小檜山博のおすすめ作品5選!「出刃」で芥川賞候補に

更新:2021.11.8

芥川賞候補となった『出刃』など北海道を骨太に描いた小説を多く執筆する小檜山博。その鋭い感性は小説だけでなく、エッセイ本でも存分に発揮され多くの人々に支持されています。今回は北海道を代表する作家・小檜山博の人気作品5選をご紹介しましょう。

ブックカルテ リンク

地元北海道に根付いた作家・小檜山博

小檜山博(こひやまはく)は1937年、北海道生まれの小説家です。

高校卒業後、北海道新聞社に勤務する傍らで執筆活動を開始。同人誌『北方文芸』や文芸誌『文學界』『新潮』『すばる』などに投稿し、作品を世に送り出します。1976年『出刃』が「北方文芸賞」を受賞、芥川賞候補となったことを皮切りに本格的な作家としての道を歩みはじめました。

生地である北海道に住み続け、開拓や炭鉱など北海道を舞台とした作品が多いことも特徴です。その後「札幌芸術賞」や「北海道文化賞」などを受賞。地元に根付いた作家として有名で、同じく北海道に縁のある画家・神田日勝を記念した「神田日勝記念美術館」の名誉館長を務めています。

JR車内誌に掲載された、小檜山博のエッセイ集

1999年から2004年にかけて、JR北海道の車内誌『The JR Hokkaido』で連載していた58編のエッセイを収録した一冊です。

「愛する故郷」「忘れがたき人々」「人間として生きる」「明日への出発」の4つのテーマから小檜山博の生きてきた道、ものの考え方、そして将来への希望が綴られています。子ども時代の貧しい生活を経たことにより、物の溢れた豊かな時代への疑問をも問いかける、北の原野に生まれた作者ならではの作品となっています。

著者
小檜山 博
出版日
2013-05-08

「書き終わってみると、ぼくが生まれてからこれまで、ぼくの人生を豊かにかたちづくってくれたたくさんの人々の善意に気づく旅になっていた。」(『人生という旅』から引用)

このエッセイの前半には貧しかった子ども時代の話、家族の話が多数登場します。出刃包丁を振りかざす父親、事あるごとに手を上げる母親、そして労働してでも学費を工面してくれた兄・姉。小檜山博の小説と連動しているとも言えるエッセイは、小説と共に手に取るとさらに興味深いものになるでしょう。

また本書の後半では、昨今の時代に関する不満や疑問が多数登場します。自給自足率が低いこと、年配者に対して思いやりが足りないことなどの内容は、前半で小檜山博の生い立ちについて読むことにより、著者の思いをよち強く感じることができるでしょう。

生き方、ものの考え方について改めて考えるきっかけとなりますよ。

高齢世代に人生のエールを送る温かみのあるエッセイ

2005年5月号から2012年7月号の間に、JR北海道の車内誌『The JR Hokkaido』に掲載された、『人生という旅』の続編となるエッセイ集です。

小檜山博の子ども時代の思い出からお、金、酒、夫婦、子どもなど、これまでの人生について語っており、高齢者世代は思わず頷いてしまいそうなエピソードが多数収録されています。1編が4ページ程度と読みやすいながらも、前作よりも人生の重みを感じる内容です。

著者
小檜山 博
出版日
2016-09-06

「すべての人間が心のはしに必ずもっている善意をいつくしみ育てることで、他人を思いやる心がよみがえるに違いないという希望だ。」(『人生讃歌』から引用)

小檜山博のエッセイには欠かせない貧しかった少年時代の思い出に加え、いつまでも行く末を見守ってくれていた高校時代の恩師の話や、友人宅に買い物に出かけた際の釣銭の話など、人と人とのつながりについて多く記述されています。

戦後を生き抜いた小檜山博と同世代の方々は、今ほど科学技術が発達しておらず貧しかった世の中を懐かしく思い出すと共に、「豊かさ」とは何なのかを改めて考えさせられることでしょう。一方、若い世代の方々は、お金とは何のためにあるのか、良い人生とはどのようなものなのか、初めて考えさせられるかもしれません。

「四時間半」では興味深い夫婦のなれそめが描かれています。運命、人生を深く考えることができる読みやすい一冊です。

高校時代を描いた自伝的青春小説

北海道の工業高校に通う主人公の3年間を描いた、小檜山博の自伝的青春小説です。

貧しい農家に生まれた主人公は、両親と兄にお金の工面をしてもらい、親元から離れて街の工業高校電気科に通うこととなります。元気が良くて荒っぽい男ばかりの寄宿舎で、面倒見の良い先輩や友人たちと青春を満喫する主人公。

