『不滅のあなたへ』7巻を読み終え、うまく言葉にできない【ネタバレ注意】

更新:2020.12.17 作成:2017.8.7

『聲の形』の作者・大今良時による漫画『不滅のあなたへ』。本作は何かいい感じだけどその魅力がうまく言葉にできない!と読者に考えさせる作品です。アニメ化も決定され、ますます注目が集まります! この記事ではそんな本作の魅力を7巻まの内容を含め、考察させていただきます!

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目次

『不滅のあなたへ』の魅力を7巻までネタバレ紹介!読み解くほどに深い物語

著者
大今 良時
出版日
2017-01-17

この漫画の魅力は言葉では表しづらい。

本作の良さはそんな分からなさにあるかもしれません。さらに言うと、良い悪いというよりも、何かすごい、得体が知れない、でも続きを読まずにはいられないものがあるのです。

今回はそんな良さを言葉で表現するのが無粋に感じられる、いいからとりあえず読んで!と言いたくなる本作の魅力をできる限り表現したいと思います。

『不滅のあなたへ』の謎に包まれた始まり【あらすじ】

『不滅のあなたへ』の謎に包まれた始まり【あらすじ】
出典:『不滅のあなたへ』1巻

「それは はじめ球だった」 
(『不滅のあなたへ』1巻より引用)

こんな一文から始まる本作。何のことだと思っているとさらにミステリアスな言葉が続きます。

「ただの球ではない 
ありとあらゆるものの姿を写しとり 
変化することができる 
 私はそれをこの地に投げ入れ 観察することにした」
(『不滅のあなたへ』1巻より引用)

死ぬことがなく、最初は「意識」すら無かった「それ」。彼は時にはオオカミに、時には少年に姿を変え、人間から「フシ」という名をつけられ、成長していきます。人間界での様々な出会いや別れの記憶は、彼をより人間らしくしていきます。

その旅路の途中で自分にしか見えない黒いマントを被った者と出会うフシ。彼らは「この世界を保存する」という目的を持ち、フシをつくった存在だと明かします。

それに対してフシを狙い、「楽園の門戸を叩き 崩壊を目論む存在」の「ノッカー」たち。彼らはフシからそれまでの記憶を奪い、もとの意識すらなかった頃へと戻してしまう危険性を持った者たちです。

果たして彼は旅をしながらどんな記憶で自分というものをつくりあげ、それを守っていくのでしょうか。

魅力1:アイデンティティの獲得を描く

作者・大今良時は前作『聲の形』とはまったく異なる世界観の本作で読者を作品世界に引き込んできました。彼女は前回のテーマがコミュニケーションだとすると、今回のテーマは「アイデンティティ」だと語ります。

人が死んだ時、その人の人生はどんなものだったのか、自分にどんな影響を与えたのかについて考えるという大今良時。しかしそう思った気持ちすらいつか忘れてしまうのだろうか、それこそが本当の別れではないだろうか、と考える彼女は、それをとても恐れていると言います。そしてそんな記憶をずっと留めておきたいという願望を本作でそのまま主人公の能力にしました。

漫画家は作品に打ち込むとまったく人と会えない孤独な職業。『聲の形』連載終了から本作の連載開始までの約2年は家族や親戚、友達との心休まる期間でありながらも、「お別れタイム」でもあったそうです。

そして常にもしかしたらこれが相手と会える最後かもしれないと考えながら日々を過ごしていた彼女は、その時に感じた「大切な人との時間が不滅で永遠でありますように」、という気持ちをタイトルにそのまま込めたのだそうです。

フシは「意識」や「気持ち」を赤ん坊のようにあっというまに、あるがままに学んでいきます。まっさらな状態で見る人間の姿はどこか読者にも新鮮に映るものです。

そんな目の前の人間や現象がそのまま自分というものになっていくフシを見ていると、今を生きる自分や大切な人、共有している時間を大切にしたくなります。日々の経験や記憶こそが自分を形作るもので重要なものだということ。しかし忙しさや悩みにまぎれてその重要さや記憶自体を忘れてしまいがちだということ。

