『聲の形』の作者・大今良時による漫画『不滅のあなたへ』。「それ」という不死身の存在が主人公という斬新な設定でありながら、ストーリーの完成度の高さが評価されています。宇多田ヒカルが主題歌を担当するアニメも好調!この記事ではそんな本作のキャラクターや魅力を最新巻までネタバレありで紹介していきます。
印象的な冒頭シーンからはじまる漫画『不滅のあなたへ』。この冒頭から読者をその世界観へ導きます。
そんな不思議な力を持つ作品の作者は、前作『聲の形』で多くの賞を受賞した大今良時。『聲の形』はアニメーション映画としても高い評価を受け、大ヒットを記録しました。
そんな大今が『聲の形』に続く作品として満を持して発表したのが『不滅のあなたへ』です。2016年、「週刊少年マガジン」にて連載をスタートさせました。
「このマンガがすごい2018」オトコ編3位や「マンガ大賞2018」でのランクイン、翌年には講談社漫画賞少年部門受賞など何かと話題の『不滅のあなたへ』。2021年からはNHKにてテレビアニメもスタートしました。その完成度の高さから、原作同様に放送を重ねるごとに注目度も増しています。
謎の人物から投げ入れられた球。ただの球ではないこの球は、石やコケなどに姿を変えレッシオオカミとなり、やがて人間を真似するようになっていきます。さまざまなものに変化を遂げながら人としての感情も獲得していく不死身の「それ」。フシと呼ばれる「それ」が経験する大河ドラマです。
『不滅のあなたへ』で描かれていくのは、球だった「それ」=「フシ」が、「成長」しさまざまなものを「知る」ということ。徐々に人としての感情を獲得していく主人公・フシが自分とは何なのか、なすべきことを見出していく姿を感動的に描いています。
最初はこれまで読んだことのない設定に少し戸惑うところもあるかもしれません。一方で、登場人物たちの感情が非常に丁寧に書かれた作品に感動もひとしお。ファンタジー好き、アクション好き、感動的なドラマ好きなど多くの人たちが楽しめる作品となっています。
「それは はじめ球だった」
(『不滅のあなたへ』1巻より引用)
こんな一文から始まる本作。何のことだと思っているとさらにミステリアスな言葉が続きます。
「ただの球ではない
ありとあらゆるものの姿を写しとり
変化することができる
私はそれをこの地に投げ入れ 観察することにした」
(『不滅のあなたへ』1巻より引用)
死ぬことがなく、最初は「意識」すら無かった「それ」。彼は時にはオオカミに、時には少年に姿を変え、人間から「フシ」という名をつけられ、成長していきます。人間界での様々な出会いや別れの記憶は、彼をより人間らしくしていきます。
その旅路の途中で自分にしか見えない黒いマントを被った者と出会うフシ。彼らは「この世界を保存する」という目的を持ち、フシをつくった存在だと明かします。
それに対してフシを狙い、「楽園の門戸を叩き 崩壊を目論む存在」の「ノッカー」たち。彼らはフシからそれまでの記憶を奪い、もとの意識すらなかった頃へと戻してしまう危険性を持った者たちです。
果たして彼は旅をしながらどんな記憶で自分というものをつくりあげ、それを守っていくのでしょうか。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
- 2017-01-17
dアニメストアにて行われた2021年春にスタートしたアニメの中で「一番感動したアニメ」アンケートで見事1位に輝いた作品が『不滅のあなたへ』です。そんなアニメ『不滅のあなたへ』は、NHKEテレにて2021年4月より放送が開始されました。
声の出演には、本作で初主演を務める川島零士ほか、津田健次郎、引坂理絵、内田彩、斎賀みつきらと豪華声優陣が集結。監督には『NARUTO』シリーズのむらた雅彦というベテランが加わりました。
特に注目ポイントは、宇多田ヒカルが手掛けた主題歌『PINK BLOOD』。彼女なりの作品世界を主題歌に込めています。アニメと合わせて聞いてみるとさらに味わい深いですね。
また、今回アニメ化にあたり気になるところといえばフシの声。言葉を知らないフシがどのように言葉を獲得していくか、感情を獲得していくか演技力が非常に必要な役どころです。原作者・大今とむらた監督も可能性を感じたという新人・川島がどんなフシ像を作り出すのか楽しみですね。
