。その後は、第一次戦後派作家、第二次戦後派作家に続く第三の新人のひとりとして脚光を浴びることになります。
戦前の日本で主流だった私小説や短編小説をメインに執筆しているところや、ノンフィクションとフィクションの間を綴る作風が、庄野潤三作品の特徴です。芥川賞の受賞後も新潮社文学賞、読売文学賞、赤い鳥文学賞など数多くの賞を受賞しました。
物語の主人公は、4日前に会社をクビになった青木弘男です。青木には小学5年生と4年生の2人の息子がおり、ある日彼はその息子たちをプールサイドで眺めていました。
青木は、会社の金を無断で使いこんでしまったことがバレて、即日でクビにされています。その後、彼は近所の目を気にして、出勤するように見せるために毎日出かけることにしました。
彼の妻は、夫が無職であっても、どうか毎日無事に帰ってきてくれることを願っています。
- 著者
- 庄野 潤三
- 出版日
- 1965-03-01
本作は、庄野潤三が作家として活躍し始めるきっかけとなった作品であり、芥川賞を受賞した作品です。この作品では、父親が息子たちをプールサイドから見守る場面から始まり、些細な日常を繊細に描いています。
そして、そのような幸福な日常がいかに簡単に壊れてしまうのかを、失業した夫、そしてその妻の視点を通して物語っています。庄野潤三の作品を読むならば、まず手にとってほしい一冊です。
庄野潤三は東京都練馬区から、神奈川県川崎市の山の上に引っ越しました。その新居で、引っ越しから3年後に綴られた私小説が本書です。東京郊外での、のどかな暮らしのなかで感じたことを描いています。
引っ越した先の山の上の新居では、庄野は家族と一緒に散歩を楽しみ、昆虫や植物を観察し、ときには新居が雷に襲われるなど、ごく普通の生活を送りました。どの家庭でも起こりそうな物語に、たくさんの人が共感できるでしょう。
- 著者
- 庄野 潤三
- 出版日
- 1988-04-04
本書は、1966年に読売文学賞小説賞を受賞した作品です。以前の庄野潤三の作品は、フィクションをベースにしたものがほとんどでした。その作風から一線を介し、フィクション・ノンフィクションの枠組みを超えるという庄野らしい作風を生み出したきっかけが本書であると言えます。
庄野が、日常生活の中で体験したことや、見聞きしたものを通して、心に訴えかけてきたことをベースに、多くの読者にとって身近に感じられる物語を描いた一冊です。
晩年の老夫婦の等身大の暮らしを綴った物語です。日記のように他愛もない出来事を綴りながら、ゆったりとした日常を味わうことができます。
ちょっとした季節の変化を感じたり、孫や家族との関わり、友人との会話、ご近所さんとの交流など、特別なことはひとつもない、ありふれた生活を庄野潤三の視点から描いていきます。
- 著者
- 庄野 潤三
- 出版日
自伝、小説、日記、そのどれもに当てはまるようで、当てはまらない。そんな作品です。このノンフィクションとフィクションが交差したような作風も、庄野作品の特徴とも言えるでしょう。
出版物であることを忘れてしまうような、自然な内容を読んでいると、実際に著者の生活を体験しているかのような感覚を味わうことができます。手作りの料理を食べて感じる幸せ、贈り物をもらううれしさ、ふとした瞬間に沸いた感情を繊細に描いた本作は、時々読み返したくなるような一冊です。
庄野潤三が山の上の家に引っ越してから数十年が経ったころの生活を綴った作品です。庭や山々の草木の成長や、鳥たちと過ごす日々をゆったりと描いていた作品です。
そして、引っ越してきたころには小さかった子どもたちが成長し、巣立っていきます。その様子や近所の人々との些細な贈り物のやりとりに、読み手の心は温まるでしょう。全部で43篇の随筆からは、日常の幸せを感じられます。
- 著者
- 庄野 潤三
- 出版日
- 2010-01-08
本書は、東京から神奈川の山の上へ引っ越した庄野潤三の生活をベースに綴った『夕べの雲』の延長線上にある作品と言えます。引っ越してから幾数年の年月を経て、変化したことと、変わらずに流れる時間を、誰もが共感できる視点で描いているのです。
その物語ひとつひとつがどこにでもある日常のようで、どこか温かく、普段は忘れてしまっている些細な幸せを思い出させてくれます。ぜひ『夕べの雲』と合わせて一読してみてください。
本書では、庄野潤三の丘の上にある住まいを舞台に広がる、のどかな生活を綴っています。季節の草花が咲き、鳥の訪れる住まいの穏やかさは、年月が過ぎ、周りの雰囲気が変化しても以前変わらぬままです。
流れ行く時間の中の、変わらないものを描いた、かけがえのない日々への思いを綴った作品です。
- 著者
- 庄野 潤三
- 出版日
本書は、庄野潤三が1998年に発表した作品です。老夫婦となった庄野夫婦の生活を題材に、静かな暮らしの中にある日常を描いています。
本作の題名になっている「せきれい」は鳥の名前です。どんなに月日がめぐり、子どもたちが独立し、周りの風景が変化しても、季節の花と鳥が変わらない幸せを象徴して伝えてくれます。庄野らしい心温まる物語を満喫できる作品といえるでしょう。
今回は庄野潤三の作品を5作品紹介してきました。芥川賞をはじめ、数多くの賞を受賞している庄野潤三ですが、その作風は徐々に形作られていきます。様々な作品を読み比べても興味深いことでしょう。ちょっと一息落ち着きたいときにも、ゆったりとした時間を過ごしたいときにも、ぜひ手にとってみてください。