サラリーマン時代から小説執筆に挑戦し、戦国時代を扱った歴史小説を多数手掛けている小説家・鈴木輝一郎。彼の創作活動の経歴や、特におすすめの作品を紹介していきます。
鈴木輝一郎は1960年生まれ、岐阜県大垣市出身の作家です。
日本大学を卒業後、ゲームメーカーのタイトーに入社。その頃入手したワープロ専用機を使って小説を書くことを思いつき、雑誌の新人賞に作品を出してみると予選を通過してしまいます。それがきっかけとなり、働きながら小説の執筆を続けるようになりました。
1988年からは実家の左官業を継ぐために岐阜へと戻ります。書き上げたショートショートが星新一からの評価を得ると作家としてデビューし、1994年に短編小説「めんどうみてあげるね」で日本推理作家協会賞を受賞しました。
その後は次第に歴史小説へと活動範囲を広げ、特に戦国時代の人物をテーマに据えた作品を多く発表しています。
また鈴木輝一郎は、小説家養成講座も開講しており、ウェブを通して全国の作家志望者へのレクチャーを行なっています。
本書は、戦国時代の武将・浅井長政と覇王・織田信長の関係について取り上げた歴史小説です。
男と男の「愛」というものを大きなテーマとして、愛を知って育った長政、愛を捨てて覇道を選んだ信長という対比で描かれます。
かつて愛し合っていたはずの2人は、なぜ決裂し最後の悲劇的な結末に向かっていくことになるのか。それが本書で明らかにされます。
- 著者
- 鈴木 輝一郎
- 出版日
- 2007-09-12
浅井長政と織田信長が、男同士の関係を正面から取り扱った歴史小説は多くないでしょう。
長政が信長に認められ北近江の支配を確立する中で、次第に思惑がすれ違い、ついには長政が信長打倒の決意を固めるまでのいきさつ、それぞれの人物の内面や心理が克明に描かれています。最後の結末を知っていながらも物語を追うことをやめられません。
ついには人であることをも捨て去る信長の鬼気迫る姿にも注目です。
豊臣秀吉の部下として賤ヶ岳の戦いで活躍した「賤ヶ岳の七本槍」の1人、片桐且元(かたぎりかつもと)。
その後、且元が命を懸けて豊臣家を守ると誓いを立て、徳川家康が仕掛けた大坂の陣の前触れとなる「方広寺鐘銘事件」に筆頭家老として立ち向かう様が、本書には書き表されています。
- 著者
- 鈴木 輝一郎
- 出版日
本書の見どころは、片桐且元の武士としての苦悩と覚悟、そしてその生き様の美しさにあります。
豊臣家を守り続けるという誓いを果たさねばならない一方で、徳川家康や淀君といった人々の思惑に翻弄され、最終的には大坂の陣の勃発を防ぐことはできませんでした。
歴史的には目立たなくとも、武士の意地を見せた片桐且元という1人の古強者が存在していたことを、本書は教えてくれます。
また同時代の織田信雄など、やはり日の目を見ることの少なかった人物に隠された魅力についても知ることができるでしょう。
織田信長の妹にして浅井長政の妻であり、柴田勝家の妻でもあった、お市の方の生涯をロマンティックに書き上げた小説です。
「柴田勝家の最後の女になりたい」という約束をし、勝家もそれを律儀に守り独身のままで通したこと、そして長政と交わした深い愛情など、情熱的な物語に思いをはせることができるのが本書です。
- 著者
- 鈴木 輝一郎
- 出版日
- 2011-07-15
お市の方は誇り高く美しく戦国の世を生き、2人の傑物に愛された女性でした。
本書はお市の方を「鳳(おおとり)」、すなわち美しき伝説の雌の鳥になぞらえて語っています。そんな彼女を中心に物語が進んでいくため、歴史背景の詳細には立ち入らず、スムーズに読むことのできる作品となっています。
特に、ひたすらに純粋な気持ちで彼女に接する柴田勝家の姿を見れば、勝家のファンでない方であっても、彼のことが好きになってくるはずです。
織田信長と本願寺顕如という、思想を異にする2つの勢力がぶつかり合った一向一揆・石山合戦を、「改革するものと、されるものと」という対比構造によって描写するのが本書です。
そして実はもうひとつの対立軸があり、それは平和の実現を目的として戦った父・顕如と、打倒信長に傾倒する子・教如との間の確執でした。
- 著者
- 鈴木 輝一郎
- 出版日
- 2011-02-05
本願寺顕如という人物は戦国時代のキーパーソンでありながら、彼自身にスポットライトが当てられた小説は珍しく、歴史好きにはぜひ手にとって欲しい1冊となっています。
顕如が目指したもの、それは旧来の価値観による秩序を取り戻し、民が安らかに暮らすことのできる世の中にするというものでした。
宗教勢力のトップを主役に据えてはいますが決して説教本などではなく、信長の改革の嵐を前にして、家族を持ち理想を掲げ果敢に立ち向かった顕如という人物がいたのだ、ということを本書は私たちに示してくれるのです。
本書の主人公は佐々木小次郎との決闘から20年以上を経た宮本武蔵、ではなくその養子である宮本伊織です。
非常識かつ傍若無人な53歳の中年剣士・宮本武蔵と、その身勝手な振る舞いの後始末をつけて回らなければならない養子・伊織の2人を軸に、柳生一族や伊賀忍者といった大集団をものともせずになぎ倒していく彼らの活躍を、面白おかしく描きます。
- 著者
- 鈴木 輝一郎
- 出版日
この物語は、宮本武蔵の人間離れした活躍を楽しむ痛快時代劇ということで、これまでにご紹介した本とは趣きが異なります。
なんといっても、「剣聖」と呼ばれるほどの大人物として神聖化されてきた武蔵のイメージを一挙にひっくり返してしまったのが、本書の凄さです。
柳生一族が朝鮮通信使の暗殺を企んでいたり、敵役として登場するのも伊賀忍者集団であったりなど、もはや剣豪小説の域を超えた一大時代活劇と呼んでも差し支えないでしょう。
思わず笑ってしまうような内容ですが、こんな宮本武蔵も読めば好きになってしまうに違いありません。
いかがでしたか。鈴木輝一郎の作品には、正統派の歴史小説もあればロマンスや時代小説のものもあり、様々な方面で楽しめる小説が揃っています。歴史好きならぜひ一度、これらの本を読んでみてください。