原作の壮大な世界観に動きや声が加わり、アニメーションとして表現されることで、また一層作品世界が魅力的なものになることでしょう。これまで見たことのない斬新な設定や感動のストーリーに誰もが心奪われてしまうのでは。原作同様にアニメもぜひ注目してみてください。
『不滅のあなたへ』はさまざまな国や時代により、多くの登場人物がいます。そのなかでもフシに大きく関わりのある主な人物を紹介します。
はじめはただの球だったが、さまざまな情報を獲得し、徐々に変化を遂げていく。観察者によって作られた存在。出会った動物か人間が死んだ時、その刺激でそのものに変身することができる。決して死ぬことがない。
謎の存在。球だったフシをこの世界に投げ入れ観察している。その目的は「この世界を保存する」というもの。
観察者の計画を阻む存在。フシに襲い掛かり、その獲得したものを奪ってしまう。中心に核があり、その核を破壊しない限り動きを止めることはできない。常に学習している。
フシが最初に変身を遂げたレッシオオカミ。その後に出会う少年が飼っていた。フシが、たびたびこの姿に変身する。
ニナンナの少女。大人になったら、ママになることを夢見ている。オニグマの怒りを鎮めるための生け贄に選ばれたが、パロナの助けにより逃げ出すことに。途中、フシと出会い、何も知らない彼のママとして振る舞う。
ニナンナ人。マーチを妹のように可愛がっている。生け贄となったマーチを救うため、彼女を運ぶヤノメ人集団を襲う。
ヤノメ人の囚人。ニナンナ人を生け贄にするため、祈祷師とウソをついていた。フシとともにヤノメを逃げ出し、その後も行動をともにする。フシに読み書きなど、さまざまなことを教える。酒爺の恋人。
ヤノメ人の役人。マーチを生け贄にするための儀式を担当していた。フシに興味を持ち、生き残ったマーチ、パロナ、フシをヤノメに連れ帰るが、逃げられてしまう。
タクナハに住む少年。リーンを助けるため大木の下敷きになるが、酒爺に助けられ一命をとりとめる。顔がつぶれてしまったため、仮面を被ることに。フシを弟として何かと面倒をみる。リーンに想いを寄せている。
豊かだが自由のない暮らしに満足できず、家出を繰り返すタクナハの少女。大好きな紫の花を摘んでいたところ、グーグーに命を救われる。その後、酒爺の酒屋に出入りするようになる。
酒屋を営む変わった老人。さまざまな知識を持っている。ピオランの恋人。酒爺に会わすため、ピオランがフシを連れてくる。瀕死のグーグーを救った命の恩人だが、グーグーの体を改造もした。
凶悪な殺人犯が送られるジャナンダ島に母を殺した父とやってきた。同じような境遇の子供たちだけで仲間を作り、島を脱出する計画を立てている。フシとピオランをだまして島に連れてくる。のちにハヤセから島長の権利を譲られることに。
ハヤセの子孫。彼女の意思を継いで作られたフシを守る守護団の指揮をとる。これまでは全員女性だった。男性はカハクだけ。左手にノッカーを宿している。
ウラリス王国の第一王子。王になるための手柄として、フシを捕らえる。死んでしまった人がみえ、彼らと話すこともできる。人が大好きで誰よりも人望に厚く、後にフシを支えることになる。
ボンによって見出された3人の不死身の1人。ウラリス軍の兵士。屈強な肉体を持ち、洞察力にも優れている。武器製造もでき、頼りになる人物。
ボンによって見出された3人の不死身の1人。もともとはベネット教の本山にいた主領兵。痛みを感じないという特殊体質を持っている。
ボンによって見出された3人の不死身の1人。ボンの幼い頃からの親友。レンリルの王女・アルメとは異母兄弟。独自の火器を使って戦う。
土器人の少女。見世物小屋に姉弟で売られたところをフシに助けられる。その時にすでに弱っていた弟は死んでしまう。言語を持たないが、その意味は理解している。土器を使って意思を伝える。
フシが感じる平和が訪れた世界・現世に生きる中学1年生。オカルト研究部の副部長。とにかく前向きで好奇心旺盛。フシたちのことも普通に受け入れられることができる器の大きさがある。先輩のミズハを慕っている。
アオキユーキと同じ中学に通う2年生。ハヤセの末裔。どんなことも完璧にこなしてしまうため、生きることに興味を持てなかった。左手に違和感がある。フシに非常に興味を持つ。
