林真理子のおすすめ文庫本10選!直木賞受賞作『最終便に間に合えば』他

更新:2021.11.24

直木賞をはじめ、多くの賞を受賞している女流小説家の林真理子。エッセイストとしても活躍し、国内外に多くのファンを獲得しています。数々の文学賞の選考員も務めており、幅広い活躍をしています。

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エッセイやバラエティでも活躍する多才な小説家、林真理子

林真理子は書店の娘として生まれ、日本大学藝術学部文芸学科で学んだ後、PR雑誌の編集スタッフとして働きはじめます。当時はコピーライターとしても業務に携わっており、1981年にはTCC新人賞を受賞しました。1982年に発表した『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でエッセイストデビューを果たし、同書はベストセラーとなりました。

その後小説の執筆もはじめ、『最終便に間に合えば』『京都まで』で第94回の直木賞を受賞。また『白蓮れんれん』では柴田錬三郎賞を、『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞を受賞するなど、小説家として確固たる地位を築いていきます。

また彼女の作品はメディアミックスも活発にされていて、『葡萄が目にしみる』や『anego』などはテレビドラマに、『東京マリーゴールド』や『不機嫌な果実』は実写映画でも人気を呼びました。トークスキルも高く評価されており、バラエティ番組の出演や著名人との対談などでも活躍しています。そんな彼女の作品の中から、特にチェックしておきたい10作をピックアップしてご紹介します。

直木賞を受賞した林真理子の短編集『最終便に間に合えば』

表題作である「最終便に間に合えば」をはじめ、「京都まで」など全5作を収録した短編集となっています。この作品で林真理子は直木賞を受賞し、小説家としての地位を確立したといっても過言ではありません。

「最終便に間に合えば」は、OLから造花クリエイターに転職した女性、美登里が主人公となっています。旅行で行った札幌で元恋人と再会し、かつてのように誘惑されます。大人の恋愛の甘さや冷たさにスポットを当てた作品が集められている一冊です。

著者
林 真理子
出版日

どの作品も、20代から30代の女性を主人公にした恋愛ものとなっています。感情表現が巧みで、主人公と同世代の女性からの支持が圧倒的にある作品です。恋愛に絡んだ仕事や人間関係など、人生の様々な事情が見られて臨場感あふれる作品に仕上がっています。

また、 プライドや嫉妬、独占欲など、マイナスの感情を取り上げているのも本作の特徴です。女性が生きていくうえで向き合わなくてはいけない、多様な気持ちについて掘りさげられています。

テレビドラマ化も!林真理子の代表作『葡萄が目にしみる』

舞台は葡萄づくりの町。主人公は葡萄農家の娘で、地元の進学校に通っている乃里子です。同級生へのほのかな片思いや、運動部のスターとのやきもきする日々。友人たちと額を寄せ合いながら、恋の成就のために、勇気を振り絞る少女たちを追ったストーリーです。

素朴ながらも多感で複雑な少女たちの日々を、鮮やかに描いた作品となっています。本作は直木賞の候補にもあがり、テレビドラマ化も果たすなど、林真理子の代表作のひとつといえるでしょう。

著者
林 真理子
出版日
1986-03-01

生徒会やラグビー部のスターなど、乃里子の心をかき乱す男の子たちの魅力も本作ならではのポイントです。校内放送やラブレターなど、ノスタルジックなモチーフも多用されています。

少女の成長や友情を描く一方で、嫉妬や劣等感、あるいは優越感など、思春期だからこそ直面する感情についてもリアルに描き出しています。かけがえのない日々を過ごしていく登場人物たちを追いかけた傑作です。

吉川英治文学賞を受賞した連作短編集『みんなの秘密』

本作は、不倫や浮気をテーマとして扱った連作短編集となっています。ある人妻が不倫をするのですが、彼女の夫もまた浮気をしていました。夫の浮気相手の女性は売春をしており、彼女を買っている男の娘がまた浮気相手になるという、各作品の登場人物同士が密接に繋がったトリッキーな構成が特徴です。

田舎に住む主婦の秘密を綴った「爪を塗る女」や、その夫がかつての恋人を思い出すことから始まる「悔いる男」、そのかつての恋人の人生を描いた「花を枯らす」、そのほか「母の曲」や「夜話す女」「小指」「祈り」など、全12作を収録しています。

著者
林 真理子
出版日
2001-01-17

それぞれの短編の主人公の相手が、次の作品の主人公、のように次々と主役が移り、物語が進行していくという独特のスタイルが話題になった一冊です。タイトルの通り、登場人物たちは各々が秘密を抱えており、隠したり、誤魔化したり、あるいは明るみに出してしまったりしながら、日常を送っていることが分かります。

