年下のセンセイ
中村航さんによる、年上の女性と年下の男性の恋愛を描いた小説。生け花教室に通い始めた“みのり”は、その教室の先生である透と出会う。透はみのりの8歳年下で、まだまだ助手のような立場であるが、花を扱う透の真剣な表情にみのりは少しずつ惹かれていく。透もまた自分より大人で、今まで出会ったことのないタイプのみのりのことが気になるようになる。
しかし透は東京の大学に進学することになり、2人の関係はこれまで通りではいかなくなってしまう。みのりも年上の女性であるが故の遠慮の気持ちも生まれ、大人の恋愛というものについて考える。みのり、そして透のそれぞれの視点から描かれる不器用な物語に、読者は何度もきゅんとさせられることだろう。透のことを「センセイ」と呼ぶみのり、その何とも言えない言葉の響きもこの小説の醍醐味だ。女性が年上の恋愛に興味がある人におすすめ。
私の男
桜庭一樹さんによる2014年にも映画化され話題になった小説。直木賞も受賞した作品だ。第1章では主人公の花の結婚式の前日から始まる。育ての親である淳悟が「けっこん、おめでとう。花」と言う。この1章の段階で2人の関係性を始め、幾つもの謎が湧き上がるだろう。章が進むにつれ小説の舞台は過去へ移る為、読者は現在の謎を過去から解き明かしていくことになる。
普通の小説はこの次、この先どうなるのかと気になってページをめくっていくことが多いが、この小説に限っては、とにかく2人の過去を知る為にページをめくっていくことになる。災害で家族を失った花と育ての親である淳悟のあいだには、「義理の親子」だけではない繋がりがあることが明らかになっていく。
『私の男』という言葉にはいろんな意味が含まれている。禁断の恋愛を描いたストーリーは、読んだ人にとって忘れられないものになるだろう。
恋
小池真理子さんによる96年に直木賞を受賞した作品。とにかく素晴らしい小説で、一度読むとこの世界がいつまでも心に残ることは間違いない。
浅間山荘事件と聞いても、詳しく知らない人も多いだろう。自分自身、生まれるより15年以上前の出来事なのであまりピンとこないが、全国にテレビ中継され、当時日本中を震撼させた事件である。『恋』はこの時代が舞台の小説だ。浅間山荘事件の日、一人の女が発砲事件を起こす。この事件は大学生であった矢野布美子、夫婦である片瀬信太郎、雛子の3人が中心となって起きたものである。3人の関係性は特殊なもので、後の裁判でも明かされることのなかった秘密がある。その秘密が、病気により死を間近にした布美子の口から語られる。
この3人の登場人物が本当に実在した人々のように心の中に残ってしまうのは、心の描写の巧みさだけではなく、景色やその人が存在する空間のリアルさもあるのだろう。自然と登場人物たちの仕草までもが映像として再生され、読む人を引き込んでいく。まだ読んだことがなければ、是非オススメしたい1冊だ。