作者・大今良時は前作『聲の形』とはまったく異なる世界観の本作で読者を作品世界に引き込んできました。彼女は前回のテーマがコミュニケーションだとすると、今回のテーマは「アイデンティティ」だと語ります。
人が死んだ時、その人の人生はどんなものだったのか、自分にどんな影響を与えたのかについて考えるという大今良時。しかしそう思った気持ちすらいつか忘れてしまうのだろうか、それこそが本当の別れではないだろうか、と考える彼女は、それをとても恐れていると言います。そしてそんな記憶をずっと留めておきたいという願望を本作でそのまま主人公の能力にしました。
漫画家は作品に打ち込むとまったく人と会えない孤独な職業。『聲の形』連載終了から本作の連載開始までの約2年は家族や親戚、友達との心休まる期間でありながらも、「お別れタイム」でもあったそうです。
そして常にもしかしたらこれが相手と会える最後かもしれないと考えながら日々を過ごしていた彼女は、その時に感じた「大切な人との時間が不滅で永遠でありますように」、という気持ちをタイトルにそのまま込めたのだそうです。
フシは「意識」や「気持ち」を赤ん坊のようにあっというまに、あるがままに学んでいきます。まっさらな状態で見る人間の姿はどこか読者にも新鮮に映るものです。
そんな目の前の人間や現象がそのまま自分というものになっていくフシを見ていると、今を生きる自分や大切な人、共有している時間を大切にしたくなります。日々の経験や記憶こそが自分を形作るもので重要なものだということ。しかし忙しさや悩みにまぎれてその重要さや記憶自体を忘れてしまいがちだということ。
本作は大今良時が『聲の形』という作品を経て、その後に過ごした時間に感じた気持ちが読者に直接伝染してくるようなよさがあります。
フシという主人公、そしてそれをつくった人ならざる者という語り手。彼らがキーパーソンではあるものの、本作は人間の命、生きていることへの愛おしさが感じられる作品です。
フシや彼の創造主からすると人間は近しくはない存在です。感情や人同士のつながりというものへの生まれもっての肌感覚が無さそうな彼らが見る世界は、神様が空から人間を見下ろしているとしたらこんな感覚なのだろうかと思わされるようなもの。遠い、でもどこか愛おしさやうらやましさが混じっているようなまなざしに感じられます。
ある少年は自分以外誰もいなくなり、雪に閉じ込められた世界で最後までプライドを持って死んでいきました。ある少女は大人になる未来を夢見ながらも、今目の前にいる大事な人のために死んでいきました。
彼らの死は死ぬことがないフシに「衝撃」を与えます。そのたびに彼は今まで不明瞭だった視界が晴れていくように、人間というものを的確に捉え、近づいていくのです。そんな彼の認識が、そのまま作品世界を彩っています。
しかしフシはその大切な記憶をノッカーたちに狙われています。人間に近くなりながらも、本質的に異なる彼はいつでも「無」の状態に戻る危険性があるのです。
すぐに死んでしまうか弱い存在だけど、尊さを保ったまま生をまっとうする人間。戦いによって敵に奪われてしまう可能性のある記憶自体が自分であり、それを必死に繋ぎとめるフシ。
本作は主人公が人ならざるものでありながらも、とても人間くさい物語。そこが読者の心に訴えかけてくるのです。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
- 2017-03-17
本作がもっとも言葉に表しがたい要因として、物語の進み方、ゴールが明確でないことが挙げられるでしょう。
ほとんどの漫画にはジャンル別に定石のような目的が存在するかと思います。恋愛漫画では主人公と想い人が結ばれること、バトル漫画では悪を倒すこと、スポーツ漫画ではその競技の頂点へのぼりつめることなど、目的が明らかであり、読者もある種の安心感を持って物語を読み進めることができ、疑問を持たずにその過程に熱中できるのです。
しかし本作は生まれた当初意識すら持たないフシが主人公。彼は生物として最低限のことすらできないので、自分が何のために生まれたのかなど知るはずもありません。
彼の生きる目的、創造主やノッカーたちの設定は2巻の後半になってやっと出てくるもの。それまで読者は「この作品は何と形容していいのだろう」という不安感のようなものを抱えながら読み進めることになります。