不倫や浮気、売春など、どうしてもネガティブなイメージを抱かれてしまいがちなテーマばかりを取り扱っていますが、人の感情は決して清く正しいものばかりではありません。林真理子ならではの巧みな心理描写により、普段はなかなか表に出てこない感情の多様性が描かれた作品となっています。

ドラマ化や実写映画化もされた林真理子の人気長編小説『不機嫌な果実』

全8章から構成される長編小説です。1997年と2016年にテレビドラマ化、1997年には実写映画化もされ、林の知名度をぐっと引き上げた出世作のひとつでもあります。

ヒロインの既婚女性、麻也子は、夫、航一への不満から元恋人の野村と不倫をはじめてしまいました。野村の別の恋人の存在、年下の通彦との恋愛、夫との離婚など、泥沼化していく恋愛関係の行く末に注目の一冊です。不倫をテーマに男女の感情がそれぞれ錯綜し、もつれ合っていきます。

著者
林 真理子
出版日
2001-01-10

6年間連れ添ってきた夫、スリリングな想いを味わわせてくれる元恋人、情熱的な年下の音楽評論家など、麻也子を取り巻く男性たちとの関係が本作の見どころのひとつです。各々に持っているものと持っていないものがあり、彼女は人生における重大な決意を迫られることになります。

「自分はいつも損をしている」という想いを抱き、数々の男性と関係を持ちながら、人生に向き合っていく麻也子。日常の何気ない小物や風景を活用しながら、移りゆく女心を丁寧に描いています。

愛人のプロが主人公――華やかな生活の終着点とは?『花探し』

主人公の舞衣子は、かつて売れないモデルだった美しい女性です。21歳のときに不動産王である神谷の愛人となって以来、老舗料亭の跡取りや、社長、実業家、弁護士に御曹司、流行小説家など、様々な男性の愛人として渡り歩いてきました。ブランド品に身を包み、高級ホテルで華やかな生活を送っています。

しかしそんな彼女の生活にも、30歳になったころから徐々に暗雲が立ち込めて来ます。次の男は一体誰にしようか。まさに愛人のプロと言える舞衣子の、欲望と官能が溢れる日々を追った作品です。

著者
林 真理子
出版日
2002-10-30

主人公の舞衣子は、元々がスタイルも良く美しい女性ですが、神谷より愛人として鍛えあげられ、おしゃれや振る舞いなど、女性としての魅力をおおいに高めてきました。打算と欲望により、次々とハイスペックの男性を渡り歩いていくことは決して清い行動ではないものの、一貫性のある描かれ方ともいえるでしょう。

彼女を愛人たらしめた神谷や、彼から舞衣子を任された料亭の2代目の大沢や、スポーツジムで出会った弁護士の浜田など、様々なタイプの男性も見どころのひとつです。彼らを吟味していく主人公の視点には、女性のネガティブな部分をエネルギッシュに描ききる林真理子ならではの作風が存分に発揮されています。

不倫を重ねた行く末は?林真理子が描くバツイチ男『ミスキャスト』

主人公の原岡はバツイチで、いまは2人目の妻典子と暮らしています。突然かかってきた電話で、典子の不倫を疑いはじめますが、彼自身もまた、同僚と、元妻の姪という2人の不倫相手がいるのでした。

かつての妻との間に子どもが1人いて、再婚もしている原岡が、さらに新しい恋愛を求めていく過程とその行き着く先を丹念に描いた作品となっています。彼を取り巻く様々な女性たちの姿や想い、執着についても切々と描かれており、最後までその展開から目が離せません。

著者
林 真理子
出版日
2003-11-15

複数の女性と関係を持ち、ひとりに絞ることが出来ない原岡。矛盾を隠すために嘘をつくと、それを誤魔化すためにさらに新しい嘘をつかなければなりません。不倫を重ねるごとに、徐々に自分の首を絞めていき、そしてそこに女性たちの純粋な執念もまた降りかかって来ます。

林の手掛けた作品は不倫や離婚などを扱ったものが非常に多いですが、男性視点の長編はあまり多くありません。彼女のファンであれば、これまでと共通したテーマを新たな視点で構成した本作を、ぜひ手にとってみてください。

テレビドラマ化もされた新聞連載小説『下流の宴』

主人公の由美子は、ごく一般的な家庭の主婦です。それなりの教育を受け、平穏な日常を送ってきたつもりでしたが、今年で成人する息子は、高校中退のまま定職にも就かずにふらふらしているばかり。その上、フリーターの珠緒と結婚宣言までしてしまい、頭を抱えてしまいます。

彼女の悩みは、自身の家庭が下流に落ちてしまうのではないかということ。その一方、結婚を反対された珠緒は、一発奮起のため医師を目指します。格差社会を取り扱った、新聞連載の長編作品です。

