黒岩重吾のおすすめ文庫作品5選!古代史がテーマの歴史小説

更新:2021.11.8

多くの謎が残され、未開の分野である日本古代史をテーマに、数多くの歴史小説を執筆した黒岩重吾。彼が歩んだ人生とともに、ぜひ読んでおきたいおすすめの本をご紹介します。

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黒岩重吾とは

小説家・黒岩重吾は、1924年に大阪で生まれました。同志社大学へ進学しますが、在学中に戦争のため学徒出陣に参加することになり、満州(現在の中国東北部)へ出征します。

終戦後はソ連軍や中国軍などに追われながらなんとか日本に辿り着き、大学を卒業して日本勧業証券(現在のみずほ証券)に入社。その頃から小説を書き始めますが、株の相場で大失敗して一文無しとなり、また病気も重なって入院生活を余儀なくされ、退院しても帰る家さえ無いという有り様でした。

その後は大阪の貧民街で暮らしながら、これまでの経験をもとに社会派推理小説を執筆し、『背徳のメス』で直木賞を受賞し作家としての地位を確立しました。

1970年代後半からは、かねてより関心を持っていた日本古代史の歴史小説に挑戦します。『天の川の太陽』で吉川英治文学賞を受賞すると、1991年には紫綬褒章、翌年には菊池寛賞に輝き、歴史小説の分野を代表する作家となり、2003年3月7日に79歳で死去しました。

黒岩重吾の歴史小説は、ヤマトタケルのような伝説的英雄や大化の改新・壬申の乱といった歴史上の大事件などを題材として、残された数少ない史料をもとに壮大なストーリーを展開し、読む人をロマンあふれる古代へと連れていきます。

その中でも特におすすめしたい5つの黒岩重吾作品をご紹介します。

壬申の乱と大海人皇子のたくましい生き様を描いた黒岩重吾の歴史小説

権勢を誇った蘇我氏を打ち倒し、中大兄皇子が実権を握ることとなった大化の改新。彼が天智天皇として即位すると、弟の大海人皇子ではなく息子の大友皇子を後継者に指名します。

古代史最大の戦乱として語り継がれる壬申の乱を経て、大海人皇子が勝利し天武天皇として即位するまでの物語が上下2巻で描かれます。

著者
黒岩 重吾
出版日
1996-04-18

黒岩重吾がこれまでの作風を一新し、はじめて歴史小説に挑戦した本作は、吉川英治文学賞を受賞するなど文壇でも高く評価されました。

本書は主人公である大海人皇子の内面に大きくフォーカスし、はじめは兄にも周囲にも頼られる存在であったのが次第に遠ざけられていく過程で、どのような心理を抱いていたのかが克明に記されています。

豪胆な弟・大海人皇子と怜悧な兄・中大兄皇子という対比にも、歴史の教科書には書かれないそれぞれの人物の魅力が映し出されます。

膨大な歴史的考証とともに、古代の英雄たちの熱い戦いに想いを馳せることのできる作品です。

誇り高き悲劇の貴公子、大津皇子

本書は『天の川の太陽』で語られた壬申の乱の後、天武天皇が統治する時代に生きた大津皇子の一生を扱っています。

高い能力をもって人望を集め、次の天皇候補としての器を示した大津皇子が、自らの子・草壁皇子を天皇に即位させたい持統天皇の陰謀によって失脚へと追い込まれる様が描かれます。

著者
黒岩 重吾
出版日

この本の最大の見どころは、大津皇子とそれを献身的に支える御方皇子が、過酷な運命に立ち向かい切り開こうとする絆の物語にあります。

歴史の表舞台には出てこなかったけれども、大津皇子の数少ない味方として活躍した人物として、黒岩重吾は御方皇子というキャラクターを作り上げました。そのことによって、大津皇子の物語がよりリアルで躍動感のあるものに仕上がっています。

宮廷の権力闘争に巻き込まれながらも、最後まで誇りを失わなかった大津皇子の姿に共感できることでしょう。

黒岩重吾が描き切る、日本最古の英雄ヤマトタケル

こちらは伝説の英雄であるヤマトタケルの一生を描いた作品で、大和の巻、西戦の巻(上・下)、東征の巻(上・下)、終焉の巻と実に文庫本6冊にも及ぶ大長編となっています。

勇猛果敢な皇子でありながら、父である景行天皇や兄弟たちからも疎まれたヤマトタケル。台頭する大和王朝と豪族たちとの争いのはざまで、自由を求めて生きるヤマトタケルが躍動します。

著者
黒岩 重吾
出版日
2000-08-25

「日本最古の英雄」とも呼ばれるヤマトタケルについて、実は私たちはあまり良く知らないのではないでしょうか。

この本は、ただ単に蝦夷や熊襲を討伐したという業績の紹介で終わってしまいがちな教科書的記述とは一線を画しています。

熱い魂をもった1人の好男子としてのヤマトタケルの人物像が、彼を慕う重臣たちやその存在をこころよく思わない皇族、そして彼と対峙することになる各地の豪族たちとの関係によって立体的に立ち現れます。

本作が6冊もの大著となっているのも、彼が日本人なら知っておくべき重要人物であることの何よりの証明ではないでしょうか。

誰も知ることのなかった、聖徳太子の苦悩と挫折

聖徳太子・またの名を斑鳩王。彼を主人公とする本書は、推古天皇の治世、蘇我馬子が実権を手にした時代において、彼が深い挫折を味わい、次第に斑鳩宮へと引きこもるようになったいきさつを明らかにします。

最後まで天皇の座を譲ろうとしなかった推古天皇や、蘇我氏に一族ごと抹殺される聖徳太子の息子・山背大兄王の悲劇についても語られます。

著者
黒岩 重吾
出版日
1998-09-01

聖徳太子について一般的には、宮廷支配者である蘇我氏と協調して政治を行っていたというように考えられています。

しかし黒岩重吾が本書で示したのは、天皇に即位することもなく、推古天皇や蘇我氏から権力を勝ち取ることもできずに、理想を実現することへの希望を失っていった聖徳太子、という人物像でした。

彼が最期に残した言葉とされる「世間は虚仮、仏こそ真」 というセリフからも、その絶望が見て取れるでしょう。

実在したかどうかも議論の的になっている聖徳太子ですが、もし実在の人物であったなら、それは激動の古代史にあって志を果たせなかった悲劇の皇子だったのかもしれません。

国家平定に奔走した倭王・武

5世紀の日本は群雄割拠の様相を呈していました。その時代にあって統一政権をつくりあげるために、ときには朝鮮半島の勢力と協力しながら、反対勢力を平定していったのがワカタケル大王です。

中国の史書に「倭王・武」と名を残した、ワカタケル大王こと雄略天皇の活躍をスリリングに描きます。

著者
黒岩 重吾
出版日
2003-12-10

本書はワカタケル大王の生涯を軸に据えていますが、大きな見どころとなっているのが当時の国際情勢との関わりです。

朝鮮半島にあった国家の1つ、百済の昆支王との同盟関係により先進的な技術や情報を入手していたことが示され、古代日本では私たちが想像するよりもはるかに積極的に、国際交流が進められていたというのです。

外国勢力の思惑もうまく利用しながら、古代日本に中央集権体制を作り上げていくワカタケル大王。そこから飛鳥時代の王朝へと繋がっていくのだと考えると、とてもわくわくさせられますね。

いかがでしたか。謎多き古代日本を舞台に、ひとりひとりの人物に生命を吹き込んでいった黒岩重吾の功績は偉大だといえるでしょう。ぜひこの機会に、彼の著作に触れてみてください。

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