しかしなぜそんな不安感を持ちながらも読み進めることができるのかというと、フシの成長、物語の展開にどこか命の体温を感じることができるから。
フシはどういう特徴を持つ生物なのか、何を目的に生まれた存在なのか、謎だらけの生物ではあるものの、学習して、痛みを持って血を流し、読者の目の前で生命の息吹を感じさせます。
そして物語もまた、何がゴールなのか、どういう目的を持って読者に届けられているのか、手探りのような状態で進められます。それは漫画では珍しいこととはいえ、現実ではよくあること。人生と同じような身近さがあるストーリーだといえるのではないでしょうか。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
- 2017-06-16
4巻で人としての生活を4年間続け、刺激がないものの、ノッカーも来襲せず、平和な日常を送っていたフシ。今日はリーンの誕生日パーティーです。
彼女はフシが兄弟のように慕うぐグーグーの思いびとであり、ふたりは結婚目前にして過去の記憶と現在の想いを共有します。しかし、ちょうどその時、ノッカーがやってきたのです。
そしてその戦いで命を落としたグーグーへの罪悪感から、フシは村を出て、ひとりでいきていくことを決めました。
- 著者
- 大今良時
- 出版日
- 2017-09-15
しかしそこに一緒に暮らしていたピオランという老婆がついてきます。もう誰も死ぬのを見たくないフシは断ろうとしますが、彼女の勢いに気圧され、結局いっしょに旅をすることにします。
さまざまなものに変身できるようにしたいと考えたフシは、彼女と一緒に動物たちが数多く生息するというサールナイン密林へと向かうことにしたのですが……。
4巻では、平和な日常に訪れた悲劇、そして自分の記憶を奪われたフシの気づきが印象的です。
グーグーは本当に不遇な人物でした。兄に裏切られ、人前に出せない顔になり、初めて幸運が訪れようとした矢先に亡くなる。物語から早々にいなくなる彼の恋物語、そしてこれからもそんな彼に恋し続けるであろうリーン。
フシは刺激を受けて変化を学ぶのですが、これもまた彼にとって必要な刺激。多くを語らずに進んでいく物語の速さが、逆に心の痛みを引き立たせています。
また、ピオランと旅するなかでマーチのことをおぼろげながら思い出すフシ。しかしそんな彼のアイデンティティ、記憶はノッカーたちに奪われてしまっています。
初めて悔しいという感情を覚え、戦略的にこれからの戦いを乗り越えていこうとする彼の成長した姿には、失う痛みを知ったからこそのものを感じ、複雑な気分になります。
「間違い」で囚人として島に連れてこられてしまったフシ。別々に船に乗せられたことによってピオランとはぐれてしまいます。
そんな彼に「間違い」を起こしてしまった少女のトナリは、島民の娯楽であり、それに勝ち上がった者はこの島すべての権限を得られるという闘技場での戦いをすすめます。それに勝てばピオランを探し出せるだろう、と。
実はトナリはかつて妻を殺したという疑いをかけられた父とともに島についてきた少女。罪を犯した者たちが連れてこられるこの無法地帯の島での人生に辟易としていました。
そしてある日、気に入った島民を買い戻すという「客人」にフシを船に乗せて大会に出場させろと言われたのです。運命を変えられると誘惑するその人物の言う通りにしてしまったトナリですが、それはどうやらただ利用するためにやってみたというだけではないことがのちに分かります……。
- 著者
- 大今良時
- 出版日
- 2017-11-17
そんななか順調に大会に勝ち進み、ピオランの閉じ込められている場所も見つけたフシ。決勝で勝ち進み、島民を自由にするということを宣言していましたが、最後の相手は思いもよらない相手で……。
5巻ではトナリの人となりが伺える内容でした。フシがいくら真面目に話してものらりくらりとかわし、ピオランのことを教えない彼女。いつも陽気に笑っています。
それでいて島内の同じ境遇の子供たちをまとめている人物で頭がキレる面があり、油断ならない人物でもあるのです。
しかしそんな彼女の言動にはある理由がありました。
「う…なんだか心が痛いぜ
わかってるよ ひどいことしたなって!
