ピュアな気持ちから禁断の恋愛まで ―― 人を好きになるかたち

ピュアな気持ちから禁断の恋愛まで ―― 人を好きになるかたち

更新:2021.12.1

どうも! WEAVERのドラムの河邉です! 夏も本番、本格的に暑くなってきましたね! 現在、全国14カ所をまわるライブハウスツアーの真っ最中です。全国いろんなところに行くということで、前回は旅の本を紹介しました。旅には様々な出会いがあるものですが、夏というのは自然と心が開放的になってしまうものです。今回は、そんな夏にぴったりの恋愛がテーマとなっている本を5冊ご紹介させていただきます!

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かねてから不思議に思っていたことなのですが、歌の世界ではそのほとんどが恋愛をテーマにしているのに、本屋さんに並べられている本はミステリーなど事件にまつわる本が多いのです。歌詞や本、映画などそれぞれの舞台に適した形の物語があるとはいえ、割合としてもっとたくさんの恋愛小説があってもいいのになと思うことがあります。今回紹介する本の中にも、いろんな形の「愛」があります。答えのない、それぞれの「人を好きなる」という形を楽しんでください。

レインツリーの国

著者
有川 浩
出版日
2009-06-27
過去の連載でも取り上げた有川浩さんによる恋愛小説。2人の恋愛のきっかけは、昔読んだ大切な本の感想から始まる。伸行はネット上のブログで昔読んだライトノベルの感想を見つける。自分とは違う感性で書かれた感想に興味を持った伸行は、そのブログの管理人にメールを送り、そこから“ひとみ”とのメールの会話が始まる。

本の中で2人のメールのやりとりを読んでいくことができるのだが、それがなんとも、他人が異性に送ったメールを盗み見しているようなちょっとした恥ずかしさを覚える。顔も知らない2人が、メールでお互いの考え方や価値観を共有し打ち解けていく姿は、緊張感やわくわく感がこちらまで伝わってくるようだ。そして1冊の本への熱い思いから始まったこの会話は、徐々にお互い自身への興味へと繋がっていく。

気になっている人からのメールを待っている時間、また届いた瞬間の喜びは誰もが共感できることで、読者も自然と本の世界へと引き込まれていくだろう。しばらくのやりとりの後、伸行は一度実際に会って話をしようという提案をする。2人は会う約束を交わし、待ち合わせをするのだが、ひとみには伸行に言えずにいた秘密あったのだ。是非、本を手にとって、2人の物語の結末まで読んでいただきたい。

夜明け前に会いたい

著者
唯川 恵
出版日
2000-05-30
唯川恵さんによる、金沢を舞台にした恋愛小説。希和子は元・芸者の母に、加賀友禅を専門に扱っているお店へ反物を見に行こうと誘われる。なかなかピンとくるものが見つからないが、ある一つの作品に目が止まる。それは有名な先生の弟子である瀬尾による作品であった。希和子は様々な偶然が重なり、瀬尾と出会い、2人は距離を縮めていく。このまま親密になっていけばと思うが、希和子は知ってはいけないことを知ることになってしまう。どんな恋愛も一筋縄ではいかないものだ。

内容としては有り触れた恋愛小説かもしれないが、冬の金沢の描写が美しく、また、この本がきっかけで加賀友禅に興味を持つ人もいるのではないかと思う。「好き」という思いの表現に飾り気がなく真っ直ぐ伝わってくる、心あたたまる小説だ。そのほかにも親が子供を思う気持ちにも注目して読んでいただきたい。きっと読んだ後には金沢に行きたくなるだろう。

年下のセンセイ

著者
中村 航
出版日
2016-01-27
中村航さんによる、年上の女性と年下の男性の恋愛を描いた小説。生け花教室に通い始めた“みのり”は、その教室の先生である透と出会う。透はみのりの8歳年下で、まだまだ助手のような立場であるが、花を扱う透の真剣な表情にみのりは少しずつ惹かれていく。透もまた自分より大人で、今まで出会ったことのないタイプのみのりのことが気になるようになる。

しかし透は東京の大学に進学することになり、2人の関係はこれまで通りではいかなくなってしまう。みのりも年上の女性であるが故の遠慮の気持ちも生まれ、大人の恋愛というものについて考える。みのり、そして透のそれぞれの視点から描かれる不器用な物語に、読者は何度もきゅんとさせられることだろう。透のことを「センセイ」と呼ぶみのり、その何とも言えない言葉の響きもこの小説の醍醐味だ。女性が年上の恋愛に興味がある人におすすめ。

私の男

著者
桜庭 一樹
出版日
2010-04-09
桜庭一樹さんによる2014年にも映画化され話題になった小説。直木賞も受賞した作品だ。第1章では主人公の花の結婚式の前日から始まる。育ての親である淳悟が「けっこん、おめでとう。花」と言う。この1章の段階で2人の関係性を始め、幾つもの謎が湧き上がるだろう。章が進むにつれ小説の舞台は過去へ移る為、読者は現在の謎を過去から解き明かしていくことになる。

普通の小説はこの次、この先どうなるのかと気になってページをめくっていくことが多いが、この小説に限っては、とにかく2人の過去を知る為にページをめくっていくことになる。災害で家族を失った花と育ての親である淳悟のあいだには、「義理の親子」だけではない繋がりがあることが明らかになっていく。

『私の男』という言葉にはいろんな意味が含まれている。禁断の恋愛を描いたストーリーは、読んだ人にとって忘れられないものになるだろう。

著者
小池 真理子
出版日
2002-12-25
小池真理子さんによる96年に直木賞を受賞した作品。とにかく素晴らしい小説で、一度読むとこの世界がいつまでも心に残ることは間違いない。

浅間山荘事件と聞いても、詳しく知らない人も多いだろう。自分自身、生まれるより15年以上前の出来事なのであまりピンとこないが、全国にテレビ中継され、当時日本中を震撼させた事件である。『恋』はこの時代が舞台の小説だ。浅間山荘事件の日、一人の女が発砲事件を起こす。この事件は大学生であった矢野布美子、夫婦である片瀬信太郎、雛子の3人が中心となって起きたものである。3人の関係性は特殊なもので、後の裁判でも明かされることのなかった秘密がある。その秘密が、病気により死を間近にした布美子の口から語られる。

この3人の登場人物が本当に実在した人々のように心の中に残ってしまうのは、心の描写の巧みさだけではなく、景色やその人が存在する空間のリアルさもあるのだろう。自然と登場人物たちの仕草までもが映像として再生され、読む人を引き込んでいく。まだ読んだことがなければ、是非オススメしたい1冊だ。

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