2017年アニメ化決定!『キノの旅』を名言から読む!【ネタバレ注意】

更新:2021.11.8

2017年の秋にアニメ放送された時雨沢恵一の『キノの旅』。アニメ化では声優や作中登場するバイクなどさまざまな注目を集めました。そんな『キノの旅』は電撃文庫で長年愛され続けるライトノベルです。 今回は『キノの旅』の魅力を名言と一緒にご紹介します。

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『キノの旅』あらすじ紹介!

『キノの旅』とは、時雨沢恵一による電撃文庫発行のシリーズです。主人公・キノと、モトラド(二輪車)のエルメスが、様々な国を訪れるストーリー。キノはパースエイダー(銃)の段位を持っている名手で、旅の中で出会う幾多の危険もその腕で切り抜けます。相棒のエルメスは喋る二輪車。

ひとつの国ごとにひとうの短編というかたちをとっており、ひとつひとつの物語は短くさらりと読めてしまいます。

イラストは黒星紅白が担当。この二人のタッグは『アリソン』など別の時雨沢作品でもみることができますよ。

他にもキノに生きるすべを教えてくれていた凄腕の老婆「師匠」とその相棒の過去のお話や、キノが旅の途中で出会った青年「シズ」と相棒の白犬「陸」、彼らの仲間となった少女「ティー」などが登場します。彼らが同じ国に入国することもあり、その反応や展開の違いが楽しめることも。

常識も風習も違う国で、キノたちはどんな人に出会い、何を考えるのでしょうか。静かに、淡々と描かれる世界観と、ラストで一気に風景が変わるような展開が特徴のライトノベルです。

「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に、美しい」

第1巻のオビにも書かれたエピグラフです。1巻では、キノがエルメスに出会い、キノとして旅人になるまでの過程も描かれています。それは決して、幸せないきさつではありませんでした。

他にも「人の痛みが分かる国」「多数決の国」、そして、刀を使う青年シズと出会う「コロシアム」などの短編が収録されています。

著者
時雨沢恵一
出版日
2000-07-10

とある国を訪れた旅人キノは、宿屋を営む夫婦の娘に出会います。

まだ小さい彼女は、もうすぐ「大人になる手術を受ける」のだと語りました。文字通り、開頭手術を行い、人格を変える手術をするのがこの国の習わしだというのです。廃品になっていたモトラドを修理しながら、キノは女の子と親交を深めていきます。

一方キノと話すうち、自分の受ける手術について疑問を持った女の子は、両親に「手術を受けたくない」と伝えてみます。軽い気持ちで口にした言葉でしたが、両親は娘に激怒しました。なんとその怒りは両親だけでなく、国中の「大人」たちに伝播することになってしまいます。

こんなことを言う娘は殺してしまえ、と刃物をとった両親を止めようとして、キノはなんと女の子の両親に殺されてしまいます。その隙に、女の子はキノが修理していたモトラドに飛び乗り、生まれ育った国を命からがら脱出。

逃げ続け、たどりついた場所でようやくモトラドをとめた女の子は、乗ってきたモトラドに「私はキノ」と名乗ります。

シリーズの主人公であり、のちに「師匠」と名乗る女性に出会ってパースエイダー(銃)の名手となる旅人・キノの誕生でした。

「あなたを幸せにするのは最後はいつだってあなただ」

こちらは14巻のエピグラフ。

一面の雪原で、朝日を見ながら泣いている3人の女性。その背後で、エルメスと彼女たちを見守るキノ。一体、3人の女性はなぜ泣いているのでしょうか。

著者
時雨沢 恵一
出版日
2010-10-01

「あなたは常にあなたと共にある」という文が添えられたエピグラフが印象的な14巻の冒頭には、フルカラーイラストで描かれた一枚絵にストーリーが添えられています。朝日を見つめる女性3人が泣いているお話です。

彼女たちがなぜ泣いているのか、そしてキノがどうして彼女たちを見守っているのかはここでは分かりません。それが分かるのは巻末。実は、冒頭にあったのは物語後編。そして巻末にあるのが前編のお話なのです。

キノは3人の女性から護衛の依頼を受けていたのでした。

彼女たちの願いは「地平線から昇る朝日を見ること」。

1年中、朝日を見ることができない環境の国で生まれ育った彼女たちは、朝日を見るために10年もかけて貯金をしていました。その話を聞いて驚くエルメス。エルメスは、キノが毎日見ているものを見るために、そこまでの熱意をささげる彼女たちの感覚が理解できなかったのです。

それでも、彼女たちにとっては「朝日を見ること」が最大の夢。それが自分たち以外の人間にとって、どれほど矮小なことであろうとも、です。

まさしく「You Are Always With You.」、自分を幸せにできるのは結局自分だけなのだ、ということなのかもしれません。自分の行動を決められるのは、自分だけですものね。

キノはそのことをよく理解していました。そして彼女たちの護衛を引き受け、朝日を見せてあげたいと願うのでした。

前日譚を読んでから読み返す朝日のシーンは、初めに読んだ時とまるで違う風景に感じられるでしょう。

「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」(キノ)

キノの旅に明確な目標はありません。伝説のお宝を探しているとか、昔出会った人を捜し求めているとか、そういうストーリーはありません。つまり永遠に、何かが達成されるということがないのです。