あんたを島で引き入れたこと2回くらい反省した!
でもね必死だったんだよ あたしも 家をなくしたヤドカリくらいにはね!
大会手こずってたね! わかるよ殺したくなかったんでしょ?
世の中には死んだ方がいい連中ってのがちゃんといるんだ
たとえば今日戦った相手 あいつ50人も殺してるよ
あんたが殺してくれればよかったのに
あたしはね あんたとさ…
えっとうーんとそうだな 弓と矢みたいな関係になりたいんだ
あんたが矢であたしが弓
あんたの力を最大限に引き出す役をあたしがやるの」(中略あり)
(『不滅のあなたへ』5巻より引用)
すべて一連のシーンからの発言ですが、まるで口から生まれたような話しっぷりです。しかしまったく取り合わないフシ。そんな彼を見てトナリは急に立ち止まり、顔をおさえ……。
「どうやったらあたしのこと 好きになってくれるの?」
(『不滅のあなたへ』5巻より引用)
嘘ばかりつくトナリですが、初めてフシに本当の言葉を言った時かもしれません。もともとの性格もあるものの、彼女は初めて知った気持ちに自分でも戸惑ってこんな言動をしてしまったのかもしれません。そのあとから徐々に彼女は素直になっていきます。
痛みが成長に必要だということは、フシのとなりにいつも現れる黒いマントの男が5巻でも念押ししたもの。トナリについてもどういう運命を辿るのか心配な面もあります。
そしてフシとの決勝戦にも出てきたまさかの人物の目的も気になりますね。
5巻でフシと戦ったのがヤノメの役人で、マーチとパロマを殺したハヤセということが判明しました。しかしフシは彼女の思惑どおり陽動作戦に動揺し、決勝戦で負けてしまいます。
そのまま彼はハヤセの屋敷に連れて行かれるのですが、そこにトナリが侵入してきて、フシを取り戻そうとします。
しかし彼女の圧倒的な力の前に追い詰められ、フシは自分が彼女に捕まる代わりに、それ以外の人たちを船で外に出してあげるよう頼むのでした。
そこからはまさかの展開がどんどんと起こり、最終的にフシとトナリは別れを決断し……。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
- 2018-02-16
その後は、島を出てからのフシとピオランの物語が描かれます。
「傷」という衝撃を経て学習するフシですが、以前よりも確かに前進が感じられます。肉体的なものだけでなく、精神的な面でも傷つき、成長していくのです。
「さよならだけが人生だ」という言葉がありますが、不死身のフシが主人公だと、余計にそうなのだと実感させられます。彼はどうしたって残される側の人間なのですから。
6巻の後半は大きな展開はないものの、少しずつ沁みてくる何かがあります。ぜひ作品でフシだけの物語に心を浸してみてください。
ピオランが死んでから、誰とも関わりを持ちたくないと一人、無人島で暮らし続けていたフシ。さまざまな生き物に変化してきましたが、最も自分らしいと感じる様相で、ノッカーを倒すため、体や戦略を鍛えてきました。
しかし彼らは毎回単調な攻撃しかしてこず、40年ほど経ったところでフシは退屈を感じ始めました。
そんなところにやってきたのが、ハヤセの孫だと名乗るヒサメという少女で……。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
- 2018-06-15
ノッカーたちがフシではなく、無差別に人間を襲うようになり、そんな折にフシを信仰する守護団のトップであるヒサメと出会ったことで、その島を出ていく決意をしたフシ。
その途中で出会ったのは、ある懐かしい人物でした。しかし彼はそれが過去に会ったことのある人物だと気づきません。それに気づかないものの、またしても自分がきっかけで他人を死に追いやってしまったことに落ち込むフシ。
しかしその人物にこう言われ、彼は考えを改めます。
「フシ
皆の…生きてた時のこと
たくさん 思い出してあげて…
それだけで 生きててよかったと 感じるの」
(『不滅のあなたへ』7巻より引用)
そしてその人物亡き後、正体に気づいたフシは、自分の殻にこもらずに、仲間をつくって戦おうと決意するのです。
