女性作家と時代小説というジャンルに絞り、作品を5つ厳選しました。登場人物や風景の描写など、女性作家ならではの目線や繊細なタッチで描かれています。
怒涛の幕末を駆け抜け、名を馳せた新選組。若き剣士である沖田総司は、明るくて子供が大好き、そして仲間思いの、いわゆる普通の青年でした。しかし大きな時代のうねりのなかで、仲間とともに立ち上がり、高い志を持ちながらも最期は病に倒れてしまいます。
鬼と呼ばれ幕末の剣士として名高い沖田総司の、真摯で切実な儚い心情を大内美予子が美しい文章で表した、人間味あふれる作品になっています。
- 著者
- 大内 美予子
- 出版日
- 2009-08-07
沖田総司という人物は、剣の達人であり、鬼と言われながらも薄命であった、というイメージの方が多いのではないでしょうか。
大内美予子の描く沖田は、非常に繊細で若者らしさに溢れています。若くして病に倒れ、仲間との別れを心底悲しむ心情は、けっして鬼などではなくどこにでもいるような普通の青年に見えるのです。
1人の青年の心情を細やかに書き綴った本作は、新撰組ファンには見逃せないものになっています。
雷雨となった初節句の夜、江戸まで3日もかかる山間の村で、産まれたばかりの庄屋の娘である遊が何者かによってさらわれる事件が起きました。手掛かりはなく消息が分からないままでしたが、2人の兄は、彼女の生存を信じていました。
15年の月日が流れたころ、遊は狼少女となって帰ってきたのです。そして彼女は、将軍家のがんじがらめな社会で育ち、心を病んでしまった斉道と出会います。
自然のなかで育ち狼少女となった遊と斉道の、身分違いの恋の行方はどうなるのでしょうか……。
- 著者
- 宇江佐 真理
- 出版日
- 2004-02-25
本作は2000年に初版が発売され、2010年には40万部を突破するなど人気を博し、2010年には映画化もされています。
「日本版ロミオとジュリエット」と呼ばれ、身分違いの恋が美しく切なく描かれているのです。2人は運命に翻弄されつつも、愛を貫くことができるのでしょうか。
菓子職人の兄、晴太郎と、商才のある弟の幸次郎兄弟は、両親を亡くした茂市と一緒に和菓子司の藍千堂を開きます。
もともと兄弟の父親も和菓子司である百瀬屋をもっていましたが、そこは叔父夫婦に乗っ取られてしまいました。そして彼らはせっかく立ち上げた藍千堂へも、嫌がらせをしてくるのです。
兄弟は和菓子をつかって、いくつもの問題を乗り越えていきます。江戸の町に生きる様々な人間模様が鮮やかに描かれ、登場人物たちも人間味あふれるキャラクターです。
そして最後に明かされる、叔父夫婦の嫌がらせの本当の理由とは......。
- 著者
- 田牧 大和
- 出版日
- 2016-05-10
1966年に東京に産まれた田牧大和は、市場調査会社に勤務する傍ら、ウェブ上で時代小説を発表していました。2007年『花合わせ 濱次お役者双六』で第2回小説現代長編新人賞を受賞し、作家デビューを果たします。
時代小説独特の読みにくさなどは一切なく、また女性作家ならではの繊細な描写や設定が、読む人を江戸の小さな和菓子屋へと引き込んでいきます。
連作短編集で読みやすく、作中に出てくる和菓子の描写はどれも丁寧で、本当においしそうなのです。読めば和菓子を食べたくなってしまう作品です。
ときは明治、徳島県の農家に生まれた3男坊の音三郎は、働いても働いても麦飯しか食べられない生活に辟易していました。なんとか貧乏から逃れようと模索するなかで、電気に出会います。
口減らしのために小学校もやめてしまっていた音三郎は、寝る間も惜しみながら独学の日々を送ります。学歴をも詐称して軍需工場の技師となり、どんどん知識を吸収していく様は、まさに憑りつかれたかのようでした。
家族、親戚、さらには友人や恋人まで捨てて、どん欲に技術のみを求めていく音三郎の結末とは......。
- 著者
- 木内 昇
- 出版日
- 2016-08-31
木内昇は1967年、東京都生まれの作家です。2004年に、『新選組幕末の晴嵐』で小説家デビューを果たしました。彼女の取材力は凄まじく、本作においても電気や通信の専門的な知識や機器の開発過程など、踏み込んだ内容に及んでいます。
また、この作品を書くきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災の時に起きた原発事故だったそうで、技術の恩恵の裏側にひそむ闇の部分を考えさせられる内容になっています。
幕末の志士、新選組のなかで鬼の副長と呼ばれ、隊士にも恐れられていた土方歳三。本作は、彼の鳥羽・伏見の戦いから函館五稜郭で最期を迎えるまでを描いた時代小説です。
配下に散っていった仲間たちのことを思い、少年隊士に慕われるその姿は、鬼の姿とはほど遠いものがあります。彼は幕末の動乱に巻き込まれながらも、信念を強く持ってたくましく生きた、ひとりの人間でした。
は田舎で生まれ育ち、その後京都でその名を轟かして変わりゆく時代を見つめ、最期は遠く北の地で亡くなった土方歳三。いったいどんな人生を送ったのでしょうか。
- 著者
- 秋山 香乃
- 出版日
作者の秋山香乃は1968年、北九州市の生まれです。今作の『歳三 往きてまた』は彼女のデビュー作となります。
幕末に京の都を駆け抜けた新選組の副隊長だった土方歳三の、鳥羽・伏見の戦いの後は、仲間に寄り添い、どちらかといえば繊細で儚さをはらんだ人生を送っていました。
新撰組や土方歳三を取り上げた作品は数多くありますが、それらを読んできた方にも本作の土方は新鮮に映りますよ。
本を手に取るときに、作家の性別を気にする方はもしかしたら少ないかもしれませんが、女性作家ならではの視点というものは確実に作品にあらわれているのではないかと思います。実在した人物から、オリジナルの人物まで、魅力的なキャラクターが動き回る作品はどれもおもしろく、彼らを表す描写はどこか繊細でやさしいのです。時代小説でありながら、読みやすさもあわせ持っています。
読み始めたらあっというまに最後まで読み切ってしまうような魅力的な作品ばかりです。ぜひお手に取ってみてください。