本作は大今良時が『聲の形』という作品を経て、その後に過ごした時間に感じた気持ちが読者に直接伝染してくるような良さがあります。

魅力2:人間ならざるものを通して見た人間の愛おしさ

フシという主人公、そしてそれをつくった人ならざる者という語り手。彼らがキーパーソンではあるものの、本作は人間の命、生きていることへの愛おしさが感じられる作品です。

フシや彼の創造主からすると人間は近しくはない存在です。感情や人同士のつながりというものへの生まれもっての肌感覚が無さそうな彼らが見る世界は、神様が空から人間を見下ろしているとしたらこんな感覚なのだろうかと思わされるようなもの。遠い、でもどこか愛おしさやうらやましさが混じっているようなまなざしに感じられます。

著者
大今 良時
出版日
2017-03-17

ある少年は自分以外誰もいなくなり、雪に閉じ込められた世界で最後までプライドを持って死んでいきました。ある少女は大人になる未来を夢見ながらも、今目の前にいる大事な人のために死んでいきました。   
 

彼らの死は死ぬことがないフシに「衝撃」を与えます。そのたびに彼は今まで不明瞭だった視界が晴れていくように、人間というものを的確に捉え、近づいていくのです。そんな彼の認識が、そのまま作品世界を彩っています。

しかしフシはその大切な記憶をノッカーたちに狙われています。人間に近くなりながらも、本質的に異なる彼はいつでも「無」の状態に戻る危険性があるのです。

すぐに死んでしまうか弱い存在だけど、尊さを保ったまま生をまっとうする人間。戦いによって敵に奪われてしまう可能性のある記憶自体が自分であり、それを必死に繋ぎとめるフシ。

本作は主人公が人ならざるものでありながらも、とても人間くさい物語であり、そこが読者の心に訴えかけてくるのです。

魅力3:生きているかのように成長する物語

本作がもっとも言葉に表しがたい要因として、物語の進み方、ゴールが明確でないことが挙げられるでしょう。

ほとんどの漫画にはジャンル別に定石のような目的が存在するかと思います。恋愛漫画では主人公と想い人が結ばれること、バトル漫画では悪を倒すこと、スポーツ漫画ではその競技の頂点へのぼりつめることなど、目的が明らかであり、読者もある種の安心感を持って物語を読み進めることができ、疑問を持たずにその過程に熱中できるのです。

しかし本作は生まれた当初意識すら持たないフシが主人公。彼は生物として最低限のことすらできないので、自分が何のために生まれたのかなど知るはずもありません。

彼の生きる目的、創造主やノッカーたちの設定は2巻の後半になってやっと出てくるもの。それまで読者はこの作品は何と形容していいのだろうという不安感のようなものを抱えながら読み進めることになります。

しかしなぜそんな不安感を持ちながらも読み進めることができるのかというと、フシの成長、物語の展開にどこか命の体温を感じることができるから。

フシはどういう特徴を持つ生物なのか、何を目的に生まれた存在なのか、謎だらけの生物ではあるものの、学習して、痛みを持って血を流し、読者の目の前で生命の息吹を感じさせます。

そして物語もまた、何がゴールなのか、どういう目的を持って読者に届けられているのか、手探りのような状態で進められます。それは漫画では珍しいこととはいえ、現実ではよくあること。人生と同じような身近さがあるストーリーだと言えるのではないでしょうか。

何か良い感じがするけど魅力があらわしがたいという声が多いのも、そんな一筋縄ではいかない、生き物のような変化をする物語だからではないでしょうか。

著者
大今 良時
出版日
2017-06-16

心の痛みを意識的に知るフシ【4巻ネタバレ注意】

4巻で人としての生活を4年間続け、刺激がないものの、ノッカーも来襲せず、平和な日常を送っていたフシ。今日はリーンの誕生日パーティーです。

彼女はフシが兄弟のように慕うぐグーグーの思いびとであり、ふたりは結婚目前にして過去の記憶と現在の想いを共有します。しかし、ちょうどその時、ノッカーがやってきたのです。