ある人物の死のシーンは、これまで読んできた読者なら感涙必至。過去の傷を乗り越え、新たな旅に出るフシの様子に胸が熱くなります。
8巻からはウラリス編です。ウラリス王国の第一王子であるボンシェン・ニコリ・ラ・テイスティピーチ=ウラリス(以下ボン)に捕まったフシと守護団。ハヤセの末裔でフシの守護団を率いる6代目のカハクとともに、ウラリス王国へやってきます。
ボンの目的は、フシを捕らえたことで王になること。しかし、ノッカーの襲撃が気がかりで仕方ないフシはすぐに出ていこうとします。そこで、ボンはフシとともにノッカーから民を救うための旅に出ることになるのでした。
実はボンには特別な能力がありました。目に見えないものが見えることです。それは死者とコミュニケーションがとれるということ。フシの観察者も目には見えませんが、存在を認識していました。
そんな時、フシに死者を蘇らせる能力があることを知ってしまいます。そのことは伝えぬことにしたボンでしたが、フシを異端としているベネット教会にフシとともに捕まってしまうのでした。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
新たなキャラクター・ボン。初めのうちはただの変な人物として描かれていませんが、徐々にその能力が明らかに。その人となりも魅力的です。
これまでのフシの仲間の中で最も冷静で力の使い方をわかっている人物。彼が物語に登場することで、フシの存在意義が明確になっていきます。今後もおさえておきたい人物です。
ベネット教に捕らわれたフシとボン。フシは鉄の牢を溶かし脱獄します。ボンを助けようとしますが、彼は一人罪を被ることに。ボンの死刑が執行されたかのように思われましたが、フシによって死は偽装され、ボンは生きていました。
そんななか、カハクは自暴自棄になりノッカーに乗っ取られている左手を切り落とそうとしますが、「ころさないで」とメッセージが。フシがノッカーの目的を問うと、「みんなをたすけるため」という返事がかえってきます。ノッカーはからだに閉じ込められた「ファイ」という魂のようなものを解放するために、フシと観察者の計画を阻もうとしていたのです。そして、次に狙うのはベネット教本山であることを明かします。
なんとかノッカーとの戦いに勝利するも、フシが獲得していた5体分の情報を奪われてしまいました。より大きなものを作り出しさまざまなものと繋がれば、感覚野も広がりノッカーを感じることができる。そう気づいたフシは訓練を開始。
次にノッカーが狙う大陸一の大都市・レンリルでの戦いに向けて準備をおこなうフシとボン、カハクなのでした。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
人間としての感情など獲得していくフシ。彼に感情移入することも多くなりましたが、やはりフシは特別な存在。フシ自身が大地のひとつであり地球のひとつ。そんな大いなる存在であると感じさせられる9巻でした。
徐々にその力を増していくフシ。3km先まで自分自身を広げることもできるようになりました。そうして得た感覚野で、次々にノッカーを倒していきます。見世物小屋で助けたエコとふたり、訪ねて来たボンとカハクを迎えます。
エコは土器人の少女。土器を使って思いを伝えます。彼女もまたノッカーによってすべてのものを奪われたひとりでした。
そして次に向かうは王都・レンリル。ボンだけはフシの仲間となる不死身の存在を探すため別行動に。レンリルに到着するも、ノッカー襲撃準備の協力がなかなか得られません。しかし徐々に、民や兵士、そして城からの信頼も次々と得ていくフシたち。都市全体をフシが作り変えることによりノッカーとの戦いに備えるのでした。
一方、ボンは観察者に確認することがありました。この戦いの行く末やノッカーについてを。観察者はただただフシを見守るだけの存在であると明かすのでした。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