そんなキノに対し、1巻で「キノは、どうして旅を続けてるの?」と尋ねたエルメスに答えたキノの返答が、この一文でした。

著者
時雨沢 恵一
出版日

キノにとって、旅は目的のためにあるのではなく、続けるためにあるのかもしれません。この言葉の通り、キノは未だに旅を続けています。

冒頭にある短編は、キノとエルメスの対話劇。2人が一体何の話をしているのか、読者には分かりません。というのもこちら、前半部分が抜け落ちているのです。

抜けている前半が登場するのは、1巻巻末。ここでようやく、エルメスが「旅をしているとひどいことがたくさんある。師匠のところに帰る道もあるし、キノの腕なら誰かに雇われることも可能なのに、なぜ旅を続けているのか」という問いをキノに投げかけたことがわかります。

キノは、「旅をしているとひどいことは必ずある」と答え、その上で「それでも続けたいと思える」と付け加えました。

「止めるのは、いつだってできる。だから、続けようと思う」(『キノの旅』1巻から引用)

他の道があるからこそ、あえて旅を選ぶキノ。読者の人生にも響きそうな名言です。

「……それでも行くかな? キノ。 道はいくらでもあるのに。自由に選べるのに」(エルメス)

「『入国で一日待たされる』とか、『旅人をどう悪く思っているか分かる見本だ』とか、『ホテルすら案内してくれない。野宿したほうがいいよ』とか、『もう近づくのもいやだ』とか、『あんな国、早くなくなっちまえ!』とか」(『キノの旅』2巻から引用)

旅人からの評判が総じて悪い国に行こうとするキノに、エルメスが投げかけた一言です。

結局2人は「本当に悪い国なら、出国した後に悪口を言い合おう」「それもいいか」と国へ入っていくのですが、待っていたのは想像だにしていなかった展開でした。

著者
時雨沢 恵一
出版日

なんと悪評高い国は、旅人に親切で景色もよく、人はやさしい、素晴らしい国だったのです。

聞いていた話とあまりに違うので最初は混乱したキノでしたが、あまりにも居心地のいい国の空気にふれ、そんなことはどうでもよくなってしまいます。「1つの国に滞在する期間は3日間」というルールを持っているキノですが、その国では「もう一日だけ滞在してはだめか」と口に出し、エルメスを驚かせます。

しかしその国は……。

「自由に選べる未来」を選んだその国の人々。彼らから贈られた手紙を読むキノの気持ちが、胸に迫る2巻です。

「国は、大きければいいものでもないよ。問題は、そこに住む人達が満ち足りていて、幸せに暮らしているかどうかだ」(シズ)

4巻「たかられた話」でシズが陸に言うこのセリフ。国というよりも村のような規模ですね、と投げかけた陸に対し、シズが答えた一言です。

しかし、のどかに見えたこの国では重大な問題を抱えていました。シズはその問題を解決するために刀を抜くことになります。

著者
時雨沢 恵一
出版日
2001-07-10

シズは1巻「コロシアム」で登場した青年です。彼は実はコロシアムが行われていた国の王子でした。キノと出会うことで命を救われ、また帰る場所もなくした彼は、相棒の白い犬・陸とバギーで旅に出ることになります。

故郷をなくして旅に出た彼は、新しい故郷を探して旅をしている節があります。旅をすることが旅の目的のようなキノとは少し違いますね。

さて、王子というだけあってもともとは人の上に立つ身分だったシズ。やはり国の在り方や人の在り方についての考え方が、彼の出自をうかがわせます。

とある国にたどり着いたシズは、その国の人たちが山賊にたかられているという話を聞いて、山賊退治に向かいます。国民を困らせる山賊たちを一掃したシズは、「これで安心して暮らせますよ」と告げますが、返ってきた言葉は……。

『キノの旅』「守られていると言うことは、”力がある”ということではないのですよ」(師匠)

一時は絶滅の危機に瀕し、丁重に国から保護を受けていた猿と、キノの師匠の若い頃のお話です。

保護法のため人々が手を出せないのをいいことに、好き放題ふるまっていた猿を一掃した彼女が、怯える猿に向かって投げかけたのがこの一言でした。

著者
時雨沢 恵一
出版日

手を出せば悪くて終身刑という重い罰が科せられる保護対象の動物。その罰の重さに怯え、誰も手を出さずに守ってきた動物が、調子に乗って国中で悪さをしていました。

旅人のおやつを勝手に食べるわ子供は泣かせるわ、人が大切にしていたものなど踏みしだいてぐちゃぐちゃにする始末。しかし保護法のせいで誰も手が出せません。泣きながら見ていることしかできない国民たちの前で、師匠がパースエイダーを抜きます。

あとの展開はご想像通り。師匠に続いて国中の人間の堪忍袋の緒が爆発し、動物は一気に虐殺に巻き込まれることになってしまいました。

そしてそのラストでこの動物に鉄槌を下したのは?

日常の当たり前に、再度気づかされる短編です。

淡々とした語り口調が特徴の『キノの旅』。平坦な語りから繰り出される衝撃や驚き、意味が分かった瞬間にハッとさせられる読後感が魅力です。短時間で読書を楽しみたい人にもおすすめですよ。

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