そしてその戦いで命を落としたグーグーへの罪悪感から、フシは村を出て、ひとりでいきていくことを決めました。

著者
大今良時
出版日
2017-09-15

しかしそこに一緒に暮らしていたピオランという老婆がついてきます。もう誰も死ぬのを見たくないフシは断ろうとしますが、彼女の勢いに気圧され、結局いっしょに旅をすることにします。

さまざまなものに変身できるようにしたいと考えたフシは、彼女と一緒に動物たちが数多く生息するというサールナイン密林へと向かうことにしたのですが……。

4巻では、平和な日常に訪れた悲劇、そして自分の記憶を奪われたフシの気づきが印象的です。

グーグーは本当に不遇な人物でした。兄に裏切られ、人前に出せない顔になり、初めて幸運が訪れようとした矢先に亡くなる。物語から早々にいなくなる彼の恋物語、そしてこれからもそんな彼に恋し続けるであろうリーン。

フシは刺激を受けて変化を学ぶのですが、これもまた彼にとって必要な刺激。多くを語らずに進んでいく物語の速さが、逆に心の痛みを引き立たせています。

また、ピオランと旅するなかでマーチのことをおぼろげながら思い出すフシ。しかしそんな彼のアイデンティティ、記憶はノッカーたちに奪われてしまっています。

初めて悔しいという感情を覚え、戦略的にこれからの戦いを乗り越えていこうとする彼の成長した姿には、失う痛みを知ったからこそのものを感じ、複雑な気分になります。

嘘つき少女との出会い【5巻ネタバレ注意】

「間違い」で囚人として島に連れてこられてしまったフシ。別々に船に乗せられたことによってピオランとはぐれてしまいます。

そんな彼に「間違い」を起こしてしまった少女のトナリは、島民の娯楽であり、それに勝ち上がった者はこの島すべての権限を得られるという闘技場での戦いをすすめます。それに勝てばピオランを探し出せるだろう、と。

実はトナリはかつて妻を殺したという疑いをかけられた父とともに島についてきた少女。罪を犯した者たちが連れてこられるこの無法地帯の島での人生に辟易としていました。

そしてある日、気に入った島民を買い戻すという「客人」にフシを船に乗せて大会に出場させろと言われたのです。運命を変えられると誘惑するその人物の言う通りにしてしまったトナリですが、それはどうやらただ利用するためにやってみたというだけではないことがのちに分かります……。

著者
大今良時
出版日
2017-11-17

そんななか順調に大会に勝ち進み、ピオランの閉じ込められている場所も見つけたフシ。決勝で勝ち進み、島民を自由にするということを宣言していましたが、最後の相手は思いもよらない相手で……。

5巻ではトナリの人となりが伺える内容でした。フシがいくら真面目に話してものらりくらりとかわし、ピオランのことを教えない彼女。いつも陽気に笑っています。

それでいて島内の同じ境遇の子供たちをまとめている人物で頭がキレる面があり、油断ならない人物でもあるのです。

しかしそんな彼女の言動にはある理由がありました。

「う…なんだか心が痛いぜ
わかってるよ ひどいことしたなって!
あんたを島で引き入れたこと2回くらい反省した!
でもね必死だったんだよ あたしも 家をなくしたヤドカリくらいにはね!
大会手こずってたね! わかるよ殺したくなかったんでしょ?
世の中には死んだ方がいい連中ってのがちゃんといるんだ
たとえば今日戦った相手 あいつ50人も殺してるよ
あんたが殺してくれればよかったのに

あたしはね あんたとさ…
えっとうーんとそうだな 弓と矢みたいな関係になりたいんだ
あんたが矢であたしが弓
あんたの力を最大限に引き出す役をあたしがやるの」(中略あり)