フシに戦いを挑むノッカーたちも、悪をもたらす身体そのものがなくなることを望んでいました。ノッカーはフシを闇雲に狙っているわけではなく、彼らもまた自分たちの大義をもって、襲撃していたことがわかります。ノッカーが単純な悪としての存在でないという設定は非常に意外ですね。
いよいよ決戦の時。ノッカーが攻めてきました。いきなり壁を壊されるも、すぐさま修復するフシ。そして、ひとり増えたと気がすると。それは小さな少女でした。
次から次へ襲い掛かるノッカーとそれに対抗するフシとレンリルの人々。しかし、フシの負担はますます増えていきます。各所に自分の分身を置き、瞬間移動するかのごとく戦うフシでしたが、その力も尽きたかのように気絶するまでに。その間に多くの命が奪われたことに怒りとふがいなさを感じ、暴れ回るフシでした。
そして、死んだはずのカイ、ハイロ、メサールが生き返ります。これが不死身の仲間の正体でした。フシは自分の知らない何かをボンは知っていると気づきます。しかし、戦いが終わるまでは教えられないと。
漠然とした不安を抱えるなか、カハクの左手が暴走し、フシに襲い掛かります。そこへフシを助けるため現れたのは、フシの母的存在・マーチだったのです。
- 著者
- 大今 良時
- 出版日
最後の最後でマーチの登場。フシを形作る上で、マーチの存在は欠かせません。この小さな少女の再登場はフシに何をもららすのか。次巻が気になりますね。
カハクの暴走した左手ノッカーはフシを奪って逃げてしまいます。そこへ現れたフシの馬とマーチは彼を取り戻すためノッカーを追いかけることに。途中、ボンに助けを求めます。
フシがいなくなった場所に戻ると、球となってしまったフシが残っていました。フシと街を繋ぐロープもそのままに。フシに全てを思い出させるためボンが取った行動は、自らの死だったのです。
ボンになることで、その能力を得るフシ。ボンの見えざる者が見える力はフシの刺激となり全てを取り戻します。ボンの体で目覚めたフシのもとには、フシの大切な人たちが集まっていました。
フシは自分の本当の力を知り、自分の見たいものを作り出しました。フシに生き返らせてほしい人たちを欲求のまま生き返らせ、みな戦場へと戻っていきます。エコに宿ってしまったカハクのノッカーもまたカハクへと戻っていきました。しかし、そのままどこかへ消えてしまいます。
不滅のこの軍団により、フシたちの勝利となりました。その後もフシは、世界を覆いノッカーの居場所をなくすことに尽くします。生き返ったフシの仲間たちはそれぞれがなすべきことをなし、その生をまっとうし戦いの時代が幕を閉じるのでした。
- 著者
- 大今 良時
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このノッカーとの戦いの時代の終焉は、非常に感慨深いものでした。次から始まる現世編も大いに期待できますね。
13巻からは現世編へ。フシが願った平和な世界がそこにはありました。その姿を見て、美しいと喜ぶフシ。みんなの夢を叶えるため、それぞれの故郷で生き返らせます。フシもまた観察者からのほうびとして世界と一度切れても再接続できる力を与えられるのでした。
フシは新しい世界を謳歌します。マーチを迎えにいこうとニナンナへ。するとマーチが知らない家族に受け入れられている様子に動揺するフシは、魚の姿になり思わず逃げてしまいます。そんな時、魚釣りをしていたアオキユーキに釣り上げられてしまうのでした。
ユーキの家に連れていかれるフシ。そこには変身できるおかしなフシでも受け入れてくれる家族がいました。世界中に散らばった仲間がアオキ家に集結することに。
一方、ユーキの思い人であるミズハは左手に違和感を持っていました。彼女は何でもできる才色兼備。しかしそれゆえに、死にたいと思っていました。そんなある日、偶然フシに会いハヤセの子孫であると見抜かれます。その瞬間、彼女はフシに興味を持つのでした。
- 著者
- 大今 良時
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フシとその仲間たちが現世にいるという光景もなんともおかしく感じられます。世界は平和になったかの如く見えていましたが、いまだに不穏な動きも。ノッカーの復活でしょうか。先の展開が気になります!