著者
林 真理子
出版日
2013-01-04

本作では、学歴や職業などに抱きがちな偏見を真正面から描いています。世間の価値観に溺れる母と、そこから目を背ける息子、そしてそれらから離れた場所で生きている息子の彼女。それぞれの主張が飛び交い、物語は思いもよらぬ方向に進んでいくのです。

格差社会というセンセーショナルなテーマを取り扱いつつ、母娘や恋人などの人間関係にもスポットを当て、ヒューマンドラマとしても完成度の高いものに仕上がっています。

林真理子が新ジャンルを確立!ドラマ化もされた恋愛長編『anego』

物語のメイン舞台は総合商社。一般職のOL、奈央子が主人公です。奈央子は勤続10年の姉御的な存在で、後輩の相談に乗っているうちに、どろどろの恋愛に巻き込まれてしまったり、合コンでも昔ほどエネルギッシュにいけなかったりと、何かと恋愛の悩みが尽きません。

相手を値踏みしているうちに、良縁のお見合い相手も逃してしまう奈央子。妙齢になってきた彼女の側には、バツイチで結婚を言いださない男と、ルックスしか見ていない年下男しか残っていません。彼女の恋と人生は、一体どうなってしまうのでしょうか。

著者
林 真理子
出版日
2007-06-06

本作で、林真理子は「恋愛ホラー」という新たなジャンルを確立したといわれています。不倫や三角関係、打算たっぷりの合コンやデートなどは、ハートフルな恋愛ものではなく、人間の欲望や嫉妬、見栄やプライドが錯綜しており、言い得て妙かもしれません。

作中で奈央子は、後輩から「男運が悪いのは、頭が悪いってことらしいですよ」というキツいひと言を浴びせられます。壮絶な恋愛戦争の結果がもたらすものは何なのでしょうか。奈央子の気持ちがわかる女性はもちろん、初めて林真理子の作品を手に取る人にもおすすめの作品です。

女性の秘密をたっぷり詰め込んだ短編集『ミルキー』

全12作の短編集となっています。女性の秘密や、普段決して口にしない本音を扱った作品が詰め込まれており、官能や欲望などの心理描写が巧みな林真理子ならではの書き味です。

表題作の「ミルキー」は、産休明けで職場に戻ってきた女性と、彼女に魅力を感じる男性の物語。婚前に複数回関係を持っていたことから、彼は以前のようにモーションをかけるのですが、事態は思いもよらぬ方向へ……。

「前夜祭」は、立派な肩書の男性とバツイチ女性の恋愛ストーリーです。ほかに「ワインの話」や「夢」「仲よしこよし」「たそがれて」などが収録されています。

著者
林 真理子
出版日
2007-02-10

本作に収録されている短編は、どれも大人の男女による恋物語となっています。結婚や出産などの変化を経て、姿を変える欲望や関係を深く掘り下げているのです。またほとんどの登場人物が、小説ならではの特別な特徴があるわけではなく、ごく身近な設定となっているので、読者はより感情移入できるでしょう。

さらに本作には、不倫や浮気のような明らかにネガティブなモチーフだけではなく、一見ポジティブに思える事柄が、実は誰かにとってはマイナスに働いているというストーリーもあります。妻の母と仲が良すぎたり、昔の知人が思いもよらない出世を遂げていたり……あなたの価値観と、登場人物がする選択を比較してみてください。

林真理子が描く、華やかな世界で悩む女性『野ばら』

宝塚の娘役である千花と、フリーライターの萌は親友同士。華やかで美しい世界で生きる、才能ある2人でしたが、それぞれがうまくいかない恋愛の悩みを抱えていました。千花は梨園の御曹司、萌は年上の映画評論家との関係に、もやもやとした日々を送っているのです。

遊び人の歌舞伎役者や、不倫を続けようとする評論家。若く美しい盛りを過ぎてもなお、彼女たちは幸せでいられるのでしょうか。都会の裕福な家に生まれた2人の親友が、陰りを見せつつある人生に向き合っていく長編作品です。

著者
林 真理子
出版日
2007-01-10

裕福な実家に、誰もが羨む美貌と、華々しい仕事。千花も萌も、それぞれが光輝く世界で生きていますが、2人の人生が少しずつ傾いていくところからストーリーは大きく展開していきます。林真理子作品ならではの浮気性の男や、不倫に夢中になってしまう男なども登場し、ファン好みのテイストも満載の仕上がりです。

またリアリティのある舞台設定も、本作ならではの見どころのひとつでしょう。ファンも舌を巻く宝塚事情をはじめとして、緻密に構成された設定もまた、読者に臨場感を与えてくれます。

いかがでしたか?林真理子の作品は数多くありますが、どれも非常に魅力的です。気になったものからまずは手にとってみてください。

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