すべて一連のシーンからの発言ですが、まるで口から生まれたような話しっぷりです。しかしまったく取り合わないフシ。そんな彼を見てトナリは急に立ち止まり、顔をおさえ……。

「どうやったらあたしのこと 好きになってくれるの?」

嘘ばかりつくトナリですが、初めてフシに本当の言葉を言った時かもしれません。もともとの性格もあるものの、彼女は初めて知った気持ちに自分でも戸惑ってこんな言動をしてしまったのかもしれません。そのあとから徐々に彼女は素直になっていきます。

痛みが成長に必要だということは、フシのとなりにいつも現れる黒いマントの男が5巻でも念押ししたもの。トナリについてもどういう運命を辿るのか心配な面もあります。

そしてフシとの決勝戦にも出てきたまさかの人物の目的も気になりますね。

フシの成長【6巻ネタバレ注意】

5巻でフシと戦ったのがヤノメの役人で、マーチとパロマを殺したハヤセということが判明しました。しかしフシは彼女の思惑どおり陽動作戦に動揺し、決勝戦で負けてしまいます。

そのまま彼はハヤセの屋敷に連れて行かれるのですが、そこにトナリが侵入してきて、フシを取り戻そうとします。

しかし彼女の圧倒的な力の前に追い詰められ、フシは自分が彼女に捕まる代わりに、それ以外の人たちを船で外に出してあげるよう頼むのでした。

そこからはまさかの展開がどんどんと起こり、最終的にフシとトナリは別れを決断し……。

著者
大今 良時
出版日
2018-02-16

その後は、島を出てからのフシとピオランの物語が描かれます。

「傷」という衝撃を経て学習するフシですが、以前よりも確かに前進が感じられます。肉体的なものだけでなく、精神的な面でも傷つき、成長していくのです。

「さよならだけが人生だ」という言葉がありますが、不死身のフシが主人公だと、余計にそうなのだと実感させられます。彼はどうしたって残される側の人間なのですから。

6巻の後半は大きな展開はないものの、少しずつ沁みてくる何かがあります。ぜひ作品でフシだけの物語に心を浸してみてください。

過去を乗り越えていくということ【7巻ネタバレ注意】

ピオランが死んでから、誰とも関わりを持ちたくないと一人、無人島で暮らし続けていたフシ。さまざまな生き物に変化してきましたが、最も自分らしいと感じる様相で、ノッカーを倒すため、体や戦略を鍛えてきました。

しかし彼らは毎回単調な攻撃しかしてこず、40年ほど経ったところでフシは退屈を感じ始めました。

そんなところにやってきたのが、ハヤセの孫だと名乗るヒサメという少女で……。

著者
大今 良時
出版日
2018-06-15

ノッカーたちがフシではなく、無差別に人間を襲うようになり、そんな折にフシを信仰する守護団のトップであるヒサメと出会ったことで、その島を出ていく決意をしたフシ。

その途中で出会ったのは、ある懐かしい人物でした。しかし彼はそれが過去に会ったことのある人物だと気づきません。それに気づかないものの、またしても自分がきっかけで他人を死に追いやってしまったことに落ち込むフシ。

しかしその人物にこう言われ、彼は考えを改めます。

「フシ
皆の…生きてた時のこと
たくさん 思い出してあげて…
それだけで 生きててよかったと 感じるの」
(『不滅のあなたへ』7巻より引用)

そしてその人物亡き後、正体に気づいたフシは、自分の殻にこもらずに、仲間をつくって戦おうと決意するのです。

ある人物の死のシーンは、これまで読んできた読者なら感涙必至。過去の傷を乗り越え、新たな旅に出るフシの様子に胸が熱くなります。

『不滅のあなたへ』8巻が待ちきれない!

 

作品の魅力、最新巻までの見所をご紹介させていただきました。しかし、やはりこの言葉に表しがたい魅力は作品でなくては体感できないもの。ぜひ実際にご自身の目でその良さを感じてみてください!