その一方、父親は方々に頭を下げ借金をし、兄夫婦は自分達の生活を犠牲にして学費を工面していました。家族の思いを心に、常に学費滞納の危機と隣り合わせの苦しい学生生活を送る主人公の3年間とは……。

著者
小桧山 博
出版日
1991-06-01

勉強がしたいために、家族に学費を工面してもらって高校に通うという状況は、現代ではなかなか見られないシチュエーションと言えます。「学びたい」という強い思いと、苦労し、苦労させてでも進学する主人公の姿は、現在のように当たり前に高校に行くことが、どれだけ恵まれた状況であるのかに気づかせてくれるでしょう。

学費を工面するために父親は知り合いすべてから借金をし、兄夫婦は自分たちの生活そっちのけで応援してくれます。その思いに答えられるよう、苦手な専門学科の勉強にも進んで励む主人公。

一方、男子高校生ばかりが集う寮では、独特の上下関係を体験し、女性に対する悶々とした思いを持ちます。気になる女の子に手紙を書きまくる主人公を見ると、連絡手段の少ない時代の恋愛というのも、粋で面白いかもしれない、と思えるのではないでしょうか。

小檜山博が本音を語るエッセイ

『週間釣り新聞ほっかいどう』『北海道観光百景』『北海道新聞』など、様々な媒体で発表された小檜山博のエッセイを一冊の本にまとめた作品です。

自らのものの考え方について語った「短気な俺」、趣味である釣りについて語った「海を釣るぼく」、食べ物、そして大好きな酒について語った「牛飲馬食の俺」、現代社会について本音を語った「ぼくの本心」の4部構成となっています。

著者
小桧山 博
出版日

少年時代の苦労を糧としたエッセイや小説が印象的な小桧山博。しかし本書では、著者の気さくな素顔を垣間見ることが出来ます。痴漢に遭遇した話や、大好きな酒を飲まない日の話などは、共感できる方もいるかもしれません。
 

また小桧山博の著書では「テエブル」「スキイ」など「ー」が使われない独特のカタカナ語表記がされていますが、この「カタカナ語」についても本書では言及しています。

「もっている言葉が少なければ考えは貧困になり、もっている言葉の意味を鮮明に知っていなければ、考えも貧しくなるのは当然だ」「言葉の意味を雰囲気だけとか、曖昧にとらえることだけはしたくない。」(『ぼくの本音』から引用)

物書きらしい、言葉に対する真摯な考え方を尊敬できます。しかし小桧山自身、一度は綺麗な女性目当てでカタカナ語を覚えようとした過去があるのだとか……。

偉大でありながらも親しみが持てる小桧山博を堪能できる一冊です。

芥川賞候補となった小檜山博の出世作

芥川賞候補となった「出刃」など、1970年代に「北方文芸」「札幌文学」に発表された小檜山博の作品を集めた創作集です。

度重なる冷害や過疎化によって生活が苦しくなり、離農して慣れない土方となった主人公。2人の子どもを置いて他の男と共に夫の元から去った妻。自分たちが生きていくことがやっとで、子どもを預けに行ってもいい顔をしない主人公の両親。

「出刃」という鋭い凶器が象徴する非情なまでの現実を描いた作品です。

著者
小桧山 博
出版日

離農し、妻に逃げられた主人公を描いた「出刃」、オムニバス形式で男女の仲を描いた「女の風景」、父親の虐待によりいびつな心を持った主人公目線で街を描く「光景のむこうがわ」、女性と関係を持つことに必死な主人公の劣等感を描いた「ぼくの脳味噌は水っぽいか」など、計4作品を収録しています。

どの物語の主人公も、何かしらのコンプレックスを背負った人物です。暗い印象を与える作品ばかりですが、読み進めていくうちに、ただ暗いだけではない「人間の心の根柢にある感情」が表現されているということに気づきます。

ぜひ若い世代に知っていただきたい一冊です。

芥川賞候補ともなった小檜山博の小説やエッセイなど5冊をご紹介しました。北海道独特の生活を描いた作品も多く、貧困や天災を体感したからこその心に刺さる骨太の作品が多いことが最大の特徴となっています。ぜひ気になる作品から手に取って、自分だけではなかなか体感することが出来ない世界を満喫してみてくださいね。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る