左手に違和感のあったミズハ。記憶のないまま、母を刺し殺してしまいました。そんな彼女が助けを求めたのはフシでした。
自分を匿うように頼むミズハ。廃神社で一晩過ごします。そこにあった母の携帯に父から電話が。ミズハが急いで帰ると、そこでは母が生きていました。
フシがミズハをユーキの家に招待。ちょうどその時、ボンがグリーンカードをみなに配り始めました。それぞれ学校、会社に通うことになります。ボンにミズハのことを相談するつもりが、逆にボンからミズハの母がそこにいることを告げられます。
ミズハの母は自分と同じように何者かに体を乗っ取られてしまった人たちを探すといいます。自分なら見つけられると。
そして見つけたのは10歳の少女・みもりでした。彼女を助けようと現れた男性が車に轢かれそうに。その時、みもりと男性を助けたのは少年でした。それは紛れもないあの観察者の現在の姿だったのです。
- 著者
- 大今 良時
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実はノッカーは現世でも存在していました。彼らも姿を変え、フシや観察者が知覚できないほど小さくなっていったのです。ノッカーが選んだ道は共存。なんと、フシたちは敗北していたのでした。
この後、フシたちはノッカーに対してどう対処していくのでしょうか。またフシ自身が初めて自分は愛を知らないと気付くことに。フシの気付く愛とは……。
ノッカーに体を乗っ取られてしまった少女みもりには、血の繋がらない年上の兄がいました。彼は30歳で引きこもりのひろとしです。初めて妹ができた嬉しさと、ほとんど笑わないみもりを心配して、何かと世話を焼くひろとしでした。
みもりの授業参加日。両親はそろって新婚旅行に。ひろとしはみもりのため慣れないスーツを着て学校へ駆けつけますが、そこで見た光景は、みもりが飛び降りている瞬間でした。しかし、死んだはずのみもりは別人のように元気な姿で現れたのです。
みもりのノッカーは攻撃的。フシも危うく殺されかけました。そしてニセみもりから「あの人が喜ぶ」と気になる言葉も。
現世のノッカーの目的は、人間の中に住むことで世界を平和にすること。心が壊れている人間の世界を平和に導くことだといいます。
そんなノッカーに立ち向かうのは、ひろとしでした。普通の人間のひろとしが敵うわけもなく、ただひたすらやられてしまいます。その姿を見て、本物のみもりが放った言葉は「生きたい!!」という言葉でした。
- 著者
- 大今 良時
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そこにまた新たな人物が出現。フシと同じ学校のフウナです。ニセみもりを焼いてしまいます。彼女もまたニセみもりの役目は終わったと言い残し消えてしまうのでした。
この後も続く惨劇。新しいノッカーの役目や大義とは。そして、ハヤセ一族の目的とは。
まだまだ目が離せないですね。
またもや惨劇を繰り返すミズハ。その原因は、彼女の中の歴代守護団当主に寄生していたノッカーの仕業だったのです。そのノッカーは、カクハの死によって一度は天に向かいました。しかし、500年後、ミズハの死にたいというSOSをキャッチし転生したといいます。
そして、いつものように左手から入り込み、ミズハの体中に根を伸ばしました。現世のノッカーは自殺願望のある人間を見つけて、その人間のストレスを解放するため魂を楽園に送るのです。
地下のフシの枝を通さない鉄の空間には、守護団の本部がありました。そのトップは、18代目継承者であるミズハ。実際に率いているのはミズハの体に住むノッカーです。
彼らの本来の目的は魂であるファイを楽園に導くことに変わりはありません。そのため、フシの命がどこにあるか探し完全に抹殺しようとしています。
それは、フシ本人も知らないこと。となれば、次にノッカーが襲うのは、元観察者であるサトル少年のはず。少年を守りに向かうフシでしたが、サトル少年は自身の圧倒的な力でノッカーを一蹴してしまいます。
ファイにはそれぞれの事情があり、殺すべきノッカーかどうかを知るには時間がかかりすぎるとサトル少年。その言葉に自身の行いについて迷うフシなのでした。
時代の変化によって変わるノッカーの存在。そのノッカーの全滅を誓うフシ。何が最善なのか。フシの今後の選択は。ますます気になる展開に!
週刊少年マガジン 2021年30号
2021/6/23
壮大なテーマの大河ドラマ『不滅のあなたへ』。漫画だけなく、アニメも注目の作品です。まずはその原作である漫画をぜひ読んでほしいところ。
「週刊少年マガジン」にて絶賛連載中でもありますが、現在、講談社マンガアプリ「マガポケ」公式WEBでは、第1話~第3話まで無料配信中です。また、コミックスも15巻まで発売され、最新16巻は、2021年9月17日発売予定です。
現世編に入ってからも、毎回気になる展開が続いています。この物語が、どこに向かおうとしているのか。ぜひその目で確かめてみてください。
<週刊少年マガジン>
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